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アメリカの現実⑩「サステイナブル&エシカルっていう観点から卵を考える」

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『Cool Hand Luke』のように卵50個は無理だけど、1日3個は食べている私

私は卵が大好きで、毎朝4個の卵をゆでて、朝食兼昼食にお味噌汁と2個のゆで卵を食べる。後の2個のうち1個は夫が、もう1個は私の夕食までのつなぎで、すぐに栄養補給する必要に迫られた時のためのもの。卵といえばPaul  Newman主演の1967年映画『Cool Hand Luke』で、刑務所の中でLukeはゆで卵50個を食べられると豪語した賭けのシーンを思い出す。

この映画は卵に限らず非常に面白くPaul  Newmanの良さが、全編で活かされており、まだ観ていない人は是非ご覧いただきたい。

卵好きの私が勧めるVital Farms

2020年7月31日にテキサス州のオースティンにある、Vital FarmsがNasdaqでIPOを果たした。私はこの企業の上場云々以前に、近所のマーケットでこの卵を目にして以来、その鶏の育て方と卵そのものの味で大ファンとなり、買い続けていた。この卵は、Pasture-Raised Eggsなので、殺菌処理されておらず、Pasture(牧草)にアクセス可能なフィールドで育てられた鶏から生まれた卵である。

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Vital Farmsは、小さな農家(すでに200を超えた)と契約して、エシカルに育てられた「はっぴいな鶏」が生む放牧卵を、全米の1万4,000店舗のマーケットに卸している。Vital Farmsは、契約している小さな農家と共に、丁寧にビジネスを育て上げ、パンデミックも含めて、近年の消費者のサステイナブルな食への関心と自宅で料理するトレンドは、投資家にも注目されて、彼等のビジネスモデルは大きく押し上げられた。

以下の図にあるように、この公式がこの企業を支えている。

"Pasture-Raised"+"Family Farms"+"Purpose Before Profit"=Vital Farms

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消費者は「放牧卵」的なイメージを作る用語を正しく理解していない

誰でも、身動き1つ出来ないケージの中で、工場生産のベルトコンベアともいうべき仕組みで、卵を産み続けるためだけに生かされている鶏の卵より、放牧卵のほうがいいに決まっている。生産者或いは企業は、3つの言い方で、卵を産む鶏の育て方を表記しているが、以下の3つの表現は、鶏を1羽を育てるスペースが大きく異なる。つまり一見放牧されているイメージを持たせる「Cage-Free」や「Free Range」といった言葉は、実は消費者を惑わす要素があり、Pasture-Raisedとは、エシカルな観点からも大きく異なる。

  • Cage-Free:1羽あたり、約1平方フィート(0.09平方m)

  • Free Range:1羽あたり、約2平方フィート(0.19平方m)

  • Pasture-Raised:1羽あたり、少なくとも108平方フィート(10.03平方m)

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またPasture-Raised Eggsのためには、気候や土壌も適切なモノでなければならない。Vital Farmsは、以下のグリーンで示された「The Pasture Belt」というエリアにある小さな農家と契約している。

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当初は10ドル以上した卵が今は6ドル以下まで下がった!

我が家もそうだが、毎日食べる卵の価格は、やはりかなり気になる。幾らエシカルで素晴らしい味でも、1ダースが12ドルすると、流石に毎日何個も気前よく食べることに躊躇してしまう。しかし、らっきいなコトに、上場前からVital Farmsは徐々にスケールアップしており、価格が6ドル以下に落ちてきたので、今はいつでも、安心して購入できる(普通市場に出回っている最も廉価の卵は2-3ドルで買えるので、6ドル以下は今でも高い印象があるが)。

Vital Farmsは、2018年時点で累計で2,500万ドルを調達して、市場価値は1億3,600万ドルとされていたが、上場直後、22ドルのIPO価格は60%も急騰し、時価総額は13億ドルに達した。私は、闇雲にいろんなスタートアップのIPOを手放しに誉めるほど、ナイーブではない。但し、Vital Farmsの卵の販売価格がより求めやすくなったのは、上場による資金調達と市場価値の上昇がもたらしたものとして、珍しく喜んでいる。

Vital Farmsの創業ストーリー

13歳になる前に、既に近所の人たちに卵を売っていたという創業者のMatt O’Hayerにとって、今回は2回目のIPOである。彼は1998年に旅行予約企業を上場させたが、911テロ後の需要減少で廃業した。彼は2007年に友人であるWhole Foodsの共同創業者のJohn Mackeyの住むオースティンに移住し、彼からオーガニックでエシカルな食品需要の高まりを聞いて、この分野での起業を思い立った。

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彼はまず20羽の鶏を購入しオースティンで育て、地元のファーマーズマーケットやレストラン向けの販売を開始した。しかし、当時は彼が希望した価格(10ドル以上)で卵を買う顧客は存在せず、売れ残った卵をフードバンクに寄付する日々が続いたという。因みにこの時、卵の販売に使っていた彼の車は2005 SUBARUだった(13年後の2018年の時点でも彼はSUBARUを所有していた)。SUBARUは我が家の大切な車ブランドで、尚且つSUBARUは私の会社JaMの主要クライアントでもあり、この点だけでも、思わず彼を応援したくなる。2018年のForbesのインタビューで、彼は「それでも私は、サステイナブルなビジネスにふさわしい価格を消費者に理解させようとしていた」と話している。

その結果、WalmartやAlbertsonsといった米国のメインのマーケットの顧客にもその価値が認識されて、価格は1カートンが5.59ドルとなった。現時点ではVital Farmsの卵を購入する消費者の割合はわずか2%だが、上場により、その比率を急速に拡大できると見込んでいる。

O’Hayerは以下のように明言する。

“I was always looking for the exit. Instead of looking to get rich, I realized I could build a company where I was focused on employees, customers, shareholders, and the environment,” “It’s so much more fun than focusing on profit.”

Purpose before profit

O’Hayerの言葉からも示唆されるように、上場によって得られるものは、それによって、自分が求める価値観を具現化するビジネスにフォーカスすることが可能になるという点である。

彼は「金儲けよりもっと面白いことがある」と言う。そして、彼のサイトにある言葉、"Purpose before profit" まさにこれが今のビジネスで最も重要なポイントだと思う。

「金儲けをする人」は世の中に多く存在するが、「お金の使い方を知っている人」は意外と少ない。Purposeがないビジネスは、サステイナブルに事業が継続していかない。サステイナブルな企業は、全てのステークホルダー(社員、顧客、パートナー企業、株主、コミュニティ)に価値を与える。

私は1人の消費者として、自分の消費行動を通じて、少しでもサステイナブルな社会活動に貢献していると思うと、嬉しい。これからも、はっぴいな鶏が生んだ美味しい卵をエンジョイしながら、毎日食べられる喜びをしっかり噛みしめる。

PS: 私は、自分の価値観を共有できる企業を応援する一つのやり方として、その企業の株を購入すべきだと思っている。私は既にVital Farmsの株を購入しているので、現在私は顧客&株主という2つの面からVital Farmsのステークホルダーでもある。

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アメリカの現実⑨有力な女性政治家が出てくると必ず出てくる「Nasty Woman Blues」

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Kamala HarrisがJoe BidenのVP running mateとなった瞬間から始まる米国のSexismのうたい文句「Nasty Woman」

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アメリカの現大統領の女性への蔑視は今更驚くべきものではないが、彼が有力な女性政治家達に発する“Nasty”という言葉には、彼の女性に対するSexismが常に投影されている。彼が"Nasty Woman"とコメントした女性達は、2016年の民主党大統領候補のHillary Clintonを筆頭に、House SpeakerのNancy Pelosiなど、数々のガラスの天井を自分の拳で打ち破り、ステレオタイプな女性論をものともしないで勝ち上がってきた有力な女性政治家達である。

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"Nasty"という形容詞には以下のように様々な意味があるが、4番目にあるように女性を性的対象とみて「みだら、わいせつ」と描写する意味も含まれている。現大統領の過去の女性遍歴および女性への取り扱い方を鑑みれば、彼が、なぜNastyを女性に対して使うかがよく分かる。

【形容詞】
1. 不浄な、とても不快な、気持ち悪い、不愉快な、陰険な、非常に不潔な
2. 扱いにくい、やっかいな、嫌な、意地悪な、悪意ある
3. ひどい、危険な
4. みだらな、わいせつな

アメリカでは彼の言葉を受けて、多くの女性活動家達は「OK、あいつが優秀な女性達をNastyと呼ぶならば、自分達はNasty Womanとして誇りをもって、彼に挑戦する」という団結を生んでいる。2016年のHillary Clintonへの非難の言葉から、様々な"Nasty Woman"のミームも作られ、ステイトメントT Shirtsも販売されており、今でもNasty Womanを自分のステイトメントとして使う女性はいる。

注:「Nasty Women Gets Shit Done」の「Get Shit Done」は「素早くやってしまう」という意味。

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また"Kamala Effect"とも言うべき、Fundraisingの波が起きている。Joe Bidenが彼女をVP running mateとしてアナウンスして、わずか4時間で1080万ドルの献金が集まり、民主党大統領キャンペーンは興奮に包まれている。Kamalaは父親はジャマイカ系移民、母親はインド系移民の長女で、初のアフリカ系&アジア系アメリカ人女性として有力政党のVP候補として選出された。Joeの年齢を考えると大統領は一期で終わる可能性が高く、その場合二期目の民主党の大統領候補となりうる可能性は高く、アメリカの初の女性大統領という椅子も見えてくる。

Sexismは、無意識に形成される。

Sexismは、その個人が育ってきた時代や環境など、社会的な要因が大きく作用して、無意識下にステレオタイプな女性への見方が形成される。この無意識下という点が厄介な部分で、時には本人はそのステレオタイプな見方が「女性への蔑視や偏見」であるというコトに気がつかない場合もある。アメリカの現大統領の発言と行動は、Sexismを活用して、意図的に彼の支持母体となっている人々が喜びそうな発言で、支持層の無意識下の「女性への蔑視や偏見」を助長・鼓舞して、自分の再選への足がかかりを得ようとしている。彼は、また女性即ちSexismに、Women in colorというRacismを加えて、白人以外の女性政治家達を貶めるというコトもしばしば行っている。その際に使われる形容詞は、"Nasty, Mean and Angry"という3つで、これにBlack womanという言葉を添えて、彼に反対する影響力を持つ女性達にラベルを貼りつける。

メディアや広告の中で、人々が目にするコンテンツにはステレオタイプなラベルがべたべた貼られている

調査会社Kantarが実施した調査では、マーケターの大多数が、自社は人間をステレオタイプに描いていないという。しかし英国と欧州で出稿されている広告の約68%が、女性を「感じの良い」または「優しい」姿に描く一方、「権威ある」女性を登場させている広告はわずか4%しかないことが、同じ調査で判明している。

英国の広告主協会(ISBA)と広告業協会(IPA)、テレビ広告を事前承認する非政府組織Clearcastは、広告に描かれる主観的なジェンダーステレオタイプの削減を図り、ジェンダーニュートラルな広告コンテンツの普及を図ろうとしており、昨年以下の2つの広告の差し止めを行ったことで話題を集めた。

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ASAは、VWのヴィデオ広告は、男性は女性よりスポーツをするのが好きだというイメージを強化するものであるとし、Philadelphiaは、男性は子育て能力が低いという考えを温存すると判断された。Philadelphiaの広告は、コミカルな効果を狙ったもので、ごく短時間に要点を伝えるため、しばしばステレオタイプに根差したユーモアを利用するという、広告ではよく使われる戦略である。

ASAらの判断はやり過ぎとの意見も出たが、ASAは以前にも広告業界の義務として、業界が広めるメッセージは、消費者についての単なる決めつけではなく、オーディエンスに関する真のインサイトに基づくものであるべきだと訴えており、ジェンダーニュートラルの重要性をこうしたステレオタイプなコンテンツをなくすという指導において実行しようとしている。

男性に対して否定的な形容詞ではない"Aggressive or Ambitious"が、女性に対しては途端にネガティブになるダブルスタンダード 

私個人の経験で言うと、今から40年以上前、新入社員だった私は、同期の男性社員達と仕事帰りに飲食をしながら仕事のことで議論となり、すでに酔っていた同期が「おまえが男だったら、この場で殴ってやる」と言われた。私は「男に変わる訳はないんだから、今殴ればいい」と言い返したら、同期はブルブルと口を噛みしめて一言もなかった。彼とは本当に仲が良く、その後何でも話し合う仲であったが、彼の言葉の端々に「おまえが男だったら」というニュアンスが常にあり、彼は、無意識に潜むステレオタイプな女性像を捨てるのにかなり苦労していたのを思い出す。

その後、広告代理店の初の女性営業として、私は常に"Aggressive and Ambitious”とネガティブに評されていたが(これを日本語に言い換えると「女のくせに生意気だ」)、仕事の実績で社内での評価を固めたため、その後は誰も私を女性としてのラベルを貼らなくなった。

注:当時広告代理店の女性は、短大卒のみを雇用し、基本的にはクライアントのお嬢さんで、職務はお茶くみ・コピー取り・電話番がメイン。私だけが一切クライアントで関わりのない、4年制卒の女性社員で、人事部長から「大柴さん結婚したら退社していただきます」と釘を刺された。

ジェンダーニュートラルが世界の潮流

現在、女性のリーダーが国をリードすることは特に驚くに値しない。以下の写真マップがそれを証明している。

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Combined map: 2019年11月29日現在で87カ国が、過去・現在女性を政府のトップとして選挙で選んでいる。
Female head of government:イエロー
Female head of state:ブルー
Female head of state/government as the only elective position:ライトグリーン
Both female head of state and female head of government (separate posts):グリーン
Female prime minister or state counselor as deputy to the combined head of state and government:ライトブラウン
Not shown: Four former sovereign states also had a female head of state or government (East Germany, Soviet Union, Yugoslavia and Tannu Tuva).

私はリーダーは女性であるべきだというコトを言いたいのではなく、ジェンダーに関係なく、適切な人物がリーダーとなるべきだと思っている。但しその際、往々にして古典的なステレオタイプな女性像を押し当てる傾向があり、それがその人がリーダーとしての適切かどうかを判断する眼を曇らせる可能性があるということを指摘したい。Sexismとは実に愚かしいと思う。その矛先は女性に向けられることが多いが、男性へのステレオタイプな見方も横行している。「男とはかくあるべし」のような枠で男性を見ることもSexismである。

私は日本の広告代理店時代に、女性営業として初めて部下が得た。

彼は新入社員で入って来た男性で、私は1-2年経った後だ思うが、彼に「初めての上司が女性でやりにくかったでしょう?」と聞いた。

彼は「いいえ、大柴さんを一度も女性だと思ったことはありませんので、全然問題はありませんでした」と答えた。

これを聞いて、私は内心「やった!」と小踊りしたことを思い出す。この答こそ、私が40年前に望んたことである。私のアタマには、常にジェンダーニュートラルな見方と行動が大切、という認識が強く、それを実践できたことの喜びは大きかった。

"The World Is Flat"

「地球は球体であるが、世界はフラットである」私は常にこう考えている。

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アメリカの現実⑧「パンデミックや公聴会に関係なく巨大化するGAFAMの5社」

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7月31日Appleは株式時価総額が、国営石油会社Saudi Aramcoを抜き、世界最大に返り咲く

金曜日、Appleは終値ベースで1兆8422億ドルと過去最高額に達して、Saudi Aramcoの1兆7595億ドルを上回って、再び上場企業で最大の時価総額を持つ企業に返り咲いた。Q3のレベニューは597億ドルで、対前年比11%増となる。パンデミックで多くの企業や消費者生活が打撃を受ける中で、GAFAMと呼ばれる5大企業(Google、Apple、Facebook、 Amazon、Microsoft)の業績は2桁の伸び率で絶好調である。

いみじくもサウジアラビアの石油公営会社という旧勢力ともいうべき企業を追い越して、トップに立ったのがテック企業のAppleというコト自体が、今の時代が、誰に支配されているかを象徴しているように思える。

以下の表はNasdaqにおけるGAFAMのシェアであるが、7月22日の時点で、5社で46.3%を占めている。Teslaの2.7%もちょっと異常と思えるが、GAFAM5社の独占化は、パンデミックの恩恵によって、今後もっと膨らむはずで、支配者の地位は不動に見える。

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The Four + Microsoft = GAFAM

2017年のScott Gallowayの書籍 ”The Four: The Hidden DNA of Apple, Amazon, Facebook, and Google”の4社が、我々の消費行動のどの部分を狙っているかの分析は、実に的を得ていると思う。

彼は、この4社をこんな風に説明している。

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Galloway: “Google targets the brain and our thirst for knowledge. Facebook is trained on the heart and our need to develop empathetic and meaningful relationships. Amazon targets the guts, satisfying our hunter-gatherer impulse to consume. And Apple, with its sleek, sensual products, has its focus firmly on our genitals.”

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彼の分析を一言で言い換えると、こんな風になる。

Google: ブレイン(ナレッジ)=我々のナレッジへの渇き、即ちブレインを狙っている。
Facebook: ハート(人間関係)=我々のハートが共感に満ちた有意義な人間関係を築くように訓練している。
Amazon: ストマック(消費行動)=我々の狩猟採集の消費行動を満足させるストマックを狙っている。
Apple: プライベイト(生殖=異性への性的魅力)=スマートで性的魅力のある製品は、我々のプライベイトな部分にフォーカスしている。

書籍が出てから3年経つが、我々の生活は「The Four + Microsoft=GAFAM」の5社に依存し、各社の棲み分けはすでにオバーラップして、我々の住む世界を支配する5社はより強化されている。

GAFAMの5社は「パンデミックの焼け太り」で高収益を上げている

以下の表を見れば一目瞭然で、ちょうど議会でGAFAの4社のCEOが召喚されて、市場の独占支配を追求されている最中に、この5社のQ2の利益は2桁となり、この3か月間で、5社は合計339億ドルの利益を創出した。

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GAFAMの5社の2019年1‐6月と2020年1‐6月の半年間のレベニューの比較:
Amazon:1644億ドル(34%増)
Apple:1180億ドル(6%増)
Alphabet:795億ドル(6%増)
Microsoft:731億ドル(14%増)
Facebook:364億ドル(14%増)

投資家は、GAFAに対する議会の政治劇を無視して、業績の好調さのみに目を向けている。GAFAの銘柄に対するアナリストの投資判断は83%が「Buy」としている。Amazon株は年初から急騰しているにもかかわらず、投資判断を「Sell」としているアナリストは1人だけである。

GAFAの4社のCEOがヴィデオ会議経由で一堂に会した議会公聴会

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GAFAの4人のCEOはヴィデオ会議システムを経由で5時間以上に渡り、市場での支配力を巡り議会公聴会で糾弾された。議員らは非競争的行為やユーザのプライバシー、偽情報といった問題について追及した。

第3者が販売するAmazonのマーケットプレイス、AppleのApp store、自社の資産にトラフィックを集めようとするGoogleの傾向、ソーシャルネットワークの世界で自社の地位を脅かしかねない企業を次々と買収するFacebookのやり方などが問われた。議員や規制当局は数年前からGAFAに対し圧力をかけているが、ほとんど成果を挙げていない。

The Four(GAFA)のロビー活動費の急増

以下のグラフが示すように、Google、Amazon、Facebook、Appleは、過去2か月間で、4社合計5450万ドルをワシントンDCのロビー活動に使っている。これは2015年から35%増で、2010年に比較すると500%増となる。この金額の推移を見れば、4社の政策への影響力の大きさと、公聴会の圧力が効力を持たないかが分かる。

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GAFAMは今後どんな風に社会(=我々に)に貢献してくれるのか?

昨日からMicrosoftのTikTok買収の話が出回っている。Reutersによれば、親会社のByteDanceは、米国でのTikTokのオペレーションを手放す可能性を示唆しており、そうなるとMicrosoftが米国ユーザのデータベースを握り、他企業もTikTokに参与できる可能性がある。セキュリティ問題で待ったがかかっているこの買収に関しては、現在ホワイトハウスと協議中らしい。

私は、何もGAFAMを目の敵にしている訳ではなく、1人の利用者として、この5社に、公私共々大いに依存して、生活している。言い換えると、山ほどお金を使っている、5社のロイヤルカスタマーで、さらに立派なStake Holderでもある。直接彼らのサービスや製品を購入しなくても、間接的に、毎日彼らのプラットフォームにログインしたり、アプリを使って、彼らの広告主の製品やサービスを購入している。

そう「お得意さん」として、今、彼らに言いたいのは、経済のエコシステムの中でエンドユーザである我々が豊かにならないと、最終的に彼らのビジネスにも金が潤沢に流れなくなるという点である。我々が豊かになるために、彼らが今直ぐ出来ることを提案してほしい。

我々が豊かになるためには、まず我々の心の安定が必要である。社会問題を重視して、差別やヘイトを助長するような動きを防止した上で、製品やサービスを提供してほしい。またこれだけ儲けているのだから、Tax haven利用から足を洗って、米国に対する納税義務をしっかり履行してほしい。税収が増えれば、アメリカ社会(=我々)により大きな経済的な支援が可能となる。そうした上で、企業としてより儲けるのは、結構なことだと思う。

ロイヤルカスタマーの我々が、5社に本当に失望し、見切りをつけ始めれば、栄耀栄華を誇るテックジャイアントも、どこかでTipping point(臨界点)を迎える。

平家物語「祇園精舎」の序文は、どんな権力にも当てはまる真理だと思う。

祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。 おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。 猛き者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉙「マスク着用を政治的ステートメントとする愚かな党派的考えが、ここまでコロナ感染拡大を促した」

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幸運なことに私達夫婦は、University of UtahのCOVID-19の調査プロジェクトに選ばれて(ランダム抽出)、PCR検査を2人で受けた。2週間後に、2人ともネガティブであることを正式に通知されて、まずはほっとした(無自覚症状でポジティブだったら、感染のキャリアとして他の人にデリバリしてしまうから)。事前にオンラインで2人の過去6か月間の行動やその他の質問項目に回答して、事前予約をとって、指定された日時に検査所(教会の駐車場)に向かった。ドライブスルーので、待つことなく指定の駐車場にさーっと入って、防護服に身を固めた担当者達がテキパキと作業していた。車の窓を開けて、鼻に綿棒をかなり強く差し込まれて(ちょっと涙目)、血液をスパッと採取され、ほんの5-6分で、車に降りることなく、さらっと終わった。彼らは個人情報を保護しつつ、私達をトラッキングすることも可能ということで、かなり顧客満足度の高いスムーズなオペレーションだった。

多くの州では医療従事者や検査員を守る防護服やツールの不足もあり米国はひっ迫している

私達の横のヘルスケアの保険会社の検査会場では、駐車場に入る車の長蛇の列ができており、担当者が車1台1台に検査目的を確認して指示していた。今コロナ感染の検査には、医師のReferralを持って行けばできる。但し、それを受けるために、車の行列ができており、夫はあの列には加わるのであれば、僕は引き返したと告白している。

州や郡によって異なり、一概にこれはこれこれこうだと言えないのが米国であるが、リアリティはかなり悪化していると思う。7/25現在で感染者428万人、死者14万9000人という米国は、昨日の新感染者は3万人、新たな死者は477人とうなぎのぼりである。当然のように医療従事者やエッセンシャルワーカーに必要な防護服からツールまで不足しており、検査すら中々簡単にできない状況である。

パンデミック開始後4か月たってやっと現大統領はマスク着用の重要性をいやいやながら言及するという無責任さ

以下のグラフを見てほしい。YouGovとImperial College Londonの調査結果で、米国では、3月初旬は10%以下、4月初旬は30%、7月半ばで78%がパブリックでマスク着用と回答している。この数字の推移を見れば、如何にアメリカ人がマスク着用に関して、ためらいがあったがこれで分かると思う。

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理由は、マスク着用を現大統領を含めた共和党が政治的ステートメントとして扱ったことが大きな理由の1つとして挙げられる。それ以外には、マスク着用は感染拡大初期に保健当局者の見解が分かれていたことも挙げられるが、民主党の大統領候補のJoe Bidenがマスク着用の重要性を訴求することに、反対・対抗するツールとして、現政権はマスク着用は個人の自由という方便を使っている。この党派的な立場におけるマスク着用は、多くのトラブルや論議を巻き起こしている。

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3人目の死者まで出たマスク着用のトラブル

7月14日ミシガン州の郊外のコンビニエンスストアで、マスク着用を別の男性客から求められた男が相手を刺す事件が発生し、その男は逃走先で警官に撃たれて死亡している。これでマスク着用に関連したトラブルによる死者は少なくとも3人目となる。

Walmart、BestBuy、Starbucksなどは、小売店舗は来店客へのマスク着用を義務付ける措置を実施している。米国では少なくとも30州が何らかのかたちでマスクなどの着用を義務づけている。ただし、その実施は多くの場合、エッセンシャルワーカーである店舗の社員に任せられており、ソーシャルメディアには、社員がマスクを着けない客から怒鳴られている様子も投稿されている。Goldman Sachsは、全米でマスク着用を義務化すれば米経済の損失を1兆ドルいう試算を出している

マスク着用とSDがリスク削減の大きなポイント

以下の表が示すように、マスクを着用し、他者とのソーシャルディスタンス(SD)の距離を保てば、感染するリスク削減は、着用せずにSDを無視する人達より大きく軽減できる。これは子供でも分かる理屈であり、科学的な事実である。これを過去4か月間認めずに、マスク着用とSDを政府レベルで奨励してこなかった現政権に対して、もう言うべき言葉も見当たらない。経済再開をする云々の問題以前に、公衆衛生の観点から、個々人にこの2つを義務付ければ、既に亡くなった14万9000人の死者のうち、何人が助かったのかと思うと、遺族の悲しみと医療関係者の悔しさが察せられる。実に愚かな政権である。

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大学はこの秋キャンパス再開のために学生の検査を実施する予定だが、このままでは検査ツール不足が悪化する

大学の動きも活発で、今秋にキャンパス再開のために、各大学の保健部門が主導して学生や教員やスタッフの広範かつ頻繁な検査を行う計画を打ち出している。但し問題は、検査キットを含む検査能力がこれに追い付くかどうかという点である。学生達もオプションがあるならば、キャンパスライフに戻りたいと切望しており、彼らの安全を確保し、ウイルス拡大を促す温床になるのを避ける方法について、現在議論されている。パーティやスポーツイベントには参加しないと学生達も発言しているが、何万人も生徒を抱える大学がどこまでこれらの学生全員を検査して、その後も彼らが公衆衛生を守るような行動をとれるかの保証はどこにもない。また大学生に限らず、小中高の学校再開も現政権は推奨しており、これらの学校が再開されると、今後は子供達によるクラスターが発生することは否めない。

国民を守ろうとしない現大統領を支持する人達が、現時点でも38%いるのがこの国のリアリティ

現政権の無責任さは、今に始まったことではないが、11月の大統領選挙まで待って、2021年1月20日の就任式まで現政権がこの国を導くと思うと、酷い頭痛に襲われる。コロナ禍に関して戦略がゼロという政権を抱えて、苦しむのは、医療関係者、エッセンシャルワーカー、既往症を持つ病人、保険のない低所得者層など、コロナ禍を避けようもない人達である。

馬鹿げた党派的な発言や行動を一切やめて、最低限の公衆衛生の基本ともいうべきマスク着用とSDの順守を市民に促し、国レベルで検査キットやツールの提供を十分に行うといったことをまず実行してほしい。

国民を守ろうとしない現大統領を支持する人達が、今でも38%(6/30時点のGallup調査)存在するという米国の現状は実に悲しい。

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彼らを主体にして2016年現政権が誕生した。あと4年間こうしたカオスの中で暮らすことは出来ない。どちらにしても、11月にはその答えを知ることになる。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉘「パンデミックは今後必ず起こる現実。今こそUBI(Universal Basic Income)のようなセーフティネットが必要」

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パンデミック云々に関わらず、富める者はいつでもさらに富む

以下の表はパンデミックがスタートした3/18から6/17までの米国のビリオネラー達の資産推移であるが、ロックダウンで休業や失業にあえぐ中小企業、若年就労者、低所得者層の経済的な苦しみとは無縁に、大幅に資産を増やしている。米国の643人のビリオネラーの資産合計は、3/18時点で2.9兆ドルであったが、6/17には3.5兆ドルと20%増加した。また、4,550万人のアメリカ人が失業保険申請をしている間に、新たに29人がビリオネラーに仲間入りしている。

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Jack Dorseyも参加し始めたUBIの実現のための実験

Twitter & SquareのCEOのJack Dorseyは、4月個人資産の28%に当たる10億ドル(Square株を売却して充当)を、コロナ禍の被害対策の慈善基金「Start Small Foundation」を立ち上げて寄付すると発表した。彼のフォーカスは、少女たちの健康と教育、更にUBI(Universal Basic Income)であるとし、寄付用途をGoogle docのスプレッドシートに上げて、一般の人達が閲覧できるように共有するという情報の透明性を訴求した。

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以下の表は、米国のビリオネラーの個人資産の寄付額の順位であるが、Dorseyは個人としてはダントツのトップの金額10億ドルを寄付している。

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Dorseyは、今回その基金から300万ドルを、カリフォルニア州Stocktonの市長のMichael Tubbs(29歳)が結成した「Mayors For A Guaranteed Income(MGI)」と呼ばれる、全米16都市の市長達の連合に投入すると発表したこの連合は、市民に無条件で定期的に現金を給付する「UBI(Universal Basic Income)」の実験の一環として始められる。

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Forbesの記事によると、Squareの株価は4月以降に165%増となり、Start Small Foundationに提供された株式の価値は22億6000万ドルまで膨らんでいる(7/9現在)。Dorseyは、ケニアとウガンダでUBIのテストを実施中のNPOのGiveDirectlyにも1120万ドルを寄付している。

DorseyやYangが推進するUBIとは何か?

UBIの詳細に関しては、5/26に書いた私のブログを参考にしてもらいたい。

「UBIとは、生活保護や各種の助成金や補助金、年金や医療保険などの現在の社会福祉制度を大幅に簡素化し(もしくはすべて廃止し)、その代わりに住民全員(世帯ごとではなく家族全員)に無条件に毎月一定の現金を支給する制度である。この考えは16世紀に英国の思想家Thomas More(トマス・モア)が、社会政治を風刺した1516年の著作『Utopia(ユートピアはモアの造語で、どこでもない即ちどこにもない場所)』で最低生活保障について触れているように、決して新しい考え方ではなく、現在世界中で様々な実験が試みられている。」

このUBIの理念は、私も応援した民主党大統領選挙候補だったAndrew Yangの選挙キャンペーンの中心メッセージでもある。Andrewは、全ての国民に月間$1,000の“Freedom Dividend”を提供すべきだと主張した。これだけではとても生活は賄えないが、少なくとも低所得者層の生活を支える糧にはなる。パンデミックによって最も大きな被害を受けるのは、これらの人達である。貧困はメンタルを破壊し、ドラッグや銃撃事件やDVや様々な犯罪を創出する。

Dorseyは5月のAndrewのポッドキャストに出演し、UBIの有効性を訴えている。「最低限の収入が保証されることで、人々は心の平静を保ち、新しい世界に向かうための学習を進めてゆける」と彼は言う。DorseyがGiveDirectlyに寄付した資金は、パンデミックによる打撃を受けた低所得家庭への現金給付にあてられた。また彼は、Andrewが設立した低所得者家庭を救済する基金のHumanity Forwardにも500万ドルを寄付している

UBIの効用は?

効用に関しては、以下の5つのポイントがあり、私が書いたブログに詳細を記してあるので、時間がある時に読んでもらえたらと思う。敢えて、もう1つ重要な点を付け加えるとすると、通常低所得者層は、給与から給与と経済的に綱渡り状態で暮らしている。そんな彼らにとってUBIは、「どんな時でも定額の給付金が入り、それによって心に余裕が生まれて、困難に陥った時にそれを乗り越えようとポジティブな心構えが生まれる」という効用も大きいと思う。

1) 貧困の消滅

2) 広がる富の格差の中で社会を下支えする人達へのサステイナブルなサポート

3) 女性の家事労働といった無償労働の可視化などで男女格差が緩まり、女性の経済的な自立への道ができる

4) 都市の人口集中緩和や地方都市の評価増などで家族が暮らしやすくなる

5)AIや自動化による雇用喪失によって失業した低賃金労働者へのサポート

UBIの財源はどうするのか?

前述のStockton市長のTubbsは、財源に関して様々な解決策を上げており、「Dorseyのような富裕層の税率を引き上げるのも一つの手段だし、2017年のTrump政権による減税策を廃止すれば、年収12万5000ドル以下の全ての米国世帯に500ドルを給付できるだろう。さらには、膨らみすぎた防衛予算を引き下げることでも資金確保には可能だ」と言う。彼は「人々や社会にセーフティネットをもたらす新たな政策が求められて今、重要なことは、まず政治的決断を下し、物事を前に進めていくことだ」と指摘する。彼は今回のUBIのテストプログラムを成功に導き、現金給付の試みが、連邦政府レベルに広がることを望んでいる。

財源の1つの方法として富裕層の税率の引き上げが言及されているが、これに関しては1つ朗報がある。7/13、世界の富豪83人が、各国の政府に対して自分たちのような富裕層に大幅に増税するようにと署名した公開書簡が公表された世界の富豪でつくる団体「Millionaires for Humanity」には、ディズニーの一族であるAbigail and Tim Disneyなどを含む、富裕層、起業家、投資家らが参加し、富裕層に増税し、富の格差の是正などに充てるべきだと訴えている。

まずは決断が必要

UBIはそう簡単に実施できないと多くの人は言うが、パンデミック対応として期限付きで、カナダ、イギリス、スペインは既にUBIを実施した。パンデミックの渦中で、時代はgroundswellともいうべき急速な変革を求めて動き始めている。これを具体化するための試みは、色んな所でなされている。

富裕層も応援する時代である。前進するためにアタマを絞って工夫すれば、良いアイディアは必ず出てくる。まずは決断である。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉗「サバイバル脳の指令」

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若者を中心に感染は拡大、感染者数は290万人、死者数は13万人になる(2020/07/06現在)

米国では50州全てがビジネスを再開した後も、コロナ感染は一向に収束を迎えていない。政府の無策或いは科学を無視した指導もあり、マスクを着用せず、ソーシャルディスタンス(SD)を守らず、生活し始めた結果、若者を中心に感染者数や死者数は、うなぎのぼりである。独立記念日の週末では、フロリダは1万1,500人、テキサスは8,300人、カリフォルニアは5,400人という、1日の感染者数として新記録という、何とも酷い状況である。

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若者たちは、高齢者と異なり、自分達は感染しても大丈夫と高をくくっているが、若者たちの間でも症状が悪化して死に至るケースも出ており、今や注意深くなったシニアよりも、若者たちの感染が拡大している。

マスク着用を政治的意見の表明とする馬鹿げた考え方が横行し、科学的な事実を信じない人達が米国には多く存在し、コロナ禍は、とても収束といった方向に向かうとは思いづらく、刻々と病床は足りなくなっている。私は過去数か月間、1週間に1度の食料品の買い出し以外は、余程の必要性に迫られない限り外出せず、外出時のマスクとSDは必須の行為として順守して、社会的責任を果たしている。マスクとSDは、市民としての「Responsibility & Accountability」だと思う。

Note :「責任」と訳される2つの言葉の違い。「responsibility」:これから起こる(=未来)事柄や決定に対する責任の所在。「誰の責任であるのか?」という時に使われる。「accountability」:すでに起きた(=過去)決定や行為の結果に対する責任、またそれを説明する責任。「誰が責任を取るのか?」という時に使われる。「responsibility」は他の人と共有することは可能だけど、「accountability」は他の人と共有できないという点が、この2つの言葉の違い。

「サバイバル脳」が不安解消のために「Bingeだらけの行動」を指令する

このパンデミックで多くの人達は「binge-watching(映画やTV番組などのコンテンツを一気に視聴する)」のように、飲み過ぎ、食べ過ぎ、ソーシャルネットワークし過ぎ、Zoomし過ぎ、など、こうした行為で、不安やストレスを解消している。また多くの人達は、今ビジネス再開で、 “Quarantine 15 (在宅太り)”になってしまい、慌てて大きいサイズの服をオンラインで購入するといったコトが起きている。この"Quarantine 15"は、元々 “freshman 15” という言葉で、「大学の新入生は15ポンド(約7キロ)太る」というものからきており、”Quarantine”は、もともと病気を拡大させないための隔離を意味しているが、「self-quarantine」のように外出自粛という意味で使われ、コロナ禍は米国では「Covid 19」と表現する。

以下は、不安解消のための気晴らしをするという人間の行為は、もともと人間に備わっている「サバイバル脳」に由来するという、ブラウン大学公衆衛生大学院准教授のJud Brewerの記事から抜粋してみた

生物学的に「サバイバル脳」は、食べ物と危険の両方を探す役割を担っている。私たちの祖先が新しい食糧源を発見した時、胃から脳に一連のシグナルが送られ、ドーパミンが分泌した。そして将来見つけるのに役立つよう、食べ物が存在する場所の記憶が形成された。危険についても同じことが言える。祖先たちが初めての場所に行く際は、自分が食糧源にならないように、目を凝らして、動くものを警戒する必要があった。不確実性が彼らを助け、それゆえ人間は種として生き残っている。 しかし、不安と気晴らしの関係を理解する上で重要な点がある。その場所をよく知れば、そこが危険であろうとなかろうと、不確実性が低下するということである。つまり、私達の祖先は一つの場所を繰り返し訪れることで、緊張を緩和することができた。 このことが今何を意味するのか? それは、確実性が高まると、脳のドーパミンの使い方が変わるということである。例えば、物を食べたり、危険な場所を見つけたりした時に、ドーパミンを放出するのではなく、そうした出来事を予期した時に放出するのである。 ドーパミンは、一般的な文献で呼ばれているような「快感分子」とはほど遠い。行動が一旦学習されると、ドーパミンは一貫して、行動したいという渇望や衝動と関連づけられる。進化の観点から、これは理にかなっている。先祖たちは一度食糧源の場所を知ったら、そこへ行って食糧を手に入れるよう、駆り立てられる必要があったからである。

Brewer教授に言わせると、我々は現在のパンデミックに対して、全く同じことを行っていると指摘する。

退屈や不安を感じると、人々はお菓子を食べる、ニュースフィードをチェックするといった衝動に駆られる。胃や胸に不快感が生じ、何かがおかしいと気づく。脳が「何かをやれ!」と命令し、特定の行動つまり気晴らしをすると気分がよくなる。大事なことをやるべき時、YouTubeでかわいい子犬の映像を(繰り返し)見るのは、脳にとって当然の選択で「サバイバルの基本」である。気晴らしをすることは、古代に危険や未知のものを回避していたのと同じなのである。不確実性は不安を生じさせ、不安は何らかの行動を促す。 その際の問題は、多くの場合、気晴らしのための行動が、不健康で役に立たないという点である。永遠に食べ続けたり、酒を飲み続けたり、Netflixを見続けることはできない。実際、それをやるのは危険である。脳がそうした行動に慣れてしまい、最終的にいつもの成果を得るために、もっとやらなければならないからである。サバイバル脳は人間を助けようとしているが、断ち切ることが困難な習慣や、依存にすら向かわせていることに、人間は気づいてない。

 "Anxiety-Distraction Habit Loop(不安―気晴らしの習慣ループ)"をどのように断ち切るか?

Brewer教授は、 "Anxiety-Distraction Habit Loop(不安―気晴らしの習慣ループ)"に陥っている場合、自分が望まない習慣をつくり出し、それを継続させる"Trigger-Behavior-Reward(引き金―行動―報酬)"というプロセスを明らかにする必要があるという。 引き金(不安)、気晴らしの行動(食ベる、酒を飲む、テレビを見る)、報酬(気晴らしをすることで気分がよくなる)を認識する。 次に、その習慣のループがどれだけの報酬をもたらすかを考える必要がある。脳は報酬のレベルに基づき行動を選択する。無理に食べないとか、ソーシャルメディアをチェックしないようにするのではなく、自分の行動が招く精神的・身体的な結果に焦点を当てる。その短時間の気晴らしで、どう感じるか?どれくらい続けるのか?タスクを完了できずに不安が増すなど、裏目に出る結果をもたらす影響はあるか?といった点である。 注意すべきは、すべての気晴らしが悪いわけではないということで、問題となるのは、求める報酬が得られなくなった時である。報酬のレベルは典型的な逆U字型のカーブを描くので、ある時点で気晴らしの楽しさは頭打ちになり、そこから先は下降し、落ち着きがなくなって不安な状態に戻り、また別の楽しいことを探そうとする。

そして、このプロセスの最後のステップが「BBO(Bigger Better Offer:より大きくて、よりよい試み)」を見つけることである。脳は報酬のレベルがより高い行動を選択するので、悪い習慣よりも報酬レベルが高い行動を見つける必要がある。 その際、必ずしも新しい行動を選択する必要はない。有益から有害に変化した時点で、その行動をやめることもいいと教授はいう。

自分の不安およびその解消方法を認識する

不安解消のための気晴らしは、誰も必要だが、その習慣化或いはちょっときつい言い方だが、それに依存し始めると厄介な問題となる。日本は世界でも稀有といっていいほどの、パンデミックにおける特殊な位置づけの国である。世界中の科学者が、日本のこの感染状況の原因を分析しようと色々言及しているが、みんな首を傾げるばかりである。東京都で1日に100人増えたといった情報を目にするが、米国在住の私として、まあ何と微笑ましい牧歌的な国なんだろうと思う。だから、日本ではこの問題はそれほど重視されないのかもしれない。

但し、米国のパンデミックの長期化は自明の理で、いつどんな形で収束するか予想がつかない。人々の不安は消えず、「サバイバル脳」による指令によって、気晴らしは悪習慣になる可能性が否めない。まず、我々がやらなければならないことは、長期化する以上、不安解消で実施している行為が、本当に自分たちに「報酬」をきちんと与えているかどうかを検証して、高い結果を得られない場合は、より良い行動を見つけることから始めるしかない。

口で言うのが簡単だが、水は低きに流れるがごとく、人は手軽なものに手が出る。だからといって自分を甘やかして放任するわけにもいかない。兎に角、まずは何事もBingeし過ぎないように自戒したい。

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アメリカの現実⑦「広告主は本気でヘイトスピーチや虚偽情報を載せるソーシャルメディアに怒っている」

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大企業の広告ボイコット運動によって、7月以降プラットフォーマーは本当に変わっていくのか?

Unileverは昨年Facebookに4,230万ドルの広告出稿をしているが、6月26日、ヘイトスピーチや米国の分断を煽るような虚偽のコンテンツを放置するFacebookに関して、年末まで広告出稿を中止すると発表した。この出稿停止の対象メディアは、Facebook、Instagram、Twitterである。またCoca-Colaは、ソーシャルメディア(Facebook, Instagram, Twitter, YouTube and Snap) のグローバル広告を、少なくとも30日間出稿停止すると発表している。電通傘下の360i、IPG Mediabrands、MDCのMedia Kitchenといった広告エージェンシーの幹部も、クライアントに対し、Facebookに投じる広告費を見直すよう助言している。

名誉毀損防止同盟(ADL)や全米黒人地位向上協会(NAACP)などの市民団体による、7月のFacebook広告のボイコットの呼びかけに、Verizon、Ben & Jerry’s、Patagonia、 VF、North Face、Eddie Bauer、REIなどが参加を表明している。

アップデイト:参加企業は6/29時点で230社まで増えた。上述以外の大企業では、Microsoft、Ford Motor、Clorox、Denny’s、Levi Strauss、Starbucks、Diageoなども参加している。

ハッシュタグ「#StopHateForProfit(憎悪を利益にするな)」をもとに、2020年米国純売上高310億ドル(5%増)という予測(eMarketerによる)のFacebookに対して、鋭い非難の声を突き付けている。 ADLは6月25日、広告主宛ての書簡で「見え透いたうそ」が含まれる政治広告の削除をFacebookは繰り返し拒否したと述べている

以下の表は、2019年のソーシャルメディアの広告レベニューである。Facebookはおよそ700億ドルのレベニューを得ており、この収益の元にヘイトスピーチや虚偽情報コンテンツがあることへの怒りは大きい。

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FacebookのCEOのMark Zuckerberg (MZ)は6月23日、大手広告主や広告代理店幹部との電話会議に参加し、広告主の懸念を傾聴しながらも、Facebookの中立の原則を繰り返し述べており、FBの幹部はヘイトスピーチを検出できるAIの開発を継続するなど、ヘイト対策への投資を増やすことを約束した。こうした状況下で、ついにFacebookは、Unileverの発表の1時間後、Unileverの社名は出さなかったが、MZ自身が早急の改革を図ることを発表した

毎回広告ボイコットからするりと逃げていたプラットフォーマーだが、今回は簡単に逃げられない

アイロニカルな話だが、800万以上の広告主を抱えるFacebookは、中小企業の広告主も多く存在し、こうした大広告主による広告ボイコットは、彼らにとってはその隙間に入り込めるチャンスともいえる。Mom & popの小規模企業にとって、莫大なオーディエンスにリーチできるFacebookとInstagramは、容易に使えるセルフサービスの広告プラットフォームである。それも含めて、過去何回もFacebookへの広告ボイコットは起きていたが、Facebookはのらりくらりと、矛先をかわして、広告主の広告ボイコットという抗議は長続きはしなかった。但し、今回の規模と拡大と真剣さは過去に例がない。プラットフォーマーは、これにどこまで対処するかは、今の時点では不明であるが、今回は逃げられないと思われる。

従来の広告主の広告ボイコットは主に影響力の行使で、ターゲティング、測定、詐欺などの広告に特化した変更を、プラットフォーマーに要求した。但し、今回の広告ボイコットは、広告主は自らを社会のために正しいと信じていることを行う存在として位置づけて、行動を起こした即ち企業は、自らのPurposeのためには、例え一時的に広告停止によって利益を落としても、自らの信じる価値観のためならば、それをすべきだと考えて、行動を起こそうとしている。

ソーシャルメディアの果たす役割の大きさが広告主を動かす

6月2日、何百もの広告主が「Blackout Tuesday」に、BLM(Black Lives Matter)を表明しながら、人種差別に抗議して、ソーシャルメディアに黒く塗りつぶした四角い「黒い羊羹(注:これは私の表現)」を投稿した。TinuitiによるPathmaticsのデータ分析によると、Facebookにはこの日、通常の40%の広告費しか支出されなかったという。

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世界広告主連盟(WFA:World Federation of Advertisers)のCEOは、「今回とこれまでの違いは問題の性質である。私が感じているのは、社会が分断し、大きな混乱を経験している今、ソーシャルメディアのプラットフォームが社会で果たす役割についての関心が高まっていることだ」と言う

11月の米国の大統領選挙もあり、今回の広告主の動きは、社会に対するソーシャルメディアの巨大化する影響力への楔であり、今までとは異なり、社会的なうねりと同調しながら、その影響力を利益の簒奪のみに使うコトに反対の狼煙を上げている。Facebookを始めとするソーシャルメディアが、どのように対処していくかは、ここでしっかり見極める必要がある。

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アメリカの現実⑥「変化を求められる広告エージェンシーの企業文化」

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日本では理解し難いエージェンシー内の白人中心文化

今朝目にしたDigiDayの記事 「エージェンシーの「白人文化」に、黒人社員が変革を求める:「プレッシャーは効いている」」を読んで、すっかり忘れていたが、自分も24年前、米国の広告代理店San Francisco McCann Ericksonで勤務していたことを思い出した。1996年私は、デューティフリー製品を販売するDFS Group担当のAccount Supervisorとして雇用された。DFSのターゲットオーディエンスは、日本人買い物客で、広告は日本の雑誌に掲載することがメインだったので、米国に移住したばかりで職探しに苦労していた私は、自分のStrengthを発揮できると有頂天になった。但し、実際はメディアバイイングを日本のマッキャンエリクソンに委ねていたことから、日米のグループ会社は利害関係が異なり、私はリエゾン的な立場で、両者から球を投げられ、それを捌くという、非常に難しい立場だった。

当時日米間のコミュニケーションは電話とFax主体で、毎晩日本の媒体担当と電話で話し、SFから出るCaltrainの最終の1本前の22:35発に乗りたいが、殆ど乗れず、最終の0:05発に乗ることが多かった。朝はまだ星が出ている時間に家を出て、夜は最終便だったので駅員にもすっかり顔を覚えられて、また今晩も遅かったねと声を掛けられるぐらいだった。

嫌な思い出の1つは、週に1度の英語だけで話す日米のチーム電話会議で、米国チームは英語でまくし立て、日本チームは殆ど反論しないという流れだったが、会議終了間際に日本の担当が「大柴、これが終わったら残れ。日本語で話をつける」と言い放った瞬間である。米国チームは「今、彼は何と言った?」と聞くので、仕方なく私は「彼は私だけ残って日本語で話を詰めたい」と答えると、全員が激昂して「絶対に電話に出てはいけない。彼は会議で全員に話すべきで、ひさみ1人に日本語で話しあうというのはルール違反だ」とわめきだした。私は日本に送る原稿入稿の時間がかなりきついので、今晩彼と話さないと間に合わなくなると説明して、結果日本からの電話を取った。日本の担当者は怒りに震えた声で、米国チームの勝手な言い分を罵り、私はいやいやながら彼を宥めて、何とか原稿入稿を終わらせた。

今思えば、当時の私は日本から来たばかりで、英語がフルーエントではないというコンプレックスによって、米国エージェンシーというプリマドンナ(自分が目立つ・注目されることだけを望む人)だらけの業界で、チームリーダーでありながら、チーム内で嫌われることを恐れて「良い人」であろうと、必死にもがいていた。今日書こうと思ったエージェーンシー内の人種差別とは異なるが、「英語が出来ないというだけで、まるで能力ゼロのように見られる外国人という差別」の中で苦しんでいたのは事実である。

特にエージェンシーでクライアントとの窓口となるAccount SupervisorやAccount Executiveは、24年前は白人が殆どで、それも外見の良いような人が担当者となって、クライアントに通っていた。San Francisco McCann Ericksonで、私が覚えている限りでは、営業は全て白人で、それ以外の部署にアジア系が1人、ヒスパニック系が1人、アフリカ系は皆無で、外国人は私1人ということで、全て白人中心で回っていた。

エージェンシーの中の黒人社員は「白人文化に馴染んで同化するように仕向けられる」

米国の人気Sitcom television seriesに「Black-ish」という番組があるが、黒人のアッパーミドルクラスの家庭を描く、2014年から続く人気番組である。主人公のAndre 'Dre' Johnsonは、白人ばかりのエージェンシーで唯一の黒人のエグゼクティブで、黒人をターゲットするプロジェクトでは、Strategistとして、白人チーム内で常に意見を求められる。彼は白人の上司及び同僚達のステレオタイプな黒人像に、いつも呆れて激昂しながら、エージェンシー内で苦労している。

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このTV番組で訴求されるメッセージと同じことが、今朝のDigiDayの記事の中に書かれてあった。

あるエージェーンシーグループに勤務する黒人のStrategistであるBrandon(仮名) は、仕事は好きだが、常に黒人社員が「白人文化に馴染んで同化する」よう仕向けられる、エージェンシーの「一枚岩」文化に悩ませられているという。複数のエージェンシーで経験した人種差別的カルチャーについて、以下のように語っている。

“I’ve always been like, ‘I can take that, I can deal,’” “But right now, the combination of what’s happening with how my agency has handled everything up to this point—to be candid, I feel disrespected. We’ve received a number of emails but not one of them has any points of action. So obviously when the fifth one comes through, I’m like, ‘Ok, now you’re insulting my intelligence.’”「『これくらい受け入れられる、問題ない』と、いつも自分を納得させていた」「だが、いま起こっている事態と、エージェンシーがこれまで問題にどう対処してきたかを考え合わせると、はっきり言って私は軽んじられてきたと思う。(会社から)たくさんのeメールを受け取ったが、どれひとつとしてアクションポイントを示していなかった。だから、5通目のメールを見たときは、『私の頭が足りないと思っているのか』という気分だった」

広告業界に勤務する黒人社員達の改革を求める公開書簡

今世界中でBLM(Black Lives Matter)の抗議運動の嵐が吹きすさぶ中、Brandonを含む広告業界に勤務する600名の黒人社員達が「エージェンシーの変革を求める公開書簡に署名したこれを主導したのは、Periscopeのグループ戦略ディレクターのNathan Youngと、Aerialistの創業者のBennett D. Bennettで、黒人社員とそれ以外の有色人種の社員が働きやすいよう職場環境を改善するための12の具体的なアクションを列挙した。

これはエージェンシーのリップサービスや旧態依然ぶりに辟易している社員たちが、真のDiversity  & Inclusionのために変化を求めて、ボトムアップの圧力をかける事例である。この書簡で社員たちはエージェンシーに、黒人社員の割合を増やす努力、Diversityに関するデータを公表することを求めている。エージェンシーがどう対応するかは、いまのところ未知数である。

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Black agency professionals have an unequivocal response for U.S. advertising agencies: release your diversity data and reform your practices now.
Kacy Burdette

記事によれば、IPG、WPP、Omnicom Group、Publicis Groupe、電通からは現時点で回答は得られていない。唯一Havasは、フランスの法律で社員の民族的出自に関するデータの収集は禁じられているものの、「彼らが作成したリストを指針として利用し、包括的な取り組みに基づいて、ビジネスにおける意思決定を行う」としている。

もうエージェンシーは社内の人種差別を無視出来ないレベルに近づいている

このエージェンシーにおける人種差別は、長い間言われてきたことで、ことさら新しいコトではない。ただ往々にして、エージェンシーが実施した主な対策といえば、Diversity & Inclusionの担当責任者を採用して、彼らに丸投げするだけで、成果をあげるために必要なリソースを提供してこなかった。要は、誰も真剣に取り上げて改善する意思がなかったといえる。

但し、今回はそうはいかない。

すでにGorge Floyd事件から3週間以上経つが、抗議行動は収まらず、BLMを求める一般の眼は、政府・行政・警察のみにとどまらず、お為ごかしの言葉のみでBLMに賛成する企業に対しても、「本当に人種差別や社会的不平等撤廃を行動を伴って実施する気はあるのか?」と鋭い眼差しを投げつけている。そうした企業をクライアントとして抱える広告業界が、いつまでも「白人中心文化」というぬるま湯につかっているとしたら、クライアント側は、そうしたエージェンシーを切っていく。これは今後間違いなく起こりえる現実である。

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アメリカの現実⑤「今企業は真剣にBlack Lives Matterへの対応を迫られている。今回は逃げられない」

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米国の「Gray rhino(灰色のサイ)」と呼べる「人種差別問題」はついに暴れだした

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米国企業は、コロナ禍によるパンデミックの次に、ついに暴れだした「Gray lino(灰色のサイ)」ともいうべき人種差別問題への対応を迫られている。金融業界では、「Black swan(黒い白鳥)」と「Gray rhino(灰色のサイ)」という2つの言葉が良く使われる。「Black Swan」は、1697年にオーストラリアで黒い白鳥が発見されたことによって、「白鳥は白い」と思っていた通念を破壊したことに由来して、常識ではありえない異常事態が、社会に大きな衝撃を与えてしまう現象をいう。

これに対して「Gray rhino」は、普通サイは灰色なので、特別に目を引く現象ではないが、一度サイが暴れ出すと、手が付けられないほど大きな被害をもたらす現象を指す。また「灰色のサイ」は、我々が日頃から認識しているにも拘らず、直接自分達に影響を与えないと勝手に解釈していることがポイント。米国では日常化している「人種差別問題」は、この「灰色のサイ」状態となり、問題認識はされていたが、長い間誰もが恐れて手つかずの状態であった。それが「George Floyd死亡事件」がトリガーとなって、ついに「灰色のサイ」は暴れだした。

米国トップ100企業は、まず反人種差別のために16億ドルの寄付を誓った

今回の「Black Lives Matter(BLM)」への企業の対応を、パブリックは今しっかりと見つめている。企業が今までのように、嵐が収まるまで首をすくめているといった、日和見的な態度を見せるのを許さず、企業に具体的な動きをするよう、要求している。企業は、巨大化した「灰色のサイ」に対峙した結果、まずお金を使うということで、自らの立場を明示する方法に出た。

米国のトップ100企業は、人種差別と戦うために16億ドル以上のお金を費やすコトを誓っている。金額的にダントツのトップは、Bank of Americaの10億ドル、2番目は、Walmart、Camcast、Appleが、各々1億ドルずつ出すことを誓った。現時点ではトップ100企業のうち42社は寄付を誓っており、10社が全体の寄付の90%を占めている。

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企業各社のBLMへのメッセージは、どれも「四角に切った黒い羊羹の金太郎飴状態」

George Floyd事件発生後のBLMムーブメントへの企業の対応は、以下のAmazonのTweetのように、四角い黒い羊羹を切った金太郎飴状態で、ソーシャルメディアは黒の四角だらけになった。各社ともメッセージで、人種差別と戦うコトは表明しているが、人種差別の根本にある「白人至上主義」といった、本質的な問題に触れるものは皆無に等しかった。実際、誰もが簡単に「人種差別は良くない」と言えるが、米国の社会、経済、文化の中に制度的に組み込まれた黒人差別の問題点を直視して、どのように解決するか、またどのように実施するかを言及するには到底至っていない

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黒人不在ー経営レベルに欠けるDiversity & Inclusive

大企業における黒人の経営レベルの参画および昇進は、長年多くの企業がお題目のように唱えているが、一向に改善されていない。Fortune 500の企業の中で黒人のCEOはわずか5人で、44位のLowe's、69位のMerck、81位のTIAA、438位のM&T Bank、485位のTapestryの5社のみで、Fortune 500の全CEOの1%でしかない。米国人口でアフリカ系アメリカ人は13.4%を占めるが、1999年以来Fortune 500の歴史で、僅か18名が黒人CEOで、2012年が最多で6名だった。勿論CEOだけに限らず、大企業の経営層に黒人が食い込む割合は非常に低い。 

Appleは今回人種差別撤廃のために1億ドルの資金を投入すると誓っているが、Appleの12人のシニアのリーダーたちの中で、黒人はこの人種差別撤廃のイニシアティブを指揮するLisa Jacksonのみである。彼女は、Obama政権時代に米環境保護局(EPA)を率いた経歴を持ち、2013年にAppleに入社している。CEOのTim Cookは、“Things must change and Apple is committed to being a force for that change,”とTweetしているが、実際にどこまでそれが可能かどうかは、今の時点では何とも言えない。

白人至上主義の問題に言及するBen & Jerry’s

そうした中で、非常に明解に白人を優遇する歴史的な背景を指摘しながら、反人種差別を強く訴えるのが、Ben & Jerry’sである。

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彼らはコングロマリットであるUnileverの傘下ながら、独自のCEOと役員会を持つ唯一の独立した組織で、自社の価値観に沿った政治的な見解を長年主張してきている。彼らは、米国法務省に対して公民権局の復権を、議会に対しては、1619年黒人奴隷が初めて北米に連れてこられた時から、現在に至るまでの差別の影響を明らかにするため、委員会設置の法案を可決するよう求めている。

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Ben & Jerry'sの首尾一貫した言動と行動の一致によって、初めて企業として発言する「Black Lives Matter(BLM)」という問題の意味が認識できる。

もう誰も暴れる「灰色のサイ」から逃れられない

人種差別問題に関して議論するならば、まず議論の参加者に黒人が参加すべきで、残念ながら多くの場合、当事者たる黒人は不在のまま論議されている。当然、人種差別の根っこにある、米国の負の遺産である黒人奴隷と白人至上主義の問題に踏み込んだ議論が出来ない、或いは口を閉ざしてしまう。白人にしてみると、自分を加害者側に置く、歴史の読み方には苦痛を伴うし、出来ればそこを通らずに議論したいというのが本音だと思う。

但し「灰色のサイ」は既に暴れ始めており、通常のやり方では、このサイを鎮めることはできない。特に、MillennialsやGeneration Zといった米国人口の半分を占める層は、Diversity & Inclusiveを重視する価値観の中で育った。彼らは、幼少時から周囲のマイノリティ(人種や性的志向性の違いも含めて)を認め、彼らを含めて全ての人間は平等であるべきと考え、BLMを口にすることへのためらいはない。彼らは、今、企業をじっと見つめて、「あなたはこの問題をどう考えて、それをどのように解決するのか? またそのためにどんな行動をとるのか?」を聞いている。

企業側は、四角い黒い羊羹をソーシャルメディアに貼り付けて、お金さえ出せば、コトが済むと思っているとしたら、それは間違いで、今回は即座に「No」と否定されて、顧客は離れていく。もう誰も「灰色のサイ」から逃げられない。

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アメリカの現実④「人種差別を考えるためには、まずは155年前の歴史に遡って考える必要がある」

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なぜ今南部連合を象徴するものが撤去されているのか?

過去数日のうちで、アメリカではThe American Civil War (米国南北戦争)時のアメリカ連合国(CSA: Confederate States of America-南部連合)の記念碑や象徴する銅像が何十体も撤去された。これに付随するかのように、スポーツ、エンタテイメントの業界でも、警察や人種差別、南部連合を象徴するようなモノやコトが停止或いは削除されつつある。

NFL(プロフットボール)のCarolina Panthersは、6月10日元オーナーのJerry Richardsonの像を撤去した。彼はチームの社員に対して性差別的、人種差別的発言をしたと非難された後、自ら創設した同チームを2018年に売却している。HBO Maxは、南北戦争時代を描いたクラシック映画「Gone With The Wind(風と共に去りぬ)」の配信を停止し、Paramount Networkは、警察密着ドキュメンタリーの長寿番組「COPS」の放送をキャンセルした。また、A&E Networkは6月10日、同局で最も人気がある警察密着リアリティ番組「Live PD」の放送を中止すると発表した。

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自動車レースのNASCARは、長年レースで多く見られた「Confederate flag(南軍旗)」の使用を禁止するにあたり、「全てのファン、レース参加選手と業界に対して、誰でも歓迎し、受け入れる環境を提供するという、我々のコミットメントに反する」と述べた。NASCARのフルタイムのドライバーで、ただ一人のアフリカ系アメリカ人であるBubba Wallaceは、レースでの南軍旗使用に反対を表明、彼のレースカーの後輪の車体部分には6月10日「#Black Lives Matter」が書かれた

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さらに奴隷制度を連想させるバンド名であるとして、グラミー賞を5回受賞している人気のカントリーのバンドのLady Antebellum(レディ・アンテベラム)は、バンド名を「Lady A」に変更した。過去14年間彼らが使ってきたAntebellumには「南北戦争以前」という意味があり、彼らはそこに「奴隷制度も含まれるという事実を考慮していなかった」と、Twitterで謝罪した。この言葉をバンド名にした理由について、「最初にバンドの写真を撮ったのが南部の“Antebellum”スタイルの家であり、この言葉が自分たちに影響を与えたサザンロックやブルース、R&B、ゴスペル、カントリーなどの南部の音楽を思い出させてくれるから」とバンドは説明する。彼らは、バンド内で話し合い、黒人の友人や同僚の意見を聞いて上で、バンド名を変えることにしたという。

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南北戦争とCSA(南部連合)

日本の人はあまり深く「The American Civil War (米国南北戦争)」に関することを、学生時代に学んでいないと思うし、関心もそんなにないと思う。多分年齢の上の世代は、第2次世界大戦に敗戦して、日本の戦後の焼け跡の復興で見た、北軍に負けた南部人を描く映画「Gone With The Wind(GWTW: 風と共に去りぬ)」に、自分達を重ね合わせて、共感を持って見ていたと思う。GWTWの中で描写される黒人奴隷は、大農園の主人達に家族のように扱われているが、現実では生涯にわたって無償労働を強いられ、人間としての自由と権利を奪われた奴隷という風には描かれていない。

アメリカ連合国(CSA: Confederate States of America - 南部連合)は、アメリカ合衆国政府(the Union - 連邦)からは承認されていなかったが、1861年から1865年の間、共和制国家として存在していた。CSAは、南部のサウスカロライナ、ミシシッピ、フロリダ、アラバマ、ジョージア、ルイジアナ、テキサスのという7つの分離派のSlave States(奴隷州)によって形成されて、経済は綿花を中心とした農業と黒人奴隷の労働力によるプランテーション制度に大きく依存していた。1861年11月の大統領選挙で共和党候補者Abraham Lincolnが、西部地域への奴隷制度の拡大に反対の立場をとっていたため、奴隷制度の存続が危ぶまれていたことを確信したCSAは、連邦への反発から離脱を宣言した

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Lincolnが1961年3月に大統領に就任する前の2月に、アメリカ合衆国政府から違法とされていた連合国新政府が発足し、初代大統領にJefferson Finis Davisが就任した。4月に南北戦争が始まると、アッパーサウスの4つのSlave States(奴隷州:バージニア、アーカンソー、テネシー、ノースカロライナ)も脱退してCSAに加盟した。後にCSAはミズーリ州とケンタッキー州を南軍の一員として受け入れたが、いずれも公式に離脱を宣言したわけでもなく、連合国軍の支配下にあったわけでもなかった。

南北戦争がもたらしたもの

1861年4月から始まった南北戦争は、1865年5月に北軍の勝利で終わった。アメリカ合衆国の歴史の中で唯一の内戦で、死者数は諸説あるが約62万人と、アメリカが経験したすべての戦争の犠牲者を合わせた数よりも多い。兵器の技術は進歩していたが、社会制度はあまりにも未熟で、死体は放置されて埋葬できず、腐乱した死体はチフス菌などの伝染病を発生させ、実際の戦場以外にも広がっていった。

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南北戦争の原因

原因は、端的に言うと、北部と南部の経済基盤となる産業の差異と、それにともなう「黒人奴隷解放」の問題である。北部諸州は近代工業化を進め、保護貿易による国内産業を優先して、労働力を欲しており、黒人奴隷解放が自分達の利益になると考えていた。一方の南部諸州は黒人奴隷の労働力に支えられた大規模綿花栽培のプランテーションによって綿花をイギリスに輸出しており、自由貿易を望んでおり、黒人奴隷解放は経済基盤を揺るがすことにつながり、許容できるものではなかった。

南北戦争のその後(以下は複数のWikiからの抜粋)
1865年戦争終了後、南部連合国の各州は、奴隷制を禁止するアメリカ合衆国憲法修正第13条を批准した後、復興期に北部連邦に再加盟した。CSA崩壊後の南部ではUSA政府による「Reconstruction(再建)」が開始されたが、一旦合衆国を脱退した南部諸州の復帰と数百万人の解放奴隷の処遇をめぐって紛糾した。Andrew Johnson大統領は南部宥和政策を採り、特赦により南部の地域指導者のほとんどが公職復帰した。しかしその後、南部各州で黒人の取締法が制定されたり、黒人や奴隷解放論者に対する暴力が横行したため、共和党が多数を占めるUSAの連邦議会で1867年軍事再建法が制定され、南部は軍政下に置かれ、旧指導者は再度公職追放された。合衆国軍の支配下で南部の再建州政府は経済基盤の再建、産業再生、黒人の政界進出などを図ったが、黒人への土地分配は思うように進まなかった。南部白人はKu Klux Klan(クー・クラックス・クラン)など秘密結社を作り、武装抵抗や黒人への暴力を継続した。

やがて北部も南部の人種的平等や再建への関心を失い、南部では民主党が相次いで政権を奪取した。1877年に再建半ばで合衆国軍が北部へ撤退したあとは白人が巻き返しを行い、民主党に白人が結集して「Solid South(堅固な南部)」と称される民主党支配を築き上げ、南部各州の黒人は再び政治的・社会的権利を失い「どん底時代」と呼ばれる抑圧の時期が訪れた。公職に復帰した白人達は、Jim Crow laws(ジム・クロウ法)など、「分離すれども平等」と称する、差別を合法化する法律を多く制定し、結局南部の黒人が本当の意味で「解放」されるのは1960年代になってからである。1950年代に始まった公民権運動が、1964年に「The Civil Rights Act of 1964(公民権法)」制定という大きな実を結び、この法律によって(少なくとも公的には)黒人に対する差別は終焉を告げた。

CSA(南部連合)政府のイデオロギーに明解に表現されている白人優位主義

あえて、南北戦争のその後を長々と書いた理由は、今、アメリカで起きている人種差別への強い抗議運動は、これらのアメリカの歴史を振り返らないと、リアリティとして感じられないと思い、あえてここで列記した。また、それを踏まえた上で、以下の1861年のCSAの副大統領のAlexander Hamilton Stephensの「The Cornerstone Speech」と呼ばれるスピーチを読むと、何故、今George Floyd事件がトリガーとなって、全米で人種差別への抗議運動がおこり、長年見て見ぬふりをされてきた「南部連合の象徴」を取り除く行動が、各所で起きているのかが理解できる。彼は以下のように、白人優位主義に基づいたイデオロギーを宣言した。

"Its foundations are laid, its cornerstone rests upon the great truth, that the negro is not equal to the white man; that slavery—subordination to the superior race—is his natural and normal condition. This, our new government, is the first, in the history of the world, based upon this great physical, philosophical, and moral truth." 「黒人は白人と平等ではないという偉大な真理に基づいており、奴隷制、つまり優越的な人種に従属することが、自然で正常な状態である。我々の新政府は、世界史上初めて、この偉大なるフィジカル、フィロソフィカル、そしてモラルのおける真理を元にした政府である」

私は、このイデオロギーを見て、時代が違うとはいえ、こういう考え方で、アメリカ合衆国連邦から離脱して、CSAが独立国家を作ったというコトに、改めて驚愕した。またここでは、黒人奴隷を念頭において、白人優位主義を誇示しているが、彼らのアタマにあるのは、当然自分達白人以外の有色人種全てを想定している。1869年に開通した初の大陸横断鉄道建設では、中国人の移民が奴隷のように使役されたコトを考えれば、アジア系移民の私の首筋もうすら寒くなる。

人種問題は合法化されたゲイマリッジのように、解決の方向性が見えるのか?

Duke Universityの公共政策の大学教授で、社会科学研究所の所長を務めるDon Taylorは、以下のように「Confederate symbols(南部連合の象徴)の問題はGay marriage(同性愛者の結婚)の問題に似ている」を発言している

“It feels to me, with Confederate symbols, a bit like the gay marriage debate, where it seemed impossible, impossible, impossible, and then all of a sudden there was a huge shift in public opinion on it” 「南部連合の象徴の問題は、ゲイマリッジの問題とやや似ている気がする。(変えることは)全く不可能と常に思われてきたものだったが、突然一般市民の意見が大きくシフトしたという点が共通している」

確かにゲイマリッジに関しては、長い間宗教上の教えやコンサーバティブな考えを持つ人達から根強い抵抗があったが、パブリックの声は年々大きくなり、結果2015年6月26日、合衆国最高裁判所は「法の下の平等」を定めた「アメリカ合衆国憲法修正第14条」を根拠に、すべての州での同性婚を認める判決をだした。これにより、同性婚を禁止する州法は違憲であるという判断を下し、同性婚が合法化された。

但し、同性婚の問題とはとても比較にならないほど、黒人への差別には、長い歴史の中で多くの血が流れており、それが今も続いているという現実がある。

George Floyd事件が起きてから、既に3週間経つが、その間全米での抗議運動は収まらず、またGeorge Floydと同様に、犯罪が確定されていない黒人が、警官に殺されるという事件も起きている。6月12日、アトランタの警察は、ハンバーガーチェーンのWendy'sのドライブスルーで、運転手が居眠りをしているという通報を受けて、駆け付けた。警官は、 27歳のRayshard Brooksをアルコール検査をしようとして、彼と揉みあいとなり逮捕しようとしたが、彼の抵抗にあって結果発砲して、Brooksは死亡した。アトランタ市長は、これは正当な武力行使とは言えないとして、アトランタ市警の署長の辞任を発表した。

Tipping  point(臨界点)を迎えつつある人種差別問題

私がここで書きたかったことは、1865年に南北戦争が終結して、155年が経った今でも、アメリカはこの人種差別問題で、のたうちまわっているという現実。1964年公民権法が制定されて、法的には誰もが法の下で平等であるはずが、アメリカ社会の人種における不平等は是正されず、そのままま放置されて、富の格差拡大と共に、貧困と差別が、黒人層を押しつぶしているという現実。今回のコロナ禍の中で起きたGeorge Floyd事件は、それを炙りだし、黒人白人などの人種を問わず、市民の誰もが、そのアメリカ社会の酷さを視覚化してしまったこと。これらは、私が冒頭にあげた南部連合の象徴の撤去にもつながっていく。警官の黒人に対する行動には、明らかな人種差別が存在し、その根っこには、奴隷制度まで戻って、社会に根を張っている白人優位主義に突き当たる。

歴史は勝者によって書かれるというが、その歴史もその時々の勝者が、すり替え、書き換えようとする。21世紀に入ってすでに20年が経つ今、勝者のみに歴史をいじらせるという時代は終わりを告げ、誰もが情報にアクセスし、情報の検証を行えるツールが存在し、それを広めるプラットフォームもある。今アメリカが抱えるこの「Systemic racism(アメリカの社会、経済、政治的プラクティスに、制度的に大きく組み込まれた人種差別)」という負の遺産を、個々人がそのプラクティスから引きずり出し検証して、より良い方向で解決しようという意欲が生まれてきているような気がする。特にMillennials やGeneration Zといった米国人口の半分を占める若い層を見ていると、人種差別問題は、或る種のTipping point(臨界点)に差し掛かっているような気がする。

今回の市民の抗議行動と人種差別への再認識や再考といった動きが、全ての問題を一気に解決するとは思えない。だが、問題を視覚化した市民の多くがこれを真剣に考えているということは、評価すべきだと思う。どんなに困難な高い山でも、その山を越えて、向こう側に行くためには、一歩一歩上るしか方法はない。例え、155年或いは200年経とうが、問題が改善される方向で動くのであるならば、その時間は無駄ではないと、私は思う。

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アメリカの現実③「米国に起きた警察の軍事化とは?」

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「なぜ米国の警官は軍隊のように武装しているのか?」

日本に住んでいる人は、米国のGeorge Floyd事件によって広がった全米規模で拡大する市民の抗議行動と、それに対峙する警官との異様な構図に首を傾げる人も多いと思う。警官の武装の物々しさと、軍事行動とも思えるほどの態度、さらに平和的な抗議行動をとる市民達への催涙ガスやゴム弾による威嚇など、通常の日本の警察の常識から考えたら、あり得ないほどの過激さである。20代とおぼしき若い女性は突き飛ばされて、道路の溝にぶつけられて骨折し、75歳のシニア男性も突き飛ばされて、頭部を打って昏倒したまま置き去りにされるなど、ヴィデオを通じて描写される米国の警官達の無表情で攻撃的な行動は、理解しがたいものがある。

軍隊から警察にトランスファーされた大量の武器

1033プログラム」の下で、1990年から2017年の間、およそ60億ドルの金額に上るアイテムが、United States Department of Defense (アメリカ国防総省)から警察にトランスファーされた。「1099プログラム」とは、1990年に開始された国防総省の余剰武器処分計画プログラム。連邦政府の余分な武器を州政府および地方自治体を通して、地元警察に配送することを認可したもの。これには「controlled items (例:ドローンやヘリコプターなど)」と、「uncontrolled items (例:家具やツールなど)」といった、ラップトップから自動小銃まですべてのアイテムが含まれる。2018年のRANDの分析によれば、2015年から2017年の会計年度では、トランスファーされたものは、uncontrolled itemsは12億ドル、controlled itemsは7億7500万ドルの価値に充当する。

以下は、RANDによる2018年の国防総省から警察にトランスファーされたアイテムを実際に購入した場合の内訳であるが、総額は18億ドル8900万ドル以上となる。内訳は以下の表にあるように、MRAP(耐地雷・伏撃防護車両 )849台(約5億8300万ドル)、エアクラフト458台(約4億3300万ドル)、輸送トラック5608台(約2億8500万ドル)、5.56mmライフル6万4689丁(約2800万ドル)といった莫大の数および金額の元軍隊の使っていた武器が警察に渡った。

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「1033プログラム」とは?

1033プログラムは、1990年当時は主に麻薬犯罪に対抗する警察官を援助する為開始されたプログラムであったが、2001年9月11日のテロ攻撃後、連邦政府の反テロ対策の一環として警察を軍隊化するために、大幅に拡大された。

2014年ミズーリ州のFergusonで白人警官による18歳のMichael Brownの射殺事件が起きた、大規模な抗議デモが発生し、その鎮圧のために重装備の警察が出動し、市民から多くの非難が起こり、これを受けた当時のObama大統領は、1033プログラムの1部を改正した。しかし、2017年大統領に就任したTrump現大統領がプログラムを再開した。

勿論今回のGeorge Floyd事件への抗議運動に対して、警察は1033によって軍隊から提供された武器を市民への威嚇に多く使っている訳ではない。ただ、Trump大統領の「地方自治体の警察に対して、治安維持のためならば、警察の軍事的行動も必要」というメッセージを裏付けるように、警察は市民に対して、MRAP、閃光手榴弾、催涙ガス、ゴム弾、防弾チョッキ、ヘルメットなどを使って、威嚇しているのは事実である。

警察の黒人コミュニティへの日常的な締め付けを、今回は全てのアメリカ人が目撃してしまった

警察の軍事的な威嚇は、日常的に黒人コミュニティで行われている。例えば黒人に対して令状を執行して家宅捜査をする際、ただ単に逮捕するのではなく、Mallet(破城槌)や装甲車、暗視ゴーグルなどを使って強制捜査を行い、犯罪に使われた可能性がある金銭や物品を押収する。多くの警察では、押収された金品を売って警察の予算として使うことが許されている。そのため、武装化は警察の予算確保にとってなくてはならないものになっているという分析もある。

George Floyd事件によって、黒人以外のコミュニティはこうした警察による軍事的威嚇行動を、自分事として可視化してしまった。これは、貧困層や黒人コミュニティのみに起こるものではなく、自分達もいつこうした警察の攻撃を受けるかもしれないという恐怖と不安を創出した。

警察官の恐怖を取り除くための武装化が、警官を市民の敵にしてしまった

警察の軍事化の背景にあるのは「警察官の安全のため」という考えだが、種々の調査で、銃乱射などの限られた状況をのぞき、軍装備は必要ではないという結果が出ている。また州のSWAT(警察特殊部隊)に関しても、多くは警察がSWATを主にマイノリティのコミュニティに対して使っていることと、SWATが暴力犯罪率や警察への暴行、警察官の死を減らすという証拠は発見されていない。むしろ、SWAT使用は住民の警察への資金援助や支持を減らし、人々がコミュニティの中で感じる危険の量を増加させているというコトも言われている。

実際、重装備は警官を安心させるが、そういった鎧で固めた姿で、平和的な市民に対峙した時に、どこまで警官は市民に落ち着いて話せるか? また市民は彼らの姿を見た時に、自分達を守るのが警官であるというコンセプトを見出せるか? 答えはどちらに対しても「No」である。

マインドセットを変える難しさ

人間はユニフォーム(制服)を着ると、なぜかそのチームと一体化して、個人として考えや行動が金縛りにかかったように出来なくなる。ユニフォームにはそのような効果があり、施政者はユニフォームによって、個人の考えを抹殺しようとする。警察の軍事化は、ユニフォームではなく、軍隊が使うような軍備を装備して、警官に戦争において外国勢力と戦う軍人的な行動を強いて、市民達に対峙するように示唆する要因になりうる。

1に1人の警官は、様々な問題を多角的に考えることができる個人だと思う(思いたい)。ただし、一旦ユニフォームを着て、重装備をした軍人のような姿になった途端、マインドセットは変化する。また、もう1つ考えなければならないコトは、彼らの意識、あるいは無意識下の潜む「人種差別、即ち自分とは異なる人達への嫌悪と恐れ」である。彼らは、麻薬犯罪撲滅と言いながら、自分達が簡単に抑え込める黒人コミュニティに出かけて行って、点数を稼ぎたいという気持ちも存在する。それでも、今は21世紀である。そういったマインドセットから脱却したいと思う警官も多く居ると、私は信じる。

私はアメリカがTipping point(臨界点)に達したという風に思いたい、例えそうでなくても

長年蓄積された気持ちというのは、一朝一夕には変えられない。但し、そうした蓄積もある種の「Tipping point(臨界点)」に達すると、いきなり人間の気持ちや行動は変わっていく。George Floyd事件に対する抗議運動は、アメリカ人に「人種差別」という、400年間の米国の負の遺産の連鎖を断ち切るための、ある種の臨界点に達したことの証であると思いたい。例え、まだ達してなくても、そこに向かう必要があると実感レベルで感じた人は少なくないと思う。

11月の大統領選挙はアメリカ人とってのFundamental choiceである。

「Is it Trump or America?」

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書籍『ひさみをめぐる冒険』から「海からの漂流者」2002年6月5日のコラム

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これは18年前に書いた私のコラム「Sailing-海からの漂流者」。このコラムは、2003年発行の私の初の書籍『ひさみをめぐる冒険―サンフランシスコで暮らす楽しみ "It's an Adventure - Hisami Lives America" 』に掲載されたもの。興味のある方は読んでみてください。

海からの漂流者

昨日(2002年6月4日)遅く10日間のメキシコのSea of Cortez (Gulf of California)のセーリングのバケーションから戻りました。La Pazで過ごした10日間はまったく別の惑星にいたような気分で、まだコンピュータの画面を見ていると揺れてきます。

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サンフランシスコ空港(SFO)に着いた時は、ベイエリアの人と車の多さに呆然として、海からの漂流者のように、ポカーンとしていました。

海水で食器や身体を洗い、40度Cの暑さと砂漠の乾燥、また夜になるとボートを吹き飛ばすように激しく吹き始めるCoromuel(南西の風)のために、デッキの上で毎晩必ず誰かが寝ずの番をしながら見守る海上生活。マングローブのラグーンで蜂に襲われ(幸運なことに蜂とは正面衝突しましたが、刺されなかったので顔にちょっと傷ができただけですみました)、鯨やイルカがボートのすぐ横でジャンプしたり、ダイブしたりするのを見ながら一緒になって嬌声をあげ、アザラシのコロニーのすごい鳴き声に耳を塞ぎながら、大いに野生の海生動物たちを楽しみました。またカイヤックやシュノーケリングで無人の島々のビーチやリーフを垣間見て、自然の中で生活する喜びを堪能し、今も海に沈む夕陽の美しさが目に焼き付いています。

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Simple is Best(シンプルが最高)

できり限り人工的なリソースを使用せず、あるものだけで生活する術も習い、今回のバケーションは私にとってまたひとつの発見の旅であったような気がします。Sea of Cortezに浮かぶ水のない小さな島に住む10人に満たない漁村や、半島内部の異常に乾いた土地にオアシスのように存在する小さな町など、普段考えもしない生活を目の当たりにして、今自分の生活を振り返っています。

Simple is Best(シンプルが最高)、つくづくこんな言葉が全てを物語っていて、自然の豊かさと雄大さに感謝と畏敬の念でいっぱい、そんな感じです。帰宅後にたまっていた550通のEmailを見て、普段自分がいかにスポイルされているかが、本当に実感できました。

チャーターボートによる10日間のセーリング

今回のバケーションは、夫が所属するヨットクラブのClub Nautiqueが主催するツアーでした。今年の初めに募集告知が出され、最終的に夫と私を含む3組のカップル(6人)が応募して、クラブのインストラクターのエリザベスがスキッパー(キャプテン)としてグループを引率することが決まりました。その後出発の1ヵ月前から、メンバーの顔合わせとバケーション中のセーリングのコースやアクティビティ検討のための会合が開かれ、また事前にお互いの親交を深めるためにディナーも開催されました。確かに全く知らない人間同士が、7日間ボートの上で食料や水を持ち込んで共同生活するのですから、事前の準備は周到にされるべきです。

ただ漠然とバケーションを考えていた私は、食事や飲み物の種類や量の事前予約、衣類や安全装備、所持品の確認など、さまざまな準備に費やす時間とエネルギーに驚き、さらに今回の旅行は自然の中で暮らすサバイバル生活に似た危険を伴うものであることも改めて認識しました。

特にSean of Cortezの島々は、自然保護の下に環境破壊につながる人工物の持ち込みは一切禁止されています。そのため食器や身体を洗う洗剤はすべてオーガニック、プラスティック類はすべて持ち帰るという規則なので、ボートの中ではいかにごみを出さないか、さらにいかに持ち帰りのごみを収容するかが大きなポイントとなりました。

セーリング三昧の引退したシリコンバレーのミリオネア

参加した3組のカップルは、各々個性的なキャリアと経験をもつセーリング好きの人たちです。その中のひとり50代後半のグレッグは、ポーランド生まれでスウェーデンからアメリカに移住し、初期の頃のシリコンバレーでコンピュータチップのビジネスで成功を収めたミリオネアです。

彼はビジネスの世界からリタイアして、生活をどんどんセーリングにシフトしている最中です。グレッグのボートは、ヨットと呼ぶのにふさわしい100万ドル以上の価値のあるフランス製の美しいJeanneau 52です(通常アメリカでは日本で「ヨット」と呼ぶ船を「ボート」と呼んで、非常に高価な船を「ヨット」と呼びます)。彼はベイエリアとスウェーデンにヨットを持っており、平均的なベイエリアのSailor(船乗り:日本では「ヨットマン」と言う言葉は、アメリカで使いません)とは違うレベルで、セーリングを楽しんでいます。すでにメキシコにセーリングのチャータービジネスのための土地を購入しており、後半生は全てをセーリングにつぎ込む予定です。また彼はこれから家族と一緒にSFから南太平洋へ半年間の航海に出かける予定で、その準備を楽しそうに語っていました。

夫をすっかり気に入ったグレッグは、飛行機代も食事代もすべて出すからぜひCook Islandsへひさみと一緒に飛んできてほしい、一緒にトンガやタヒチを回ろうと、真剣に夫を誘っていました。夫は、3ヵ月間の南太平洋無料セーリングの申し入れに気持ちがフラフラとなったらしく、考えてみると答えたそうです。

家族のようになったバケーション仲間

また元Navy(海軍)でベトナム戦争の経験のある50代半ばの弁護士ボブは、今後は歴史の先生になるためにPh.D(博士号)をとろうとスタンフォード大学で勉強している最中です。彼の妻のジーンは、ドットコムサバイバーとも呼べるスタートアップ企業の副社長で、異常に忙しくストレスのたまる仕事しながら、セーリングの時だけは全てを忘れて自然を楽しむ料理好きな女性です。

Sea of Cortezでは夕陽が沈んだ後は、いつもこういうStory Teller(物語を語る人)たちが、順番に世界中で経験してきたさまざまな出来事を話し始め、食事とワインがどんどん進んで興味深いストーリーに満ち溢れたディナータイムでした。セーリングが好きという共通点だけをもつ他人同士の7人が、狭いボートで7日間暮らすことに、最初はちょっと遠慮や気づかいがありましたが、2日3日と過ぎていくうちに段々みんなの気持ちが家族のようになってきて、彼らが今ここにいないのが不思議な気分です。

40年ぶりに太平洋を渡ってきた本物の船乗り

このバケーションの1ヵ月後の7月17日、本物の船乗りの63歳の堀江謙一さんが日本からゴールデンゲイトをくぐって40年ぶりに太平洋を単独航海してきました。地元紙では「Better with age」と題し、23歳だった堀江さんが40年前に太平洋を一人ぼっちの航海でSFに来た時と同様に、温かいもてなしの記事が掲載されていました。

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最初の航海当時、堀江さんは英語もしゃべれずビザも持たずにきて、政府移民局と入国で大いにもめました。それを当時のSF市長Gorge Christopherが、堀江さんの単独航海の勇気を称えて30日のビザを発給し、名誉市民として大いに歓迎したというストーリーも紹介されています。今回の航海は年齢とともにすばらしくなる堀江さんと題して、さらにその勇気を賞賛しています。

SFと堀江謙一さんの再会

彼の最初の「マーメイド2世号」は今でもSFの海軍博物館に保存されています。7年前にアメリカに移住してきた私は、最初に堀江さんのボートの小ささに驚き、またその小さなボートで5270マイルの太平洋を94日間ひとりで航海してきた堀江さんの勇気を、日本人として大いに誇りに思ったことを記憶しています。

彼も40年前のSFで受けた温かい歓迎ともてなしが、今でも心に残るといってSFとの関係を強調しています。今回も外洋からゴールデンゲイトをくぐるのが難しく潮流に押されるようにくぐりぬけましたが、40年前にやはり同じようにゴールデンゲイトの外で漂流していた堀江青年を発見して助けたBill Fisherが、彼を迎えるために船でゲイトに向かい、お互いに再会を喜んだようです。

未来を感じさせる堀江さんの新しいマーメイド3世号

今回のボートはサントリーの後援らしく名前は「モルツ・マーメイド3世号」。全てリサイクル素材で作られており、アルミやソーダ缶、ウィスキーの樽で使用されたオーク材などサントリーらしい素材を用い、通常ボートで使用されるディーゼルなどの化石燃料の代わりにRenewable(再生可能)な燃料電池を使用、またサテライトを使ったGPSなどのハイテクノロジー装備による航海でした。

こうした新しいコンセプトでの航海自体が、堀江さんの未来志向とチャレンジ精神を大いに表しており、私も今後の環境を考えたセーリングライフにおいて、燃料電池によるエンジンをぜひ使用してみたいと思っています。

63歳は引退には若すぎる年

堀江さんのコメントで、「今回が最後の航海ではない。63歳は引退するには若すぎる」という言葉がクローズアップされており、私を含めてベイエリアの人たちは、彼のその言葉と態度に非常に共感してインスパイアされました。

日米間で感じることは、こうした民間の人たちの交流の重要性です。日本の歴代の首相や外務大臣がベイエリアに来た時でも、こんな大きな新聞記事の扱いはありません。人の心を感動させる生き方そのものが、日米間の垣根をらくらくと超えるのだなと実感しています。堀江さんに勇気付けられた船乗りのはしくれとしては、その堀江さんをサポートするサントリーに敬意を表して、今日の気分は「堀江さんに乾杯」という感じです。

追記:その後の仲間のコトをここに記します。書籍の中の全ての名前はプライバシーを考慮して仮名で書きました。

1)南太平洋のセーリングの準備をしていたグレッグは、準備の最中に眼球に癌細胞があることが分かり、セーリングを断念して治療に専念したが、その後しばらく経ってから亡くなってしまった。私達夫婦は彼の52フィートのJeanneauに、彼の家族と一緒に乗り込み、よくSFでセーリングした。私の亡くなった母を初めてSFのベイでセーリングを連れ出した時、グレッグの52フィートのヨットでセーリングをしており、2012年我々は37フィートのフランス製のセールボートBeneteau を買ったが、母に「随分小さい船だね」と言われたことを思い出す。グレッグのコトを思い出すと涙が出る。

2) ドットコムサバイバーのジーンは、このSean of Cortezの航海の後、2005年私達夫婦が15日間かけて、SFからハワイのマウイ島まで太平洋を半分航海したボートを、ハワイからSFまでをクルーとして運ぶという帰りのセーリングをしている縁があった。さらに驚いたことは、昨年私達夫婦がSt Georgeに家を購入したが、このジーンとその夫のボブが同じコミュニティに3年前から住んでいるという奇遇も起きた。

3)堀江謙一さんのその後の冒険は継続しており、彼はヨットで世界を3周、太平洋を8回横断。1962年、23歳の堀江さんは94日間かけて世界初の太平洋無寄港単独横断。その後ソーラーパワー(太陽電池)のボートで、足漕ぎボートで、アルミ缶リサイクルのボートで、生ビールの樽を利用したヨットなどで、冒険の歴史を紡いでいる。2008年には、波の力だけを動力とするウェイブパワーボート(波浪推進船)「サントリー マーメイドⅡ」号でハワイ~紀伊水道の航海を成功させた。風力、人力、波力、太陽光という四つの自然の力それぞれを推進力としたヨットやボートで数々の冒険航海を制覇したのは、世界で堀江さんただ1人。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉖「アメリカの富をLooting(略奪)しているのは誰か?」

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5/31に元大統領候補の民主党上院議員のBernie Sandersが、以下のTweetを発した。

"The richest 400 Americans sit on $3 trillion – the size of the entire UK economy," "The billionaire class now pays a lower tax rate than people living paycheck to paycheck. The looting of America has been going on for over 40 years – and the culprits are the ultra-rich."(400人の米国の最も富裕な人々は、英国経済に匹敵する3兆ドルの資産の上で暮らしてる。彼らビリオネラー達は、給料から給料の綱渡りで暮らす人々より、低い税率で納税している。過去40年以上アメリカを略奪している犯人は、彼らウルトラリッチの人達だ)

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もちろんGorge Floyd事件によって発生した、貧しい或いは衝動的に略奪を犯した人々の行為を念頭において、敢えてBernieらしい富裕層との対比を使ったキツイTweetである。社会正義を求めて平和的な抗議運動をしている人達にとって、こうした略奪や暴動(扇動者によってしばしば起きる)は、反対勢力に利用される汚点だが、Bernieは、じゃあ富裕層による富の略奪はどうなんだ?と問題を突き付けている。

パンデミックの中、たった2か月間で世界の25人のビリオネラー達は2,550億ドルも資産を増やした

「ウルトラリッチは、パンデミックであろうがなかろうが、いつでもよりリッチになる」、こんな公式が当てはまるのが、Forbesによる世界のトップ25人の富裕層のリストである。この25人の株式資産は合計1.5兆ドルで世界の富の約6%を占める。彼らはパンデミックで株価が急落した3/23から、2か月間で株式資産を2250億ドルも増やした。火事場泥棒とは言わないが、失業や休業、外出制限、感染拡大など、一般の人達がまさにコロナで最も打撃を受けている最中に、ウルトラリッチたちは焼け太りをするというアイロニーが見える。

この25人のリストの中で最も多く資産を増やしたのは、FacebookのCEOのMark Zuckerbergで、過去2か月間でFacebookの株価は60%以上上がり、5/22現在で彼の資産は865億ドルとなり、4月のForbes’ 2020 list of the World’s Billionairesで世界で7番目の金持ちだったMZは、今は4番目に跳ね上がった。36歳のMZは、Warren BuffettやOracleのLarry Ellisonよりも金持ちである。

2番目に資産を増やしたのは、AmazonのCEOのJeff Bezos(世界で一番の金持ち)で、3/23以来株価は29%増、彼の個人資産は26%増(300億ドル)で、5/22現在個人資産は1,469億ドルに膨れ上がった。

テクノロジー企業のみならず、小売りの巨人であるWalmartも、政府がコロナ禍の消費者をサポートするために提供した景気刺激のためのお金が家庭に届くと、株価は最高値となり、Q1のリベニューは、オンラインセールスは74%増、トータルでも10%増の1346億ドルとなった。 Jim, Alice and Robert Waltonという創業者一族の3人の株式資産は合計1,650億ドルになる。

コロナ禍がヒットした3/23以来過去2か月間、米国の失業手当申請者は3,900万人に上ったが、25人のウルトラリッチのうち、1人も株式資産を減らした人はいない。

Bernieや他の多く人達が指摘する「大企業のアメリカの富のLooting(略奪)」をもっと真剣に考えるべき

人々が自宅待機中、Facebook(+Instagram )で友人知人と多くの時間を費やし、AmazonやWalmartでオンラインショッピングをしてる間、大企業はますます大企業化(独占化)し、ウルトラリッチはもっとリッチになる。これは資本主義社会に生きる以上、常に起こりうることだが、やはりここで、誰もが制度疲労を起こしている米国社会の仕組みそのものを、再考すべき時が来ているように思う。

特にGAFAM(Google, Apple, Facebook, Amazon and Microsoft)に代表されるテクノロジー企業は、現在我々の生活に大きな影響を及ぼしており、彼らのサービスがないと生活が立ち行かない状況に陥る。彼らはまた、政治的にも大きな影響力を持っており、Googleは過去10年間で5億ドルをロビー活動に費やしており、彼らはあたかも議会で議席を確保しているかのように、政策に対して大きな影響力を持つ。

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彼らはその影響力を、法律の改正や構造改革のために使うかどうかは、大きな疑問であるが、富の格差是正は、彼らのビジネスの顧客の生活を安定させるために非常に重要な意味を持つ。富を循環させない限り、社会は動脈硬化を起こし、Sustainableな成長は望めない。

今はすでに21世紀に入って20年も経っている。いつまでも20世紀的な自分だけが勝てばいいという考えから抜け出す時だと思う。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉔「危機の際の企業のメッセージは金太郎飴状態」

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一昨日のMembers主催のセミナーは、「Purpose-driven companies」をキーワードに、コロナ禍におけるマーケティングの話をしたが、参加者が150名ぐらいまで膨れ上がり、半分ぐらいは「ひさみファン」でしょうと担当者に言われた。何はともあれ、多くの方に視聴していただいたのは、非常に有難い。どうもありがとうございました。。普段日本語を喋る機会が殆どなく、尚且つお喋りな私が話し始めると、予想通り1時間では収まり切れず、セミナー後のフィードバックも質疑応答のためにもっと時間を増やして欲しいという声をいただいた。今後のオンライン或いはオフラインも、セミナーは1時間半か2時間ぐらいはとって、ゆったりと話せるようにしたい。

危機の際に、なぜ企業はGenericなマーケティングメッセージしか発しないのか?

セミナーの中で、広告代理店の方が「企業メッセージとして、マーケティングギミックではなく、Purpose(信念・目的)が重要なことは分かるが、自分達、広告代理店は何をすべきなのか?」という質問があった。答えの全てをここに書くことは避けるが、国を挙げての危機的な状況下(例えば9.11のテロ攻撃、戦争勃発、マス銃撃事件、自然災害など)に陥ると、企業メッセージは、一様に金太郎飴を切ったように、非常に無難で当たり障りのないGenericなメッセージになる。

以下は、それを皮肉ったヴィデオで、冒頭は悲しみを感じさせるピアノの音楽が流れ出して、センチメンタルな言葉をちりばめて制作されており、ロゴを変えたら、どの企業の広告かさっぱりわからないほど、Genericな(金太郎飴的な)のコーマシャルとなっている。

“uncertain times”
“we‘re here for you”
“people” and “families”
“comfort and safety of your home”
"we're all in this together!"

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When a company or brand releases a Coronavirus Response ad, they might tell you that we're living in "uncertain times", but that "we're here for you". They may say their top priority is "people" and "families" by bringing their services to the "comfort and safety of your home". And don't forget: "we're all in this together!"

誰もが思いつく、当たり障りのない、センチメンタルなメッセージではなく、企業のPurposeを行動で可視化させてほしい

徐々にビジネス再開が始まっているとはいえ、失業&休業、感染への恐れ、制限のある不自由な生活、さらに、George Floyd事件による全米に広がった抗議運動と暴動という、様々な不安の中で、人々は生活をしている。そんな状況下で、各社がオンエアするコマーシャルは、ロゴを変えたら見分けがつかないぐらいに全てが同じ。あたかもロイヤリティフリーの無償のヴィデオ素材で同じ広告代理店が作ったかのようである。現時点で、企業として、他に言いようがないにしても、あまりにも意味のないメッセージが自宅にいる私達の目に触れる。

消費者は、こんなセンチメンタルなメッセージに広告費を投下するならば、実際に今直ぐ最も困っている人達をサポートする行動を示して欲しい、言うだけでなく、企業のPurposeを行動で示して、可視化させてほしいと思う。

Kotlerは2013年に「5Ps(Product, Price, Place, Promotion and Purpose)」を提唱している

Philip Kotlerが、すでに2013年に5番目のP(Purpose)を加えて「5Ps(Product, Price, Place, Promotion and Purpose)」を提唱しているように、今マーケティングで重要視すべきはPurposeである。彼は “Purpose should be a form of core business(信念&目的はコアのビジネスを形作るものでなければならない)”として、Purposeと同様に、企業の資産として重要なものとして「corporate culture」を挙げている。

なぜ5番目のP(Purpose)が必要なのか? Kotlerは調査した結果、社員が働きがいのあると考える企業のマーケティングコストは、同業他社よりもはるかに低く、顧客満足度と顧客維持率ははるかに高いという結果を得ている。企業が顧客、社員、サプライヤーに関心を示していれば、誰もが幸せになり、したがって、ビジネスの全体的な収益力が向上する、と彼は言う。

エージェンシーはいやでも応でも戦略的なマーケティング領域に踏み込まなければならない

冒頭の広告代理店の方の質問への答えは、エージェンシーは、クライアントに対して、戦術的な領域からより戦略的なマーケティング領域に踏み込む必要があるというコト。Purposeに関しては、「すでに企業が持っているPurposeが、その企業のコアのビジネスを形成するものとなっているか? 企業はそれを単なる理念あるいはお題目のように取り扱っていないか? CEOから前線の社員までがそれを共感し実施したいと思っているか?」など、プロフェッショナルで尚且つ消費者目線を持つ、ニュートラルな立場でPurposeを研磨できる立場にある。

消費者心理を考えると、現在のように混沌とした社会状況下では、戦術的なマーケティング費用は無駄であり、一般論にしか思えない企業メッセージの露出は、意味がない。Sustainableになり得ないマーケティング活動は避けたほうがいい。

消費者は、Social issueに対する企業の行動を期待し、見つめている

米国では、George Floyd事件以降、全米に広がる抗議運動に対して、企業がどう考えているか、どう行動するかを、じっと見つめている。5/31-6/1の直近の調査結果は、人々は、企業が問題に足を踏み入れるのを怖がって沈黙を守るのではなく、問題解決への声明と行動を期待している。企業に期待する行動のトップ4は、以下である。

•  略奪により被害を受けたスモールビジネスのための基金設立:49ポイント
• コミュニティのクリーンアップのための寄付:42ポイント
• 抗議者と警官をサポートするステートメント:21ポイント
• 社会の正義や不平等問題への寄付:20ポイント

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行動のみが可視化可能なので、今、重要なことは「有言実行」することだと思う。

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アメリカの現実①「"I can't breathe"米国の解決されない負の遺産」

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George Floyd事件が突き付けた米国の現実

5/28(たった4日前の事件)、ミネアポリスで白人警官がすでに手錠を掛けられている黒人男性George Floydの首を、膝で9分間押さえつけて、死亡させた。彼は何度も "I can't breathe, Sir (彼は死ぬ苦しみの中で警官に丁寧にSirという敬語をつけて訴えている)"と言って助けを求めながら、亡くなった(殺された)。彼を殺した警察官は、事件直後解雇された上で、第3級殺人などの罪で訴追されているが、事件を側で見ていて何もしなかった3人の警官に関しては、刑事罰の訴追は発せられていない。その後、この映像を見たアメリカ人の抗議運動と暴動は、全米に広がり、コロナ禍が今も進行中のアメリカは、またしても歴史的な負の遺産である「人種差別」といった、越えられない苦しみで、のたうちまわっている。

誰もが”Enough is enough"だと思っている

各地の暴動は既に多く報道されているから、敢えてここでは触れないけど、大都市以外でも、アメリカに住む以上、誰もがこの事件に強い反応を示している。私が住むSt Georgeは、人口は9万人でユタ州の中では7番目、全米では363番目の大きさのシティで、人種別の人口では白人が88.48%(7万2,727人)を占める。黒人人口は0.82%(670人)と、アジア系の0.89%(728人)と同様に少なく、1%にも満たない。そんなカントリーサイドの街でも、5/30には200人ぐらいの人達が集まり、“All Lives Matter”, “No Justice, No Peace” and “He Couldn’t Breathe,”といったプラカードを掲げて、平和的な抗議行動を実施した。全米で抗議運動が暴動化している訳ではなく、どんな小さな街でも、人々はこの事件を見て、"Enough is enough"という気持ちとなり、これを変えるために何かをすべきだと思っている。

平和的な抗議運動を暴動化にすべく扇動するグループ

また誰もが、この事件を利用して、平和的な抗議運動を、略奪・焼き討ちといった暴動化にすべく、扇動している人間やグループが、存在することを知っている。ミネソタの州知事のTim Walzは、白人至上主義者や麻薬カルテルなどの州外から来た扇動者が暴力をあおっていると非難したが、Trump政権は直ぐにこの問題の大半が「無政府主義の極左勢力である。彼らはAntifa(アンティファ)的な戦術を使っており、多くは州外から来て暴力を促している」と決めつけた。アンティファは、反ファシストだと主張する扇動者のゆるい集まりを指し、彼らは黒い服を着て頭を隠し、他の人に前線を任せ、遠くから警察への暴力を指示することが多い。

暴動化を導く扇動者達の解明は、ぜひ冷静に事実を洗い出し、誰もが視覚化できるヴィデオやその他の証拠を駆使して、解明してほしい。理由は、こうした人種差別に耐えかねた黒人たちが暴動を起こすと、政権は、黒人たちを暴動と略奪を行い、市民生活を脅かす人間としてカリカチュアして、"Law & Order"の強化を図るからである。既に大統領は、この事件を自分の政治的キャンペーンに利用して、暴動を煽る以下のようなTweetsを発している。

"A total lack of leadership. Either the very weak Radical Left Mayor, Jacob Frey, get his act together and bring the City under control, or I will send in the National Guard & get the job done right....."「リーダーシップの完全な欠落。非常に弱い極左のミネアポリスの市長Jacob Freyはすぐに行動して、シティの治安を取り戻せ。そうでないならば、自分が州軍を送って解決する。」

コロナ禍による感染と雇用悪化は、黒人層を直撃している

アメリカは、コロナの感染拡大による雇用の悪化で、4月の失業率は14.7%となり、5月は20%に達する可能性もある。4月の失業率も黒人は16.7%と白人より2.5ポイント高い。コロナ感染においても、黒人の死者数は白人の2.4倍にのぼるコロナ禍が黒人層を直撃している最中に、この事件が起きた。事件の抗議運動の暴動化の一端には、こうした貧困に喘ぐ黒人層の蓄積されたフラストレーションと怒りという心理的な要因も、引き金になっている。更に悲劇的ともいえるのは、暴動によって黒人経営を含むMom & popの小さな店舗も破壊され、ビジネス再開が断たれ、密集した抗議運動によって黒人層に、よりコロナ感染を拡大させる可能性もある。

アメリカで黒人として生きることの意味

CNNの黒人レポーターは、報道許可を取り、警察から指示された場所で生放送を行っていたにも関わらず、生放送の真っ最中に、彼とスタッフ達は警察に拘束されるというコトが起きた。以前Obama大統領は、自分は大統領であるが、例えそうであろうとなかろうと、自分が黒人である以上、言われなき取り扱いが起こる可能性があると発言していた。

ミネアポリスの市長Jacob Freyの以下の発言は、これを裏付けるものである。「黒人として生きることが、アメリカでは死刑宣告に等しいという事態であってはならない、白人警官は人間として根本的な過ちを犯した」

"Being Black in America should not be a death sentence. For five minutes, we watched a white officer press his knee into a Black man’s neck. Five minutes. This officer failed in the most basic, human sense."

人種差別による貧困は、社会を分断し、負の連鎖を継続させる

誰もが「何時になったらアメリカに人種差別がなくなるんだろう?」と考えていると思う。歴史的に見れば、1640年代から1865年のアメリカ合衆国憲法修正第13条が発する前まで、現在のアメリカ合衆国領域内ではアフリカ人とその子孫が合法的に奴隷化されていた。1860年のアメリカの国勢調査では、奴隷人口は400万人に達していたという。この制度がもたらした人種差別の傷跡は、155年経った今でも、アメリカを引き裂いている。

Trump政権を支持する35%が、全て人種差別主義者であるというつもりはさらさらない。ただ問題は、大統領その人の発言や行動が、酷い「人種差別」的な考えの元で、人々の分断化を促進させているのは事実である。これはまさに負の連鎖の継続を促すものである。

アメリカの貧困問題と人種差別は双子状態でついて回っている。今回のパンデミックによって、人の生き方や暮らし方が変わる可能性があるならば、このGeorge Floyd事件によって、負の遺産の「人種差別」に目を背けず、真剣に向き合い、人々のマインドセットを変えることも可能だと思う。AppleのCEOのTim Cookは、この事件に触れて、以下のように、社員に呼び掛けている

"With every breath we take, we must commit to being that change, and to creating a better, more just world for everyone."

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コロナ禍でのアメリカ生活㉒「ロックダウンはまた起こりえる。UBIのように社会の基盤を支えている人達をサポートする仕組みを考えるべきでは?」

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米国では4月に2,250万人が職を失った

米国の4月の失業率は第2次世界大戦後では史上最悪の14.7%となり、2,250万人が職を失った。州ごとに格差があり、失業率トップ3は、ネヴァダ州の28.2%、ミシガン州の22.7%、ハワイ州の22.3%。最も失業率が低い州はコネチカット州の7.9%で、それに続くのがミネソタ州の8.1%とネブラスカ州の8.3%である。驚くべきことは、ネヴァダの3月の失業率は7.9%で当時最も高い失業率であったという点で、ロックダウンによって、それが一気に20.3ポイントも増加するという異常さである。 以下の表は、3月と4月の各州ごとの失業率の推移であるが、一目瞭然で一気に失業率が急増した。

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雇用を重視する日本と違って、米国では企業の四半期ごとの収益如何で、真っ先に行われる経費削減は「人員解雇」である。皮肉なコトに、こうした解雇の対象となるのは、莫大な金額のサラリーをもらっている役員クラスではなく、低賃金の最前線で勤務する社員の場合が多い。現場の社員を1,000人解雇するより、役員を1人解雇したほうがよほど効率よく経費削減が可能なのに、犠牲になるのは常に簡単に削られる一般社員達である。更に皮肉なコトは、例え経営に失敗したトップ(CEOや他のCクラス)でも退職時には高額な「Golden parachute(退職する際に払われる割増退職金、ストックオプションなどで払われる場合が多い)」が用意されているので、彼ら自身は逆に焼け太り(ビジネスは傾くが、退職者は大金を手にする)をする場合もある。

在宅勤務可能な職種はまだまだ少なく70%以上はロックダウンの度に同様の境遇に陥る

米国では、制限付きでも在宅勤務可能な職業は、まだまだ非常に少ない。2016年の調査では米国の職場の僅か3.6%が「半分あるいはそれ以上の在宅勤務」を実施している。机上の上では、56%はリモートワークが可能であると推定されているが、現実にはそう簡単に許されていない。但し、今回のパンデミックでロックダウンとなり、米国では2021年末までに25-30%は、「1週間のうちに何回かは在宅勤務が可能」となると予測されている

仮にこの予測が実現したとしても、それでも70%以上は、在宅勤務可能なラグジュアリな仕事に就ける訳ではないので、次回またこうしたパンデミックが起きた場合は、今回同様に職を瞬時に失う。こういう状況を考えると、まず社会を下支えしている、この莫大な人達をサポートする仕組みが必要だと思う。

「UBI(Universal Basic Income)」を真剣に考える必要がある

私は、民主党大統領選挙候補だったAndrew Yangのキャンペーンの中心メッセージ「UBI(Universal Basic Income)」の考え方に関心がある。この考えは、、利益や収益性の追求一辺倒の20世紀型資本主義がもたらした富の格差の是正、貧困や差別の解消、さらに将来AIや自動化によって消失する人間の職などへの影響を和らげる効果がある。また今回のロックダウンのような経済停止の際に職を失う或いは倒産をする人達へのサポートともなる。以下に記した内容は、UBIに関しては素人の私が、NRIの上級研究員の柏木 亮二氏のAnnie Lowreyの『みんなにお金を配ったら(GIVE PEOPLE MONEY)』の書評コラム、Brianna ProvenzanoによるViceの記事(日本語訳)、World Economic Forumの記事などを参考にして、まとめたものである。

UBIとは、生活保護や各種の助成金や補助金、年金や医療保険などの現在の社会福祉制度を大幅に簡素化し(もしくはすべて廃止し)、その代わりに住民全員(世帯ごとではなく家族全員)に無条件に毎月一定の現金を支給する制度である。この考えは16世紀に英国の思想家Thomas More(トマス・モア)が、社会政治を風刺した1516年の著作『Utopia(ユートピアはモアの造語で、どこでもない即ちどこにもない場所)』で最低生活保障について触れているように、決して新しい考え方ではなく、現在世界中で様々な実験が試みられている。

Andrewは、全ての国民に月間$1,000の“Freedom Dividend”を提供すべきだと主張した。これだけではとても生活は賄えないが、少なくとも低所得者層の生活を支える糧にはなる。パンデミックによって最も大きな被害を受けるのは、これらの人達である。貧困はメンタルを破壊し、ドラッグや銃撃事件やDVや様々な犯罪を創出する。

UBIは既に始まっている?

今回のパンデミックによる倒産や失業を最小限に留めるために、イギリスは3月から全休業者の給与の80%を国が支給する措置を(上限は月2,500ポンド)始めて最低3ヶ月は継続するとしている。シアトル市は市内の大企業の法人税を引き上げ、その財源を元に市内の10万世帯に毎月$500を無条件で支給する法案を審議している(当面は4ヶ月間の予定)。スペインでも4月5日「可能な限り迅速にUBI(最低所得保障制度)」制度を導入すると発表している。これら一連の動きは、UBIの発想に近く、UBIが必ずしも実現不可能な政策ではなくなってきたことの証明でもある。

また以下のが示すように欧州では2017年すでに68%の人達がUBIの導入を求めている。

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UBIの効用

1) 貧困の消滅:世界中の貧困層(1日あたり$2以下で暮らす人達)撲滅のために様々なプログラムが提供されているが、最も効果的な方法は、モノではなく、直接現金を支給することである。もし彼らに毎月$500の現金を支給できたら、世界の貧困問題は直ちに消滅するという。現金は食糧や日用品、更に学費や貯金にも変えられる。現金こそが貧困からの脱出のために最も効果的な支援となる。

2) 広がる富の格差における、社会を下支えする人達へのサステイナブルなサポート:これは言わずもがなで、米国の富の格差は史上例を見ないほど大きい。米国の現実は、もし緊急事態が起きて医療費$400がかかってしまった場合、支払えないと答えたアメリカ人が40%に及ぶという事実がそれを証明している。仮に1人当たり$1000の支給が実現すれば、例え緊急の医療費が必要、あるいは失業といった危機に直面しても、金銭的に多少の余裕が生まれる。UBIは人々の労働意欲を失わせるという議論はあるが、労働市場経済学の研究で、UBIは人間の働く意欲にほぼ、或いはまったく影響を及ぼさないと報告している。なぜならば、人間の社会的価値の多くが仕事に根ざしており、人間は労働をしたがるからである。

3) 女性の家事労働といった無償労働の可視化など、男女格差が緩まり、女性の経済的な自立への道ができる:「無償労働」の経済的価値は少なく見積もっても全世界で10兆ドルと言われており、UBIはそうした目に見えない労働を可視化させる。さらに女性が毎月定額の現金を入手することで、男尊女卑が強い社会における女性(配偶者、娘など)は、経済的・社会的な自由を持つことが可能となる。

4) 都市の人口集中緩和や地方都市の評価増などで家族が暮らしやすくなる(人口増加):現在は雇用創出が大都市中心で行われているが、在宅勤務の浸透及び人口が集中する都市への不安は、今回のパンデミックで、多くの人達が再認識した。UBIが導入されると、こうした傾向を促進するように、住宅価格や生活費が安い地方の評価が高まる。また1人当たりの支給となるので、家族が4人の場合は4倍の支給が得られることとなり、教育費の高騰なので子供を持つことへの不安があった家族もよりゆとりが生まれて、人口が増える可能性も出てくる。

5) AIや自動化による雇用喪失と低賃金労働の増加:かつでは、ロボットは人間のために単純で退屈な労働を代替えしてくれると思われていたが、現実は逆な方向性を示している。高度な技能を習得したAIや自動化によって、今後20年の間に多くの人達の職が奪われてしまうという予測は、リアリティを増している。UBIの導入は、そうした人達にある程度の金銭的な安心感を与えて、低賃金の単純な仕事のみを強いられずに、職業選択の自由がもてる。さらに、家族や愛する人達との時間を割いてやっていた副業、兼業をしなくて済むようになる。

財源はどうするのか?

現在の複雑な社会福祉政策を撤廃し、その予算をUBIに充当すれば十分に財源は確保できるという試算がある。さらにこれに付随して、現在の富裕層(世界の富裕層の10%が世界の富の85%を所有)により累進的な所得税を課す、キャピタルゲイン課税を強化するといった税制改正によって、必要な財源は確保できるという意見もある。さらに世界を支配するような多国籍企業(FAAAM=Facebook、Apple、Amazon、Alphabet、Microsoftなど)も、莫大な利益を上げながらも、税制の抜け穴をうまく利用して納税額を抑えている。世界のトップ企業1,000社が公平に納税していれば、UBIの額としてはささやかでも、世界全体に分配することは可能ともいえる。

20世紀に確立された社会の仕組みの制度疲労は酷い

米国でもロックダウンは解除されて、ビジネス再開が徐々に始まっているが、過去2-3か月間の経済的打撃を回復させるような動きは、どんな業界にもない。米国では、5/26現在感染者数170万人以上、死者10万人以上と、とても収束には程遠い状況である。ましてブラジルの例を挙げるまでもなく、南米を中心して衛生状態の悪い南半球の国々では、今まさに感染者及び死者数が拡大している。北半球が夏場を何とか乗り切ったとしても、秋口の第2波が襲い掛かってくる可能性もある。その際に、またしても大きな影響を被るのは、ギリギリで生活している人達である。こういう状況を鑑みると、20世紀に出来上がった社会の仕組みを大幅に変革する必要があると思う。

私は経済に関しては素人だが、このUnfairな社会を少しでも、Betterにするために、もしかしたらUBIは有効ではないかと思い、自分の備忘録として、このブログでまとめてみた。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉑「在宅勤務の浸透で最も重要なコトは、企業と社員の信頼関係の構築」

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オフィスのデスクの前でPCのモニターを見つめてタイプを叩いている姿のみが、「社員の働いている姿」としか思えない、管理職がまだまだいる。そうした管理職の中には、「在宅勤務の部下の勤務状態に信頼が置けないから、オンライン経由で可能な監視ツールを使おうをしている」人達もいる。在宅勤務に関するこうした管理職の不安は、「天唾(天に向かって唾を吐くようなもの)」だと思う。彼らは、自分の部下が、どのような人格でどのように働くかを把握できていないから、可視化できないと不安になる。仕事は、相手(上司、部下、同僚、顧客)との信頼関係なしには成り立たない。

無期限の在宅勤務を発表する米国のテック企業

米国では今朝Facebookが、無期限で在宅勤務を許可する計画を発表したMark Zuckerbergは、10年後の2030年までに全社員の半数は在宅勤務にする方向であるという。新たに雇用するシニアエンジニアは在宅勤務で、既存の社員はパフォーマンスがポジティブ評価ならば、無期限の在宅勤務の許可を得られる。すでにTwitter及びSquareも、2社のCEOのJack Dorseyが、「無期限の在宅勤務を認め、社員全員にホームオフィス用のサプライ購入のために$1000を支給する」と発言している。FacebookもGoogleも、既にパンデミック対応で社員の在宅勤務を今年末まで実施するようにしており、他のシリコンバレーのテック企業も同様で、「在宅勤務」の浸透はパンデミックでさらに加速化し、今後のホワイトカラーの働き方を大きく変える方向を示唆している。

在宅勤務は2021年末までに25-30%まで増えると予想

パンデミックは、我々が今まで日常当たり前だと思ってきた様々な固定概念に異なる角度から光を当てて、新たな事実を視覚化・再認識させた。米国では一見在宅勤務が浸透しているように見えるが、実際には2016年の調査で僅か3.6%が「半分あるいはそれ以上の在宅勤務」を実施しており、企業が実施を許可すれば、56%はリモートワークが可能であると推定されている。また別の調査では、37%がリモートワーク可能で、シリコンバレーの場合は51%は在宅勤務可能という。パンデミックによって在宅勤務の重要性と必要性が認識された今、テック企業云々に限らず、2021年末までに「1週間のうちに何回かは在宅勤務が可能」となるのは25-30%と予想されている。多くの企業は、今どれだけ、在宅勤務が企業にベネフィットをもたらすかを、再認識し始めている。

在宅勤務の必要性とベネフィット

1) Risk Management:今回のパンデミックが、収束に向かったとしても、否が応でも、パンデミック、或いは壊滅的な影響を与える自然災害は、今後もまた起こりえる。その場合、当然のように大規模なロックダウンや自宅待機が起こる。そうした危機に備えて、企業はProactiveにどういう体制で臨むべきなのかを考えれば、必然的に在宅勤務システムを何らかの形で、企業組織に取り入れる必要が生じる。

2)莫大な経費削減効果:物理的に人がオフィスで勤務している場合でも、実際には50-60%はデスクを離れており、実は無駄な勤務状態(=経費)が発生している。コロナ禍の間、米国企業の在宅勤務のイニシアティブは、1日当たり300億ドルの経費削減が可能と試算されている。さらに、在宅勤務によるビジネストラベルの削減は、半分をリモートワークにすると、社員1人当たりに$11,000の経費、社員も年間$2,500から$4,000の個人的な経費が削減できるという 。 実際に在宅勤務が浸透すれば、オフィススペースは縮小され、オフィス維持にかかる経費も大幅に削減され、従来企業経営で必須経費と考えられていた費用は大きく減少する。

3)社員がより幸せになると生産性は上がる:米国の場合は、職種に限らず、最低限度の在宅勤務を80%が望んでいる。日本では満員電車の通勤、米国では渋滞の中での通勤が、どれだけ社員のストレスになっているかを、今回多くの人達が同時に再認識した。勿論在宅勤務となり、オンラインミーティングが入りすぎて、忙し過ぎるという声もあるが、米国では時間の自己管理がより可能となり、上司や同僚とのコミュニケーションで邪魔される時間がなくなり、より効率的になったという声を耳にする。また、多くは家族や友人との時間や趣味に使える時間が増えて、嬉しいという。在宅勤務に慣れている人は、特にこの傾向が強く、コミュニケーションツールの進歩と普及は、在宅勤務初心者でも慣れれば、より快適になると推測できる。

なぜ我々はオフィスに行くのか?

どの職業或いは企業を選ぶのか?ということは、今までは「オフィスに毎日通う」というコトを前提に、人々は選択していた。そのため、人々は無理して住宅や物価が異常に高いにシティに住むか、或いは異常に長い通勤時間を受け入れていた。在宅勤務は、その固定概念を覆し、自分が住みたい場所に住みながら勤務可能という、新たな方向性をもたらした。特に人の密集するエリアの危険性と不便さは、多くの人達が今回のパンデミックで再認識した。夫婦が2人とも在宅勤務、子供達全員が自宅学習といった特殊な状況は誰も予想しておらず、自宅における自らのワークスペース確保の準備はなされていなかった。そうした問題も、今後は在宅勤務浸透によって、より密集度の少ないエリアで(=低い生活費で広い居住スペース)、ホームオフィスが確保できる環境を選べるというコトで、解決できる。すでにパンデミック前の2018年の調査で、SFベイエリアの住民流出は始まっており、46%は住宅価格と生活費の高いことを理由に、この地域を離れる予定だと回答している。また2019年のテック系社員対象の調査でも、Gen Z & Millennials(18-34歳)の41%が、2020年中にシティを離れる予定と回答している

在宅勤務のポイントはお互いが信じあうコト

在宅勤務の浸透は、雇用や人事評価などにも大きな影響と変革をもたらす。冒頭で述べたように、部下の勤務状況をオフィスで可視化できないと、勤務評価をできないような管理職や評価システムは、今後企業内でワークしなくなる。雇用時のJob descriptionの明確化と組織に頼らず自主的な勤務活動が可能な人物の選択といった形で、企業内の無駄な人材を削減する可能性が高まる。但し、こうした成果主義的なワークスタイルで最も重要なことは、例え可視化できなくても、相手を信じる信頼関係が構築されているかどうかという点である。管理職側の不安も分かるが、それ以上に、社員も管理側の評価が公平に行われているかといったコトに疑問を持つ。両者が不信感や疑問を抱かないように、企業として高度なポリシーとカルチャーを持つことが、New Normalとして浮上してくる在宅勤務を成功させる重要なカギとなる。

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コロナ禍でのアメリカ生活⑳「コロナはロールシャッハ・テスト的な役割を果たしている」

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良く言われる、"Is the glass half empty or half full?(コップの水は半分しかない、或いは半分も入っている)"というフレーズは、個人が状況を楽観的或いは悲観的に見るかを示唆するレトリックとして使われる。最近色んな人達の言動を見ていると、コロナ禍は個人の無意識下の性格を投影する性格検査「ロールシャッハ・テスト」的な役割を果たしているように思える。

ロールシャッハ・テスト(Rorschach test)とは?

以下は、Wikiによる説明である。

ロールシャッハ・テスト(Rorschach test)は、被験者にインクのしみを見せて何を想像するかを語らせて、それを分析することによって被験者の思考過程やその障害を推定するものである。スイスの精神科医Hermann Rorschachによって1921年に考案された。紙にインクを落として2つ折りにして広げるとできる、ほぼ左右対称の図版のカードが用いられる。これは原理的には簡単に作成できるが、現在でもロールシャッハによって作成されたものが用いられている。カードは10枚1組で、無彩色のカードと有彩色のカードがそれぞれ5枚ずつ含まれる。各カードは約17cm x 24cmの大きさ。

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これがRorschachによって作成された図案 

ロールシャッハ・テストは、被験者にとって、どのように反応するとどのように分析されるかが分かりにくいため、回答を意識的に操作する反応歪曲が起きにくく、無意識な心理の分析が可能であるとされ、1920年代に開発されて以来、長年にわたって広く用いられている。一方、テストの科学的妥当性への疑問や回答結果の分析に高度な技術を要し効率が悪いといった批判も存在する

この画像を見て「蝙蝠」を連想してしまった私

私は心理学者ではないので、ここでロールシャッハ・テストに深入りするつもりはないが、Wikiでこの図案を見て、思わず「あっ、蝙蝠みたい」と思ってしまった。勿論、コロナウィルスの感染源として最初に報道された武漢の市場の蝙蝠のことと、我が家は今の時期から蝙蝠が夕方以降飛来することといった2つの記憶が、多分アタマに強く印象付けられて、思わず図案を「蝙蝠」と思ってしまったのだと思う。私がここで書き留めて置きたいコトは、図案による無意識下の性格テストではなく、「コロナ禍」に対して、人がどう反応し、どう考え、どう行動するかという点である。私は周囲のアメリカ人の親戚・知人・友人達や、ソーシャルネットワークやメディア上の日本の知人友人達の言動を見て、なるほど、人はこういう風に考えるんだと、改めて実感している。

楽観的・悲観的といった二元論は当てはまらず、誰もが不安だけど、その不安への反応が人によって異なる

コロナ禍に関して、冒頭の"Is the glass half empty or half full?"のように、どちらの見方をするかで楽観的と悲観的に分ける、といった単純なことはできない。何せ、ここまで、短期間でパンデミックとして世界中に拡大し、尚且つ人の移動禁止やロックダウンといったような、未曽有の経験を世界中の人達は今同時に共有しているからである。正体不明というほど厄介なモノはなく、誰もが「この先どうなるのか?」という不安を抱える。但し、その不安への反応と対処の仕方は個人によって異なり、ロールシャッハテストではないが、その人の今まで見えなかった無意識下の性格まで見えてしまうような気がする。

短期間か長期化するのか?という異なる見方で変わるマインドセットと行動

何時これが収束するのかは、今の時点では誰もわからず、全ての人は速やかな収束を願っている。但し、ここでコロナ禍による規制は、1-2か月で終わると見るか、下手すると1年以上かかると見るかで、マインドセットやAttitude(姿勢や態度)は大きく変わる。

短期間収束派は、事実を目にしているがそれをそのまま咀嚼するには、あまりにも現実が重く、多分に希望的観測にシフトし、コロナ禍の影響を低く見積もっている人達。彼らは、当然制限がかかっている現在の生活への不満やストレスがあり(外出・外食・飲むに行くと言ったことが気軽に出来ない、家でオンライン経由の仕事や対人関係に飽きたなど)、今の生活は今後の「New normal」となりうる可能性を秘めていることを、受け入れる準備が出来ていない。

長期収束派は、過去3か月間の社会及び経済的な推移を目にし、さらに未だに多くの解決できないコロナ禍の状況を鑑みて、その長期化を予測し、それを受け入れようとしている人達である。彼らは、今の制限を緩和すると、より状況が悪化する可能性があると考え、現時点で「New normal」に備えて、今自分が出来ることの手を打とうとしている。長期収束派にも、勿論テレワークが出来ない人も多くいるので、そういう人達やエッセンシャルワーカーは、危険の中で毎日働いている。それでも長期化を予想している以上、極力自分は感染をしない、或いは感染源のキャリアにならないように工夫して生活している。Physical distancing(物理的な距離)とは、個人間の問題ではなく、公衆衛生上の最も重要な行動で、社会問題といえる。

「Overpromising and Under-Delivering(約束をし過ぎてそれが達成できないメッセージ)」

消費者が広告を嫌う心理には、3つの大きな要因がある。1つ目は、消費者が行うとしている行動を邪魔する場合(オフ・オンラインでコンテンツにリーチしようとするのを邪魔する広告)。2つ目は、広告メッセージが「Misleading(故意に消費者が誤解するように訴求する)」。3つ目は、「Overpromising and Under-Delivering(約束をし過ぎてそれが達成できないメッセージ)」である。人間は、誰でも邪魔されたり、誤解を招くような物言いには、腹を立てる。但し、消費者が企業に最も失望するのは、実は善意から招く場合もある「Overpromising and Under-Delivering」という3番目の場合である。理由は簡単で、人は約束を破られると「裏切られた」と感じて、相手を恨みたくなるからである。ここでのポイントは「デリバリできないほどの期待値を人に抱かしてはいけない」という点である。

これは、コロナ禍の環境でも活かせる部分で、長期化という重い選択(=低い期待値)をしておけば、収束が早まった時、まず真っ先に思うことは「良かった!早く終わった」という喜びである。また「New normal」は、かつての生活のように、未来は薔薇色で何でも上手くいくというコトはあり得ない(=低い期待値)と思えば、本当に「New normal」が始まった時に適応がしやすくなる。

人は「変化」するのではなく、置かれた環境に適応すべく、日々「進化」していく

私は昔からOptimistic(楽観的)でありながら、Realistic(現実的)な考えで生きてきたが、ここに来て、"Cautiously realistic(意識して現実的に)"に、シフトしている自分に気が付いた。楽観的な部分が消えたわけではないが、思いもよらない状況がドラスティックに頻繁に起きるので、かなり自分の知覚を意識して、現実をしっかり認識すべきであるという考えが、より鮮明になりつつある。

ロールシャッハの図案が蝙蝠に見えるのは、2020年5月高地の山に囲まれるSt George, Utahに住む今の私であるからで、2019年5月海沿いのビーチの街Santa Barbara, Californiaに住んでいた頃の私は、そうは思わなかったと思う。人は変化するのではなく、置かれた環境に適応すべく、日々進化していく。Herbert Spencerは1864年に『Principles of Biology』で「適者生存(survival of the fittest)」の概念を発案し、その影響はCharles Robert Darwinの『種の起源』の進化論へと繋がった。

環境に適応して進化出来ない人間は、おのずと脱落してしまう。パンデミックは1回で終わるものではなく、これから何回も襲ってくる。それを想定して、現実的に日々変わる環境を受け入れ、それに適応して進化すべく、心構えを持ちたい。

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寅さんではないが、ビジネス上で「それを言っちゃあ、お終いだよ」と思われる11の英語表現

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今日は、ビジネス上、英語に限らずどの言語でも(日本語も含む)、寅さんではないが「それを言っちゃあ、お終いだよ」と、相手から思われる表現を紹介する。これはEntrepreneurで紹介された記事で、私風に言い換えている。

1. 'It’s not fair.'

誰もが世の中は公平でないことは知っている。これを言った途端に、他の人は「この人はナイーブで、大人になり切れていない」と思ってしまう。日本の人はあまり「Fair」って言葉は使わないけど、英語では意外と目にする。意味的には、「依怙贔屓や偏見がなく公平な」、「個人の感情や利害に影響されず適正な基準に従っている」という感じなので、これを社内で使うと、多くの人達の眉が上がってしまう。

2. 'This is the way it’s always been done.'

コロナ禍で生きる今、言うまでもなく日々、1週間、1か月で物事や環境は急激に変化している。「これが、今ままでいつもやって来たやり方」といった瞬間に、「この人は変化に適応できない、或いは新しいことにトライしない旧習派の人間だ」と思われる。コロナ以前も然り、テクノロジーの進歩の速度は、とんでもなく速く進む、これに乗り遅れたらビジネスでは生き残れない。既得権益に固執している人間は、ビジネスでは脱落する。

3. 'No problem.'

この言葉を簡単に使う人が多いが、誰かがこれをお願いしますと頼んだ際にこう返されると、「えっ、私が頼んだことって問題なの? 何か押し付けたっていう訳?」というニュアンスが感じられる。この場合は、頼まれたことを喜んでやりましょう、或いは喜んでやりました、という表現がベターなので、 “It was my pleasure” とか“I’ll be happy to take care of that.”が、ポジティブな言葉がいい。大切なのは、ネガティブ表現ではなくポジティブな表現で会話を進めること。私は頻繁に“It was my pleasure” を使うが、何か自分がしたことに対して、相手が感謝している場合は、自分も嬉しいので、自然とこの表現がすぐ口に出る。

4. This may be a silly idea .../I’m going to ask a stupid question.'

こういう極端に自分を卑下した、或いは日本語風にいうと「へりくだった」、英語で言う「overly passive phrases」は、兎に角、ビジネスでは使わない方がいい。相手は「そんなに不安で自信がないんだったら、何も言わなくてもいいよ」と思ってしまう。例え、このフレーズの後に、素晴らしいアイディアや質問が続いたとして、既に相手の気が削がれているので、みんなまともに聞かなくなる。米国では、日本的な謙譲の美徳は、ほとんど通用しないので(あることはあるけど、それは相手がインテレクチュアリに優れている人に限る)、例え、多少自信がなくても、堂々と自分の意見や質問を言う方が、好感が持たれる。

5. 'This will only take a minute.'

この表現通り、本当に60秒間で、何かの話、或いは説明ができるのであるならば、使っても構わないけど、こういう風にアタマを振る人に限って、実に長い話をし始める。みんなそれが分かっているので、聞いた途端にうんざりする。だからそれを覚悟で使いたい人は、使えばいいと思う。

6. 'I’ll try.'

ビジネス会話でこの言葉を聞くと、「この人はTryと言うくらいだから、やってみましょうというぐらいに暫定的で、タスクを成し遂げる自分の能力に関して自信がないんだな」と思ってしまう。ビジネスでの依頼事項に関しては、しっかりコミットするか、出来ないと思った場合はオルタナティブを自ら提供するという具合に、明解に回答すべき。英語の会話で、Tryって言った瞬間に「出来る限り」というニュアンスがにじみ出て、タスクへの逃げが見えてしまう。米国では「一生懸命努力しました(英語になりにくい行為)」っていうのは、結果を出さない限り、殆ど評価されない。

7. 'He’s lazy/incompetent/a jerk.'

まあ滅多に面と向かって社内の同僚に、こういうフレーズで他の同僚をけなす人はいないと思うが、それでもたまにこんなことを社内で口走る人はいる(日本だとお酒の席とか)。「怠け者、無能、我儘で自分勝手で最低の人間」といった人が社内にいたすれば、それは誰もが知っていることで、あえて口にすべきことではない。口にした途端、その人が逆に彼らの仲間入りをすることになる。自分が、そのような人間を解雇できる立場にいるか、或いは彼らをより良くする方法を知っているかという場合を除いて、同僚への批判は一切口にすべきではない。それらは、あとでブーメランのように自分に向かって、批判と中傷が投げ帰ってくるから。

8. 'That’s not in my job description.'

米国では当然のように仕事の内容は、入社前の雇用契約の際に、お互いが確認しあって雇用されるが、それでも契約した内容以外の仕事を、上司から依頼されることはある。その時、このフレーズで返してしまうと、上司は「この人は、最低限度の契約で規定された仕事しかせず、給料をもらおうとしていんるんだ」と思われて、今後の雇用に関するセキュリティのリスクが、ここで刻まれてしまう。勿論出来ないものは出来ないので、中途半端に請け負うことにはリスクが伴うが、ベストな動きは、やれる内容であるならば達成して、次回のSOW(Statement of work)を上司と話し合う時に、それを机上に持ち込む方がいい。その時、上司とは長期的に、自分が何をやるべきかを話し合い、お互いが理解できるようにするのが大人のやり方。

9. 'It’s not my fault.'

これはビジネスに限らず、どんな状況でも「それは自分のせいじゃない」という子供じみた言い訳は、避けるべき。例え、確かに自分のせいではなくても、何か最悪なことが起きた場合には、何らかの己の過失も含まれており、大人としては、常に事実に基づいて「Be accountable (説明責任、即ち起きたことへの責任)」に、上司や同僚と話すべき。闇雲に他の人に責任を被せたりすると、周囲はその人と一緒に働くことを避けるようになり、次回最悪なことが起きた場合は、その人に非難が戻ってくる。

10. 'I can’t.'

この言葉は、上司や同僚が聞くと「I won’t(自分はやりたくない)」に聞こえるので、職場では使わない方がいい。例えば、今日中にこの仕事をお願いと頼まれたら、「今日中には出来ない」というのではなく、“I can come in early tomorrow morning. Will that work?( 明日早く出社してやりますが、それで大丈夫ですか?)という方が、より建設的な会話となる。

11. 'I hate this job.'

これは、もう寅さんじゃなくても「これを言っちゃあ、お終いよ」の究極的フレーズ。言わずもがなだけど、日本の人は我慢強いのであまりこの手の表現は使わないし、聞かないと思うけど、米国の社内では結構いる。上司にしてみると、こういう人が社内のモラル低下の大きな要因になることを知っているので、これをキャッチした瞬間に、その人の解雇を考え始める。「お酒の席でも、これだけは言っちゃあ、お終いだよ」

これは言葉だけの問題ではなく、「Attitude(態度・姿勢)の問題」だと思う

私の40年以上のビジネス経験で、言えることは、周囲(仕事もプライベイトも)には、ポジティブな人を集めるのが、ビジネス成功の秘訣。これに尽きると思う。はっぴいな考えは、はっぴいな行動を生み、はっぴいな人間関係を構築し、仕事も家庭もはっぴいになる。その反対にネガティブな人が、周囲に1人いるだけでも、空気は淀んで、負のムードが覆いかぶさってくる。言葉はとっても重要で、どんな言葉を使うかによって、その人の人間性が見えてくる。ポジティブな表現で話す、それを心がけていると、自然と道が開ける。

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コロナ禍でのアメリカ生活⑮「世界中でパンデミック・ドリームで悩んでいる人がいる」

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私と夢の関係

私は毎晩必ず夢を見てそれを克明に覚えている。夫との朝の会話は「今日の夢はこれこれこんな感じで、結果こうなったの」でいつも始まる。良くカラーの夢や同じ夢を何度も見るし、さらに夜中夢の途中で目が覚めて、もう一度今見ていた夢に戻りたい時は戻れるといったことも起きる。また、虫の知らせのように翌日起こることを予知したような夢も見る。特に予知的な夢見に関しては、母方の血筋から来ているのかな?という風に思っている。

母は伊豆大島出身で、親戚は伊豆大島の大宮神社の神主の家系で代々続いている。この大宮神社は「御神火(活火山の三原山)」を鎮めるための神社でもあるので、パワースポットとしても知られている。また母の従妹は神がかりの女性で新興宗教の開祖となった人でもあり、理屈では簡単に説明できない何かが母方にはある。私が子供の頃、母が「昨日こういう夢を見たから今日大島から連絡が入る」といったことを良く話していたが、それは殆ど当たっていた。また私も同様な予知的な夢を見る機会がある(何年も会っていない友人が夢に出てきて病気を私に告げて、翌日彼の闘病と死を知った)。

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パンデミックと夢の関係

以下の夢の説明は、National Geographicの「新型コロナで奇妙な夢や悪夢を見る人が増加、理由と対処法は」という記事の中からの抜粋で、今世界中の多く人達の間で起きている「corona virus pandemic dreams」現象について、紹介する。

夢の役割

夢の内容や感情は、起きている間の幸福感と関連しており、象徴的で奇妙な夢には、強烈な記憶や日々の心理的ストレスを、潜在意識のなかだけで安全に和らげる効果がある。一方で悪夢は、起きている間には自覚していない不安を知らせる危険信号という見方もある。

覚醒時の活動が、夢の内容に影響を与える記憶のスライドを作り出すことは、多くの研究で示されている。日中から持ち越した感情は、夢の内容やその感じ方に影響しうる。フィンランドの研究者達は、心が平穏だといい夢を見やすいこと、反対に、不安は「夢への悪影響」をもたらし、恐怖や動揺する夢になるとデータで証明している。

夢は幻覚とよく似ている。夢を生み出す神経生物学的な信号と反応は、幻覚剤で引き起こされるものに近い。幻覚剤は「セロトニン5-HT2A」と呼ばれる神経受容体を活性化させ、これにより脳の「背側前頭前野」と呼ばれる部分が働かなくなる。その結果、意識によって感情が抑えられなくなる「感情的脱抑制」という状態に陥る。これは特に、夢を見るレム睡眠で起こることと同じ。このプロセスは毎晩起こるが、殆どの人達は見た夢を覚えていない。

「corona virus pandemic dreams」現象

今世界中で様々な研究チームが夢を分析しているが、多くの人達が「コロナウイルス・パンデミック・ドリーム」という新たな現象を経験しているという。パンデミック・ドリームは、ストレスや孤立、睡眠パターンの変化によって、通常の夢とは一線を画す否定的な感情の渦に彩られている。夢研究の専門家でBoston University School of MedicineのPatrick McNamaraは、「我々は通常、激しい感情、特に否定的な感情を、レム睡眠や夢を利用して処理している。今回のパンデミックが、多大なストレスや不安を生み出していることは明らかである。このパンデミックのさなか、孤独やストレスが高まるせいで、夢の内容が影響を受けたり、夢を覚えていることが多くなったりしている可能性がある」という。

ストレス源に「近い」ほど悪夢が増える

2020年3月から進行中のフランス、リヨン神経科学研究センターの研究によると、今回のパンデミックは、夢を思い出せる回数を35%増加させ、悪い夢を通常より15%増やしているという。イタリア睡眠医学会が進める別の研究では、感染拡大のさなかに閉じこもり生活を強いられたイタリア国民の夢を分析した。回答者の多くは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状と同じような悪夢や頻繁な目覚めを経験している。現在進行中の研究結果からは、パンデミックの脅威に近い人、つまり医療従事者や感染拡大の中心地の住民、あるいは家族に感染者がいる人ほど、新型コロナウイルスに影響された夢を見る可能性が高いことが示唆される。

じゃあ、悪夢を見ないためにはどうすればいいんだ?

私が考えるポイントは、まず自宅待機で起こる諸事情をネガティブに捉えず、全て裏返しにしてポジティブに考えること。「家族と一緒に過ごせる時間が増えて嬉しい」、「子供の勉強も他人事にせずに自分で見てあげられる。これで子供の学習能力も上がる」、「妻や夫さらに子供が一緒になって家庭で作る食事って、なんて美味しいんだろう」、「通勤時間がない分、普段できなかった読書(ちょっと難しい書籍)や音楽(今まですっかりやっていなかったけど楽器演奏を始める)など自分の好きなことに時間を使える」、「自宅で簡単に育てられるハーブなどの手づく野菜は美味しく便利」、「外出しない分、お金のセービングが出来る」、「オンデマンドで自分の好きな時間に自宅でエクササイズが可能」等々、どんな小さなことでもポジティブに考えれば、人は幸せになれる。また家族の間で「ありがとう」を連発し、ギャグやコントで相手を笑わせようとすると、必ず楽しく嬉しくなる。こういう「はっぴい度」を意識してあげる工夫をし始めると、悪夢を見る頻度は自然と下がると思う。

要は、パンデミックがもたらす出来事をポジティブに捉えて、そのBenefit & Advantageをしっかり認識することが、悪夢がアタマに入ってこない防波堤になるんだと思う。長丁場でみんながしんどいと思うけど、「習うより慣れろ」で、状況を拒むのではなく受け入れて、そこに楽しみを見つけてエンジョイすることが大切だと思う。

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