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アメリカの現実⑧「パンデミックや公聴会に関係なく巨大化するGAFAMの5社」

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7月31日Appleは株式時価総額が、国営石油会社Saudi Aramcoを抜き、世界最大に返り咲く

金曜日、Appleは終値ベースで1兆8422億ドルと過去最高額に達して、Saudi Aramcoの1兆7595億ドルを上回って、再び上場企業で最大の時価総額を持つ企業に返り咲いた。Q3のレベニューは597億ドルで、対前年比11%増となる。パンデミックで多くの企業や消費者生活が打撃を受ける中で、GAFAMと呼ばれる5大企業(Google、Apple、Facebook、 Amazon、Microsoft)の業績は2桁の伸び率で絶好調である。

いみじくもサウジアラビアの石油公営会社という旧勢力ともいうべき企業を追い越して、トップに立ったのがテック企業のAppleというコト自体が、今の時代が、誰に支配されているかを象徴しているように思える。

以下の表はNasdaqにおけるGAFAMのシェアであるが、7月22日の時点で、5社で46.3%を占めている。Teslaの2.7%もちょっと異常と思えるが、GAFAM5社の独占化は、パンデミックの恩恵によって、今後もっと膨らむはずで、支配者の地位は不動に見える。

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The Four + Microsoft = GAFAM

2017年のScott Gallowayの書籍 ”The Four: The Hidden DNA of Apple, Amazon, Facebook, and Google”の4社が、我々の消費行動のどの部分を狙っているかの分析は、実に的を得ていると思う。

彼は、この4社をこんな風に説明している。

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Galloway: “Google targets the brain and our thirst for knowledge. Facebook is trained on the heart and our need to develop empathetic and meaningful relationships. Amazon targets the guts, satisfying our hunter-gatherer impulse to consume. And Apple, with its sleek, sensual products, has its focus firmly on our genitals.”

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彼の分析を一言で言い換えると、こんな風になる。

Google: ブレイン(ナレッジ)=我々のナレッジへの渇き、即ちブレインを狙っている。
Facebook: ハート(人間関係)=我々のハートが共感に満ちた有意義な人間関係を築くように訓練している。
Amazon: ストマック(消費行動)=我々の狩猟採集の消費行動を満足させるストマックを狙っている。
Apple: プライベイト(生殖=異性への性的魅力)=スマートで性的魅力のある製品は、我々のプライベイトな部分にフォーカスしている。

書籍が出てから3年経つが、我々の生活は「The Four + Microsoft=GAFAM」の5社に依存し、各社の棲み分けはすでにオバーラップして、我々の住む世界を支配する5社はより強化されている。

GAFAMの5社は「パンデミックの焼け太り」で高収益を上げている

以下の表を見れば一目瞭然で、ちょうど議会でGAFAの4社のCEOが召喚されて、市場の独占支配を追求されている最中に、この5社のQ2の利益は2桁となり、この3か月間で、5社は合計339億ドルの利益を創出した。

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GAFAMの5社の2019年1‐6月と2020年1‐6月の半年間のレベニューの比較:
Amazon:1644億ドル(34%増)
Apple:1180億ドル(6%増)
Alphabet:795億ドル(6%増)
Microsoft:731億ドル(14%増)
Facebook:364億ドル(14%増)

投資家は、GAFAに対する議会の政治劇を無視して、業績の好調さのみに目を向けている。GAFAの銘柄に対するアナリストの投資判断は83%が「Buy」としている。Amazon株は年初から急騰しているにもかかわらず、投資判断を「Sell」としているアナリストは1人だけである。

GAFAの4社のCEOがヴィデオ会議経由で一堂に会した議会公聴会

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GAFAの4人のCEOはヴィデオ会議システムを経由で5時間以上に渡り、市場での支配力を巡り議会公聴会で糾弾された。議員らは非競争的行為やユーザのプライバシー、偽情報といった問題について追及した。

第3者が販売するAmazonのマーケットプレイス、AppleのApp store、自社の資産にトラフィックを集めようとするGoogleの傾向、ソーシャルネットワークの世界で自社の地位を脅かしかねない企業を次々と買収するFacebookのやり方などが問われた。議員や規制当局は数年前からGAFAに対し圧力をかけているが、ほとんど成果を挙げていない。

The Four(GAFA)のロビー活動費の急増

以下のグラフが示すように、Google、Amazon、Facebook、Appleは、過去2か月間で、4社合計5450万ドルをワシントンDCのロビー活動に使っている。これは2015年から35%増で、2010年に比較すると500%増となる。この金額の推移を見れば、4社の政策への影響力の大きさと、公聴会の圧力が効力を持たないかが分かる。

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GAFAMは今後どんな風に社会(=我々に)に貢献してくれるのか?

昨日からMicrosoftのTikTok買収の話が出回っている。Reutersによれば、親会社のByteDanceは、米国でのTikTokのオペレーションを手放す可能性を示唆しており、そうなるとMicrosoftが米国ユーザのデータベースを握り、他企業もTikTokに参与できる可能性がある。セキュリティ問題で待ったがかかっているこの買収に関しては、現在ホワイトハウスと協議中らしい。

私は、何もGAFAMを目の敵にしている訳ではなく、1人の利用者として、この5社に、公私共々大いに依存して、生活している。言い換えると、山ほどお金を使っている、5社のロイヤルカスタマーで、さらに立派なStake Holderでもある。直接彼らのサービスや製品を購入しなくても、間接的に、毎日彼らのプラットフォームにログインしたり、アプリを使って、彼らの広告主の製品やサービスを購入している。

そう「お得意さん」として、今、彼らに言いたいのは、経済のエコシステムの中でエンドユーザである我々が豊かにならないと、最終的に彼らのビジネスにも金が潤沢に流れなくなるという点である。我々が豊かになるために、彼らが今直ぐ出来ることを提案してほしい。

我々が豊かになるためには、まず我々の心の安定が必要である。社会問題を重視して、差別やヘイトを助長するような動きを防止した上で、製品やサービスを提供してほしい。またこれだけ儲けているのだから、Tax haven利用から足を洗って、米国に対する納税義務をしっかり履行してほしい。税収が増えれば、アメリカ社会(=我々)により大きな経済的な支援が可能となる。そうした上で、企業としてより儲けるのは、結構なことだと思う。

ロイヤルカスタマーの我々が、5社に本当に失望し、見切りをつけ始めれば、栄耀栄華を誇るテックジャイアントも、どこかでTipping point(臨界点)を迎える。

平家物語「祇園精舎」の序文は、どんな権力にも当てはまる真理だと思う。

祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。 おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。 猛き者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉙「マスク着用を政治的ステートメントとする愚かな党派的考えが、ここまでコロナ感染拡大を促した」

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幸運なことに私達夫婦は、University of UtahのCOVID-19の調査プロジェクトに選ばれて(ランダム抽出)、PCR検査を2人で受けた。2週間後に、2人ともネガティブであることを正式に通知されて、まずはほっとした(無自覚症状でポジティブだったら、感染のキャリアとして他の人にデリバリしてしまうから)。事前にオンラインで2人の過去6か月間の行動やその他の質問項目に回答して、事前予約をとって、指定された日時に検査所(教会の駐車場)に向かった。ドライブスルーので、待つことなく指定の駐車場にさーっと入って、防護服に身を固めた担当者達がテキパキと作業していた。車の窓を開けて、鼻に綿棒をかなり強く差し込まれて(ちょっと涙目)、血液をスパッと採取され、ほんの5-6分で、車に降りることなく、さらっと終わった。彼らは個人情報を保護しつつ、私達をトラッキングすることも可能ということで、かなり顧客満足度の高いスムーズなオペレーションだった。

多くの州では医療従事者や検査員を守る防護服やツールの不足もあり米国はひっ迫している

私達の横のヘルスケアの保険会社の検査会場では、駐車場に入る車の長蛇の列ができており、担当者が車1台1台に検査目的を確認して指示していた。今コロナ感染の検査には、医師のReferralを持って行けばできる。但し、それを受けるために、車の行列ができており、夫はあの列には加わるのであれば、僕は引き返したと告白している。

州や郡によって異なり、一概にこれはこれこれこうだと言えないのが米国であるが、リアリティはかなり悪化していると思う。7/25現在で感染者428万人、死者14万9000人という米国は、昨日の新感染者は3万人、新たな死者は477人とうなぎのぼりである。当然のように医療従事者やエッセンシャルワーカーに必要な防護服からツールまで不足しており、検査すら中々簡単にできない状況である。

パンデミック開始後4か月たってやっと現大統領はマスク着用の重要性をいやいやながら言及するという無責任さ

以下のグラフを見てほしい。YouGovとImperial College Londonの調査結果で、米国では、3月初旬は10%以下、4月初旬は30%、7月半ばで78%がパブリックでマスク着用と回答している。この数字の推移を見れば、如何にアメリカ人がマスク着用に関して、ためらいがあったがこれで分かると思う。

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理由は、マスク着用を現大統領を含めた共和党が政治的ステートメントとして扱ったことが大きな理由の1つとして挙げられる。それ以外には、マスク着用は感染拡大初期に保健当局者の見解が分かれていたことも挙げられるが、民主党の大統領候補のJoe Bidenがマスク着用の重要性を訴求することに、反対・対抗するツールとして、現政権はマスク着用は個人の自由という方便を使っている。この党派的な立場におけるマスク着用は、多くのトラブルや論議を巻き起こしている。

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3人目の死者まで出たマスク着用のトラブル

7月14日ミシガン州の郊外のコンビニエンスストアで、マスク着用を別の男性客から求められた男が相手を刺す事件が発生し、その男は逃走先で警官に撃たれて死亡している。これでマスク着用に関連したトラブルによる死者は少なくとも3人目となる。

Walmart、BestBuy、Starbucksなどは、小売店舗は来店客へのマスク着用を義務付ける措置を実施している。米国では少なくとも30州が何らかのかたちでマスクなどの着用を義務づけている。ただし、その実施は多くの場合、エッセンシャルワーカーである店舗の社員に任せられており、ソーシャルメディアには、社員がマスクを着けない客から怒鳴られている様子も投稿されている。Goldman Sachsは、全米でマスク着用を義務化すれば米経済の損失を1兆ドルいう試算を出している

マスク着用とSDがリスク削減の大きなポイント

以下の表が示すように、マスクを着用し、他者とのソーシャルディスタンス(SD)の距離を保てば、感染するリスク削減は、着用せずにSDを無視する人達より大きく軽減できる。これは子供でも分かる理屈であり、科学的な事実である。これを過去4か月間認めずに、マスク着用とSDを政府レベルで奨励してこなかった現政権に対して、もう言うべき言葉も見当たらない。経済再開をする云々の問題以前に、公衆衛生の観点から、個々人にこの2つを義務付ければ、既に亡くなった14万9000人の死者のうち、何人が助かったのかと思うと、遺族の悲しみと医療関係者の悔しさが察せられる。実に愚かな政権である。

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大学はこの秋キャンパス再開のために学生の検査を実施する予定だが、このままでは検査ツール不足が悪化する

大学の動きも活発で、今秋にキャンパス再開のために、各大学の保健部門が主導して学生や教員やスタッフの広範かつ頻繁な検査を行う計画を打ち出している。但し問題は、検査キットを含む検査能力がこれに追い付くかどうかという点である。学生達もオプションがあるならば、キャンパスライフに戻りたいと切望しており、彼らの安全を確保し、ウイルス拡大を促す温床になるのを避ける方法について、現在議論されている。パーティやスポーツイベントには参加しないと学生達も発言しているが、何万人も生徒を抱える大学がどこまでこれらの学生全員を検査して、その後も彼らが公衆衛生を守るような行動をとれるかの保証はどこにもない。また大学生に限らず、小中高の学校再開も現政権は推奨しており、これらの学校が再開されると、今後は子供達によるクラスターが発生することは否めない。

国民を守ろうとしない現大統領を支持する人達が、現時点でも38%いるのがこの国のリアリティ

現政権の無責任さは、今に始まったことではないが、11月の大統領選挙まで待って、2021年1月20日の就任式まで現政権がこの国を導くと思うと、酷い頭痛に襲われる。コロナ禍に関して戦略がゼロという政権を抱えて、苦しむのは、医療関係者、エッセンシャルワーカー、既往症を持つ病人、保険のない低所得者層など、コロナ禍を避けようもない人達である。

馬鹿げた党派的な発言や行動を一切やめて、最低限の公衆衛生の基本ともいうべきマスク着用とSDの順守を市民に促し、国レベルで検査キットやツールの提供を十分に行うといったことをまず実行してほしい。

国民を守ろうとしない現大統領を支持する人達が、今でも38%(6/30時点のGallup調査)存在するという米国の現状は実に悲しい。

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彼らを主体にして2016年現政権が誕生した。あと4年間こうしたカオスの中で暮らすことは出来ない。どちらにしても、11月にはその答えを知ることになる。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉘「パンデミックは今後必ず起こる現実。今こそUBI(Universal Basic Income)のようなセーフティネットが必要」

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パンデミック云々に関わらず、富める者はいつでもさらに富む

以下の表はパンデミックがスタートした3/18から6/17までの米国のビリオネラー達の資産推移であるが、ロックダウンで休業や失業にあえぐ中小企業、若年就労者、低所得者層の経済的な苦しみとは無縁に、大幅に資産を増やしている。米国の643人のビリオネラーの資産合計は、3/18時点で2.9兆ドルであったが、6/17には3.5兆ドルと20%増加した。また、4,550万人のアメリカ人が失業保険申請をしている間に、新たに29人がビリオネラーに仲間入りしている。

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Jack Dorseyも参加し始めたUBIの実現のための実験

Twitter & SquareのCEOのJack Dorseyは、4月個人資産の28%に当たる10億ドル(Square株を売却して充当)を、コロナ禍の被害対策の慈善基金「Start Small Foundation」を立ち上げて寄付すると発表した。彼のフォーカスは、少女たちの健康と教育、更にUBI(Universal Basic Income)であるとし、寄付用途をGoogle docのスプレッドシートに上げて、一般の人達が閲覧できるように共有するという情報の透明性を訴求した。

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以下の表は、米国のビリオネラーの個人資産の寄付額の順位であるが、Dorseyは個人としてはダントツのトップの金額10億ドルを寄付している。

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Dorseyは、今回その基金から300万ドルを、カリフォルニア州Stocktonの市長のMichael Tubbs(29歳)が結成した「Mayors For A Guaranteed Income(MGI)」と呼ばれる、全米16都市の市長達の連合に投入すると発表したこの連合は、市民に無条件で定期的に現金を給付する「UBI(Universal Basic Income)」の実験の一環として始められる。

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Forbesの記事によると、Squareの株価は4月以降に165%増となり、Start Small Foundationに提供された株式の価値は22億6000万ドルまで膨らんでいる(7/9現在)。Dorseyは、ケニアとウガンダでUBIのテストを実施中のNPOのGiveDirectlyにも1120万ドルを寄付している。

DorseyやYangが推進するUBIとは何か?

UBIの詳細に関しては、5/26に書いた私のブログを参考にしてもらいたい。

「UBIとは、生活保護や各種の助成金や補助金、年金や医療保険などの現在の社会福祉制度を大幅に簡素化し(もしくはすべて廃止し)、その代わりに住民全員(世帯ごとではなく家族全員)に無条件に毎月一定の現金を支給する制度である。この考えは16世紀に英国の思想家Thomas More(トマス・モア)が、社会政治を風刺した1516年の著作『Utopia(ユートピアはモアの造語で、どこでもない即ちどこにもない場所)』で最低生活保障について触れているように、決して新しい考え方ではなく、現在世界中で様々な実験が試みられている。」

このUBIの理念は、私も応援した民主党大統領選挙候補だったAndrew Yangの選挙キャンペーンの中心メッセージでもある。Andrewは、全ての国民に月間$1,000の“Freedom Dividend”を提供すべきだと主張した。これだけではとても生活は賄えないが、少なくとも低所得者層の生活を支える糧にはなる。パンデミックによって最も大きな被害を受けるのは、これらの人達である。貧困はメンタルを破壊し、ドラッグや銃撃事件やDVや様々な犯罪を創出する。

Dorseyは5月のAndrewのポッドキャストに出演し、UBIの有効性を訴えている。「最低限の収入が保証されることで、人々は心の平静を保ち、新しい世界に向かうための学習を進めてゆける」と彼は言う。DorseyがGiveDirectlyに寄付した資金は、パンデミックによる打撃を受けた低所得家庭への現金給付にあてられた。また彼は、Andrewが設立した低所得者家庭を救済する基金のHumanity Forwardにも500万ドルを寄付している

UBIの効用は?

効用に関しては、以下の5つのポイントがあり、私が書いたブログに詳細を記してあるので、時間がある時に読んでもらえたらと思う。敢えて、もう1つ重要な点を付け加えるとすると、通常低所得者層は、給与から給与と経済的に綱渡り状態で暮らしている。そんな彼らにとってUBIは、「どんな時でも定額の給付金が入り、それによって心に余裕が生まれて、困難に陥った時にそれを乗り越えようとポジティブな心構えが生まれる」という効用も大きいと思う。

1) 貧困の消滅

2) 広がる富の格差の中で社会を下支えする人達へのサステイナブルなサポート

3) 女性の家事労働といった無償労働の可視化などで男女格差が緩まり、女性の経済的な自立への道ができる

4) 都市の人口集中緩和や地方都市の評価増などで家族が暮らしやすくなる

5)AIや自動化による雇用喪失によって失業した低賃金労働者へのサポート

UBIの財源はどうするのか?

前述のStockton市長のTubbsは、財源に関して様々な解決策を上げており、「Dorseyのような富裕層の税率を引き上げるのも一つの手段だし、2017年のTrump政権による減税策を廃止すれば、年収12万5000ドル以下の全ての米国世帯に500ドルを給付できるだろう。さらには、膨らみすぎた防衛予算を引き下げることでも資金確保には可能だ」と言う。彼は「人々や社会にセーフティネットをもたらす新たな政策が求められて今、重要なことは、まず政治的決断を下し、物事を前に進めていくことだ」と指摘する。彼は今回のUBIのテストプログラムを成功に導き、現金給付の試みが、連邦政府レベルに広がることを望んでいる。

財源の1つの方法として富裕層の税率の引き上げが言及されているが、これに関しては1つ朗報がある。7/13、世界の富豪83人が、各国の政府に対して自分たちのような富裕層に大幅に増税するようにと署名した公開書簡が公表された世界の富豪でつくる団体「Millionaires for Humanity」には、ディズニーの一族であるAbigail and Tim Disneyなどを含む、富裕層、起業家、投資家らが参加し、富裕層に増税し、富の格差の是正などに充てるべきだと訴えている。

まずは決断が必要

UBIはそう簡単に実施できないと多くの人は言うが、パンデミック対応として期限付きで、カナダ、イギリス、スペインは既にUBIを実施した。パンデミックの渦中で、時代はgroundswellともいうべき急速な変革を求めて動き始めている。これを具体化するための試みは、色んな所でなされている。

富裕層も応援する時代である。前進するためにアタマを絞って工夫すれば、良いアイディアは必ず出てくる。まずは決断である。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉗「サバイバル脳の指令」

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若者を中心に感染は拡大、感染者数は290万人、死者数は13万人になる(2020/07/06現在)

米国では50州全てがビジネスを再開した後も、コロナ感染は一向に収束を迎えていない。政府の無策或いは科学を無視した指導もあり、マスクを着用せず、ソーシャルディスタンス(SD)を守らず、生活し始めた結果、若者を中心に感染者数や死者数は、うなぎのぼりである。独立記念日の週末では、フロリダは1万1,500人、テキサスは8,300人、カリフォルニアは5,400人という、1日の感染者数として新記録という、何とも酷い状況である。

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若者たちは、高齢者と異なり、自分達は感染しても大丈夫と高をくくっているが、若者たちの間でも症状が悪化して死に至るケースも出ており、今や注意深くなったシニアよりも、若者たちの感染が拡大している。

マスク着用を政治的意見の表明とする馬鹿げた考え方が横行し、科学的な事実を信じない人達が米国には多く存在し、コロナ禍は、とても収束といった方向に向かうとは思いづらく、刻々と病床は足りなくなっている。私は過去数か月間、1週間に1度の食料品の買い出し以外は、余程の必要性に迫られない限り外出せず、外出時のマスクとSDは必須の行為として順守して、社会的責任を果たしている。マスクとSDは、市民としての「Responsibility & Accountability」だと思う。

Note :「責任」と訳される2つの言葉の違い。「responsibility」:これから起こる(=未来)事柄や決定に対する責任の所在。「誰の責任であるのか?」という時に使われる。「accountability」:すでに起きた(=過去)決定や行為の結果に対する責任、またそれを説明する責任。「誰が責任を取るのか?」という時に使われる。「responsibility」は他の人と共有することは可能だけど、「accountability」は他の人と共有できないという点が、この2つの言葉の違い。

「サバイバル脳」が不安解消のために「Bingeだらけの行動」を指令する

このパンデミックで多くの人達は「binge-watching(映画やTV番組などのコンテンツを一気に視聴する)」のように、飲み過ぎ、食べ過ぎ、ソーシャルネットワークし過ぎ、Zoomし過ぎ、など、こうした行為で、不安やストレスを解消している。また多くの人達は、今ビジネス再開で、 “Quarantine 15 (在宅太り)”になってしまい、慌てて大きいサイズの服をオンラインで購入するといったコトが起きている。この"Quarantine 15"は、元々 “freshman 15” という言葉で、「大学の新入生は15ポンド(約7キロ)太る」というものからきており、”Quarantine”は、もともと病気を拡大させないための隔離を意味しているが、「self-quarantine」のように外出自粛という意味で使われ、コロナ禍は米国では「Covid 19」と表現する。

以下は、不安解消のための気晴らしをするという人間の行為は、もともと人間に備わっている「サバイバル脳」に由来するという、ブラウン大学公衆衛生大学院准教授のJud Brewerの記事から抜粋してみた

生物学的に「サバイバル脳」は、食べ物と危険の両方を探す役割を担っている。私たちの祖先が新しい食糧源を発見した時、胃から脳に一連のシグナルが送られ、ドーパミンが分泌した。そして将来見つけるのに役立つよう、食べ物が存在する場所の記憶が形成された。危険についても同じことが言える。祖先たちが初めての場所に行く際は、自分が食糧源にならないように、目を凝らして、動くものを警戒する必要があった。不確実性が彼らを助け、それゆえ人間は種として生き残っている。 しかし、不安と気晴らしの関係を理解する上で重要な点がある。その場所をよく知れば、そこが危険であろうとなかろうと、不確実性が低下するということである。つまり、私達の祖先は一つの場所を繰り返し訪れることで、緊張を緩和することができた。 このことが今何を意味するのか? それは、確実性が高まると、脳のドーパミンの使い方が変わるということである。例えば、物を食べたり、危険な場所を見つけたりした時に、ドーパミンを放出するのではなく、そうした出来事を予期した時に放出するのである。 ドーパミンは、一般的な文献で呼ばれているような「快感分子」とはほど遠い。行動が一旦学習されると、ドーパミンは一貫して、行動したいという渇望や衝動と関連づけられる。進化の観点から、これは理にかなっている。先祖たちは一度食糧源の場所を知ったら、そこへ行って食糧を手に入れるよう、駆り立てられる必要があったからである。

Brewer教授に言わせると、我々は現在のパンデミックに対して、全く同じことを行っていると指摘する。

退屈や不安を感じると、人々はお菓子を食べる、ニュースフィードをチェックするといった衝動に駆られる。胃や胸に不快感が生じ、何かがおかしいと気づく。脳が「何かをやれ!」と命令し、特定の行動つまり気晴らしをすると気分がよくなる。大事なことをやるべき時、YouTubeでかわいい子犬の映像を(繰り返し)見るのは、脳にとって当然の選択で「サバイバルの基本」である。気晴らしをすることは、古代に危険や未知のものを回避していたのと同じなのである。不確実性は不安を生じさせ、不安は何らかの行動を促す。 その際の問題は、多くの場合、気晴らしのための行動が、不健康で役に立たないという点である。永遠に食べ続けたり、酒を飲み続けたり、Netflixを見続けることはできない。実際、それをやるのは危険である。脳がそうした行動に慣れてしまい、最終的にいつもの成果を得るために、もっとやらなければならないからである。サバイバル脳は人間を助けようとしているが、断ち切ることが困難な習慣や、依存にすら向かわせていることに、人間は気づいてない。

 "Anxiety-Distraction Habit Loop(不安―気晴らしの習慣ループ)"をどのように断ち切るか?

Brewer教授は、 "Anxiety-Distraction Habit Loop(不安―気晴らしの習慣ループ)"に陥っている場合、自分が望まない習慣をつくり出し、それを継続させる"Trigger-Behavior-Reward(引き金―行動―報酬)"というプロセスを明らかにする必要があるという。 引き金(不安)、気晴らしの行動(食ベる、酒を飲む、テレビを見る)、報酬(気晴らしをすることで気分がよくなる)を認識する。 次に、その習慣のループがどれだけの報酬をもたらすかを考える必要がある。脳は報酬のレベルに基づき行動を選択する。無理に食べないとか、ソーシャルメディアをチェックしないようにするのではなく、自分の行動が招く精神的・身体的な結果に焦点を当てる。その短時間の気晴らしで、どう感じるか?どれくらい続けるのか?タスクを完了できずに不安が増すなど、裏目に出る結果をもたらす影響はあるか?といった点である。 注意すべきは、すべての気晴らしが悪いわけではないということで、問題となるのは、求める報酬が得られなくなった時である。報酬のレベルは典型的な逆U字型のカーブを描くので、ある時点で気晴らしの楽しさは頭打ちになり、そこから先は下降し、落ち着きがなくなって不安な状態に戻り、また別の楽しいことを探そうとする。

そして、このプロセスの最後のステップが「BBO(Bigger Better Offer:より大きくて、よりよい試み)」を見つけることである。脳は報酬のレベルがより高い行動を選択するので、悪い習慣よりも報酬レベルが高い行動を見つける必要がある。 その際、必ずしも新しい行動を選択する必要はない。有益から有害に変化した時点で、その行動をやめることもいいと教授はいう。

自分の不安およびその解消方法を認識する

不安解消のための気晴らしは、誰も必要だが、その習慣化或いはちょっときつい言い方だが、それに依存し始めると厄介な問題となる。日本は世界でも稀有といっていいほどの、パンデミックにおける特殊な位置づけの国である。世界中の科学者が、日本のこの感染状況の原因を分析しようと色々言及しているが、みんな首を傾げるばかりである。東京都で1日に100人増えたといった情報を目にするが、米国在住の私として、まあ何と微笑ましい牧歌的な国なんだろうと思う。だから、日本ではこの問題はそれほど重視されないのかもしれない。

但し、米国のパンデミックの長期化は自明の理で、いつどんな形で収束するか予想がつかない。人々の不安は消えず、「サバイバル脳」による指令によって、気晴らしは悪習慣になる可能性が否めない。まず、我々がやらなければならないことは、長期化する以上、不安解消で実施している行為が、本当に自分たちに「報酬」をきちんと与えているかどうかを検証して、高い結果を得られない場合は、より良い行動を見つけることから始めるしかない。

口で言うのが簡単だが、水は低きに流れるがごとく、人は手軽なものに手が出る。だからといって自分を甘やかして放任するわけにもいかない。兎に角、まずは何事もBingeし過ぎないように自戒したい。

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アメリカの現実⑦「広告主は本気でヘイトスピーチや虚偽情報を載せるソーシャルメディアに怒っている」

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大企業の広告ボイコット運動によって、7月以降プラットフォーマーは本当に変わっていくのか?

Unileverは昨年Facebookに4,230万ドルの広告出稿をしているが、6月26日、ヘイトスピーチや米国の分断を煽るような虚偽のコンテンツを放置するFacebookに関して、年末まで広告出稿を中止すると発表した。この出稿停止の対象メディアは、Facebook、Instagram、Twitterである。またCoca-Colaは、ソーシャルメディア(Facebook, Instagram, Twitter, YouTube and Snap) のグローバル広告を、少なくとも30日間出稿停止すると発表している。電通傘下の360i、IPG Mediabrands、MDCのMedia Kitchenといった広告エージェンシーの幹部も、クライアントに対し、Facebookに投じる広告費を見直すよう助言している。

名誉毀損防止同盟(ADL)や全米黒人地位向上協会(NAACP)などの市民団体による、7月のFacebook広告のボイコットの呼びかけに、Verizon、Ben & Jerry’s、Patagonia、 VF、North Face、Eddie Bauer、REIなどが参加を表明している。

アップデイト:参加企業は6/29時点で230社まで増えた。上述以外の大企業では、Microsoft、Ford Motor、Clorox、Denny’s、Levi Strauss、Starbucks、Diageoなども参加している。

ハッシュタグ「#StopHateForProfit(憎悪を利益にするな)」をもとに、2020年米国純売上高310億ドル(5%増)という予測(eMarketerによる)のFacebookに対して、鋭い非難の声を突き付けている。 ADLは6月25日、広告主宛ての書簡で「見え透いたうそ」が含まれる政治広告の削除をFacebookは繰り返し拒否したと述べている

以下の表は、2019年のソーシャルメディアの広告レベニューである。Facebookはおよそ700億ドルのレベニューを得ており、この収益の元にヘイトスピーチや虚偽情報コンテンツがあることへの怒りは大きい。

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FacebookのCEOのMark Zuckerberg (MZ)は6月23日、大手広告主や広告代理店幹部との電話会議に参加し、広告主の懸念を傾聴しながらも、Facebookの中立の原則を繰り返し述べており、FBの幹部はヘイトスピーチを検出できるAIの開発を継続するなど、ヘイト対策への投資を増やすことを約束した。こうした状況下で、ついにFacebookは、Unileverの発表の1時間後、Unileverの社名は出さなかったが、MZ自身が早急の改革を図ることを発表した

毎回広告ボイコットからするりと逃げていたプラットフォーマーだが、今回は簡単に逃げられない

アイロニカルな話だが、800万以上の広告主を抱えるFacebookは、中小企業の広告主も多く存在し、こうした大広告主による広告ボイコットは、彼らにとってはその隙間に入り込めるチャンスともいえる。Mom & popの小規模企業にとって、莫大なオーディエンスにリーチできるFacebookとInstagramは、容易に使えるセルフサービスの広告プラットフォームである。それも含めて、過去何回もFacebookへの広告ボイコットは起きていたが、Facebookはのらりくらりと、矛先をかわして、広告主の広告ボイコットという抗議は長続きはしなかった。但し、今回の規模と拡大と真剣さは過去に例がない。プラットフォーマーは、これにどこまで対処するかは、今の時点では不明であるが、今回は逃げられないと思われる。

従来の広告主の広告ボイコットは主に影響力の行使で、ターゲティング、測定、詐欺などの広告に特化した変更を、プラットフォーマーに要求した。但し、今回の広告ボイコットは、広告主は自らを社会のために正しいと信じていることを行う存在として位置づけて、行動を起こした即ち企業は、自らのPurposeのためには、例え一時的に広告停止によって利益を落としても、自らの信じる価値観のためならば、それをすべきだと考えて、行動を起こそうとしている。

ソーシャルメディアの果たす役割の大きさが広告主を動かす

6月2日、何百もの広告主が「Blackout Tuesday」に、BLM(Black Lives Matter)を表明しながら、人種差別に抗議して、ソーシャルメディアに黒く塗りつぶした四角い「黒い羊羹(注:これは私の表現)」を投稿した。TinuitiによるPathmaticsのデータ分析によると、Facebookにはこの日、通常の40%の広告費しか支出されなかったという。

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世界広告主連盟(WFA:World Federation of Advertisers)のCEOは、「今回とこれまでの違いは問題の性質である。私が感じているのは、社会が分断し、大きな混乱を経験している今、ソーシャルメディアのプラットフォームが社会で果たす役割についての関心が高まっていることだ」と言う

11月の米国の大統領選挙もあり、今回の広告主の動きは、社会に対するソーシャルメディアの巨大化する影響力への楔であり、今までとは異なり、社会的なうねりと同調しながら、その影響力を利益の簒奪のみに使うコトに反対の狼煙を上げている。Facebookを始めとするソーシャルメディアが、どのように対処していくかは、ここでしっかり見極める必要がある。

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アメリカの現実⑥「変化を求められる広告エージェンシーの企業文化」

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日本では理解し難いエージェンシー内の白人中心文化

今朝目にしたDigiDayの記事 「エージェンシーの「白人文化」に、黒人社員が変革を求める:「プレッシャーは効いている」」を読んで、すっかり忘れていたが、自分も24年前、米国の広告代理店San Francisco McCann Ericksonで勤務していたことを思い出した。1996年私は、デューティフリー製品を販売するDFS Group担当のAccount Supervisorとして雇用された。DFSのターゲットオーディエンスは、日本人買い物客で、広告は日本の雑誌に掲載することがメインだったので、米国に移住したばかりで職探しに苦労していた私は、自分のStrengthを発揮できると有頂天になった。但し、実際はメディアバイイングを日本のマッキャンエリクソンに委ねていたことから、日米のグループ会社は利害関係が異なり、私はリエゾン的な立場で、両者から球を投げられ、それを捌くという、非常に難しい立場だった。

当時日米間のコミュニケーションは電話とFax主体で、毎晩日本の媒体担当と電話で話し、SFから出るCaltrainの最終の1本前の22:35発に乗りたいが、殆ど乗れず、最終の0:05発に乗ることが多かった。朝はまだ星が出ている時間に家を出て、夜は最終便だったので駅員にもすっかり顔を覚えられて、また今晩も遅かったねと声を掛けられるぐらいだった。

嫌な思い出の1つは、週に1度の英語だけで話す日米のチーム電話会議で、米国チームは英語でまくし立て、日本チームは殆ど反論しないという流れだったが、会議終了間際に日本の担当が「大柴、これが終わったら残れ。日本語で話をつける」と言い放った瞬間である。米国チームは「今、彼は何と言った?」と聞くので、仕方なく私は「彼は私だけ残って日本語で話を詰めたい」と答えると、全員が激昂して「絶対に電話に出てはいけない。彼は会議で全員に話すべきで、ひさみ1人に日本語で話しあうというのはルール違反だ」とわめきだした。私は日本に送る原稿入稿の時間がかなりきついので、今晩彼と話さないと間に合わなくなると説明して、結果日本からの電話を取った。日本の担当者は怒りに震えた声で、米国チームの勝手な言い分を罵り、私はいやいやながら彼を宥めて、何とか原稿入稿を終わらせた。

今思えば、当時の私は日本から来たばかりで、英語がフルーエントではないというコンプレックスによって、米国エージェンシーというプリマドンナ(自分が目立つ・注目されることだけを望む人)だらけの業界で、チームリーダーでありながら、チーム内で嫌われることを恐れて「良い人」であろうと、必死にもがいていた。今日書こうと思ったエージェーンシー内の人種差別とは異なるが、「英語が出来ないというだけで、まるで能力ゼロのように見られる外国人という差別」の中で苦しんでいたのは事実である。

特にエージェンシーでクライアントとの窓口となるAccount SupervisorやAccount Executiveは、24年前は白人が殆どで、それも外見の良いような人が担当者となって、クライアントに通っていた。San Francisco McCann Ericksonで、私が覚えている限りでは、営業は全て白人で、それ以外の部署にアジア系が1人、ヒスパニック系が1人、アフリカ系は皆無で、外国人は私1人ということで、全て白人中心で回っていた。

エージェンシーの中の黒人社員は「白人文化に馴染んで同化するように仕向けられる」

米国の人気Sitcom television seriesに「Black-ish」という番組があるが、黒人のアッパーミドルクラスの家庭を描く、2014年から続く人気番組である。主人公のAndre 'Dre' Johnsonは、白人ばかりのエージェンシーで唯一の黒人のエグゼクティブで、黒人をターゲットするプロジェクトでは、Strategistとして、白人チーム内で常に意見を求められる。彼は白人の上司及び同僚達のステレオタイプな黒人像に、いつも呆れて激昂しながら、エージェンシー内で苦労している。

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このTV番組で訴求されるメッセージと同じことが、今朝のDigiDayの記事の中に書かれてあった。

あるエージェーンシーグループに勤務する黒人のStrategistであるBrandon(仮名) は、仕事は好きだが、常に黒人社員が「白人文化に馴染んで同化する」よう仕向けられる、エージェンシーの「一枚岩」文化に悩ませられているという。複数のエージェンシーで経験した人種差別的カルチャーについて、以下のように語っている。

“I’ve always been like, ‘I can take that, I can deal,’” “But right now, the combination of what’s happening with how my agency has handled everything up to this point—to be candid, I feel disrespected. We’ve received a number of emails but not one of them has any points of action. So obviously when the fifth one comes through, I’m like, ‘Ok, now you’re insulting my intelligence.’”「『これくらい受け入れられる、問題ない』と、いつも自分を納得させていた」「だが、いま起こっている事態と、エージェンシーがこれまで問題にどう対処してきたかを考え合わせると、はっきり言って私は軽んじられてきたと思う。(会社から)たくさんのeメールを受け取ったが、どれひとつとしてアクションポイントを示していなかった。だから、5通目のメールを見たときは、『私の頭が足りないと思っているのか』という気分だった」

広告業界に勤務する黒人社員達の改革を求める公開書簡

今世界中でBLM(Black Lives Matter)の抗議運動の嵐が吹きすさぶ中、Brandonを含む広告業界に勤務する600名の黒人社員達が「エージェンシーの変革を求める公開書簡に署名したこれを主導したのは、Periscopeのグループ戦略ディレクターのNathan Youngと、Aerialistの創業者のBennett D. Bennettで、黒人社員とそれ以外の有色人種の社員が働きやすいよう職場環境を改善するための12の具体的なアクションを列挙した。

これはエージェンシーのリップサービスや旧態依然ぶりに辟易している社員たちが、真のDiversity  & Inclusionのために変化を求めて、ボトムアップの圧力をかける事例である。この書簡で社員たちはエージェンシーに、黒人社員の割合を増やす努力、Diversityに関するデータを公表することを求めている。エージェンシーがどう対応するかは、いまのところ未知数である。

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Black agency professionals have an unequivocal response for U.S. advertising agencies: release your diversity data and reform your practices now.
Kacy Burdette

記事によれば、IPG、WPP、Omnicom Group、Publicis Groupe、電通からは現時点で回答は得られていない。唯一Havasは、フランスの法律で社員の民族的出自に関するデータの収集は禁じられているものの、「彼らが作成したリストを指針として利用し、包括的な取り組みに基づいて、ビジネスにおける意思決定を行う」としている。

もうエージェンシーは社内の人種差別を無視出来ないレベルに近づいている

このエージェンシーにおける人種差別は、長い間言われてきたことで、ことさら新しいコトではない。ただ往々にして、エージェンシーが実施した主な対策といえば、Diversity & Inclusionの担当責任者を採用して、彼らに丸投げするだけで、成果をあげるために必要なリソースを提供してこなかった。要は、誰も真剣に取り上げて改善する意思がなかったといえる。

但し、今回はそうはいかない。

すでにGorge Floyd事件から3週間以上経つが、抗議行動は収まらず、BLMを求める一般の眼は、政府・行政・警察のみにとどまらず、お為ごかしの言葉のみでBLMに賛成する企業に対しても、「本当に人種差別や社会的不平等撤廃を行動を伴って実施する気はあるのか?」と鋭い眼差しを投げつけている。そうした企業をクライアントとして抱える広告業界が、いつまでも「白人中心文化」というぬるま湯につかっているとしたら、クライアント側は、そうしたエージェンシーを切っていく。これは今後間違いなく起こりえる現実である。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉑「在宅勤務の浸透で最も重要なコトは、企業と社員の信頼関係の構築」

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オフィスのデスクの前でPCのモニターを見つめてタイプを叩いている姿のみが、「社員の働いている姿」としか思えない、管理職がまだまだいる。そうした管理職の中には、「在宅勤務の部下の勤務状態に信頼が置けないから、オンライン経由で可能な監視ツールを使おうをしている」人達もいる。在宅勤務に関するこうした管理職の不安は、「天唾(天に向かって唾を吐くようなもの)」だと思う。彼らは、自分の部下が、どのような人格でどのように働くかを把握できていないから、可視化できないと不安になる。仕事は、相手(上司、部下、同僚、顧客)との信頼関係なしには成り立たない。

無期限の在宅勤務を発表する米国のテック企業

米国では今朝Facebookが、無期限で在宅勤務を許可する計画を発表したMark Zuckerbergは、10年後の2030年までに全社員の半数は在宅勤務にする方向であるという。新たに雇用するシニアエンジニアは在宅勤務で、既存の社員はパフォーマンスがポジティブ評価ならば、無期限の在宅勤務の許可を得られる。すでにTwitter及びSquareも、2社のCEOのJack Dorseyが、「無期限の在宅勤務を認め、社員全員にホームオフィス用のサプライ購入のために$1000を支給する」と発言している。FacebookもGoogleも、既にパンデミック対応で社員の在宅勤務を今年末まで実施するようにしており、他のシリコンバレーのテック企業も同様で、「在宅勤務」の浸透はパンデミックでさらに加速化し、今後のホワイトカラーの働き方を大きく変える方向を示唆している。

在宅勤務は2021年末までに25-30%まで増えると予想

パンデミックは、我々が今まで日常当たり前だと思ってきた様々な固定概念に異なる角度から光を当てて、新たな事実を視覚化・再認識させた。米国では一見在宅勤務が浸透しているように見えるが、実際には2016年の調査で僅か3.6%が「半分あるいはそれ以上の在宅勤務」を実施しており、企業が実施を許可すれば、56%はリモートワークが可能であると推定されている。また別の調査では、37%がリモートワーク可能で、シリコンバレーの場合は51%は在宅勤務可能という。パンデミックによって在宅勤務の重要性と必要性が認識された今、テック企業云々に限らず、2021年末までに「1週間のうちに何回かは在宅勤務が可能」となるのは25-30%と予想されている。多くの企業は、今どれだけ、在宅勤務が企業にベネフィットをもたらすかを、再認識し始めている。

在宅勤務の必要性とベネフィット

1) Risk Management:今回のパンデミックが、収束に向かったとしても、否が応でも、パンデミック、或いは壊滅的な影響を与える自然災害は、今後もまた起こりえる。その場合、当然のように大規模なロックダウンや自宅待機が起こる。そうした危機に備えて、企業はProactiveにどういう体制で臨むべきなのかを考えれば、必然的に在宅勤務システムを何らかの形で、企業組織に取り入れる必要が生じる。

2)莫大な経費削減効果:物理的に人がオフィスで勤務している場合でも、実際には50-60%はデスクを離れており、実は無駄な勤務状態(=経費)が発生している。コロナ禍の間、米国企業の在宅勤務のイニシアティブは、1日当たり300億ドルの経費削減が可能と試算されている。さらに、在宅勤務によるビジネストラベルの削減は、半分をリモートワークにすると、社員1人当たりに$11,000の経費、社員も年間$2,500から$4,000の個人的な経費が削減できるという 。 実際に在宅勤務が浸透すれば、オフィススペースは縮小され、オフィス維持にかかる経費も大幅に削減され、従来企業経営で必須経費と考えられていた費用は大きく減少する。

3)社員がより幸せになると生産性は上がる:米国の場合は、職種に限らず、最低限度の在宅勤務を80%が望んでいる。日本では満員電車の通勤、米国では渋滞の中での通勤が、どれだけ社員のストレスになっているかを、今回多くの人達が同時に再認識した。勿論在宅勤務となり、オンラインミーティングが入りすぎて、忙し過ぎるという声もあるが、米国では時間の自己管理がより可能となり、上司や同僚とのコミュニケーションで邪魔される時間がなくなり、より効率的になったという声を耳にする。また、多くは家族や友人との時間や趣味に使える時間が増えて、嬉しいという。在宅勤務に慣れている人は、特にこの傾向が強く、コミュニケーションツールの進歩と普及は、在宅勤務初心者でも慣れれば、より快適になると推測できる。

なぜ我々はオフィスに行くのか?

どの職業或いは企業を選ぶのか?ということは、今までは「オフィスに毎日通う」というコトを前提に、人々は選択していた。そのため、人々は無理して住宅や物価が異常に高いにシティに住むか、或いは異常に長い通勤時間を受け入れていた。在宅勤務は、その固定概念を覆し、自分が住みたい場所に住みながら勤務可能という、新たな方向性をもたらした。特に人の密集するエリアの危険性と不便さは、多くの人達が今回のパンデミックで再認識した。夫婦が2人とも在宅勤務、子供達全員が自宅学習といった特殊な状況は誰も予想しておらず、自宅における自らのワークスペース確保の準備はなされていなかった。そうした問題も、今後は在宅勤務浸透によって、より密集度の少ないエリアで(=低い生活費で広い居住スペース)、ホームオフィスが確保できる環境を選べるというコトで、解決できる。すでにパンデミック前の2018年の調査で、SFベイエリアの住民流出は始まっており、46%は住宅価格と生活費の高いことを理由に、この地域を離れる予定だと回答している。また2019年のテック系社員対象の調査でも、Gen Z & Millennials(18-34歳)の41%が、2020年中にシティを離れる予定と回答している

在宅勤務のポイントはお互いが信じあうコト

在宅勤務の浸透は、雇用や人事評価などにも大きな影響と変革をもたらす。冒頭で述べたように、部下の勤務状況をオフィスで可視化できないと、勤務評価をできないような管理職や評価システムは、今後企業内でワークしなくなる。雇用時のJob descriptionの明確化と組織に頼らず自主的な勤務活動が可能な人物の選択といった形で、企業内の無駄な人材を削減する可能性が高まる。但し、こうした成果主義的なワークスタイルで最も重要なことは、例え可視化できなくても、相手を信じる信頼関係が構築されているかどうかという点である。管理職側の不安も分かるが、それ以上に、社員も管理側の評価が公平に行われているかといったコトに疑問を持つ。両者が不信感や疑問を抱かないように、企業として高度なポリシーとカルチャーを持つことが、New Normalとして浮上してくる在宅勤務を成功させる重要なカギとなる。

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寅さんではないが、ビジネス上で「それを言っちゃあ、お終いだよ」と思われる11の英語表現

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今日は、ビジネス上、英語に限らずどの言語でも(日本語も含む)、寅さんではないが「それを言っちゃあ、お終いだよ」と、相手から思われる表現を紹介する。これはEntrepreneurで紹介された記事で、私風に言い換えている。

1. 'It’s not fair.'

誰もが世の中は公平でないことは知っている。これを言った途端に、他の人は「この人はナイーブで、大人になり切れていない」と思ってしまう。日本の人はあまり「Fair」って言葉は使わないけど、英語では意外と目にする。意味的には、「依怙贔屓や偏見がなく公平な」、「個人の感情や利害に影響されず適正な基準に従っている」という感じなので、これを社内で使うと、多くの人達の眉が上がってしまう。

2. 'This is the way it’s always been done.'

コロナ禍で生きる今、言うまでもなく日々、1週間、1か月で物事や環境は急激に変化している。「これが、今ままでいつもやって来たやり方」といった瞬間に、「この人は変化に適応できない、或いは新しいことにトライしない旧習派の人間だ」と思われる。コロナ以前も然り、テクノロジーの進歩の速度は、とんでもなく速く進む、これに乗り遅れたらビジネスでは生き残れない。既得権益に固執している人間は、ビジネスでは脱落する。

3. 'No problem.'

この言葉を簡単に使う人が多いが、誰かがこれをお願いしますと頼んだ際にこう返されると、「えっ、私が頼んだことって問題なの? 何か押し付けたっていう訳?」というニュアンスが感じられる。この場合は、頼まれたことを喜んでやりましょう、或いは喜んでやりました、という表現がベターなので、 “It was my pleasure” とか“I’ll be happy to take care of that.”が、ポジティブな言葉がいい。大切なのは、ネガティブ表現ではなくポジティブな表現で会話を進めること。私は頻繁に“It was my pleasure” を使うが、何か自分がしたことに対して、相手が感謝している場合は、自分も嬉しいので、自然とこの表現がすぐ口に出る。

4. This may be a silly idea .../I’m going to ask a stupid question.'

こういう極端に自分を卑下した、或いは日本語風にいうと「へりくだった」、英語で言う「overly passive phrases」は、兎に角、ビジネスでは使わない方がいい。相手は「そんなに不安で自信がないんだったら、何も言わなくてもいいよ」と思ってしまう。例え、このフレーズの後に、素晴らしいアイディアや質問が続いたとして、既に相手の気が削がれているので、みんなまともに聞かなくなる。米国では、日本的な謙譲の美徳は、ほとんど通用しないので(あることはあるけど、それは相手がインテレクチュアリに優れている人に限る)、例え、多少自信がなくても、堂々と自分の意見や質問を言う方が、好感が持たれる。

5. 'This will only take a minute.'

この表現通り、本当に60秒間で、何かの話、或いは説明ができるのであるならば、使っても構わないけど、こういう風にアタマを振る人に限って、実に長い話をし始める。みんなそれが分かっているので、聞いた途端にうんざりする。だからそれを覚悟で使いたい人は、使えばいいと思う。

6. 'I’ll try.'

ビジネス会話でこの言葉を聞くと、「この人はTryと言うくらいだから、やってみましょうというぐらいに暫定的で、タスクを成し遂げる自分の能力に関して自信がないんだな」と思ってしまう。ビジネスでの依頼事項に関しては、しっかりコミットするか、出来ないと思った場合はオルタナティブを自ら提供するという具合に、明解に回答すべき。英語の会話で、Tryって言った瞬間に「出来る限り」というニュアンスがにじみ出て、タスクへの逃げが見えてしまう。米国では「一生懸命努力しました(英語になりにくい行為)」っていうのは、結果を出さない限り、殆ど評価されない。

7. 'He’s lazy/incompetent/a jerk.'

まあ滅多に面と向かって社内の同僚に、こういうフレーズで他の同僚をけなす人はいないと思うが、それでもたまにこんなことを社内で口走る人はいる(日本だとお酒の席とか)。「怠け者、無能、我儘で自分勝手で最低の人間」といった人が社内にいたすれば、それは誰もが知っていることで、あえて口にすべきことではない。口にした途端、その人が逆に彼らの仲間入りをすることになる。自分が、そのような人間を解雇できる立場にいるか、或いは彼らをより良くする方法を知っているかという場合を除いて、同僚への批判は一切口にすべきではない。それらは、あとでブーメランのように自分に向かって、批判と中傷が投げ帰ってくるから。

8. 'That’s not in my job description.'

米国では当然のように仕事の内容は、入社前の雇用契約の際に、お互いが確認しあって雇用されるが、それでも契約した内容以外の仕事を、上司から依頼されることはある。その時、このフレーズで返してしまうと、上司は「この人は、最低限度の契約で規定された仕事しかせず、給料をもらおうとしていんるんだ」と思われて、今後の雇用に関するセキュリティのリスクが、ここで刻まれてしまう。勿論出来ないものは出来ないので、中途半端に請け負うことにはリスクが伴うが、ベストな動きは、やれる内容であるならば達成して、次回のSOW(Statement of work)を上司と話し合う時に、それを机上に持ち込む方がいい。その時、上司とは長期的に、自分が何をやるべきかを話し合い、お互いが理解できるようにするのが大人のやり方。

9. 'It’s not my fault.'

これはビジネスに限らず、どんな状況でも「それは自分のせいじゃない」という子供じみた言い訳は、避けるべき。例え、確かに自分のせいではなくても、何か最悪なことが起きた場合には、何らかの己の過失も含まれており、大人としては、常に事実に基づいて「Be accountable (説明責任、即ち起きたことへの責任)」に、上司や同僚と話すべき。闇雲に他の人に責任を被せたりすると、周囲はその人と一緒に働くことを避けるようになり、次回最悪なことが起きた場合は、その人に非難が戻ってくる。

10. 'I can’t.'

この言葉は、上司や同僚が聞くと「I won’t(自分はやりたくない)」に聞こえるので、職場では使わない方がいい。例えば、今日中にこの仕事をお願いと頼まれたら、「今日中には出来ない」というのではなく、“I can come in early tomorrow morning. Will that work?( 明日早く出社してやりますが、それで大丈夫ですか?)という方が、より建設的な会話となる。

11. 'I hate this job.'

これは、もう寅さんじゃなくても「これを言っちゃあ、お終いよ」の究極的フレーズ。言わずもがなだけど、日本の人は我慢強いのであまりこの手の表現は使わないし、聞かないと思うけど、米国の社内では結構いる。上司にしてみると、こういう人が社内のモラル低下の大きな要因になることを知っているので、これをキャッチした瞬間に、その人の解雇を考え始める。「お酒の席でも、これだけは言っちゃあ、お終いだよ」

これは言葉だけの問題ではなく、「Attitude(態度・姿勢)の問題」だと思う

私の40年以上のビジネス経験で、言えることは、周囲(仕事もプライベイトも)には、ポジティブな人を集めるのが、ビジネス成功の秘訣。これに尽きると思う。はっぴいな考えは、はっぴいな行動を生み、はっぴいな人間関係を構築し、仕事も家庭もはっぴいになる。その反対にネガティブな人が、周囲に1人いるだけでも、空気は淀んで、負のムードが覆いかぶさってくる。言葉はとっても重要で、どんな言葉を使うかによって、その人の人間性が見えてくる。ポジティブな表現で話す、それを心がけていると、自然と道が開ける。

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コロナ禍でのアメリカ生活⑯「Zoom疲れ」があってもZoomがないよりはいい

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断り切れない付き合いがもたらす「Zoom Fatigue(Zoom疲れ)」

「Zoom Fatigue(Zoom疲れ)」の記事がグローバルのいろんな国で目に付く。自宅勤務となり、本来ならば通勤や無駄な会議に割いていた時間がセービングされて、もっとゆとりを持って24時間を使えるはずであったが、物理的な社会生活が遮断された代わりに、それらを全てオンラインに移行してしまったため、多くの人達が多忙を極めている。自宅にいるので幾らでもスケジュールを詰め込めると思い、仕事に限らず、オンラインで音楽・映画鑑賞、スポーツ観戦、さらに飲み会といったものをどんどん入れ込んでいる。

米国は日本とは異なり、「上司や同僚との付き合いのために飲む」という習慣はない。まして幾つかの大都市を除いて、公共の交通機関のない米国では、車通勤が主要な交通手段である以上、会社の帰りにちょっと1杯といった行為はまずありえない。自宅待機がもたらした新たな米国の悩みである「Zoom疲れ」は、単純に言うと「車だから」とか「子供のピックアップがあるから」、「夜は家族と一緒に過ごす時間なので」といった言い訳が聞かなくなり、多くの人達がずるずると「Zoom Happy Hour」に参加して、断りにくい社交が増加したことに起因する。

「Zoom飲み会」の難しさ

自宅で行われるZoomでの飲み会は、意外と難しく、多くの人達は、思っていたほど単純に楽しいものではなく、色んな不備をソーシャルネットワークで投稿している。特に指摘されるのが、並列的に複数の会話が進行出来ないという点。このため、1つの話題のみを声の大きな人(私のようなお喋り)が話し続けて、尚且つみんな話題が途切れて沈黙になるのを恐れるので、MCのような飲み会の進行的役割が必要になるという点。これは、私も末娘のZoom weddingに参加したが、30名以上の参加者は、1人を除いてみんなミュートにしており、結婚式の流れの中、司会者の長女が画面から外れると、気まずい沈黙が流れ、それをカバーするために、参加者の1人は勇気をもって発言していた。

人は、なぜF2Fで会って飲みたいのか?

日本とは時差があるために私自身はマジな「Zoomの飲み会」というのはやったことがなく、コーヒー片手のZoomのお喋りのみだが、他の人の投稿を見て思ったことは、要はインターネット経由では、仲間と一緒に楽しくお酒を飲むということは、非常に難しいという点である。理由は、モニター経由で顔を見せあっても、物理的な近距離で顔を見るのとは異なり、「表情」が読めないためである。なぜ相手の「表情」がそんなに重要なのか? 

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The Naked Ape: A Zoologist's Study of the Human Animal Paperback – 6 Oct. 2005

人類学者のRay Birdwhistell は、人間は異なる顔の表情を25万通り作ることが可能だという。またボディランゲージの専門家のAllan and Barbara Pease は、人の主張が交渉に与える影響のうち60%から80%はボディランゲージによるものとしている。即ち、非言語的コミュニケーションの中心である「顔の表情」が、実は物理的な飲み会を司る重要な役割を占めているという点である。例えF2Fで沈黙が訪れても、参加者達はお互いの表情を読み込んで、それは「心地よい沈黙」だと認識できる。また当然のように、並列的に複数の会話は流れるので、1つの話題に固執することなく、多数の話題のストリームが自由に流れる。

要は、人は美味しい食事とお酒を潤滑油として、心を開いて、参加者の顔、声、動作を見ながら、お互いをもっと知りたい、或いは自分のコトを知ってもらいたいという欲求のもとで、F2Fで会ってお酒を飲みたいんだと思う。スクリーンでは、この非言語コミュニケーションが見えにくいし、今のヴィデオ会議のツールの作り方が、F2Fの飲み会のフローの再現できない。

それでもZoom飲み会があって良かったと思う

でも自宅待機の中で、例え限界があるにせよ、インターネット経由で誰もがライブで簡単にヴィデオチャットできるツールが、今この時期にここまで浸透していたことは、実に有難い。人間にとっても最も過酷な刑罰は、「孤独」である。刑務所で服役中の囚人をより懲らしめるために「独房(solitary cell)」に入れる場合がある。通常人は「孤独」に耐えられず、改心を誓う。

人類は、他者とのコミュニケーションを求める欲求によって進化してきた。今回のコロナ禍は、もしかしたらこの人類の欲望である「他者とのコミュニケーション」に違った意味での進化をもたらし、より良いコミュニケーションの仕方やツールの開発をもたらすかもしれない。

来週の夕方18時の日本の友人とのZoomお喋りは、コーヒーではなくワイン片手にしてみようかな。

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