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#米国暴動

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アメリカの現実③「米国に起きた警察の軍事化とは?」

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「なぜ米国の警官は軍隊のように武装しているのか?」

日本に住んでいる人は、米国のGeorge Floyd事件によって広がった全米規模で拡大する市民の抗議行動と、それに対峙する警官との異様な構図に首を傾げる人も多いと思う。警官の武装の物々しさと、軍事行動とも思えるほどの態度、さらに平和的な抗議行動をとる市民達への催涙ガスやゴム弾による威嚇など、通常の日本の警察の常識から考えたら、あり得ないほどの過激さである。20代とおぼしき若い女性は突き飛ばされて、道路の溝にぶつけられて骨折し、75歳のシニア男性も突き飛ばされて、頭部を打って昏倒したまま置き去りにされるなど、ヴィデオを通じて描写される米国の警官達の無表情で攻撃的な行動は、理解しがたいものがある。

軍隊から警察にトランスファーされた大量の武器

1033プログラム」の下で、1990年から2017年の間、およそ60億ドルの金額に上るアイテムが、United States Department of Defense (アメリカ国防総省)から警察にトランスファーされた。「1099プログラム」とは、1990年に開始された国防総省の余剰武器処分計画プログラム。連邦政府の余分な武器を州政府および地方自治体を通して、地元警察に配送することを認可したもの。これには「controlled items (例:ドローンやヘリコプターなど)」と、「uncontrolled items (例:家具やツールなど)」といった、ラップトップから自動小銃まですべてのアイテムが含まれる。2018年のRANDの分析によれば、2015年から2017年の会計年度では、トランスファーされたものは、uncontrolled itemsは12億ドル、controlled itemsは7億7500万ドルの価値に充当する。

以下は、RANDによる2018年の国防総省から警察にトランスファーされたアイテムを実際に購入した場合の内訳であるが、総額は18億ドル8900万ドル以上となる。内訳は以下の表にあるように、MRAP(耐地雷・伏撃防護車両 )849台(約5億8300万ドル)、エアクラフト458台(約4億3300万ドル)、輸送トラック5608台(約2億8500万ドル)、5.56mmライフル6万4689丁(約2800万ドル)といった莫大の数および金額の元軍隊の使っていた武器が警察に渡った。

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「1033プログラム」とは?

1033プログラムは、1990年当時は主に麻薬犯罪に対抗する警察官を援助する為開始されたプログラムであったが、2001年9月11日のテロ攻撃後、連邦政府の反テロ対策の一環として警察を軍隊化するために、大幅に拡大された。

2014年ミズーリ州のFergusonで白人警官による18歳のMichael Brownの射殺事件が起きた、大規模な抗議デモが発生し、その鎮圧のために重装備の警察が出動し、市民から多くの非難が起こり、これを受けた当時のObama大統領は、1033プログラムの1部を改正した。しかし、2017年大統領に就任したTrump現大統領がプログラムを再開した。

勿論今回のGeorge Floyd事件への抗議運動に対して、警察は1033によって軍隊から提供された武器を市民への威嚇に多く使っている訳ではない。ただ、Trump大統領の「地方自治体の警察に対して、治安維持のためならば、警察の軍事的行動も必要」というメッセージを裏付けるように、警察は市民に対して、MRAP、閃光手榴弾、催涙ガス、ゴム弾、防弾チョッキ、ヘルメットなどを使って、威嚇しているのは事実である。

警察の黒人コミュニティへの日常的な締め付けを、今回は全てのアメリカ人が目撃してしまった

警察の軍事的な威嚇は、日常的に黒人コミュニティで行われている。例えば黒人に対して令状を執行して家宅捜査をする際、ただ単に逮捕するのではなく、Mallet(破城槌)や装甲車、暗視ゴーグルなどを使って強制捜査を行い、犯罪に使われた可能性がある金銭や物品を押収する。多くの警察では、押収された金品を売って警察の予算として使うことが許されている。そのため、武装化は警察の予算確保にとってなくてはならないものになっているという分析もある。

George Floyd事件によって、黒人以外のコミュニティはこうした警察による軍事的威嚇行動を、自分事として可視化してしまった。これは、貧困層や黒人コミュニティのみに起こるものではなく、自分達もいつこうした警察の攻撃を受けるかもしれないという恐怖と不安を創出した。

警察官の恐怖を取り除くための武装化が、警官を市民の敵にしてしまった

警察の軍事化の背景にあるのは「警察官の安全のため」という考えだが、種々の調査で、銃乱射などの限られた状況をのぞき、軍装備は必要ではないという結果が出ている。また州のSWAT(警察特殊部隊)に関しても、多くは警察がSWATを主にマイノリティのコミュニティに対して使っていることと、SWATが暴力犯罪率や警察への暴行、警察官の死を減らすという証拠は発見されていない。むしろ、SWAT使用は住民の警察への資金援助や支持を減らし、人々がコミュニティの中で感じる危険の量を増加させているというコトも言われている。

実際、重装備は警官を安心させるが、そういった鎧で固めた姿で、平和的な市民に対峙した時に、どこまで警官は市民に落ち着いて話せるか? また市民は彼らの姿を見た時に、自分達を守るのが警官であるというコンセプトを見出せるか? 答えはどちらに対しても「No」である。

マインドセットを変える難しさ

人間はユニフォーム(制服)を着ると、なぜかそのチームと一体化して、個人として考えや行動が金縛りにかかったように出来なくなる。ユニフォームにはそのような効果があり、施政者はユニフォームによって、個人の考えを抹殺しようとする。警察の軍事化は、ユニフォームではなく、軍隊が使うような軍備を装備して、警官に戦争において外国勢力と戦う軍人的な行動を強いて、市民達に対峙するように示唆する要因になりうる。

1に1人の警官は、様々な問題を多角的に考えることができる個人だと思う(思いたい)。ただし、一旦ユニフォームを着て、重装備をした軍人のような姿になった途端、マインドセットは変化する。また、もう1つ考えなければならないコトは、彼らの意識、あるいは無意識下の潜む「人種差別、即ち自分とは異なる人達への嫌悪と恐れ」である。彼らは、麻薬犯罪撲滅と言いながら、自分達が簡単に抑え込める黒人コミュニティに出かけて行って、点数を稼ぎたいという気持ちも存在する。それでも、今は21世紀である。そういったマインドセットから脱却したいと思う警官も多く居ると、私は信じる。

私はアメリカがTipping point(臨界点)に達したという風に思いたい、例えそうでなくても

長年蓄積された気持ちというのは、一朝一夕には変えられない。但し、そうした蓄積もある種の「Tipping point(臨界点)」に達すると、いきなり人間の気持ちや行動は変わっていく。George Floyd事件に対する抗議運動は、アメリカ人に「人種差別」という、400年間の米国の負の遺産の連鎖を断ち切るための、ある種の臨界点に達したことの証であると思いたい。例え、まだ達してなくても、そこに向かう必要があると実感レベルで感じた人は少なくないと思う。

11月の大統領選挙はアメリカ人とってのFundamental choiceである。

「Is it Trump or America?」

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コロナ禍でのアメリカ生活㉔「危機の際の企業のメッセージは金太郎飴状態」

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一昨日のMembers主催のセミナーは、「Purpose-driven companies」をキーワードに、コロナ禍におけるマーケティングの話をしたが、参加者が150名ぐらいまで膨れ上がり、半分ぐらいは「ひさみファン」でしょうと担当者に言われた。何はともあれ、多くの方に視聴していただいたのは、非常に有難い。どうもありがとうございました。。普段日本語を喋る機会が殆どなく、尚且つお喋りな私が話し始めると、予想通り1時間では収まり切れず、セミナー後のフィードバックも質疑応答のためにもっと時間を増やして欲しいという声をいただいた。今後のオンライン或いはオフラインも、セミナーは1時間半か2時間ぐらいはとって、ゆったりと話せるようにしたい。

危機の際に、なぜ企業はGenericなマーケティングメッセージしか発しないのか?

セミナーの中で、広告代理店の方が「企業メッセージとして、マーケティングギミックではなく、Purpose(信念・目的)が重要なことは分かるが、自分達、広告代理店は何をすべきなのか?」という質問があった。答えの全てをここに書くことは避けるが、国を挙げての危機的な状況下(例えば9.11のテロ攻撃、戦争勃発、マス銃撃事件、自然災害など)に陥ると、企業メッセージは、一様に金太郎飴を切ったように、非常に無難で当たり障りのないGenericなメッセージになる。

以下は、それを皮肉ったヴィデオで、冒頭は悲しみを感じさせるピアノの音楽が流れ出して、センチメンタルな言葉をちりばめて制作されており、ロゴを変えたら、どの企業の広告かさっぱりわからないほど、Genericな(金太郎飴的な)のコーマシャルとなっている。

“uncertain times”
“we‘re here for you”
“people” and “families”
“comfort and safety of your home”
"we're all in this together!"

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When a company or brand releases a Coronavirus Response ad, they might tell you that we're living in "uncertain times", but that "we're here for you". They may say their top priority is "people" and "families" by bringing their services to the "comfort and safety of your home". And don't forget: "we're all in this together!"

誰もが思いつく、当たり障りのない、センチメンタルなメッセージではなく、企業のPurposeを行動で可視化させてほしい

徐々にビジネス再開が始まっているとはいえ、失業&休業、感染への恐れ、制限のある不自由な生活、さらに、George Floyd事件による全米に広がった抗議運動と暴動という、様々な不安の中で、人々は生活をしている。そんな状況下で、各社がオンエアするコマーシャルは、ロゴを変えたら見分けがつかないぐらいに全てが同じ。あたかもロイヤリティフリーの無償のヴィデオ素材で同じ広告代理店が作ったかのようである。現時点で、企業として、他に言いようがないにしても、あまりにも意味のないメッセージが自宅にいる私達の目に触れる。

消費者は、こんなセンチメンタルなメッセージに広告費を投下するならば、実際に今直ぐ最も困っている人達をサポートする行動を示して欲しい、言うだけでなく、企業のPurposeを行動で示して、可視化させてほしいと思う。

Kotlerは2013年に「5Ps(Product, Price, Place, Promotion and Purpose)」を提唱している

Philip Kotlerが、すでに2013年に5番目のP(Purpose)を加えて「5Ps(Product, Price, Place, Promotion and Purpose)」を提唱しているように、今マーケティングで重要視すべきはPurposeである。彼は “Purpose should be a form of core business(信念&目的はコアのビジネスを形作るものでなければならない)”として、Purposeと同様に、企業の資産として重要なものとして「corporate culture」を挙げている。

なぜ5番目のP(Purpose)が必要なのか? Kotlerは調査した結果、社員が働きがいのあると考える企業のマーケティングコストは、同業他社よりもはるかに低く、顧客満足度と顧客維持率ははるかに高いという結果を得ている。企業が顧客、社員、サプライヤーに関心を示していれば、誰もが幸せになり、したがって、ビジネスの全体的な収益力が向上する、と彼は言う。

エージェンシーはいやでも応でも戦略的なマーケティング領域に踏み込まなければならない

冒頭の広告代理店の方の質問への答えは、エージェンシーは、クライアントに対して、戦術的な領域からより戦略的なマーケティング領域に踏み込む必要があるというコト。Purposeに関しては、「すでに企業が持っているPurposeが、その企業のコアのビジネスを形成するものとなっているか? 企業はそれを単なる理念あるいはお題目のように取り扱っていないか? CEOから前線の社員までがそれを共感し実施したいと思っているか?」など、プロフェッショナルで尚且つ消費者目線を持つ、ニュートラルな立場でPurposeを研磨できる立場にある。

消費者心理を考えると、現在のように混沌とした社会状況下では、戦術的なマーケティング費用は無駄であり、一般論にしか思えない企業メッセージの露出は、意味がない。Sustainableになり得ないマーケティング活動は避けたほうがいい。

消費者は、Social issueに対する企業の行動を期待し、見つめている

米国では、George Floyd事件以降、全米に広がる抗議運動に対して、企業がどう考えているか、どう行動するかを、じっと見つめている。5/31-6/1の直近の調査結果は、人々は、企業が問題に足を踏み入れるのを怖がって沈黙を守るのではなく、問題解決への声明と行動を期待している。企業に期待する行動のトップ4は、以下である。

•  略奪により被害を受けたスモールビジネスのための基金設立:49ポイント
• コミュニティのクリーンアップのための寄付:42ポイント
• 抗議者と警官をサポートするステートメント:21ポイント
• 社会の正義や不平等問題への寄付:20ポイント

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行動のみが可視化可能なので、今、重要なことは「有言実行」することだと思う。

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