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#ひさみをめぐる冒険

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コロナ禍でのアメリカ生活㉜「TikTokで蘇ったSea Shantyが世界をつなぐ」

2021年のアメリカは、史上稀にみる民主主義の危機を国家として迎え、現職大統領による扇動でクーデターともいうべき議会占拠の暴動が起きてしまった。私達この国に生活する人間にとって、今年はまだ16日しか経っていないという事を信じるのが難しいぐらい激動の日々であった。それに関しては、もう少し状況が推移し解明された段階で、まとめて書こうと思っている。今日は新年らしく爽やかなStoryから語りたい。

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Sea Shanty "Wellerman"の歌声が鳴り響く我が家

TikTokのPhenomenonとなったSea Shantyは、CNETの1月12日の記事によると、#seashantyのハッシュタグがつけられて、ヴィデオの再生回数は8,900万件を突破し、Google Trendも"sea shanties"の検索回数が過去最多に達したとTweetした。Spotifyでは12月末以来プレイリストは、1万2,000回を超えている。

以下は世界中がつながっていったSea Shantyに関するTikTokのTweetsである。

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こういう風に世界中がつながっていった

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夫も私もSailor(船乗り)なので、このTikTokでのバイラル化以前から、過酷な肉体労働を強いられる船乗りの労働歌のSea Shantyはよく知っていた。SF ベイエリアに住んでいた頃は、マリーナにあるQuinn's Lighthouseというレストランでライブ演奏を聴き、今はSan Francisco Maritime National Park Associationに寄付をしながら世界中の人達が毎月Zoomで参加するSea Shantyのライブ演奏を視聴していた。

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2週間ぐらい前に自宅でJazzercise(音楽を使った有酸素運動)をしていたら、夫のオフィスからSea Shantyの"Wellerman"が綺麗なコーラスとして聴こえてきた。

夫のオフィスに駆け込んだら、彼は嬉しそうに「TikTokでSea Shantyがバイラル化している。音楽的才能のある世界中の若者達がTikTokのデュエット機能を用いて、自分の声を重ねてアップロードし、"ShantyTok"というトレンドが発生している」と説明し始めた。

今まで私たちが見聞きしてきたShantyは、多くは各国のシニア層が様々なStoryをアカペラのShantyで語るということだったので、私はかなり驚き、夫ともども19世紀の船乗りの歌が現代に蘇ったと喜んだ。

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WikiによるSea Shantyの説明 

奇妙なソーシャルメディアであるTikTokのユーザ数は急増中

言うまでもなく、TikTokは、何でもないものを、物凄い勢いでバイラル化するチカラを持つ、奇妙なソーシャルメディアである。企業が意図的にマーケティングの一環としてコンテンツを広げようとするより、何でこれが?と思うようなものが、意外なコラボレーションによって発展的な展開が得られる。

勿論中国政府による関与の危惧から、2019年12月米国軍隊でのTikTok使用禁止、Trump政権との対立、MicrosoftやOracleの買収劇など、ビジネス的な話題は絶えない

但し、米国におけるユーザ数は急増しており、特に若年層ではすでにInstagramを抜き去りSnapchatに迫る勢いである。

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以下の表が示すように、2020年Q1のTikTokのダウンロード数は3億1500万にも達して、急増している。

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Sea Shantyとは?

以下はWikiによるSea Shantyの説明である。

Shantyは19世紀中頃に米国の商船で、異なる民族から構成される労働者を一致団結させるという目的のため使われた。少ない乗組員でより厳しいスケジュールの中で大きい商船を操業しなければならない時、歌によって労働者の間に連携が生まれ、効率よく働かせることができた。その後Shantyを歌う習慣は、帆船が発展した時代を通して、次第に世界の至るところで見かけられるようになった。

Shantyの起源は、イギリスや他の国々の沿岸で伝統的に歌われていた労働歌にあり、アメリカ南部で綿を担いで船に載せる作業中に歌われたような、アフリカ系アメリカ人の歌の影響を受けている。水夫によって親しまれた当時のポピュラー音楽(吟遊詩人の歌、人気の行進曲、陸のフォークソング)がレパートリーに選ばれ、船を操作するための様々な労働作業に合うように音楽的形式を変えられていった。アンカーを持ち上げたり、帆を用意したりする労働作業では、押したり、引いたりするために集団で協調して作業する必要があったためである。特徴はコールアンドレスポンスであり、ソリストと残りの労働者の間で演じられた。リーダであるソリストはShantymanと呼ばれ、その小気味良いセリフと、ウイットの効いた詩、力強い歌声を高く評価された。

19世紀末の蒸気船への切り替えと船上作業への機械の導入によって、Shantyの実用的価値は徐々になくなっていった。20世紀前半には労働歌としての役割は求められなくなった中で、Shantyに関する情報はベテランの水夫や民俗学のコレクターによって保存されてきた。特に1920年代から、商業音楽、大衆文学、その他メディアは、シャンティに対する陸の人々の関心を触発した。労働歌としての役割から離れた、これらの現代的パフォーマンスは、文化的、歴史的芸術としての新しい文脈を提供した。

Wellermanは、19世紀のニュージーランドの船員たちの労働歌で、歌詞は、過酷な肉体労働に明け暮れる船乗りたちが、酒を積んだ補給船を心待ちにしていることを描いている。

以下は今回のトレンドの源となったスコットランドの郵便局勤務の26歳のNathan Evans に関するTweetである。

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蘇った現代のSea Shantyを楽しもう!

コロナ禍や米国議会占拠暴動といった予想もしなかったイベントに直面する人々は、その不安と恐怖を拭い去るかのように、TikTokという奇妙なプラットフォームを使って、世界中の人達と一緒にコラボレーションを始めた。異なる背景の船乗りが1つの労働を連携するために、歌ったShantyは、2021年という、未だに明日がどのようになっていくかが読み取れない世界で、歌を通じてつながる喜びを与えてくれたようである。

船乗りの私としては実に嬉しく、今もWellermanを口ずさみながら、この原稿を書いている。何だか自然に広い海原で航海している気になり、連携のエネルギを感じるのは私だけなのだろうか? と思う。

まずはみんなでSea Shantyを歌いながら、2021年の海原に出かけよう!


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コロナ禍でのアメリカ生活㉛「コロナ禍は我々をタイムマシーンに乗せた」

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今年もあと2日で終わる。何を今年は考えたか?と自問自答しているところ、WSJの記事が目についた。その中でも以下のShopifyの VPのLoren Padelfordの言葉は正鵠を得ている。

“Covid has acted like a time machine: it brought 2030 to 2020,” said Loren Padelford. All those trends, where organizations thought they had more time, got rapidly accelerated.(コロナは、まるでタイムマシンのように2030年を2020年に持ち込んだ。まだ時間がかかると思われていたこれらのトレンドが、今年一気に加速した)”
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確かに今年1年は「個人及び社会において、10年分のデジタル化が進み、一気に生活が2030年レベルに到達した」と言える。4月の娘の結婚式を皮切りに、夫の父親の誕生パーティ、家族のReunion、選挙候補者との質疑応答、自宅が属するコミュニティ・ミーティング、姪のBaby Shower、クリスマスパーティなど、全てをZoomで行い、下は姪のお腹にいる赤ちゃんから、上は89歳の父親まで、当たり前のようにオンラインヴィデオで会話している。私達夫婦は、娘の夫側の家族と初めてZoomで顔を見て話し、夫の父親を含めて80代の親戚は毎週日曜日はZoomによる教会中継に参加している。

私は自宅で週に5日間毎朝ストリーミングによるエクササイズを行い、モバイルによるオンラインバンキングは当たり前になり、過去1年間一度も現金を使わず(非接触)、法的な文書や契約書もeサインで完結している。これは昨年までは中々想像できない浸透度で、オンラインによる消費行動や社会生活は、まるで10年前からやっていたかと思わせるほど、自然に生活に馴染んでいる。

仕事面では、25年間の滞米生活で初めて日本を含めて一切の海外出張がなく、更に飛行機に乗ったのはパスポートの更新でコロラドの日本領事館に行った時のみ。またその日も日帰りだったため、1年間一度も自宅以外で宿泊しなかった。日本のクライアントとのミーティングはオンラインヴィデオとなり、セミナーも全てオンラインで実施した。このデジタル化は、様々な利便性を私の仕事にもたらしている。

それまでは、私が日本に行かないとミーティングやセミナーが実施できないという慣習があったが、今年は私の出張スケジュールに関係なく、気軽にいつでもできるようになった(日米は時差があるので、米国時間の夜中とか朝方にセミナーをやる場合があるのが、ちょっと難点)。

さらに「ひさみっと」と呼ぶオンラインコミュニティを立ち上げて、毎回リアルタイムヴィデオで、ゲストとディスカッションするという中身の濃い日米間のコミュニケーションも可能となった。

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また事務的な面では、請求書は郵送ではなく、eサインをしてメール添付で送れるようになり、クライアントサイドのデジタル化も急速に早まった。

パンデミックが加速化させる「Asset light(資産軽量化)なビジネス」

2020年はビジネス面においては、投資家の資金が「Asset Light(資産軽量化)」のビジネスモデルの企業(Amazon、Carvana、Airbnbなど)及び、これらのモデルにインフラを提供する企業(Zoom、Microsoft、Shopifyなど)に流れ込んだ。デジタル時代においては、当然のように産業機械や工場などの有形資産よりも、アイデアやR&D、ブランド、コンテンツ、データ、人的資本といった無形資産が価値を生む。

この傾向はGoogle、Facebook、Amazonのような巨大プラットフォーム企業の成長に顕著に現れていたが、今年はパンデミックでビジネス上のやり取りが対面からバーチャルに移行し、一段とその流れが強まった。企業は今やオフィススペースや出張にかける費用を縮小し、クラウドコンピューティング、共同作業ソフトウエア、物流管理にかける費用を増額している。

デジタル化は、100年前から進行するプロセスの次のチャプター、即ち「Dematerialization of the economy(経済の脱物質化)」を意味する。農業から製造業に主役が代わり、やがてサービス業へと移行したが、それに伴い、有形物や労力に由来する経済的価値の割合は縮小し、情報や頭脳に由来する価値の割合が増大した。

局地的な疫病であったコロナは、パンデミック化し、全世界に同時に莫大な影響を与えて、デジタル化を半ば強制的に世界中に強いた。言い換えると、コロナ禍は「Dematerialization of the economy(経済の脱物質化)」のAccelerator(加速装置)の役目を果たしたことになる。

こうした流れの良しあしを、私はここで言及するつもりはなく、ただ確かなことは、この潮流が今後も継続していくという点だけは触れておきたい。

「出来ない」というExcuseはもう通用しない

何か新しいことをやる場合、「出来ない」という言葉を使う人がいるが、これを翻訳すると、「新たなことをしたくない」という意味になる。理由は、「失敗を恐れる」、「新たに学ぶことに手間暇かけるのがいやである」、或いは「既存権益を守りたいから」といったことが挙げられる。

但し2020年を経験した私たちには、もうこの「出来ない」というExcuseは通じない。ワクチン投与が始まった今でも、莫大な人達がワクチン接種ができて、予防が確立するまでには相当時間がかかり、その間にもコロナの変異種が生まれるなど、現状が2019年当時に戻ることは考えられない。感染を広げないためにも、「非接触」を中心とする生活は今後も継続していくと思う。

2030年の世界にタイムトラベルした以上、その仕組みの中で、自分にとってより良いやり方を見つけるしかない。時計の振り子は元に戻らず、「出来ない」ではなく「やるっきゃない」という姿勢で、新たなことにチャレンジする、それが2020年を厳しい現実を経た、私達の生きざまである。

私個人として、大好きなセーリングが今年1回もできず、愛艇のKaiyo(海洋)の乗れなかったことが、唯一残念なことといえる。

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それ以外は、このコロナ禍によって、様々な機会が与えられたことに、心から感謝している。家族や友人、さらにクライアントも含めて、離れていても、深い交流が可能となり、実りのある年だったように思う。

365日ほぼ24時間いつも一緒にいた夫に心からの愛と感謝をささげて、明日は2人で静かに良い年を迎えたいと思う。

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アメリカの現実⑭「多様性への模索ーBiden政権が内務長官に初めて先住民族(Indigenous people)の女性を選んだことの意味」

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12月17日、Biden政権は、Interior Secretary(内務長官)に、初めて先住民族(Indigenous peoples)の女性、Deb Haaland(60歳)を指名した。この選択は、内務省の長官という職務を考えると、実に理にかなったものである。内務省は、職員7万人以上を擁する大規模な機関で、連邦政府が承認した578の先住民族の土地を監督している。

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上院で承認されれば、彼女は先住民として初の閣僚となり、しばしば問題が生じる内務省と先住民との関係を変える可能性がある。先住民Laguna Pueblo部族のHaalandは、ニューメキシコ州選出の民主党下院議員(1期目)で、この起用にも見られるように、Biden政権の閣僚やスタッフメンバーの人選は、米国史上最も多様な人達によって構成されることとなる(女性、非白人、カミングアウトしているLGBTQ+など)。

米国に住む先住民族の歴史

今更説明の必要もないぐらいに、元々北米大陸に住んでいた先住民族は、開拓者として侵略してきた白人によって、幾度もの約束の裏切り、強制移住、虐殺など、様々な悲劇的な歴史を経て、現在「Indian reservation(インディアン保留地)」と呼ばれる特別区域に追いやられた。Indian reservationは「居留地」と言われるが、本来「保留地」と表記すべきもので、インディアンの故国として、白人が保障してリザーブした土地という意味である。これには、いずれ「保留」を解消するという意味合いも含まれていた。

白人達は、アメリカ大陸を「開拓」する上で、インディアンとの土地問題を解決すべく、彼らと条約を結び保留地に住まわせるという政策をとり、政府と各部族との間に結ばれた、保留地を軸とした条約の数は371に上る。当初連邦政府はインディアンを閉じ込めるといった考えを持たず、白人による土地の売買や勝手な進入を許されないということを約束していた。またインディアンは保留地を通る幌馬車やカウボーイから、通行料を取っていた。

但し膨張する入植者達の強い要求により、圧倒的な武力を背景に白人側は部族に土地の割譲を迫り、部族は僅かな年金と引き換えに条約を呑まざるを得なくなっていく。Thomas Jeffersonは「インディアン達の意思を無視して白人側が勝手に保留地の土地を買ったりすることは許されない」と述べたが、それは全くの空論となる。

土地を巡る白人とインディアンの争いは次第に激化し、Indian Wars(インディアン戦争)」、「強制移住」、「保留地に入らないインディアン部族は絶滅させる」、「バッファロー絶滅政策(インディアンの食糧及び生活の源だったバッファローは19世紀初頭4千万頭を超えていたが、白人達の戦略で19世紀末には野生では絶滅に近い状態となる)」、「Dawes Act(ドーズ法)の可決(1886年インディアン保留地内の土地を個人のものとして細分化し、不動産化していく法律。この法律の下で部族の莫大な土地は僅かな年金や品物と交換されて(まともに支払われることは殆ど無かった)矮小化されていった)と、あの手この手で多くのインディアンを締め付け、彼らを「Indian reservation」に追い込んで行った。

現在も大きな政治的対立を生んでいる、ノースダコタ石油パイプライン(DAPL)問題

現在でも政府と先住民族の争点は続いている。先住民族の聖地とエネルギー開発を巡り、Obama前政権とTrump現政権の意見が真っ二つに割れた「DAPL(Dakota Access Pipeline)問題」がそれである。DAPLはノースダコタ州からサウスダコタ州を経てイリノイ州につながる全長1886kmの原油パイプラインで総事業費38億ドルにのぼる。パイプラインはミズリー川をせき止めて作った人造湖の下を潜り抜ける構造で、この湖はStanding Rock Siouxs部族の保留地内にあり、先住民は伝統儀式の対象地として神聖視している。さらにこのパイプラインからの汚染の懸念もある。

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2016年11月大統領選挙の直前、Obama前大統領は住民達の請願を受けてルートの変更を命じた。しかしTrumpは大統領就任の翌年2017年2月、元のルートでの建設を承認し、Obama裁定をひっくり返した。これに対して、先住民達を支持する世界の環境団体が同地を訪問、抗議の座り込み活動が長期間にわたって展開された。

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またDAPLへのファイナンスは、日本のみずほ銀行、三菱UFJ銀行を含めたグローバルな主要金融機関によるシンジケート団がローンを提供しており、これも大きな論点となった。こうした反対運動の中で、DAPLは運営会社Energy Transferによって建設が進められ、2017年6月に運行を開始した。

今年の3月ワシントン連邦地方裁判所(コロンビア特別区連邦地裁)は、このDAPLを巡る訴訟で、同計画に承認を与えた米陸軍工兵隊(USACE)による事前環境影響評価の不適切性を訴えた原告の先住民の主張を認め、USACEに調査のやり直しを命ずる判決を下した判事は、USACEがパイプライン建設で付与した許可は、連邦環境法による判断において「概ね適合しているが、先住民にとって『重要な例外』がある場合は、検討の余地を残しておくべきだ」として、潜在的な影響をさらに調査評価することを命じた。追加的な調査・評価の対象として、パイプラインからの原油漏えいを検知するシステムの有効性、創業者の安全管理記録の確認、ノースダコタの冬の期間の影響、漏洩の最悪シナリオの分析(ストレステスト)等である。

この判決に対して、原告の弁護士は「我々はパイプラインが廃止されるまで、訴訟を戦い抜く。おそらく、完全な環境評価は1年か2年はかかる。その間に、民主党の新大統領に交代し、USACEも正しい判断をとることができるようになる」と指摘している。つまり、この判決の意味は重く、大統領選挙で勝利したBiden政権が、事業廃止を求める可能性もあり得る。

インディアンへの強制的な白人同化政策がもたらした悲劇

1950年代から連邦政府の方針としては、部族の意向を無視して「保留地」を解消していこうという方向にある(これは条約違反)。「インディアン」という特別な存在ではなく「アメリカ市民」として納税させ、国民の義務を負わせるという政府の意図のもとで、「インディアン寄宿学校」による強制同化政策により、インディアンの白人文化への同化が進んだ。20世紀初頭からすでに、部族独自の純血性、民族性は薄れ、様々な部族が絶滅認定され、保留地を没収されていった。

この白人文化の同化政策が、実は今のインディアンの各部族の抱える悩みである「失われた部族の文化と伝統への回帰」への重いボディブローとなっている。殆どの保留地は産業を持てず、貧困にあえぎ、部族の誇りも失っていった。保留地で生活する限り、僅かながらも条約規定に基づいた年金が入るため、これに依存して自立できない人々も多く、失業率は半数を超え、アルコール依存症率は高く、健康面でも多くの疾病を抱えている。また、今回のコロナ禍でも多くの感染者を出すといった、厳しい状況下で生活している。

部族の伝統と文化の復活のための動き

彼らはこうした状況下で、自らの文化と伝統の復活を図るべく、徐々に活動し始めている。身近な例としては、私の夫が少年時代、自宅で弟のような存在として、一緒に暮らしたHopi(ホピ族)の男性があげられる。彼はその後成長して、ホピが信仰する精霊Kachinaの人形を作るアーティストとなった。但し、彼は年齢と共に視力の衰えがひどくなり、もう作品は作ることができなくなり、現在はアーティストとしての活動ではなく、ホピ族の伝統的な手法で農作物を作りながら、子供たちにホピの歴史や伝統を教えて、部族の文化保持活動を保留地で行っている。

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今年の夏、彼はアリゾナから子供達(彼は自分の子供はいないが、部族の恵まれない子供を自分の子供のように育てている)と一緒に、わが家に来てひと時を過ごしたが、彼の語るホピ族の物語は、自然への畏敬と一体化の思想が貫かれていて、とても共鳴した。

この写真は、彼の最期の作品で、美術館へのサポートも兼ねて、私たちはこれを今年購入した。これはKachinaのカテゴリの中で、「Runners(4月の儀式にのみ登場しホピの男と競争する)」の「Rattle」と呼ばれるものである。大きさは、台から頭頂の羽飾りまで28㎝という小さなものである。

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Kachinaには、その役割や形態により、以下のようなカテゴリに分けることができる。

Chief Kachinas (リーダー格、重要な役割を持つ) - Aholi, Eototo, Masaw, Ahola, Crow Mother, Chakwaina, Wupamo, Soyal, Grand Mother
Warriors or Guards(儀式を滞り無く行うための観客のコントロールや和を乱す者への罰を与える) - Hilili, Ewiro, Broad Face, Warrior Maiden, Owl, Ahote, Hoote, Whipper, Owango-zrozro
Dancers(最も一般的なグループ) - Hair, Bean, Corn, Deer, Antelope, Humming Bird, Eagle
Runners(4月の儀式にのみ登場しホピの男と競争する) - Rattle, Chili, Pot Carrier, Chipmunk, Kokopelli Mana, Red Kilt
Clowns(儀式を和ませる) - Hano Clown(Koshare), Mocking, Mud Head, Navajo Clown, Hoe

内務長官となったDeb Haalandに期待すること

アメリカの内務省は、国有地や天然資源の保護が主な業務で、傘下には、先住民部族の認定や部族と連邦政府間の連絡調整にあたる「インディアン事務局」がある。Haalandは、議会で先住民コミュニティへの公共サービス改善に重点的に取り組み、コロナ禍関連支援を重視していた。New York Timesに掲載された声明の中で、彼女は「Joe BidenとKamala Harrisの気候政策を推進し、Trump政権が破壊した連邦政府と先住民指導部との関係の修復を支援し、わが国の歴史で初となる先住民の閣僚を務めるのは名誉なことだ」と述べている。

彼女が、Biden政権の内務長官となったからといって、勿論、米国の190万人の先住民族の問題が、一挙に解決するわけではない。但し、全てのアメリカ人の声を聴く耳を持つ必要のある連邦政府に、彼女が入閣することは、歴史の中で、常に置き忘れたように扱われてきた先住民族にとって、大きな一歩と言える。

この広大な北米大陸の土地に先住していた人々は、元々土地に関して「私有」という概念を持っていなかった。彼らは「自然と大地」への畏敬の元で、それに沿った形で長い間暮らしていた。その先住民族の1人が、国政レベルで「環境問題」に関与・注力する時がきた。これは実に理にかなっているように思える。

アメリカという国は、「Diversity & Inclusivity」という、マントラをこれからも、永遠に唱え続ける必要がある。なぜならば、この国は、もともと多様な人々によって構成されて、今後も多様な人々が移住してくることによって、成長し続けるからである。このマントラを可視化できるのが嬉しい。

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アメリカの現実⑬「Diversity of experience:チーム構築において本当に重要なことは経験における多様性」

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Biden政権の様々なスタッフや閣僚候補が発表されるたびに、現政権との違いに驚く。言わずもがなで、現政権の重要閣僚やメンバーは白人男性で多く占められており、両チームは視覚化するだけで、その差異は歴然としている。ここで、はたと気がついたことは、「Diversity & Inclusivity」を語る時、通常、多くの人達は、人種、性別、年齢、性的指向性(LGBTQ+)という多様性を言及するが、それらを超えて、個人がそれまでに獲得した、「経験」に関しての「多様性」はどうなのか?という点である。

Biden政権のコミュニケーション担当のシニアスタッフは、結果的に全て女性となる

大統領のコミュニケーション担当のスタッフは非常に重要な役割を担っている。特にCOVID-19が猛威を振るい、虚偽情報や陰謀論がソーシャルメディアを通じてばら撒かれ、分断が深まる米国において、大統領および政権の真意を正確に分かり易くパブリックに伝えるシニアレベルのスタッフは、人々が納得できるコミュニケーション能力とスキルを持つ人が選ばれるべきである。

米国の企業におけるマーケティング及びコミュニケーション担当は、女性が多くを占める。単純に性差を持ち出してコミュニケーション能力の優劣を語るのは好まないが、子供を育てる性である女性は、集団内の意思疎通がうまくいくように、長い人類史の中で、コミュニケーション能力が、男性より必然的に発達したのかもしれない。今回の大統領選挙で、Bidenを大統領にしたのは、サマライズすれば、女性有権者のチカラと言えるが、その状況を考えれば、そうした女性達への配慮があったにせよ、選択の結果、全員女性となったというのは、自然なことなのかもしれない。

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多様性の中で今後注目すべきは「Diversity of experience(経験における多様性」

この7名は、人種及び性的指向性(LGBTQ+の女性もいる)においても多様性がみられるが、ここで最もポイントアウトしたいのは、7人の女性のうち6人が年の若い子供を抱えるWorking motherだという点である。VPのKamalaにも義理の子供達がいるが、彼らは既に成人している。この6人の小さな子供を持つWorking mothersが、子育てをしながら勤務することは、Working motherの視点及び経験を、ホワイトハウスに持ち込むことを意味する。

これは非常に重要な「Diversity of experience(経験における多様性)」の事例と言える。

また経済担当の重要なポストにつく候補者も、以下の画像が示すように、「経験」において非常に多様性に富んでいる。元Federal Reserve chairのJenet Yellenは女性初の財務長官候補であり、No2の経済担当候補となったWally(Adewale) Adeyemoは、ナイジェリア生まれのアメリカ人で、父親は教師、母親は看護婦、2ベッドルームのアパートメントで2人の弟と妹共に育った39歳の俊英である。

ここでも人種・年齢・性別を超えて、優秀な人材の「固有の経験」をチームに持ち込み、難問が山積みする経済問題を様々な角度から解決すべく「経験の多様性」を生かす戦略が目につく。

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「経験」を加えることで、真の意味での「Diversity & Inclusivity」が実現可能となる

調査によると、女性役員比率の最も高い企業は、女性役員比率が最も低い企業より、ROIにおいて66%も好結果を創出するというデータがある

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この女性役員がいることのメリットの一つは、「視点の多様性」が広がることである。これは取締役会における審議の質の向上を意味する。複雑な議題が絡む場合は、このメリットがいっそう顕著になる。なぜなら複数の異なる視点があれば、より多くの情報が得られるからである。

さらに、女性役員は、男性同士のネットワークに属しておらず(Boy's Clubには入らない、入れない)、男性役員に比べて(多数派への)同調や迎合をする傾向が低く、独自の見解を表明する姿勢が強い。したがって女性メンバーがいる取締役会は、企業戦略の意思決定の場で、CEOに異議を唱え、より広範な選択肢と賛否両論を検討するように迫る傾向が強く、それによってCEOの自信過剰が抑制され、バイアスの可能性をはらむ考え方の是正につながる。

この説明の中の企業を政府・政権に、CEOを大統領に変えれば、如何に「視点の多様性」が政治において重要かは一目瞭然である。この企業内の女性取締役の役割をより拡大させると、以下のような公式が成り立つ。

人種+性別+年齢+LGBTQ++経験(外国生まれ、異なる職種&ライフステージなどEtc.)= 真の意味での「Diversity & Inclusivity」

異論の持つチカラ

悪い決断とは、インテリジェンスやナレッジの欠落で起こるものではない。悪い決断は、ソーシャルプロセス、すなわち他の人の意見や予想可能なグループプロセスといったものによって、強く影響される。ソーシャルプロセス(=常識的なバイヤス)は、我々が気がつかないうちに、我々の考え方をしばしば変えてしまう。

政治やビジネス、さらに人生における決断で、重要なことは、ソーシャルプロセスによって、無意識に大きく影響を与える常識的なバイヤスの力を弱めるために「異論に触れて、そのショックによって想像力を拡張し、予想できないものへと向かおうとする、自らの意思」である。

人は、自由に連想しようと思っても、それほど自由にはなれない。例えば、「青い」という言葉に関して自由に連想しようとしても、答えは「空」や「海」などが出てくる。人間の連想は言葉によって形成され、そして言葉は、ありきたりな表現に満ちている。

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カリフォルニア大学バークレー校心理学者Charlan Nemethの実験によると、「異論」する人を入れた被験者グループは独創的な連想をし始める。「青」を見て「空」、「緑」を見て「草」を思い浮かべる代わりに、彼らは連想を広げ、「青」から「マイルス・デイビス」や「マネーロンダリング」を思い浮かべるようになり、ありきたりな答えばかりが出てくることはなくなった。

「異論」の持つ力は、驚きの力に他ならない。間違った答えが叫ばれるのを聞くこと、つまり青が「緑」と言われるのを聞くショックにより、人は色の持つ意味をもう一度考える。その結果、青を空に安易に結びつけるわれわれの緊張感のない連想は、影を潜める。予期せぬものと出合うことで、人間の想像力が大きく広がる。

質の高い決断とクリエイティビティのある解決のための必要なのが、この異論のチカラである。

これを得るためには、まずチーム内を、人種+性別+年齢+LGBTQ++経験(外国生まれ、異なる職種&ライフステージなどEtc.)= 真の意味での「Diversity & Inclusivity」に満ちたメンバーで構成することが必須である。

どうやら、Biden政権はこの方向に行きそうなので、私は楽しみに思っている。彼らがどういうOutputを出すかを期待したい。

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アメリカの現実⑫「無意識下のステレオタイプな考えをなくすには?」

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私はNational Geographicの記事が好きで、よく読むが最近読んだ記事の中で2つの興味深いものがあった。それは考古学上の発見ですら、科学者の無意識下のステレオタイプな考えによって、事実誤認、或いは事実を無視してしまうという事が起きるという点である。

9000年前の女性ハンターの発見

2018年カリフォルニア大学デービス校の考古学の研究チームは、アンデス山脈で発掘された約9000年前の墓にある人骨を、多種多様な狩猟用の石器、大きな獲物を倒してその皮をはぐ道具などを見て、当然のように優れた男性ハンターと決めつけた。だがその後の分析でその人骨は女性であることが判明し、さらに2020年11月4日付の「Science Advances」の論文によれば、当時南北米大陸では、大型動物のハンターの30-50%は、女性である可能性が明らかにされた。

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我々の先史時代に関する常識は「狩猟は男性、採集と育児は女性」という「伝統的な性別による役割分担」によって支えられている。但しこの19世紀以降の世界の狩猟採集民を調査してきた人類学者の記録に由来するものが、このペルーの発掘及び最新の研究で、必ずしも先史時代には当てはまらないことが証明された。言い換えると、このペルーの人骨以外にも、「女性の骨格に狩猟の痕跡があったり、狩猟道具と一緒に埋葬されていたりする」事実は、過去多く存在していた。しかし考古学者は、ステレオタイプな男女の役割分担の考えに縛られ、事実を無視、或いは見過ごすというミスを繰り返していた。

先史時代の狩猟のリーダーとして必要な資質とは、「健康で強靭な肉体を持ち、集団を統率し、大型動物を捕捉するための優秀な頭脳を有する」コトである。これらを備えていれば、当然、女性でも、ハンター或いは指導者になり得たことがここで確認された。

1000年前のヴァイキングの女性戦士

2020年9月8日付けの「American Journal of Physical Anthropology」によると、1000年以上前に埋葬されたスウェーデン南東部のビルカの墓は、ヴァイキングの男性戦士の『理想』の墓とされてきたが、DNA鑑定によって、この墓には、女性が埋葬されていることが証明された。この墓が発掘された当時(1880年代の終わり)は、遺骨は剣、矢じり、槍、そして殉葬の馬2頭と共に見つかったため、考古学者は固定概念に基づき「これを戦士の、つまり男性の墓だ」と考えた。

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またこのDNA鑑定以前にも、この定説を覆す研究がなされ、遺骨の骨盤と下顎を詳しく分析して、女性に典型的な寸法と一致するという結果が出たが、一部の考古学者は、墓地の発掘は100年以上前に行われたため、ラベルが誤っている、別人の骨が混ざっている、といった批判を繰り返していた。しかし、今回のDNA鑑定の結果、骨からY染色体は全く検出されず、あちこちの骨から取り出したミトコンドリアDNAは全て一致し、遺骨は1人の女性であったことが確定した。またもう1つ興味深いことは、彼女の膝の上には、ゲーム駒があったことから、彼女が戦術立案も可能な優れたリーダーであったという点である。

このビルカの墓の女性戦士以外にも、ヴァイキングには女性戦士の伝承が残されている。10世紀初めのアイルランドの文献には「インゲン・ルーア(赤い娘)」という女性戦士が、ヴァイキングの船隊をアイルランドへと導き、13世紀のヴァイキングの物語の多くに、男性戦士と共に戦う「盾を持った乙女」が登場する。だが、こうした女性戦士の記述は、単なる神話的脚色だと決めつける考古学者が多く存在していた。

つまり考古学的解釈が、上述の9000年前の女性ハンターと同様に、科学者ですら、我々が縛られているステレタイプな性別による役割分担を、無意識に当てはめて、その結果、真実を見落とすことがあるという点である。

政治、スポーツ、軍隊と、米国のガラスの天井にひびが入りつつある。

今月は、米国の色んなガラスの天井にひびが入りつつあるKamala Harrisは初の非白人(黒人&アジア系)女性副大統領となり、メジャーリーグベースボールではMiami Marlinsが史上初めて女性GMにアジア系アメリカ人女性のKim Ngを指名し、US海軍士官学校では175年の歴史上初めて黒人女性のSydney Barberがリーダーとなるなど。

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「先入観」→「偏見」→「差別」の公式をなくそう

私は色んなところで書いたり話したりしているが、「女性云々」という言い方で、事さら性別を話題にすることは避けたいと思っていた。但し、無意識下のステレオタイプな考えが、如何に社会の中で根深く人の考えを支配し、それによって多くの制限が生まれる以上、やはり声を大にして口にすべきだと思い始めた。特に私のように両親の励ましの下で、幼少時からあまりジェンダーを意識せずに育ち、女性としての被害意識を持たずに、常に自分自身ジェンダーニュートラルで歩き続けきた人間だからこそ、敢えて発言すべきだと思う。

また私は、日本時代は男性の独壇場であったエージェンシーの中で、ガラスの天井を突き破るために拳に血を滲ませ(男女雇用均等法以前の話)、米国移住当初は、英語が不自由な外国人という立場で、白人だらけのエージェンシーで、アタマを何度も壁に叩きつけられた経験がある。痛みはよく分かっているつもりである。

無意識下のステレオタイプな思考を消していくには、「目についたステレオタイプな現象」に対して、「それはおかしくないか?」と声を上げていくといった地道なコトから始めるのがいいと思う。疑問を持つことは非常に大切で、その疑問によって、人は新たな「想像力の飛躍」が始まる。

「先入観」があると「偏見」を持ちやすくなり、その結果「差別」という行為が起こる。これを肝に銘じて、想像力の羽を広げて、飛翔しよう!

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コロナ禍でのアメリカ生活㉚「Self esteem(自己肯定感)ー遺伝子が作った子供の個々の才能を『無理強いの早期教育』で捻じ曲げない」

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幼少期の教育の重要性が以前から気になっている。昨今の日本は従来の教育の仕方に疑問を呈して、幼児期に英語教育をしてバイリンガルに育るとか、早く仕込めばアドバンテージが多くあると思って、色々やっているみたいだが、慶應義塾大学医学部小児科主任教授の高橋孝雄氏が語る「早期教育は意味がない」という長いインタビュー記事には、様々な示唆が含まれている。高橋教授の記事から、私が関心を持った部分を以下にまとめる。

1)遺伝子の「決定力」はとても強固で、例え劣悪な環境でも大事な部分はしっかり守られる。

胎児は25-26週目ぐらいまで脳には皺はなく、それ以降、300グラムの体重で生まれてきた新生児は、このような危うい状態でも保育器の中で、母親の胎内の中で同様に、遺伝子によって、大人と同じように皺が作られていく。脳のように重要な部分は、例え状況や環境が悪くても、遺伝子という金庫の中で厳重に守られていく。

胎教の観点からモーツァルトの曲を聴かせるといったコトが言われたりしたが、胎児には音楽は聞こえないので、クラシックであろうがヘビメタであろうが、母親が「これがママが好きな曲なので一緒に聞いてね」と胎児に語り掛けてコミュニケーションすることが非常に重要となる。胎児の時から、そのようなコミュニケーションを取っていると、生まれてきた際「やあ、よく出てきたね」というところから親子の関係が始まり、愛情のあるスタートがきれる。

2)子供の性質・性格、嗜好性、学力、運動能力といったものは全て環境要因よりも遺伝子要因で決まる

「トンビが鷹を生んだ」という表現があるが、高橋教授によれば、特定の勉強の得手不得手は教育といった環境要因よりも遺伝子要因で決まる部分が大きいという。これは性質・性格、「何が好きか」という嗜好性、さらに運動能力にも当てはまる。そのために両親が得意なコトや好きなコトを子供にやらせたら、それがその子供に向いていたということが十分起こりえる。遺伝子が作ったその子供の個々の才能を「無理強いの早期教育」で捻じ曲げないことで、「トンビでも鷹のように優秀なトンビ」を育てられる。

3)子供の時に成功体験を積んだ人間(=自分大好きな子供)は強く、自己肯定感を構築するために子供を褒めることが大切

遺伝子要因が多くのことを規定している以上、親が何を子供に提供できるか? 親の育て方即ち環境要因で差がつく部分は、子供が自分に自信を持つ(Self esteem-自己肯定感)ようになるかどうかだと、教授は言う。

例えば、早く自転車に乗れるようになった子と、小学2年生でやっと乗れるようになった子の運動神経の差はない。早く乗れたからといって自転車選手になるわけではない。つまり「早さ」に意味はなく、遺伝子により決められた能力を環境要因で押しつぶすことさえしなければ、必ずそれは必要な時に出てくるようになる。逆を言えば、出来ないこと、嫌いなことはできなくて良い、自信を失わなくて良い。だからこそ、親としては子どもの「出来ること」「得意なこと」を探してあげることが大切

すべてのことは上にいけばいくほど困難になり、頭打ちになる。だから小さな時から挫折感を味あわせないほうがいい。

思春期前の子供の心「Sense of wonder」を伸ばす

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13歳というのは小学校から中学校に上がる年齢だが、思春期を迎える直前の年頃でもある。思春期を迎えると当然のように、子供達の関心は急激に異性に向かい、様々な事象の中に不思議さを感じていた「Sense of wonder」の気持ちを喪失していく。この思春期前に、どこまで子供のSense of wonderを親が一緒になって伸ばしていけるかどうかが、子供の自己肯定感の育成と、もう1つ「自分の見方で物事を見るチカラ」の醸成につながると思う。

Albert Einsteinは、「常識とは18歳までに積み重なった偏見の累積でしかない」と言った。

"Common sense is the collection of prejudices acquired by age eighteen." Albert Einstein

私は思春期前の子供達の好奇心とイマジネーションを重要視する。18歳まで待つ必要もなく、思春期を迎えた子供達は、子供時代を通り抜けて、少年&少女になってしまう、それでは遅い。偏見や固定概念が、アタマと身体に沁み込む前に、遺伝子によってしっかり守られた個々の才能を伸ばす教育をすべきだと思う。

私の思春期前の体験が証明する「自己肯定感」の強さ

「自分大好きな子供」は、個が確立されているので、自分が考えた考えや意見を人にコミュニケートしたくなる。同質性を強調する日本社会では、そういう個の確立を、圧力でつぶそうとすることが多々ある。それを考えると、個の確立された子供達がさらにそれを伸ばせるような場や、それを勇気付ける教育の仕方が学校でも家庭でも必要だと思う。

自分の子供時代を振り返ると、非常に興味深い逸話がある。私は小学1年から6年まで常にクラス委員に選出されており、自分で言うのもなんだが成績もよく人気者でもあったが、一方では「女子のいじめ」にもあっていた。女子のいじめは仲間外れのようなものだが、私は女の子の遊びが好きではなかったので、男の子と野球や木登りをして遊ぶという形で無視していた。但し、同じくいじめにあった女の子が転校することとなり、学校で問題視されて、母は初めて私がいじめを受けていることを知り、泣きながら「なぜ言わなかった」と私を詰問した。私は「親には関係ないことだし、私は特にそれを問題視していない」と答えて母をあきれさせた。

私の異端児ぶりは、当時小学生の女の子のくせに、Very short hairでダンガリーのシャツにジーンズで学校に通うというスタイルにも現れている。小学校の卒業時に将来の夢見る職業は?という欄に、女の子がモデル、スチュワーデス、お嫁さんと書くのを尻目に「宇宙飛行士」と書いたぐらいである。

要はSelf esteemが強く、個性を重んじる私は、子供ながらにも、周囲の同調圧力に屈せず、むしろ孤高を選んだという話で、これは親が「ひさみの思う通りに生きなさい」という個性を重視してくれた教育の賜物だと思う。

個が確立された人達が社会を構成し始めると、Diversityの強みがPositiveに生かされる。

「三つ子の魂百までも」ではないが、幼児期の体験は、その後の人生の指針ともなるほど重要である。個が確立すると、それを他の人にコミュニケートして、相手が異なる意見を持っても、なるほどそういう考え方もあると、それをリスペクトするようになる。この「一本独鈷」ともいうべきAttitudeこそ、パンデミックの渦中で今のように混沌として先が読めない或いは見えない時代には重要視される。

今、時代は「見えないモノを見るチカラ」が要求されている。そのためには、偏見の蓄積である常識に捉われない考え方が必要で、そうした思考のInnnovationは、Diversityをエンジョイできる人達の中に見えてくる。

岡本太郎は「同じことをくりかえすくらいなら、死んでしまえ」 とまで言い切っている。

ここはひとつ、幼児期の子供達の個性を発芽させて、それを伸ばすためのサポートや教育の仕組みを考えて、個の確立と自己肯定感を醸成して、同調圧力に屈しない、或いは同調圧力などをかけない社会を目指したい。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉙「"Helper's high(他者を助ける・思いやる行動によって得られる幸福感)"を持とうよ」

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多くの人は実際には体験したことがなくても、"Runner's high"と呼ばれる言葉は知っていると思う。私は中学時代陸上部に所属していたため、学校以外でも自宅からかなりの距離を走っていた。長距離を走ると次第に苦しさが増してくるが、我慢しながらある距離を超えると、逆に「快感・恍惚感」が出てきて、足がまた出始める。これを"Runner's high"と呼ぶが、これとは異なる"Helper's high"とも言うべき「幸福感」が、他人を助けたり、思いやったりすると現れることが、科学的にも実証されつつある。

”Helper's high”という幸福感のメカニズム

"Runner's high"は、継続的な運動中に苦痛を我慢し続けた後に、引き起こされる一時的な多幸感で、長距離走の場合は"Runner's high"で、ボ ート競技の場合は"Rower's high"と呼ばれる。検証実験から、この状態においては脳内にα波とモルヒネ同様の効果があるβ-エンドルフィンという快感ホルモンに満たされていることが判明した。この内、βエンドルフィンの増大が麻薬作用と同様の効果を人体にもたらすことで起こるとされる。注:2015年頃からの研究により、Runner's highをもたらせる物質はβエンドルフィンではなく、体内で生成される脳内麻薬の一種である内在性カンナビノイドに属する化学物質であるとする説も提示されている。

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https://twitter.com/elbi/status/837641240829177856/photo/1/

これも検証実験から言われていることで、「他者を助ける或いは思いやる行為」によって、脳内でエンドルフィンが大量に放出されて、"Helper's high"とも言うべき「幸福感・多倖感」で満たされ、それにより血圧も下がりストレスも緩和されるという。

今朝目にしたForbesの記事「Why Doing Good Boosts Health And Well-Being良いことをすると、健康と幸福感が改善する理由)」によると、思いやりのある人の唾液について、興味深い調査結果が出ている。

調査によると、思いやりがある人の唾液には炎症と闘う抗体である免疫グロブリンAがより多く含まれている。免疫系が改善するだけでなく、寛大な人の脳スキャンからは寛大さによって穏やかな気質やストレスの低下、感情面の健康の改善、より高い自己評価などがもたらされたことが示されている。

これによれば、身体の健康に関しては、免疫が改善され(炎症と闘う抗体である免疫が多く含まれている)、感情面ではストレス低下や自己評価などプラス面が心身共に起きている。

この心身両面という部分がポイントで、これは、社会生活を営むことで人類が人類として発展してきた経緯を考えると、長い人類史において獲得した"biochemical bases for reward(生化学基盤のための報酬)"ともいうべきものではないか? 言い換えると「他者を助ける」という人間社会の根幹ともいうべき重要なマインドセット及び行動を継続させるために、人間は進化の過程でこの行為に「幸福感」という報酬のメカニズムを獲得してきたんではないか?

パンデミックだからこそ、必要なことは「他者を助ける・思いやる心と行動」

Forbesの記事でさらに興味深いのは、この他者を助ける・思いやるというという「向社会性と幸福」の間の結びつきに関して、女性は男性より強い結びつきがあるという調査結果である。研究では「女性は思いやりを持ち優しい存在であることが固定概念として期待されているため、こうした社会規範に添った行動を取ることで良い気分が強まるからだろう」と述べている。

通常、性差における固定概念は悪い方に働く場合が多いが、ここでは、逆にある意味、女性を良い方向に導いている。

私は人間は「性善説」であるという考えを持つ。その上で、このパンデミックという未曽有の危機的状況下で、今一度人は「自分より困っている人を助ける・思いやる」という心と行動を持つことが必要だと思う。

多くの人達が不自由やストレスに苛まれているのは事実だが、自分のそうした不安はまず横において、他者を助ける、そうすると助けられた人もその喜びを、別の人を助けるという形で、行動する可能性が出てくる。そうなれば、「Helper's highという幸福感」のリレーが生まれて、多く人達が不安から一時的に解放されて、「幸福感の連鎖」が満ちると思う。

勿論人によって「幸福感」は大きく異なるので、全ての人が等しくこの"Helper's high"を感じる訳ではない。どこかの国の現大統領をみていると、彼は生来一度もこの"Helper's high"を味わったことがないとしか、言いようがない人物も存在する。

但し「利他主義や協力、信頼、思いやりなどの向社会的な行動」は、社会が正常に機能するために必須のもので、人類の共有文化の一環ともいえる。

青臭いと言われるかもしれないが、私は今だからこそ、これを深く考えて、行動に移して、幸福感を味わい、多くの人達が心身とも健康になる時だと思う。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉘「無駄な時こそが最も必要な時間」

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私の毎日の夢物語

私は毎晩夢を見て、毎朝殆どどんな夢を見たかを記憶している。夢の中の色や匂いも克明に覚えており、また夜中に夢の途中で目が覚めてもう一度続きが見たくて戻るという離れ業も、何回か成功している。

夫は毎朝豆を挽いてコーヒーを淹れてくれるが、私はそのコーヒーを飲みながら、夫にそんな夢の話をする。勿論、夫と全く関係のない夢は話さないが、クライアントとのオンラインミーティングの結果とか、セミナーで作成したPPTをなくし落語家のように身振り手振りのみでセミナーを終えたとか、家の前が何故か海でうちのセールボートのKaiyo(海洋)が接岸してあり、大嵐となってボートに乗って逃げだしたとか、色んな話を毎日話す。

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彼は、25年間も毎朝私の夢物語に付き合っているので、通常はふんふんと聞いているだけ。ただ、仕事関連の話が多いせいか「君は昼も夜も24時間働きづめで休みなし。まあ君はそれが好きだからいいけど、君の脳はいつ休暇を取っているんだろう?」と言われた時には、流石にはっとした。

不眠不休の脳にとって睡眠時は己を最適化するための清掃時間

今日読んだ記事のタイトルが、「Why Neuroscientists Say, ‘Boredom Is Good For Your Brain’s Health.’(神経科学者が「退屈は脳の健康に良い」と言う理由)」だった。私は、思わず「おっと、私が最も苦手なことだ(私は退屈な時間を持つことがまずできない)」と思ったが、読んでみた。

脳は24時間365日休暇や休憩を取ることなし「常にOn状態の器官」として、我々が生きるために不眠不休で働いている。脳科学者のJill Bolte Taylorは、脳と睡眠の関係を以下のように説明している

「私たちが持つ全ての能力において、脳細胞は情報をやり取りしている。歩いている時、脳細胞は筋肉に動くよう伝えている。脳細胞は常に働いている。脳細胞は食事をして老廃物を出す。そのため、細胞の間の老廃物をきれいにする最適な時間が睡眠中であり、そうすることで細胞がきちんと機能できるようになる。私はこれを、ごみ収集業者がストライキを行うことに例えている。そうなれば、道がどれほど混雑するかを私たちは知っている。これこそ、脳細胞に起きていることとまさに同じ。体が起きる準備ができる前にアラームで目を覚ませば、脳が求める睡眠サイクルの一部をカットしたことになる。睡眠は脳を活性化させるもの」

Iowa State University の医学誌『Sleep』による調査では、睡眠を制限することで怒りが増幅することが示されており、不眠不休の脳にとって、睡眠時は己を最適化するための清掃時間で、その重要性を指摘する。

何もしないでただ時間を過ごすこと

多くの人達は「何もしないでボーっとしていること」に罪悪感を感じる。これは、社会全体が「仕事(労働)の生産性を重視する」ように作られた現在ならではの、悲しき宿命である。この何もしないで時間を過ごすことを考える時に、面白いのは言葉の語源である。

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フランス語の「Vacances(ヴァカンス)」の原義は「空っぽ」という意味で、英語でいうと「Vacant」となる。これは元々「有閑階級(働く必要のない金持ち)」がすることもなくボーッとしていることの形容だった。それに反して「Travail(トラヴァーユ)」は「仕事」を意味し、語源は「足かせ(ローマ人がガリア征服の際に捕虜につけた内側にトゲがある拷問具を兼ねた足環)」である。

「仕事(労働)の生産性」を考える上で、この語源は、社会が内包する本質的な階級制度を象徴していて、非常に興味深い。私自身は、マグロのように「泳ぐことを止めた瞬間に死んでしまう」性質なため、「何もしないでボーっとしていること」が最も苦手である。自分がどの階級に属するかを、このことからもよく分かる。自分は生涯「有閑階級」には到達できず、1人の労働者で終わると痛感する。

上述の記事によると、「退屈さにより、実は、創造性や業務に取り組むやる気、仕事での生産性が向上する可能性がある」という。

何かをすることをガソリンとすると、何もしないことは生産性のブレーキ。ブレーキがない車はエンジンが燃え尽きてしまうが、キャリアの成功を収める上でエンジンを燃やす必要はない。神経科学者によると、退屈さはこれまで不当に非難されてきた。退屈さにより実は、創造性や業務に取り組むやる気、仕事での生産性が向上する可能性がある。脳の健康のためには時々自分を退屈させることが重要だ。

無駄な時こそが創造的なアイディアの大切な場

また脳には、私たちが何かをすることから解放された状態でオンになる既定のネットワークモードがあることを、社会神経学者らは発見している。退屈さは創造的なアイデアを育てることができ、低下しているエネルギーや仕事におけるあなたの魅力を回復させるとともに、まだ初期段階にある仕事のアイデアを発展させるためのインキュベーション(ふ化)期間を与えてくれる。

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脳は、酷使し過ぎない時に、本当に必要な休憩を得ることができるらしい。何かをしなければならない時には、脳は休めないが、何も考えずにただ海辺を歩いたり、草花を愛でたり、遠くの夕陽が沈むのを眺めるといった、To do listに入っていない不必要な時に休みが取れる。

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コロナ禍で多く人達の気持ちがささくれ立ち、大なり小なり様々な不安が常にどこかに入り込んで、みんな「こうしなければならない状態」なっている。これでは、脳は最適化のための休暇が取れない。

足かせを外してぼーっと時間が過ぎるのを眺めようよ

「足かせ(ローマ人がガリア征服の際に捕虜につけた内側にトゲがある拷問具を兼ねた足環)」を語源とする「Travail(トラヴァーユ=仕事)から、自分を解放するのは、並大抵のことではない。但し、人間としてよりはっぴいに生きるためには、大切な脳を休ませる必要がある。

私自身に関しては毎日の自分の夢を結構エンジョイしており、睡眠不足だと思うことは殆どない。夕食後にカウチで「Pre-sleep」を1-2時間取るのが習慣化しており、ベッドでの眠りは浅いのと深いのが交互に来ているようで、夜明け前に自然と目が覚める。このスタイルは一定しており、願わくば、私の脳は、睡眠時にしっかりお掃除をしながら、休んでくれることを期待している。

ぼーっと時間が過ぎるのを眺めようよ

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アメリカの現実⑩「サステイナブル&エシカルっていう観点から卵を考える」

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『Cool Hand Luke』のように卵50個は無理だけど、1日3個は食べている私

私は卵が大好きで、毎朝4個の卵をゆでて、朝食兼昼食にお味噌汁と2個のゆで卵を食べる。後の2個のうち1個は夫が、もう1個は私の夕食までのつなぎで、すぐに栄養補給する必要に迫られた時のためのもの。卵といえばPaul  Newman主演の1967年映画『Cool Hand Luke』で、刑務所の中でLukeはゆで卵50個を食べられると豪語した賭けのシーンを思い出す。

この映画は卵に限らず非常に面白くPaul  Newmanの良さが、全編で活かされており、まだ観ていない人は是非ご覧いただきたい。

卵好きの私が勧めるVital Farms

2020年7月31日にテキサス州のオースティンにある、Vital FarmsがNasdaqでIPOを果たした。私はこの企業の上場云々以前に、近所のマーケットでこの卵を目にして以来、その鶏の育て方と卵そのものの味で大ファンとなり、買い続けていた。この卵は、Pasture-Raised Eggsなので、殺菌処理されておらず、Pasture(牧草)にアクセス可能なフィールドで育てられた鶏から生まれた卵である。

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Vital Farmsは、小さな農家(すでに200を超えた)と契約して、エシカルに育てられた「はっぴいな鶏」が生む放牧卵を、全米の1万4,000店舗のマーケットに卸している。Vital Farmsは、契約している小さな農家と共に、丁寧にビジネスを育て上げ、パンデミックも含めて、近年の消費者のサステイナブルな食への関心と自宅で料理するトレンドは、投資家にも注目されて、彼等のビジネスモデルは大きく押し上げられた。

以下の図にあるように、この公式がこの企業を支えている。

"Pasture-Raised"+"Family Farms"+"Purpose Before Profit"=Vital Farms

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消費者は「放牧卵」的なイメージを作る用語を正しく理解していない

誰でも、身動き1つ出来ないケージの中で、工場生産のベルトコンベアともいうべき仕組みで、卵を産み続けるためだけに生かされている鶏の卵より、放牧卵のほうがいいに決まっている。生産者或いは企業は、3つの言い方で、卵を産む鶏の育て方を表記しているが、以下の3つの表現は、鶏を1羽を育てるスペースが大きく異なる。つまり一見放牧されているイメージを持たせる「Cage-Free」や「Free Range」といった言葉は、実は消費者を惑わす要素があり、Pasture-Raisedとは、エシカルな観点からも大きく異なる。

  • Cage-Free:1羽あたり、約1平方フィート(0.09平方m)

  • Free Range:1羽あたり、約2平方フィート(0.19平方m)

  • Pasture-Raised:1羽あたり、少なくとも108平方フィート(10.03平方m)

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またPasture-Raised Eggsのためには、気候や土壌も適切なモノでなければならない。Vital Farmsは、以下のグリーンで示された「The Pasture Belt」というエリアにある小さな農家と契約している。

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当初は10ドル以上した卵が今は6ドル以下まで下がった!

我が家もそうだが、毎日食べる卵の価格は、やはりかなり気になる。幾らエシカルで素晴らしい味でも、1ダースが12ドルすると、流石に毎日何個も気前よく食べることに躊躇してしまう。しかし、らっきいなコトに、上場前からVital Farmsは徐々にスケールアップしており、価格が6ドル以下に落ちてきたので、今はいつでも、安心して購入できる(普通市場に出回っている最も廉価の卵は2-3ドルで買えるので、6ドル以下は今でも高い印象があるが)。

Vital Farmsは、2018年時点で累計で2,500万ドルを調達して、市場価値は1億3,600万ドルとされていたが、上場直後、22ドルのIPO価格は60%も急騰し、時価総額は13億ドルに達した。私は、闇雲にいろんなスタートアップのIPOを手放しに誉めるほど、ナイーブではない。但し、Vital Farmsの卵の販売価格がより求めやすくなったのは、上場による資金調達と市場価値の上昇がもたらしたものとして、珍しく喜んでいる。

Vital Farmsの創業ストーリー

13歳になる前に、既に近所の人たちに卵を売っていたという創業者のMatt O’Hayerにとって、今回は2回目のIPOである。彼は1998年に旅行予約企業を上場させたが、911テロ後の需要減少で廃業した。彼は2007年に友人であるWhole Foodsの共同創業者のJohn Mackeyの住むオースティンに移住し、彼からオーガニックでエシカルな食品需要の高まりを聞いて、この分野での起業を思い立った。

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彼はまず20羽の鶏を購入しオースティンで育て、地元のファーマーズマーケットやレストラン向けの販売を開始した。しかし、当時は彼が希望した価格(10ドル以上)で卵を買う顧客は存在せず、売れ残った卵をフードバンクに寄付する日々が続いたという。因みにこの時、卵の販売に使っていた彼の車は2005 SUBARUだった(13年後の2018年の時点でも彼はSUBARUを所有していた)。SUBARUは我が家の大切な車ブランドで、尚且つSUBARUは私の会社JaMの主要クライアントでもあり、この点だけでも、思わず彼を応援したくなる。2018年のForbesのインタビューで、彼は「それでも私は、サステイナブルなビジネスにふさわしい価格を消費者に理解させようとしていた」と話している。

その結果、WalmartやAlbertsonsといった米国のメインのマーケットの顧客にもその価値が認識されて、価格は1カートンが5.59ドルとなった。現時点ではVital Farmsの卵を購入する消費者の割合はわずか2%だが、上場により、その比率を急速に拡大できると見込んでいる。

O’Hayerは以下のように明言する。

“I was always looking for the exit. Instead of looking to get rich, I realized I could build a company where I was focused on employees, customers, shareholders, and the environment,” “It’s so much more fun than focusing on profit.”

Purpose before profit

O’Hayerの言葉からも示唆されるように、上場によって得られるものは、それによって、自分が求める価値観を具現化するビジネスにフォーカスすることが可能になるという点である。

彼は「金儲けよりもっと面白いことがある」と言う。そして、彼のサイトにある言葉、"Purpose before profit" まさにこれが今のビジネスで最も重要なポイントだと思う。

「金儲けをする人」は世の中に多く存在するが、「お金の使い方を知っている人」は意外と少ない。Purposeがないビジネスは、サステイナブルに事業が継続していかない。サステイナブルな企業は、全てのステークホルダー(社員、顧客、パートナー企業、株主、コミュニティ)に価値を与える。

私は1人の消費者として、自分の消費行動を通じて、少しでもサステイナブルな社会活動に貢献していると思うと、嬉しい。これからも、はっぴいな鶏が生んだ美味しい卵をエンジョイしながら、毎日食べられる喜びをしっかり噛みしめる。

PS: 私は、自分の価値観を共有できる企業を応援する一つのやり方として、その企業の株を購入すべきだと思っている。私は既にVital Farmsの株を購入しているので、現在私は顧客&株主という2つの面からVital Farmsのステークホルダーでもある。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉙「マスク着用を政治的ステートメントとする愚かな党派的考えが、ここまでコロナ感染拡大を促した」

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幸運なことに私達夫婦は、University of UtahのCOVID-19の調査プロジェクトに選ばれて(ランダム抽出)、PCR検査を2人で受けた。2週間後に、2人ともネガティブであることを正式に通知されて、まずはほっとした(無自覚症状でポジティブだったら、感染のキャリアとして他の人にデリバリしてしまうから)。事前にオンラインで2人の過去6か月間の行動やその他の質問項目に回答して、事前予約をとって、指定された日時に検査所(教会の駐車場)に向かった。ドライブスルーので、待つことなく指定の駐車場にさーっと入って、防護服に身を固めた担当者達がテキパキと作業していた。車の窓を開けて、鼻に綿棒をかなり強く差し込まれて(ちょっと涙目)、血液をスパッと採取され、ほんの5-6分で、車に降りることなく、さらっと終わった。彼らは個人情報を保護しつつ、私達をトラッキングすることも可能ということで、かなり顧客満足度の高いスムーズなオペレーションだった。

多くの州では医療従事者や検査員を守る防護服やツールの不足もあり米国はひっ迫している

私達の横のヘルスケアの保険会社の検査会場では、駐車場に入る車の長蛇の列ができており、担当者が車1台1台に検査目的を確認して指示していた。今コロナ感染の検査には、医師のReferralを持って行けばできる。但し、それを受けるために、車の行列ができており、夫はあの列には加わるのであれば、僕は引き返したと告白している。

州や郡によって異なり、一概にこれはこれこれこうだと言えないのが米国であるが、リアリティはかなり悪化していると思う。7/25現在で感染者428万人、死者14万9000人という米国は、昨日の新感染者は3万人、新たな死者は477人とうなぎのぼりである。当然のように医療従事者やエッセンシャルワーカーに必要な防護服からツールまで不足しており、検査すら中々簡単にできない状況である。

パンデミック開始後4か月たってやっと現大統領はマスク着用の重要性をいやいやながら言及するという無責任さ

以下のグラフを見てほしい。YouGovとImperial College Londonの調査結果で、米国では、3月初旬は10%以下、4月初旬は30%、7月半ばで78%がパブリックでマスク着用と回答している。この数字の推移を見れば、如何にアメリカ人がマスク着用に関して、ためらいがあったがこれで分かると思う。

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理由は、マスク着用を現大統領を含めた共和党が政治的ステートメントとして扱ったことが大きな理由の1つとして挙げられる。それ以外には、マスク着用は感染拡大初期に保健当局者の見解が分かれていたことも挙げられるが、民主党の大統領候補のJoe Bidenがマスク着用の重要性を訴求することに、反対・対抗するツールとして、現政権はマスク着用は個人の自由という方便を使っている。この党派的な立場におけるマスク着用は、多くのトラブルや論議を巻き起こしている。

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3人目の死者まで出たマスク着用のトラブル

7月14日ミシガン州の郊外のコンビニエンスストアで、マスク着用を別の男性客から求められた男が相手を刺す事件が発生し、その男は逃走先で警官に撃たれて死亡している。これでマスク着用に関連したトラブルによる死者は少なくとも3人目となる。

Walmart、BestBuy、Starbucksなどは、小売店舗は来店客へのマスク着用を義務付ける措置を実施している。米国では少なくとも30州が何らかのかたちでマスクなどの着用を義務づけている。ただし、その実施は多くの場合、エッセンシャルワーカーである店舗の社員に任せられており、ソーシャルメディアには、社員がマスクを着けない客から怒鳴られている様子も投稿されている。Goldman Sachsは、全米でマスク着用を義務化すれば米経済の損失を1兆ドルいう試算を出している

マスク着用とSDがリスク削減の大きなポイント

以下の表が示すように、マスクを着用し、他者とのソーシャルディスタンス(SD)の距離を保てば、感染するリスク削減は、着用せずにSDを無視する人達より大きく軽減できる。これは子供でも分かる理屈であり、科学的な事実である。これを過去4か月間認めずに、マスク着用とSDを政府レベルで奨励してこなかった現政権に対して、もう言うべき言葉も見当たらない。経済再開をする云々の問題以前に、公衆衛生の観点から、個々人にこの2つを義務付ければ、既に亡くなった14万9000人の死者のうち、何人が助かったのかと思うと、遺族の悲しみと医療関係者の悔しさが察せられる。実に愚かな政権である。

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大学はこの秋キャンパス再開のために学生の検査を実施する予定だが、このままでは検査ツール不足が悪化する

大学の動きも活発で、今秋にキャンパス再開のために、各大学の保健部門が主導して学生や教員やスタッフの広範かつ頻繁な検査を行う計画を打ち出している。但し問題は、検査キットを含む検査能力がこれに追い付くかどうかという点である。学生達もオプションがあるならば、キャンパスライフに戻りたいと切望しており、彼らの安全を確保し、ウイルス拡大を促す温床になるのを避ける方法について、現在議論されている。パーティやスポーツイベントには参加しないと学生達も発言しているが、何万人も生徒を抱える大学がどこまでこれらの学生全員を検査して、その後も彼らが公衆衛生を守るような行動をとれるかの保証はどこにもない。また大学生に限らず、小中高の学校再開も現政権は推奨しており、これらの学校が再開されると、今後は子供達によるクラスターが発生することは否めない。

国民を守ろうとしない現大統領を支持する人達が、現時点でも38%いるのがこの国のリアリティ

現政権の無責任さは、今に始まったことではないが、11月の大統領選挙まで待って、2021年1月20日の就任式まで現政権がこの国を導くと思うと、酷い頭痛に襲われる。コロナ禍に関して戦略がゼロという政権を抱えて、苦しむのは、医療関係者、エッセンシャルワーカー、既往症を持つ病人、保険のない低所得者層など、コロナ禍を避けようもない人達である。

馬鹿げた党派的な発言や行動を一切やめて、最低限の公衆衛生の基本ともいうべきマスク着用とSDの順守を市民に促し、国レベルで検査キットやツールの提供を十分に行うといったことをまず実行してほしい。

国民を守ろうとしない現大統領を支持する人達が、今でも38%(6/30時点のGallup調査)存在するという米国の現状は実に悲しい。

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彼らを主体にして2016年現政権が誕生した。あと4年間こうしたカオスの中で暮らすことは出来ない。どちらにしても、11月にはその答えを知ることになる。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉘「パンデミックは今後必ず起こる現実。今こそUBI(Universal Basic Income)のようなセーフティネットが必要」

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パンデミック云々に関わらず、富める者はいつでもさらに富む

以下の表はパンデミックがスタートした3/18から6/17までの米国のビリオネラー達の資産推移であるが、ロックダウンで休業や失業にあえぐ中小企業、若年就労者、低所得者層の経済的な苦しみとは無縁に、大幅に資産を増やしている。米国の643人のビリオネラーの資産合計は、3/18時点で2.9兆ドルであったが、6/17には3.5兆ドルと20%増加した。また、4,550万人のアメリカ人が失業保険申請をしている間に、新たに29人がビリオネラーに仲間入りしている。

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Jack Dorseyも参加し始めたUBIの実現のための実験

Twitter & SquareのCEOのJack Dorseyは、4月個人資産の28%に当たる10億ドル(Square株を売却して充当)を、コロナ禍の被害対策の慈善基金「Start Small Foundation」を立ち上げて寄付すると発表した。彼のフォーカスは、少女たちの健康と教育、更にUBI(Universal Basic Income)であるとし、寄付用途をGoogle docのスプレッドシートに上げて、一般の人達が閲覧できるように共有するという情報の透明性を訴求した。

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以下の表は、米国のビリオネラーの個人資産の寄付額の順位であるが、Dorseyは個人としてはダントツのトップの金額10億ドルを寄付している。

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Dorseyは、今回その基金から300万ドルを、カリフォルニア州Stocktonの市長のMichael Tubbs(29歳)が結成した「Mayors For A Guaranteed Income(MGI)」と呼ばれる、全米16都市の市長達の連合に投入すると発表したこの連合は、市民に無条件で定期的に現金を給付する「UBI(Universal Basic Income)」の実験の一環として始められる。

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Forbesの記事によると、Squareの株価は4月以降に165%増となり、Start Small Foundationに提供された株式の価値は22億6000万ドルまで膨らんでいる(7/9現在)。Dorseyは、ケニアとウガンダでUBIのテストを実施中のNPOのGiveDirectlyにも1120万ドルを寄付している。

DorseyやYangが推進するUBIとは何か?

UBIの詳細に関しては、5/26に書いた私のブログを参考にしてもらいたい。

「UBIとは、生活保護や各種の助成金や補助金、年金や医療保険などの現在の社会福祉制度を大幅に簡素化し(もしくはすべて廃止し)、その代わりに住民全員(世帯ごとではなく家族全員)に無条件に毎月一定の現金を支給する制度である。この考えは16世紀に英国の思想家Thomas More(トマス・モア)が、社会政治を風刺した1516年の著作『Utopia(ユートピアはモアの造語で、どこでもない即ちどこにもない場所)』で最低生活保障について触れているように、決して新しい考え方ではなく、現在世界中で様々な実験が試みられている。」

このUBIの理念は、私も応援した民主党大統領選挙候補だったAndrew Yangの選挙キャンペーンの中心メッセージでもある。Andrewは、全ての国民に月間$1,000の“Freedom Dividend”を提供すべきだと主張した。これだけではとても生活は賄えないが、少なくとも低所得者層の生活を支える糧にはなる。パンデミックによって最も大きな被害を受けるのは、これらの人達である。貧困はメンタルを破壊し、ドラッグや銃撃事件やDVや様々な犯罪を創出する。

Dorseyは5月のAndrewのポッドキャストに出演し、UBIの有効性を訴えている。「最低限の収入が保証されることで、人々は心の平静を保ち、新しい世界に向かうための学習を進めてゆける」と彼は言う。DorseyがGiveDirectlyに寄付した資金は、パンデミックによる打撃を受けた低所得家庭への現金給付にあてられた。また彼は、Andrewが設立した低所得者家庭を救済する基金のHumanity Forwardにも500万ドルを寄付している

UBIの効用は?

効用に関しては、以下の5つのポイントがあり、私が書いたブログに詳細を記してあるので、時間がある時に読んでもらえたらと思う。敢えて、もう1つ重要な点を付け加えるとすると、通常低所得者層は、給与から給与と経済的に綱渡り状態で暮らしている。そんな彼らにとってUBIは、「どんな時でも定額の給付金が入り、それによって心に余裕が生まれて、困難に陥った時にそれを乗り越えようとポジティブな心構えが生まれる」という効用も大きいと思う。

1) 貧困の消滅

2) 広がる富の格差の中で社会を下支えする人達へのサステイナブルなサポート

3) 女性の家事労働といった無償労働の可視化などで男女格差が緩まり、女性の経済的な自立への道ができる

4) 都市の人口集中緩和や地方都市の評価増などで家族が暮らしやすくなる

5)AIや自動化による雇用喪失によって失業した低賃金労働者へのサポート

UBIの財源はどうするのか?

前述のStockton市長のTubbsは、財源に関して様々な解決策を上げており、「Dorseyのような富裕層の税率を引き上げるのも一つの手段だし、2017年のTrump政権による減税策を廃止すれば、年収12万5000ドル以下の全ての米国世帯に500ドルを給付できるだろう。さらには、膨らみすぎた防衛予算を引き下げることでも資金確保には可能だ」と言う。彼は「人々や社会にセーフティネットをもたらす新たな政策が求められて今、重要なことは、まず政治的決断を下し、物事を前に進めていくことだ」と指摘する。彼は今回のUBIのテストプログラムを成功に導き、現金給付の試みが、連邦政府レベルに広がることを望んでいる。

財源の1つの方法として富裕層の税率の引き上げが言及されているが、これに関しては1つ朗報がある。7/13、世界の富豪83人が、各国の政府に対して自分たちのような富裕層に大幅に増税するようにと署名した公開書簡が公表された世界の富豪でつくる団体「Millionaires for Humanity」には、ディズニーの一族であるAbigail and Tim Disneyなどを含む、富裕層、起業家、投資家らが参加し、富裕層に増税し、富の格差の是正などに充てるべきだと訴えている。

まずは決断が必要

UBIはそう簡単に実施できないと多くの人は言うが、パンデミック対応として期限付きで、カナダ、イギリス、スペインは既にUBIを実施した。パンデミックの渦中で、時代はgroundswellともいうべき急速な変革を求めて動き始めている。これを具体化するための試みは、色んな所でなされている。

富裕層も応援する時代である。前進するためにアタマを絞って工夫すれば、良いアイディアは必ず出てくる。まずは決断である。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉗「サバイバル脳の指令」

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若者を中心に感染は拡大、感染者数は290万人、死者数は13万人になる(2020/07/06現在)

米国では50州全てがビジネスを再開した後も、コロナ感染は一向に収束を迎えていない。政府の無策或いは科学を無視した指導もあり、マスクを着用せず、ソーシャルディスタンス(SD)を守らず、生活し始めた結果、若者を中心に感染者数や死者数は、うなぎのぼりである。独立記念日の週末では、フロリダは1万1,500人、テキサスは8,300人、カリフォルニアは5,400人という、1日の感染者数として新記録という、何とも酷い状況である。

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若者たちは、高齢者と異なり、自分達は感染しても大丈夫と高をくくっているが、若者たちの間でも症状が悪化して死に至るケースも出ており、今や注意深くなったシニアよりも、若者たちの感染が拡大している。

マスク着用を政治的意見の表明とする馬鹿げた考え方が横行し、科学的な事実を信じない人達が米国には多く存在し、コロナ禍は、とても収束といった方向に向かうとは思いづらく、刻々と病床は足りなくなっている。私は過去数か月間、1週間に1度の食料品の買い出し以外は、余程の必要性に迫られない限り外出せず、外出時のマスクとSDは必須の行為として順守して、社会的責任を果たしている。マスクとSDは、市民としての「Responsibility & Accountability」だと思う。

Note :「責任」と訳される2つの言葉の違い。「responsibility」:これから起こる(=未来)事柄や決定に対する責任の所在。「誰の責任であるのか?」という時に使われる。「accountability」:すでに起きた(=過去)決定や行為の結果に対する責任、またそれを説明する責任。「誰が責任を取るのか?」という時に使われる。「responsibility」は他の人と共有することは可能だけど、「accountability」は他の人と共有できないという点が、この2つの言葉の違い。

「サバイバル脳」が不安解消のために「Bingeだらけの行動」を指令する

このパンデミックで多くの人達は「binge-watching(映画やTV番組などのコンテンツを一気に視聴する)」のように、飲み過ぎ、食べ過ぎ、ソーシャルネットワークし過ぎ、Zoomし過ぎ、など、こうした行為で、不安やストレスを解消している。また多くの人達は、今ビジネス再開で、 “Quarantine 15 (在宅太り)”になってしまい、慌てて大きいサイズの服をオンラインで購入するといったコトが起きている。この"Quarantine 15"は、元々 “freshman 15” という言葉で、「大学の新入生は15ポンド(約7キロ)太る」というものからきており、”Quarantine”は、もともと病気を拡大させないための隔離を意味しているが、「self-quarantine」のように外出自粛という意味で使われ、コロナ禍は米国では「Covid 19」と表現する。

以下は、不安解消のための気晴らしをするという人間の行為は、もともと人間に備わっている「サバイバル脳」に由来するという、ブラウン大学公衆衛生大学院准教授のJud Brewerの記事から抜粋してみた

生物学的に「サバイバル脳」は、食べ物と危険の両方を探す役割を担っている。私たちの祖先が新しい食糧源を発見した時、胃から脳に一連のシグナルが送られ、ドーパミンが分泌した。そして将来見つけるのに役立つよう、食べ物が存在する場所の記憶が形成された。危険についても同じことが言える。祖先たちが初めての場所に行く際は、自分が食糧源にならないように、目を凝らして、動くものを警戒する必要があった。不確実性が彼らを助け、それゆえ人間は種として生き残っている。 しかし、不安と気晴らしの関係を理解する上で重要な点がある。その場所をよく知れば、そこが危険であろうとなかろうと、不確実性が低下するということである。つまり、私達の祖先は一つの場所を繰り返し訪れることで、緊張を緩和することができた。 このことが今何を意味するのか? それは、確実性が高まると、脳のドーパミンの使い方が変わるということである。例えば、物を食べたり、危険な場所を見つけたりした時に、ドーパミンを放出するのではなく、そうした出来事を予期した時に放出するのである。 ドーパミンは、一般的な文献で呼ばれているような「快感分子」とはほど遠い。行動が一旦学習されると、ドーパミンは一貫して、行動したいという渇望や衝動と関連づけられる。進化の観点から、これは理にかなっている。先祖たちは一度食糧源の場所を知ったら、そこへ行って食糧を手に入れるよう、駆り立てられる必要があったからである。

Brewer教授に言わせると、我々は現在のパンデミックに対して、全く同じことを行っていると指摘する。

退屈や不安を感じると、人々はお菓子を食べる、ニュースフィードをチェックするといった衝動に駆られる。胃や胸に不快感が生じ、何かがおかしいと気づく。脳が「何かをやれ!」と命令し、特定の行動つまり気晴らしをすると気分がよくなる。大事なことをやるべき時、YouTubeでかわいい子犬の映像を(繰り返し)見るのは、脳にとって当然の選択で「サバイバルの基本」である。気晴らしをすることは、古代に危険や未知のものを回避していたのと同じなのである。不確実性は不安を生じさせ、不安は何らかの行動を促す。 その際の問題は、多くの場合、気晴らしのための行動が、不健康で役に立たないという点である。永遠に食べ続けたり、酒を飲み続けたり、Netflixを見続けることはできない。実際、それをやるのは危険である。脳がそうした行動に慣れてしまい、最終的にいつもの成果を得るために、もっとやらなければならないからである。サバイバル脳は人間を助けようとしているが、断ち切ることが困難な習慣や、依存にすら向かわせていることに、人間は気づいてない。

 "Anxiety-Distraction Habit Loop(不安―気晴らしの習慣ループ)"をどのように断ち切るか?

Brewer教授は、 "Anxiety-Distraction Habit Loop(不安―気晴らしの習慣ループ)"に陥っている場合、自分が望まない習慣をつくり出し、それを継続させる"Trigger-Behavior-Reward(引き金―行動―報酬)"というプロセスを明らかにする必要があるという。 引き金(不安)、気晴らしの行動(食ベる、酒を飲む、テレビを見る)、報酬(気晴らしをすることで気分がよくなる)を認識する。 次に、その習慣のループがどれだけの報酬をもたらすかを考える必要がある。脳は報酬のレベルに基づき行動を選択する。無理に食べないとか、ソーシャルメディアをチェックしないようにするのではなく、自分の行動が招く精神的・身体的な結果に焦点を当てる。その短時間の気晴らしで、どう感じるか?どれくらい続けるのか?タスクを完了できずに不安が増すなど、裏目に出る結果をもたらす影響はあるか?といった点である。 注意すべきは、すべての気晴らしが悪いわけではないということで、問題となるのは、求める報酬が得られなくなった時である。報酬のレベルは典型的な逆U字型のカーブを描くので、ある時点で気晴らしの楽しさは頭打ちになり、そこから先は下降し、落ち着きがなくなって不安な状態に戻り、また別の楽しいことを探そうとする。

そして、このプロセスの最後のステップが「BBO(Bigger Better Offer:より大きくて、よりよい試み)」を見つけることである。脳は報酬のレベルがより高い行動を選択するので、悪い習慣よりも報酬レベルが高い行動を見つける必要がある。 その際、必ずしも新しい行動を選択する必要はない。有益から有害に変化した時点で、その行動をやめることもいいと教授はいう。

自分の不安およびその解消方法を認識する

不安解消のための気晴らしは、誰も必要だが、その習慣化或いはちょっときつい言い方だが、それに依存し始めると厄介な問題となる。日本は世界でも稀有といっていいほどの、パンデミックにおける特殊な位置づけの国である。世界中の科学者が、日本のこの感染状況の原因を分析しようと色々言及しているが、みんな首を傾げるばかりである。東京都で1日に100人増えたといった情報を目にするが、米国在住の私として、まあ何と微笑ましい牧歌的な国なんだろうと思う。だから、日本ではこの問題はそれほど重視されないのかもしれない。

但し、米国のパンデミックの長期化は自明の理で、いつどんな形で収束するか予想がつかない。人々の不安は消えず、「サバイバル脳」による指令によって、気晴らしは悪習慣になる可能性が否めない。まず、我々がやらなければならないことは、長期化する以上、不安解消で実施している行為が、本当に自分たちに「報酬」をきちんと与えているかどうかを検証して、高い結果を得られない場合は、より良い行動を見つけることから始めるしかない。

口で言うのが簡単だが、水は低きに流れるがごとく、人は手軽なものに手が出る。だからといって自分を甘やかして放任するわけにもいかない。兎に角、まずは何事もBingeし過ぎないように自戒したい。

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【7日間ブックカバー】7日目 - 最後は私の大学時代の広告研究会の仲間の荻原浩の『二千七百の夏と冬』

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Facebookの仲間達からバトンが渡されて7日間ブックカバーを開始。これは備忘録として記録しておきたい。

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最後は私の大学時代の広告研究会の仲間の荻原浩の『二千七百の夏と冬

1学年下の荻原君(当時は何時もそう呼んでいた)が、作家になったのは1997年、私がすでに米国移住した後だった。日本出張時にそれを知り、彼は大学卒業後、私と同じように広告代理店に入社し、その後彼がフリーのコピーライターをしていたことを知っていたので、作家になったと聞いても特に驚かなかった。

早速最初の小説『オロロ畑でつかまえて』を読んで、物凄く驚き、物凄く嬉しくなった。「こんなユーモアに富んだ面白い小説を書けるんだ!荻原君、凄い凄い!」と心から喜んだのを思い出す。その後、彼の作品をかたっぱしから読み、どれもこれも独特のユーモアと展開の妙にあふれる作品で、大いに彼の小説をエンジョイした。

彼とは一度だけ作家になりたての頃、2人で渋谷で会ったけ。「シバさん、作家をやっていくって大変なんです。書き続けることが。何とかやっています」と昔と変わらない「控えめな荻原君」がそこにいた。そんな彼が直木賞まで受賞する(2016年『海の見える理髪店』)とは、「世の中というのは、実に、いとをかし(趣きがある)」としか言えない。

今日選んだ『二千七百の夏と冬』は、多分日本初の縄文人を主人公にした時代小説だと思う。私は、彼の想像力の羽ばたき方が実に素晴らしいと思う。また批判もあるけど、縄文時代の動植物の名前や動詞を縄文語で表現したり、縄文人と弥生人の言葉の違いで会話が成立しない部分を「****(伏せ字)」にしたり、従来の小説に見られない工夫がある。私は、この小説の中での「金色のクムゥ(ヒグマ)との戦い」が、個人的には大好きである。

プロットは2011年東日本大震災の爪痕が残る関東のあるダム工事現場で、縄文人の骨が発見された。発掘が進むにつれ、その人骨は少年であり、その手の先にはもう一体、少女の人骨が埋まっていることが判明する。しかも、それは弥生人のものであった。物語は2011年の女性新聞記者・佐藤香椰と、縄文時代の少年ウルクの物語が交錯する対位法の形式で進む。

私は荻原浩の作品を殆ど読んでいて、全部大好きだけど、あえて選ぶとこんな感じ。『オロロ畑でつかまえて』、『なかよし小鳩組』、『』、『母恋旅烏』、『明日の記憶』、『愛しの座敷わらし』、『オイアウエ漂流記』、『金魚姫

【目的とルール】
●読書文化の普及に貢献するためのチャレンジで、参加方法は好きな本を1日1冊、7日間投稿する
●本についての説明はナシで表紙画像だけアップ(書いても良い)
●都度1人のFB友達を招待し、このチャレンジへの参加をお願いする

【バトン】
バトンは、私の仲良し友達の1人Yoko Sakanoue さんに渡します。彼女とも長いお付き合いで、視野が物凄く広いので、何を選ぶかが楽しみ!お願いします。

#7days #7bookcovers
#BookCoverChallenge #day7

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【7日間ブックカバー】6日目 - 隆慶一郎の未完の大作(絶筆)『花と火の帝』

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Facebookの仲間達からバトンが渡されて7日間ブックカバーを開始。これは備忘録として記録しておきたい。

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【7日間ブックカバー】6日目 - 隆慶一郎の未完の大作(絶筆)『花と火の帝』

兎に角、私は隆慶一郎の時代小説が大好きで、殆どを読んでいる(それも1冊1冊を何回も何回も読んでいる)。

隆慶一郎は1984年60歳の時に小説家としてデビューした。それまでは本名の池田一朗で脚本家として映画『にあんちゃん』、テレビドラマ『鬼平犯科帳』などを手掛けていた。彼は60歳から66歳までたった6年という短い期間で、私も含めて一度でも彼の小説を読んだら、彼の作品の虜になるような小説を14冊書き遺している。私が特に好きな作品は『吉原御免状』『かくれさと苦界行』『一夢庵風流記』『影武者徳川家康』『捨て童子・松平忠輝』『見知らぬ海へ

この小説は、天皇の御輿を担ぐ八瀬童子の岩介(天皇の隠密)と後水尾天皇を主人公として、徳川幕藩体制を固めようとする2代将軍徳川秀忠との、知らざれざる確執と攻防を描いたもの。

八瀬童子とは、建武の頃、後醍醐天皇が足利尊氏に追われて、比叡山に潜行した際、輿をかついだのが縁で、天皇家との結びつきを強め、禁裏の駕輿丁を務めるようになり、明治天皇と大正天皇の大喪でも、その柩をかついでいる。

「鬼の子孫」と呼ばれてきた八瀬童子の中でも、主人公の岩介は、一族がかつて持っていた太古の異能を色濃く血に受け継いだ「本卦還り」。さらに後水尾天皇は、幼少の頃から歴代の天皇が持つ神秘(呪術に近い)のチカラを持ち、「道々の輩(農業民以外の自由な漂泊者たちー山の民、漁民、芸能民、承認、手工業者、商人、遊女、山伏、呪禁者など)」によって熱い支持を受けていた。これを潰しかかる徳川幕府は、柳生忍群を主力として、様々な暗殺者を禁裏に差し向ける。

岩介の八瀬の暗号のような言葉と、後水尾天皇が語る京言葉(今まで御所言葉で話す天皇は読んでいたが、京都弁で話す天皇は初めて)が何とも言えず、全体の小説のトーンを柔らかく更にリアリティを感じさせる。

隆慶一郎の時代小説は、歴史の裏に潜むロマンを想像力によって大胆に膨らませて常識をひっくり返し、膨大な資料にあたった上で網野善彦による網野史観を取り入れている。緻密で美しい文章と綿密な考証と壮大なスケールで描かれる伝奇的な世界観は、私を魅了する。彼の遺された作品を全て読まれることをお勧めする。

PS:この『花と火の帝』は、残念ながら未完に終わっており、この続きがぜひ知りたいと、今でも熱望している。思わず、自分なりに解釈して、書こうと思ったくらい。そこまで自分も怖いもの知らずではないので、やってはいないけど。

【目的とルール】
●読書文化の普及に貢献するためのチャレンジで、参加方法は好きな本を1日1冊、7日間投稿する
●本についての説明はナシで表紙画像だけアップ(書いても良い)
●都度1人のFB友達を招待し、このチャレンジへの参加をお願いする

【バトン】
バトンは、私の仲良し友達の1人 Toru Saitoさんに渡します。長いお付き合いで、とてもはっぴいで楽しい私の友達です。お願いします。

#7days #7bookcovers
#BookCoverChallenge #day6

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コロナ禍でのアメリカ生活⑫「末娘のZoom weddingに参加して」

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昨日突然末娘から、太平洋時間午後18時に、Zoom経由で延期していたWedding Ceremonyをするので、以下のZoomの情報にアクセスして欲しいというTextが入ってきた。この式の主催者(招待者)は長女で、PC、スマートフォン、タブレット、各々でのアプリのダウンロード情報とアクセス情報(勿論パスワードあり)を記した文面を、私達夫婦を含む、近しい家族宛てに同時Textしてきた。

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初のZoom weddingは参加者35組以上の大きなイベントとなる

もともと、娘は3/27にOaklandのCourtで結婚式を挙げる予定だったが、カリフォルニア州の自宅待機規制が始まり、F2Fでみんなが集まる式は、独立記念日の7/4に延期した。延期を決めた当時は、7月ならば収束の可能性があると思っていたが、米国の深刻化するコロナ感染状況とその収束の可能性の不透さから、結果、彼女達は、突然昨晩のZoom weddingを決めたらしい。

私達は、式の3時間前まで何もこのことは知らなかったので、せいぜいごく近しい近親者のみの気軽なものであると思っていたが、時間になってログインすると、末娘の実の母親(夫の前妻)から始まって、新郎側の父親、姉弟、友人達、新婦側の親族や友人と、カリフォルニア、ユタ、アイダホ、コロラド、オクラホマ、テキサス、フロリダ、マサチューセッツ、NY等々、全米に散らばる親戚友人達、合計35組以上が参加する大きな式であった。参加者の年齢も、下は3歳ぐらいから上は80歳代(末娘の祖母はZoomのアプリを孫のサポートで直前にダウンロードしたけれども、みんなの顔を見られるが自分の顔を画面に映すことは最後までできなかった)まで、みんなのメッセージが飛び交った。

みんなが泣いたZoom wedding

長女が全体をプロデュ―スしコンダクトして、新婦新郎の登場から始まり、新婦のスピーチは、彼女が愛した亡くなった家族・親戚1人1人とのエピソード(私の父と母の名前も彼女の祖父母として語られた)が感動的で、さらに長女が2人の結婚を告げる言葉によって、指輪の交換と誓いの言葉が述べられた。私も泣いたし、多くの親戚・友人も涙する、素晴らしい結婚のセレモニーだった。

新郎はインド系アメリカ人で、私達は、今回初めて彼の父親を含む家族の顔をZoomで見て、彼らの言葉を聞いた。彼の家族のことは殆ど知らないが、2人とは昨年一緒にSF Bayでセーリングしており、新郎は昨年の甥のお葬式にも参加しており、人柄は熟知している。また、彼らは昨年自宅を購入して一緒に住んでおり、法的な手続きが遅れているが、実質夫婦である。

そんな2人であるが、改めて家族や友人達の前で夫婦となることを誓い、みんなに祝福されて、とても嬉しそうだった。新郎の「最初のデートの時以来、彼女を愛していた」という言葉は、親として何よりも嬉しい。娘は、ついに「人生のAnchor(錨)とも言うべきパートナー」を見つけたらしい。

Zoomには大至急セキュリティ問題解決を図って欲しい

ヴィデオ会議サービス「Zoom」は、2019年に上場したカリフォルニアのスタートアップによって運営されており、2019年12月時点では1日の利用者が1000万人程度だったが、コロナ禍で多くの人達がリモートワークに移行したことから、2020年3月には1日の利用者が2億人にまで増加している。誰でも簡単に使えるというアドバンテージで急速に成長し、そのために色々な問題が噴出しているが、最も大きな問題はセキュリティ問題である。但し、米国のように時差もあり、人々が広大な土地に散在して住む国では、F2Fで会えない状況下、この手のオンラインプラットフォームは必要である。そのためにも、Zoomには、大至急セキュリティ問題やそれ以外の多くの問題の解決をお願いしたい。

Zoomによって、より実感できるF2Fのリアルの良さ

多くの人達がコロナ禍の規制によって、人生の重要なイベントが出来なくなっている。それを考えると、何はともあれ、みんなが同時に1つのイベントにライブで参加して、顔を見ながら言葉を交わせるというのは、素晴らしいことだと思う。F2Fで会えないからこそ、よりF2Fの良さを実感する。早くこの状況が収束して、みんなが安心して、フィジカリーに会って、顔を見ながら話せる日を来ることを、心から祈っている。

PS①:娘がLast nameを変えてしまった

Zoom weddingの後で、私のPrivateのFacebook(私の英語の本名のアカウントで家族と親戚のみに公開している)を除くと、何と娘のLast nameが新郎のLast nameに変わっていた。彼らは、これから子供を持ち1つの家族として生きて行くので、子供のProtectionを考えれば当然の変更だけど、何となく末娘は変えないような気がしており、実際にインド系の名前に変わっていて、軽いショックを受けた。単純に、ちょっぴり寂しいということだけど、Zoom weddingより、こっちのほうに驚いたのが私の本音である。

PS②:そう言えば3年前の母のお葬式に夫はFacetimeで参加した

Zoom weddingをやった後、急に夫が3年前の母の山梨の菩提寺でのお葬式に、米国からFacetimeで参加したことを思い出した。夫は我が家の菩提寺にはお参りしており、元ソフトウエアのエンジニアだった和尚さんとも懇意な間柄で、夫が葬儀に参加したいと言っていますがと、和尚さんに確認すると、勿論いいですよとなった。私のiPhoneでFacetimeを映したが、驚いたのはスーツの大嫌いな夫が、ダークスーツにタイという正装で葬儀に参加したこと。私が着替えたの?と聞くと当たり前だと言っていたのを思い出す。弟と私だけがフィジカリーに参加して、夫はFacetime経由でライブにアメリカから参加した。我が家は臨済宗妙心寺派で禅の家系だが、夫は人一倍禅に興味があり、公案などへの理解もある。和尚さんの読経も含めて、静かに執り行われた母の葬儀は、夫も「素晴らしい」と褒める、良いお葬式であった。母は兎に角、夫が大好きで会うたびに走りながら体当たりするように夫に抱きついていた。ヴァーチャルだから云々といったことは何もなく、夫と弟と私達3人は葬儀を共有できた実感した。ヴァーチャルだから云々は何もないと思う。今の世は、誰もが時空を超えて、コミュニケートできるという、大きなアドバンテージがある。勿論F2Fのリアルにはかなわないけど、制限のある時には、ヴァーチャルなテクノロジーを活用すればいいだけ。心をオープンにすればいい、と思う。

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コロナ禍でのアメリカ生活⑪「結局環境問題って、人間が社会活動を停止すると解決されるってこと?」

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インドのパンジャブ州で、200 km近く離れたヒマラヤ山脈が数十年ぶりに見晴らせるようになる

インドでは2週間以上前からLock down(都市封鎖)に入り、首相は国民の外出を全面的に禁止すると発表していたが、これにより、インド全域における大気汚染が大幅に改善されたらしい。CNNの記事によれば、パンジャブ州で200 km近く離れたヒマラヤ山脈が、ほぼ30年ぶりに見晴らせるようになったと報じている。

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インドではこの都市封鎖で工場は閉鎖され、車利用がなくなり、航空機運行停止などで、大気汚染が劇的に改善されているらしい。CNNは、規制が始まった初日に微小粒子状物質「PM 10」が最大で44%減少し、全土のLock downの1週目には、85都市で大気汚染が改善したと伝えている。

中国の大気汚染は、コロナ禍による人間の社会活動の停止で劇的に改善

コロナ禍の生活が始まり、夫も私も「今一番喜んでいるのは地球そのものだろうね。人間が社会経済活動をスローダウンあるいは停止すれば、地球の環境リソースへの負荷が極端に減るもんね」と話したことを思い出す。インドと同様に、以下のNASAの画像は、中国の大気汚染が、コロナ禍による人間の社会活動停止で、如何に減ったかを如実に証明している(2020年1月と2月の比較)。

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人々は生活のためと称して、地球環境に滅茶苦茶重い負荷をかけて生きている。

2019年はGreta Thunbergの年と言われるくらい、17歳の少女が環境問題解決の緊急性を世界に提起したが、実は地球(ガイア)のほうがとっくに、人類という、地球史上稀に見る自己中心の動物にあきれ果てて、リセットする段取りをしてしまったと言えるような気がする。人類史は「疫病」との戦いと言っても過言ではない。地球(ガイア)は、しょうがないここまでのさばって改善する気がないなら、定番だけどかなり強めの「疫病カード」を出しましょう、と言って、さっとテーブルに置いてしまった。

過去100年ぐらい、このカードをマジに見たことがなかった人間達が、右往左往するのを、どこかで冷たい眼差しで見つめているような気がする。人と人とが近距離で接するという、人類が最も好きな行為を媒介として拡散するウィルスは、実に防ぎにくい人類の敵である。

地球(ガイア)もリセットしたがっているんだから、我々もしなきゃ

「欲望の肥大化」という言葉を、久しぶりに思い出した。大学時代、マスメディアとマスコミュニケーションを専攻していた時、確かゼミナールの原書購読(英語書籍の原文を読む)で学んだような気がする。限りなく肥大化する人間の欲望っていうやつは、現在テクノロジーによって、誰もがとてつもなく肥大化させてしまい、「便利で簡単に何でも手に入る、或いは出来ちゃう時代」を、現出させてしまったということだと思う。これは滅茶苦茶、地球環境に負荷をかけて、いくらそれを防ごうとしても、既得権と利害関係まみれての政治家や企業家によって、そう簡単に元に戻せないのが現状である。地球(ガイア)が、「OK,じゃあ、わしのほうでやってあげる」と決めて、実行したような気がする。

この状況をくぐりぬけた先は、今までなんだかんだ理屈や理由をつけて、社会全体の仕組みの変革を拒否していた輩に対して、俯瞰で眺めながら、構造改革をするといったMovementが必要だと思う。こんだけ、みんなが制限の中で真面目にコロナ禍に立ち向かって生活し、さらに真っ先に影響を受けて失業した人達は日々の生活にも事欠く生活をしている。いつまでも、現状維持をしていては、また同じことが起きる。リセットしようよ、今がその時期なんだから。

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コロナ禍でのアメリカ生活⑨「歴史を動かす感染症への答えは歴史の中にある」

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昨日自主隔離中だった英国首相Boris Johnsonの入院のニュース(集中治療室に移動)を目にして、チャールズ皇太子も感染し自主隔離しているというコトを知り、感染症の持つチカラを改めて考えてみた。

様々な感染症が常に世界中を襲い続けているけど、史上最も有名なパンデミックは1334年に始まった「黒死病」と呼ばれたペストで、アジアとヨーロッパで猛威を振るい、2,500万人の死者を出したという。英王室には、こうした悪名高い感染症の悲劇に随分あっている。今朝目にしたNational Geographicの記事によると、以下のよう事例があげられる。

英国王室のペストによる死亡:

1327年即位のイングランド王エドワード3世は、英国王族として初めて黒死病(ペスト)で近親者達を亡くす。1)スペインのカスティーリャ王ペドロ1世と結婚する旅の途中、14歳の娘ジョーンはペストで死亡。2)ペドロ1世の父アルフォンソ11世も、ジブラルタルをムーア人から取り返そうと包囲している最中ペストで死亡。3)1394年エドワード3世の孫息子である国王リチャード2世も妻をペストで失う。4)100年近く後の1492年、エドワード4世の王妃エリザベスがペストで死亡。

英国王室の天然痘による死亡:

1)1552年国王エドワード6世は、14歳の若さで天然痘とはしかに倒れ、すぐに回復したが翌年結核で亡くなった。これにより男性の王位継承者がいなくなり、異母姉のメアリー1世が即位。1558年メアリーが死去すると、王位に就いたのが女王エリザベス1世。2)彼女は29歳の時に天然痘に罹患し、周囲は及び女王自身が死が近いと思ったが、彼女は病を克服した。但し天然痘のために顔に痕が残ち、鉛を含んだお白粉で痕を隠すお化粧をして、イングランドンの黄金時代を築いた。3)1688年無血クーデターの後、夫のウィリアム3世と共同統治していた女王メアリー2世が、1694年天然痘のため32歳で死亡。4)この当時の欧州の君主で天然痘で亡くなったのは、スペイン王ルイス1世(1724年)、ロシア皇帝ピョートル2世(1730年)、フランス王ルイ15世(1774年)など。以下は、女王エリザベス1世 

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英国王室のインフルエンザによる死亡:

1889年サンクトペテルブルクで発生したインフルエンザ「ロシアかぜ」は、パンデミックとなってヨーロッパ各地に広がった。これは3度ロンドンを襲い、1)1892年の第3波でビクトリア女王の孫で王位継承順位第2位のアルバート・ビクター王子が28歳で死亡、将来の王位は弟のジョージ5世に移る。2)1918年の「スペインかぜ」で、世界人口の3分の1が感染し、死者は5,000万人に上った。その猛威の中で、1918年5月英国王ジョージ5世は回復した。以下は当時のアメリカ軍の野戦病院 (Image: courtesy of the National Museum of Health and Medicine, Armed Forces Institute of Pathology, Washington, D.C., United States.) - Pandemic Influenza: The Inside Story. Nicholls H, PLoS Biology Vol. 4/2/2006, e50 https://dx.doi.org/10.1371/journal.pbio.0040050, CC 表示 2.5, 

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感染症は歴史を動かす

この英王室と感染症との戦いを見ても、感染症が歴史を変えてしまい、王位継承に重要な役割を担ったことが、垣間見られる。特に天然痘で死にかけた後、後遺症で顔に痕が残ったがゆえに、真っ白なお白粉で痕を隠して、英国の黄金時代を築いたエリザベス1世のことを考えると、アタマが下がる。王位継承権の高い人が罹患して死亡した際は、王家の血筋の違う幹に大きく変わる事実が歴史的に存在する。また、北米大陸の先住民であったアメリカン・インディアンも、南米のアマゾンの先住民も、ヨーロッパから移住してきた白人がもたらした麻疹(はしか)とインフルエンザの免疫を持たないために、一気に人口減少が起こり、歴史から駆逐されていった。

英国皇太子と英国首相はなぜ感染したのか?

通常、欧米人は医療従事者でない限りマスクをする習慣がない、英国要人たちと一般庶民との間の接し方や、政治家同士の閣議や会議でも2m以内の近距離で議論するという習慣が、感染しやすい環境を作っていると思われる。コロナ禍でこれだけPhysical distancingを言われているにも関わらず、皇太子も政治家も濃密な近距離で一般人と接しており、 議論も口角泡を飛ばすといった形で、F2Fでなされている以上、感染の可能性は拡大する。英国首相Boris Johnsonの妊娠中のガールフレンドも症状が出ているというニュースも目にして、本当に人々がPhysical distancingを順守して、2m以上離れて、人との物理的な距離を取るだけでも、こうした感染状況は防げる。

歴史には現在の問題解決の答えがある

感染症(疫病)によって引き起こされるパンデミックは、前回よりは今回、今回よりは次回と、回を重ねるごとに、感染力を拡大し、より強さを増して登場してくる。すなわち想定外を常に巻き起こす、非常に厄介な代物である。但し、だからと言って「過去=歴史」を振り返っても意味がないということはない。歴史には、実はきちんと答えが書いてある。

National Geographicの記事は、このようにレポートしている。2007年学術誌「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)に、1918年のインフルエンザ(スペインかぜ)において、市によって異なる対応が病気の蔓延にどのように影響したかを調べた2つの論文が発表された。致死率、時期、公衆衛生的介入について比較したところ、早い段階で予防措置を講じた市では、対策が遅れた、或いは全く講じられなかった市と比べて、死亡率が約50%も低いことがわかった。最も効果的だった措置は、学校、教会、劇場を同時に閉鎖し、集会を禁止することだった。そうすることでワクチンを開発する時間を稼ぎ、医療機関にかかる負担は減った。同論文は1918年のインフルエンザにおいて、死亡率の急上昇を防ぐ鍵は「社会的距離」戦略であったと結論付けている。

そう、兎に角同じ屋根の下に住む人以外とは、顔に何か覆う布をまとい、2mのPhysical distancingを取ることが肝要。

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コロナ禍でのアメリカ生活⑧「手ぬぐいとバンダナで作った自家製マスク」

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我が家にはマスクというものがなく、以下の写真のBuffという自転車に乗る時などに、ヘルメットの下のアタマに巻く伸縮性のある布をマスク代わりにして外出したが、かなりきつく巻くので息苦しいのと周囲の人に恐れられるので、自家製マスクを作成することにした。

アメリカでは医療従事者以外は通常マスクをかけない。冗談に聞こえるかもしれないが、友人の知人はアレルギーが酷く、コロナ禍への認識がまだ薄い今年の1月、通常のマスクの口の部分にスマイルマークを描いて銀行に入ったら、警察に通報されて逮捕されてしまった。そう、米国では、マスクをかけるというコトは、顔を隠す即ち顔を見られたらまずい行為をするという風に見られる可能性があるというコトである(映画などで銀行強盗がマスクをかけて襲撃することを思いだして欲しい)。

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今までマスクをつくるという発想は一度もなかったが、今回は自宅にあるものを全て利用したUp-cycleな手作り品ができた。古くなったバンダナ2枚と手ぬぐい1枚を、どこも切らずに折りながら袋状にして、後ろを2か所縫った(手縫い、ミシンがないので)。とっておいた組み紐とリボンを両脇に差し込んで、3枚のバンダナと手ぬぐいマスクの出来上がり。

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組み紐とリボンはマスク本体を洗う時に外せる。子供の時からマスクが嫌いな理由は、耳があのゴム状のモノで痛くなるからで、この紐及びリボンは耳が痛くないのが特徴。以下は裏側の手縫い部分で、半返し縫いでしっかり縫ってある。

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マスクが必要なくなったら、手縫いの端の2か所をほどけば、またバンダナと手ぬぐいに戻る。

外出時の私の服装のカラーコーディネーションをするため、桜色、ターコイズ、ネイビーブルーの3色は欲しかった。作業時間は1時間ぐらい(実際は材料探しに時間が掛かった)。これでお洒落にマスクをかけてマーケットに出かけられる。

夫はYouTubeのヴィデオを見て作ったの?と聞くが、そんなの見なくても常識があれば、出来ると答えたけど、まじで何も見ないで、自分で鏡を見ながら考えて作った。

「必要は発明の母」とは良く言ったものだと思う。

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コロナ禍でのアメリカ生活①「他の人ファースト」の気持ちをまず持とうよ

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日々刻々と変化するアメリカの生活環境の制限の中で、自分がどんな風に暮らしているかを、思いつくままに書いてみる。

Jazzercise(通称ひさみの朝稽古)の休止

今朝の私の最も重い決断は、毎日行くJazzercise(通称ひさみの朝稽古)を今週から休止して、自主トレに変更したことである。私が通うJazzerciseのクラスは、通常はインストラクターを入れて5-7名ぐらいの少人数で、バレエスタジオの1室を借り切って実施している。Utah州では現在10名以下の集会を停止するよう求めているが、このクラスは10名以下で、スタジオでの各自のポジションは2-3 mぐらいの距離があり、インストラクターは、生徒が1人でも通う限りクラスは続けると言っている。

すでに1週間ぐらい前から、Social distancing(少なくとも2 mは相手との距離を持つ:remaining out of congregate settings, avoiding mass gatherings, and maintaining distance (approximately 6 feet or 2 meters) from others when possible”)を考慮して、クラスを休んでいる生徒もあり、私も米国の感染者数急増を考慮すると、個人としての責任もあり、クラスに行くことを断念した。朝稽古のこの1時間が私の心と身体の解放につながり、非常に重要だけれども、この状況下では、自主トレーニングに切り替えるしかない。幸い、広大な自然の中に住んでいるので、周囲を歩く、自転車に乗る、さらに自宅のあるコミュニティには温水の屋外プールがあり、誰も泳いでいないので、1人で泳ぐことに決めた。今日はあいにく雨降りで、また通常は82度F(27.8度C)の温水プールが故障らしく70度F(21.1度C)しかなので、自宅の室内でウエイトでもやるしかないという状況である。

データで見る米国のコロナ禍の急増

米国は昨日(3/22)の時点で感染者数は3万5,075人、新たな感染者数1,529人、新たな死者39人、合計458人が亡くなっている。毎朝、私はこのデータサイトで、国別のコロナ禍の数字をチェックしているが、米国が日々各国を追い抜いて上位に上がり、現在はイタリアに次いで3番目となっている。イタリアの感染者数は5万9,138人で、死者は5,476人と、兎に角死者数が半端ではないが、死者数ともかく、イタリアの感染者数は、米国が追いつく射程距離内に入ってきていると思う。

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因みに3/20にチェックした時のデータが以下で、米国の感染者数は1万6,067人で、上位には中国、イタリア、スペイン、イラン、ドイツがいて、米国は5番目に感染者数の多い国だったが、2日間で一気に3番目に浮上している。

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テレワークが出来ない勤労者のコロナ禍疲れ

この急激な感染者数増加は、検査数増加と自覚症状のない感染者のフィジカリーに動き回るソーシャルな行動によって拡大しており、数字は今後もどんどん上がると思う。昨日夫と2人で恒例の日曜日の1週間分の食料品の買い出しに出かけたが、マーケットは開店時間を短縮し、シニア向けの特別な優待時間(開店の最初の1時間はシニアのみ)、キャッシャーと顧客の間に透明の仕切りを構築、顧客持ち込みのusable bagの禁止(店の備え付けの紙袋のみ)など、様々な対応を図っている。キャッシャーの顔に見るストレス(自身が感染するかもしれない不安)などを見ると、現在一番心配なのは、医療従事者や従事者の防護機材不足、さらにメンタル面での疲労が真っ先に浮かぶ。

米国が最も恐れるのは「コロナ禍による米国のイタリア化現象」

以下のOECDのグラフは、米国が最も恐れるのは「コロナ禍による米国のイタリア化現象」への1つの要因となるデータである。

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この国別の1000人当たりのベット数比較(2016年のデータ)で、日本はベッド数では13.1とトップで、イタリアは3.2、米国は2.8と非常に少ない。もうすでに、医療従事者に及び関連のコロナ禍に現場で立ち向かっている人達は、収容能力や機材不足で悲鳴をあげており、このデータが示唆するように、もしイタリアのように急激なコロナ禍拡大になると、医療現場はとんでもない状況に陥る。

以下のグラフは同じくOECDによるデータである。


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このイタリアが陥った急激なカーブを、何とか緩やかにすべく、米国は今必死に政府・州行政がコロナ禍に介入し、市民に多くの制限を課しているが、この急カーブが、どのくらい緩かに、いつ管理出来るかが、ポイントだと思う。多分ここ2-3週間が正念場で、流石のTrump政権も、あれだけコロナ禍を軽視し放置していたにも拘わらず、株価の暴落&景気後退突入という、自分の再選への赤信号が点り、急激な政府介入をせざるを得ない状況に追い込まれている。

市民として責任

個人が出来ることは限られている。テレワークが出来る環境の勤労者は、実際は僅かで多くの米国の勤労者は、実際にオンサイトに行く業務が多い。レストラン業界、特にMom & popの小さなレストランを中心に、お客のチップで生活を支えていたような人達は、一気に失業、休業、倒産となっている。私が住むSt Georgeもレストラン営業停止となり、レストラン休業で職を失った人達を助けるために、の近所のレストランXterra が、地元のレストラン業界を救済するためのセンターを立ち上げて、寄付金募集が始まった。我が家もまずそこに寄付をして、少しでも、最も被害にあう人達を助けることから始めた。寄付金は、レストラン営業停止に伴い、サプライヤーの無駄になる製品を買い上げるなど、何とか小さなレストランの救済を図ろうとしている。現在目標は15,000ドルで、私達が寄付した後、1時間で14,610ドルまで増えている。

「他の人ファースト」の気持ちをまず持とうよ

物流がまだ機能している時に、最も困るのが不安にかられた人達が、自宅に製品をストックし始める「自分ファースト」の行為。最も影響や被害を受ける人を最優先にして「他の人ファースト」の気持ちを持てば、棚から何週間もトイレットペーパーが消えるなんて、馬鹿げたことは起きないと思う。すでに我が家では、過去2週間トイレットペーパーが購入できず、我が家のペーパーロールはあと7個となり、夫はティッシュペーパーをトイレで使用することに切り替えた。あまり重要視はしていないが、どこまで我が家のペーパーが持ち、いつペーパー危機が解除されるかを、意外と客観的に見つめている。




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Yes, Yes, NOMO! 私とベースボール2001年4月4日の私の想い

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今日このnoteに私が、19年前に書いたコラム「Yes, Yes, NOMO! 私とベースボール」をアップロードします。このコラムは、2003年発行の私の初の書籍『ひさみをめぐる冒険―サンフランシスコで暮らす楽しみ "It's an Adventure -  Hisami Lives America" 』に掲載されたものです。週末ひょんなことからYouTubeで『大リーガー 野茂ー NHKスペシャル 1995年放送』というヴィデオを見て、同じ年に米国移住して来て、思いもよらない様々な困難の中でもがき苦しんでいた私が、メジャーリーグにデビューした野茂に、どれだけ勇気づけられたかを綴っています。手元にこの書籍の電子ファイルの原稿がなかったので、ハードカバーの本を見ながら、タイプを打ち直し、不覚にも涙がこぼれました。3年前に亡くなった母は、この書籍を読んで「一言も言わなかったけど、ひさみはこんなに苦労したのね」と涙ながらに私に感想を語ってくれたことも、思い出の1つです。表紙の写真はゴールデンゲイトの裏側の崖に落ちそうになりながら、プロのカメラマンに撮影してもらいました。

野茂との再会

私とメジャーリーグ・ベースボールの最初の出会いは、野茂がデビューした1995年に遡ります。そのユニークな投法と実力で多くの話題を提供し一躍ブームを作った野茂は、その後ロスアンジェルス(LA)ドジャースから移籍した後は低迷を続けていました。以下のEmailは、そんな野茂の復活に興奮して2001年4月4日、日本の友人に宛てたものです。

ノーヒットノーランで飾った野茂の復活

今、ESPNのTVとウェブを見終わり、やはりこれは野茂に刺激され、ここUSで同じように6年間がんばってきた大柴ひさみとしては報告せねばと思い、Emailしています。すでに速報が入っていると思いますが、野茂がボストン・レッドソックスでのデビュー戦をノーヒット・ノーランで飾りました。これは歴史的な出来事で、彼はメジャーリーグ史上リーグ最速(シーズン開始後最も早い時期4月4日、以前の記録を3日早めた)でノーヒット試合を達成しました。さらに2リーグにまたがるノーヒット投手として、ノーラン・ライアン、サイ・ヤング、ジム・バニングという球史に残る名投手に続く史上4番目の席を手に入れました。またボストンのカムデンヤーズ球場に、最初のノーヒット・ノーランゲームをもたらすという数々の記録を、今日達成しました。

私がなぜこんなに喜んでいるかというと、ESPNのアナウンサーが「だからベースボールは面白い。過去3年間苦しんでいた偉大な投手野茂が、移籍したデビュー戦でこんなエキサイティングなピッチングをする。毎日さまざまなドラマが、たくさんの球場でうまれるんだ」という興奮したコメントを聞いたからです。このアナウンサーの声と表情には、外国人プレイヤーを特別視せずひとりのメジャーリーガーとしてきちんと尊敬している態度がにじみ出ており、野茂以上に彼の新鮮な意見がとても嬉しく思えました。

1995年、野茂と私がアメリカに来た年

野茂がメジャーリーグにデビューした1995年、私も38歳でアメリカにやってきました。現在サンフランシスコ(SF)のランドマークとして有名なジャイアンツのホーム球場のパックベルパークの建設以前で、ジャイアンツが、SFから少し南に下った強風で有名なキャンドルスティックパークでプレーしていた頃です。ベースボールファンの夫に連れられて早速メジャーリーグ初観戦。当日は、何とマッシー村上(最初の日本人メジャーリーガー)の記念試合で「SFジャイアンツ対LAドジャーズ」、さらに先発が野茂というまさに絵に描いたようなお膳立てした。私は、試合前の国歌斉唱の時にマウンド上に立つ着物姿のクラシックのソプラノ歌手を見て驚き、彼女が「星条旗よ永遠なれ」を歌い始めてこの着物と米国国歌の不思議な組み合わせに、アメリカに住む自分の姿を見たような奇妙な感覚を覚えました。その後村上さんによる始球式、さらに審判のプレイボールの声の後に登場した野茂の投球を見て、私の奇妙な興奮のボルテージは上がりっぱなしとなりました。

メジャーで成功した野茂に続け

試合は、トルネードの威力そのままにドジャーズが勝ち、通常ドジャーズに異常な敵愾心を燃やす地元ジャイアンツファンも(この関係は昔の巨人・阪神戦みたいな関係です)、野茂の魅力にかなり参っていたのを覚えています。まだアメリカに来たばかりで英語や文化習慣に戸惑っていた私は、試合終了後「野茂みたいに絶対にがんばって、アメリカのビジネスのメジャーリーグで成功するぞ」と心に誓ったものです(ファンレーターをドジャーズ宛てに出して、球団の広報から必ずこの手紙は野茂に渡すという返事が来ました。彼は読んだのかしら??)。野茂はその年新人賞を獲得し、1997年メジャーリーグ史上最速の500三振を達成するなど小さな子供でも「NOMO」の名前を知っているといわれるぐらいに、超有名プレーヤーとなりました。彼の持つ力は、日本人であるモノ珍しさを超えてメジャーリーグの実力のある投手として評価されており、そこが当時の私を大いに勇気付けてくれたものです。

一朝一夕でメジャーリーグでの成功はありえない

今回の復活ともいうべきこのノーヒット試合も6年間山あり谷ありの中、野茂が黙々とここアメリカで投げ続けた結果だと思います。1996年のノーヒット」試合がフロック(運が良かった)とはもちろんいいませんが、今日の試合の重みはそれ以上です。試合後のいつにもまして無表情で淡々とした彼の表情には「あたりまえだよ。しっかりキャンプで準備してきたんだから」といっているような、ホンモノの余裕を感じさせるものがありました。猫の背伸びみたいなトルネード投法も、個性を尊ぶアメリカでは大いに人気を博し、野茂の無駄口をたたかない「Zen Likeな態度(禅のような・神秘的な)」は、今年大いにべースボールファンを楽しませてくれることを予感します。

底知れぬ不安感と暮らしていた当時の私(2002年11月6日)

このEmailを読み終わって、どれだけ米国移住当時の私が外国生活そのもののプレッシャーの中で生活していたのかを実感しました。もし1995年野茂がメジャーに来て活躍しなければ、独立して自分のビジネスをはじめるというチャレンジングな発想も生まれなかったかもしれない、ふっとそんな思いもよぎります。自分と野茂を等身大ではかるのはおこがましいかもしれません。ただ米国移住当時の私は16年間日本でビジネスをやってきた人間としての自負はあったものの、それを本当に異国の地で活かせるのだろうかという底知れぬ不安感に、常にさいなまれていたような気がします。彼のドジャーズ移籍後の不振も、自ら就職やビジネスがままならなかった頃と重なり、彼がそれをプロとしてひとつひとつ克服してきた姿に、本当に勇気付けられました。

日本人云々という気負いが抜けた時

その後米国生活に慣れるに従い、ビジネス上での日本人云々という気負いが徐々になくなり、知らぬ間にベースボールの見方も日本人に注目する態度から、地元のチームを応援する熱心なベースボールファンというふうに変化してきました。その間イチローの大活躍、新庄のSFジャイアンツへの移籍など、いろいろな日本人選手の活躍もありましたが、今はひたすら地元ジャイアンツがワールドシリーズに出られることを夢見ています。先日もパックベルパークに日本からの知人を連れていった時に、間違って車でマスメディア用のゲイトに入ってしまい、ちょうど監督のダスティ・ベイカーが球場入りするところに遭遇しました。ダスティのファンである私は、思わず彼に声を掛けて気軽な立ち話を彼とする機会を得ました。あまりにも大胆で自然な私の態度に驚いた知人は、彼を個人的に知っているのか?と聞く始末で、特に個人的に知らないけど、彼はとってもフランクに答えてくれたよと返事をしたら、知人の目は点になっていました。

ベースボールの中に、アメリカの家族のあり方を見る

ベースボールは、他のプロスポーツと異なり家族で楽しむスポーツとして、アメリカ人のライフスタイルを代表しているような気がします。ボールパーク(球場)では、おじいちゃんやおばあちゃんが、孫や子供と一緒にグラブを片手にスコアボードをつけながらゲームを楽しんでいる光景を多く見かけます。またチームが深く地元のコミュニティとつながっているので、地元ファンへのサービスや優遇制度、チャリティ活動への貢献など、チームは地元と一体化するためのイベントをたくさん行っています。9月28日ジャイアンツがナショナルリーグのプレイオフ出場の資格を獲得した日、バットボーイとして働いていたダスティの息子は、まだ4歳ぐらいで、バットの長さと同じ位の身長でよろよろしながらバットをダックアウトに運んでいました。ダスティは、試合終了後その小さな息子を抱き上げて、お祝いのシャンペンがけのパーティルームへ入っていきました。こういう光景は、とても攻撃的なフットボールやバスケットボールの世界では考えられないものです。

私がベースボールを好きな理由はそこにあります。ホットドッグをほおばりながらベイの潮風に吹かれて、ファンとプレイヤーをさえぎるフェンスがほとんどないボールパークで地元チームを応援する。この良さは、アメリカ生活の醍醐味です。ダスティと自然に会話ができた理由は、ここにあるような気がします。

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