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#グローバルビジネス

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アメリカの現実⑩「サステイナブル&エシカルっていう観点から卵を考える」

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『Cool Hand Luke』のように卵50個は無理だけど、1日3個は食べている私

私は卵が大好きで、毎朝4個の卵をゆでて、朝食兼昼食にお味噌汁と2個のゆで卵を食べる。後の2個のうち1個は夫が、もう1個は私の夕食までのつなぎで、すぐに栄養補給する必要に迫られた時のためのもの。卵といえばPaul  Newman主演の1967年映画『Cool Hand Luke』で、刑務所の中でLukeはゆで卵50個を食べられると豪語した賭けのシーンを思い出す。

この映画は卵に限らず非常に面白くPaul  Newmanの良さが、全編で活かされており、まだ観ていない人は是非ご覧いただきたい。

卵好きの私が勧めるVital Farms

2020年7月31日にテキサス州のオースティンにある、Vital FarmsがNasdaqでIPOを果たした。私はこの企業の上場云々以前に、近所のマーケットでこの卵を目にして以来、その鶏の育て方と卵そのものの味で大ファンとなり、買い続けていた。この卵は、Pasture-Raised Eggsなので、殺菌処理されておらず、Pasture(牧草)にアクセス可能なフィールドで育てられた鶏から生まれた卵である。

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Vital Farmsは、小さな農家(すでに200を超えた)と契約して、エシカルに育てられた「はっぴいな鶏」が生む放牧卵を、全米の1万4,000店舗のマーケットに卸している。Vital Farmsは、契約している小さな農家と共に、丁寧にビジネスを育て上げ、パンデミックも含めて、近年の消費者のサステイナブルな食への関心と自宅で料理するトレンドは、投資家にも注目されて、彼等のビジネスモデルは大きく押し上げられた。

以下の図にあるように、この公式がこの企業を支えている。

"Pasture-Raised"+"Family Farms"+"Purpose Before Profit"=Vital Farms

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消費者は「放牧卵」的なイメージを作る用語を正しく理解していない

誰でも、身動き1つ出来ないケージの中で、工場生産のベルトコンベアともいうべき仕組みで、卵を産み続けるためだけに生かされている鶏の卵より、放牧卵のほうがいいに決まっている。生産者或いは企業は、3つの言い方で、卵を産む鶏の育て方を表記しているが、以下の3つの表現は、鶏を1羽を育てるスペースが大きく異なる。つまり一見放牧されているイメージを持たせる「Cage-Free」や「Free Range」といった言葉は、実は消費者を惑わす要素があり、Pasture-Raisedとは、エシカルな観点からも大きく異なる。

  • Cage-Free:1羽あたり、約1平方フィート(0.09平方m)

  • Free Range:1羽あたり、約2平方フィート(0.19平方m)

  • Pasture-Raised:1羽あたり、少なくとも108平方フィート(10.03平方m)

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またPasture-Raised Eggsのためには、気候や土壌も適切なモノでなければならない。Vital Farmsは、以下のグリーンで示された「The Pasture Belt」というエリアにある小さな農家と契約している。

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当初は10ドル以上した卵が今は6ドル以下まで下がった!

我が家もそうだが、毎日食べる卵の価格は、やはりかなり気になる。幾らエシカルで素晴らしい味でも、1ダースが12ドルすると、流石に毎日何個も気前よく食べることに躊躇してしまう。しかし、らっきいなコトに、上場前からVital Farmsは徐々にスケールアップしており、価格が6ドル以下に落ちてきたので、今はいつでも、安心して購入できる(普通市場に出回っている最も廉価の卵は2-3ドルで買えるので、6ドル以下は今でも高い印象があるが)。

Vital Farmsは、2018年時点で累計で2,500万ドルを調達して、市場価値は1億3,600万ドルとされていたが、上場直後、22ドルのIPO価格は60%も急騰し、時価総額は13億ドルに達した。私は、闇雲にいろんなスタートアップのIPOを手放しに誉めるほど、ナイーブではない。但し、Vital Farmsの卵の販売価格がより求めやすくなったのは、上場による資金調達と市場価値の上昇がもたらしたものとして、珍しく喜んでいる。

Vital Farmsの創業ストーリー

13歳になる前に、既に近所の人たちに卵を売っていたという創業者のMatt O’Hayerにとって、今回は2回目のIPOである。彼は1998年に旅行予約企業を上場させたが、911テロ後の需要減少で廃業した。彼は2007年に友人であるWhole Foodsの共同創業者のJohn Mackeyの住むオースティンに移住し、彼からオーガニックでエシカルな食品需要の高まりを聞いて、この分野での起業を思い立った。

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彼はまず20羽の鶏を購入しオースティンで育て、地元のファーマーズマーケットやレストラン向けの販売を開始した。しかし、当時は彼が希望した価格(10ドル以上)で卵を買う顧客は存在せず、売れ残った卵をフードバンクに寄付する日々が続いたという。因みにこの時、卵の販売に使っていた彼の車は2005 SUBARUだった(13年後の2018年の時点でも彼はSUBARUを所有していた)。SUBARUは我が家の大切な車ブランドで、尚且つSUBARUは私の会社JaMの主要クライアントでもあり、この点だけでも、思わず彼を応援したくなる。2018年のForbesのインタビューで、彼は「それでも私は、サステイナブルなビジネスにふさわしい価格を消費者に理解させようとしていた」と話している。

その結果、WalmartやAlbertsonsといった米国のメインのマーケットの顧客にもその価値が認識されて、価格は1カートンが5.59ドルとなった。現時点ではVital Farmsの卵を購入する消費者の割合はわずか2%だが、上場により、その比率を急速に拡大できると見込んでいる。

O’Hayerは以下のように明言する。

“I was always looking for the exit. Instead of looking to get rich, I realized I could build a company where I was focused on employees, customers, shareholders, and the environment,” “It’s so much more fun than focusing on profit.”

Purpose before profit

O’Hayerの言葉からも示唆されるように、上場によって得られるものは、それによって、自分が求める価値観を具現化するビジネスにフォーカスすることが可能になるという点である。

彼は「金儲けよりもっと面白いことがある」と言う。そして、彼のサイトにある言葉、"Purpose before profit" まさにこれが今のビジネスで最も重要なポイントだと思う。

「金儲けをする人」は世の中に多く存在するが、「お金の使い方を知っている人」は意外と少ない。Purposeがないビジネスは、サステイナブルに事業が継続していかない。サステイナブルな企業は、全てのステークホルダー(社員、顧客、パートナー企業、株主、コミュニティ)に価値を与える。

私は1人の消費者として、自分の消費行動を通じて、少しでもサステイナブルな社会活動に貢献していると思うと、嬉しい。これからも、はっぴいな鶏が生んだ美味しい卵をエンジョイしながら、毎日食べられる喜びをしっかり噛みしめる。

PS: 私は、自分の価値観を共有できる企業を応援する一つのやり方として、その企業の株を購入すべきだと思っている。私は既にVital Farmsの株を購入しているので、現在私は顧客&株主という2つの面からVital Farmsのステークホルダーでもある。

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アメリカの現実⑥「変化を求められる広告エージェンシーの企業文化」

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日本では理解し難いエージェンシー内の白人中心文化

今朝目にしたDigiDayの記事 「エージェンシーの「白人文化」に、黒人社員が変革を求める:「プレッシャーは効いている」」を読んで、すっかり忘れていたが、自分も24年前、米国の広告代理店San Francisco McCann Ericksonで勤務していたことを思い出した。1996年私は、デューティフリー製品を販売するDFS Group担当のAccount Supervisorとして雇用された。DFSのターゲットオーディエンスは、日本人買い物客で、広告は日本の雑誌に掲載することがメインだったので、米国に移住したばかりで職探しに苦労していた私は、自分のStrengthを発揮できると有頂天になった。但し、実際はメディアバイイングを日本のマッキャンエリクソンに委ねていたことから、日米のグループ会社は利害関係が異なり、私はリエゾン的な立場で、両者から球を投げられ、それを捌くという、非常に難しい立場だった。

当時日米間のコミュニケーションは電話とFax主体で、毎晩日本の媒体担当と電話で話し、SFから出るCaltrainの最終の1本前の22:35発に乗りたいが、殆ど乗れず、最終の0:05発に乗ることが多かった。朝はまだ星が出ている時間に家を出て、夜は最終便だったので駅員にもすっかり顔を覚えられて、また今晩も遅かったねと声を掛けられるぐらいだった。

嫌な思い出の1つは、週に1度の英語だけで話す日米のチーム電話会議で、米国チームは英語でまくし立て、日本チームは殆ど反論しないという流れだったが、会議終了間際に日本の担当が「大柴、これが終わったら残れ。日本語で話をつける」と言い放った瞬間である。米国チームは「今、彼は何と言った?」と聞くので、仕方なく私は「彼は私だけ残って日本語で話を詰めたい」と答えると、全員が激昂して「絶対に電話に出てはいけない。彼は会議で全員に話すべきで、ひさみ1人に日本語で話しあうというのはルール違反だ」とわめきだした。私は日本に送る原稿入稿の時間がかなりきついので、今晩彼と話さないと間に合わなくなると説明して、結果日本からの電話を取った。日本の担当者は怒りに震えた声で、米国チームの勝手な言い分を罵り、私はいやいやながら彼を宥めて、何とか原稿入稿を終わらせた。

今思えば、当時の私は日本から来たばかりで、英語がフルーエントではないというコンプレックスによって、米国エージェンシーというプリマドンナ(自分が目立つ・注目されることだけを望む人)だらけの業界で、チームリーダーでありながら、チーム内で嫌われることを恐れて「良い人」であろうと、必死にもがいていた。今日書こうと思ったエージェーンシー内の人種差別とは異なるが、「英語が出来ないというだけで、まるで能力ゼロのように見られる外国人という差別」の中で苦しんでいたのは事実である。

特にエージェンシーでクライアントとの窓口となるAccount SupervisorやAccount Executiveは、24年前は白人が殆どで、それも外見の良いような人が担当者となって、クライアントに通っていた。San Francisco McCann Ericksonで、私が覚えている限りでは、営業は全て白人で、それ以外の部署にアジア系が1人、ヒスパニック系が1人、アフリカ系は皆無で、外国人は私1人ということで、全て白人中心で回っていた。

エージェンシーの中の黒人社員は「白人文化に馴染んで同化するように仕向けられる」

米国の人気Sitcom television seriesに「Black-ish」という番組があるが、黒人のアッパーミドルクラスの家庭を描く、2014年から続く人気番組である。主人公のAndre 'Dre' Johnsonは、白人ばかりのエージェンシーで唯一の黒人のエグゼクティブで、黒人をターゲットするプロジェクトでは、Strategistとして、白人チーム内で常に意見を求められる。彼は白人の上司及び同僚達のステレオタイプな黒人像に、いつも呆れて激昂しながら、エージェンシー内で苦労している。

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このTV番組で訴求されるメッセージと同じことが、今朝のDigiDayの記事の中に書かれてあった。

あるエージェーンシーグループに勤務する黒人のStrategistであるBrandon(仮名) は、仕事は好きだが、常に黒人社員が「白人文化に馴染んで同化する」よう仕向けられる、エージェンシーの「一枚岩」文化に悩ませられているという。複数のエージェンシーで経験した人種差別的カルチャーについて、以下のように語っている。

“I’ve always been like, ‘I can take that, I can deal,’” “But right now, the combination of what’s happening with how my agency has handled everything up to this point—to be candid, I feel disrespected. We’ve received a number of emails but not one of them has any points of action. So obviously when the fifth one comes through, I’m like, ‘Ok, now you’re insulting my intelligence.’”「『これくらい受け入れられる、問題ない』と、いつも自分を納得させていた」「だが、いま起こっている事態と、エージェンシーがこれまで問題にどう対処してきたかを考え合わせると、はっきり言って私は軽んじられてきたと思う。(会社から)たくさんのeメールを受け取ったが、どれひとつとしてアクションポイントを示していなかった。だから、5通目のメールを見たときは、『私の頭が足りないと思っているのか』という気分だった」

広告業界に勤務する黒人社員達の改革を求める公開書簡

今世界中でBLM(Black Lives Matter)の抗議運動の嵐が吹きすさぶ中、Brandonを含む広告業界に勤務する600名の黒人社員達が「エージェンシーの変革を求める公開書簡に署名したこれを主導したのは、Periscopeのグループ戦略ディレクターのNathan Youngと、Aerialistの創業者のBennett D. Bennettで、黒人社員とそれ以外の有色人種の社員が働きやすいよう職場環境を改善するための12の具体的なアクションを列挙した。

これはエージェンシーのリップサービスや旧態依然ぶりに辟易している社員たちが、真のDiversity  & Inclusionのために変化を求めて、ボトムアップの圧力をかける事例である。この書簡で社員たちはエージェンシーに、黒人社員の割合を増やす努力、Diversityに関するデータを公表することを求めている。エージェンシーがどう対応するかは、いまのところ未知数である。

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Black agency professionals have an unequivocal response for U.S. advertising agencies: release your diversity data and reform your practices now.
Kacy Burdette

記事によれば、IPG、WPP、Omnicom Group、Publicis Groupe、電通からは現時点で回答は得られていない。唯一Havasは、フランスの法律で社員の民族的出自に関するデータの収集は禁じられているものの、「彼らが作成したリストを指針として利用し、包括的な取り組みに基づいて、ビジネスにおける意思決定を行う」としている。

もうエージェンシーは社内の人種差別を無視出来ないレベルに近づいている

このエージェンシーにおける人種差別は、長い間言われてきたことで、ことさら新しいコトではない。ただ往々にして、エージェンシーが実施した主な対策といえば、Diversity & Inclusionの担当責任者を採用して、彼らに丸投げするだけで、成果をあげるために必要なリソースを提供してこなかった。要は、誰も真剣に取り上げて改善する意思がなかったといえる。

但し、今回はそうはいかない。

すでにGorge Floyd事件から3週間以上経つが、抗議行動は収まらず、BLMを求める一般の眼は、政府・行政・警察のみにとどまらず、お為ごかしの言葉のみでBLMに賛成する企業に対しても、「本当に人種差別や社会的不平等撤廃を行動を伴って実施する気はあるのか?」と鋭い眼差しを投げつけている。そうした企業をクライアントとして抱える広告業界が、いつまでも「白人中心文化」というぬるま湯につかっているとしたら、クライアント側は、そうしたエージェンシーを切っていく。これは今後間違いなく起こりえる現実である。

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