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#マーケティング戦略

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コロナ禍でのアメリカ生活㉛「コロナ禍は我々をタイムマシーンに乗せた」

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今年もあと2日で終わる。何を今年は考えたか?と自問自答しているところ、WSJの記事が目についた。その中でも以下のShopifyの VPのLoren Padelfordの言葉は正鵠を得ている。

“Covid has acted like a time machine: it brought 2030 to 2020,” said Loren Padelford. All those trends, where organizations thought they had more time, got rapidly accelerated.(コロナは、まるでタイムマシンのように2030年を2020年に持ち込んだ。まだ時間がかかると思われていたこれらのトレンドが、今年一気に加速した)”
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確かに今年1年は「個人及び社会において、10年分のデジタル化が進み、一気に生活が2030年レベルに到達した」と言える。4月の娘の結婚式を皮切りに、夫の父親の誕生パーティ、家族のReunion、選挙候補者との質疑応答、自宅が属するコミュニティ・ミーティング、姪のBaby Shower、クリスマスパーティなど、全てをZoomで行い、下は姪のお腹にいる赤ちゃんから、上は89歳の父親まで、当たり前のようにオンラインヴィデオで会話している。私達夫婦は、娘の夫側の家族と初めてZoomで顔を見て話し、夫の父親を含めて80代の親戚は毎週日曜日はZoomによる教会中継に参加している。

私は自宅で週に5日間毎朝ストリーミングによるエクササイズを行い、モバイルによるオンラインバンキングは当たり前になり、過去1年間一度も現金を使わず(非接触)、法的な文書や契約書もeサインで完結している。これは昨年までは中々想像できない浸透度で、オンラインによる消費行動や社会生活は、まるで10年前からやっていたかと思わせるほど、自然に生活に馴染んでいる。

仕事面では、25年間の滞米生活で初めて日本を含めて一切の海外出張がなく、更に飛行機に乗ったのはパスポートの更新でコロラドの日本領事館に行った時のみ。またその日も日帰りだったため、1年間一度も自宅以外で宿泊しなかった。日本のクライアントとのミーティングはオンラインヴィデオとなり、セミナーも全てオンラインで実施した。このデジタル化は、様々な利便性を私の仕事にもたらしている。

それまでは、私が日本に行かないとミーティングやセミナーが実施できないという慣習があったが、今年は私の出張スケジュールに関係なく、気軽にいつでもできるようになった(日米は時差があるので、米国時間の夜中とか朝方にセミナーをやる場合があるのが、ちょっと難点)。

さらに「ひさみっと」と呼ぶオンラインコミュニティを立ち上げて、毎回リアルタイムヴィデオで、ゲストとディスカッションするという中身の濃い日米間のコミュニケーションも可能となった。

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また事務的な面では、請求書は郵送ではなく、eサインをしてメール添付で送れるようになり、クライアントサイドのデジタル化も急速に早まった。

パンデミックが加速化させる「Asset light(資産軽量化)なビジネス」

2020年はビジネス面においては、投資家の資金が「Asset Light(資産軽量化)」のビジネスモデルの企業(Amazon、Carvana、Airbnbなど)及び、これらのモデルにインフラを提供する企業(Zoom、Microsoft、Shopifyなど)に流れ込んだ。デジタル時代においては、当然のように産業機械や工場などの有形資産よりも、アイデアやR&D、ブランド、コンテンツ、データ、人的資本といった無形資産が価値を生む。

この傾向はGoogle、Facebook、Amazonのような巨大プラットフォーム企業の成長に顕著に現れていたが、今年はパンデミックでビジネス上のやり取りが対面からバーチャルに移行し、一段とその流れが強まった。企業は今やオフィススペースや出張にかける費用を縮小し、クラウドコンピューティング、共同作業ソフトウエア、物流管理にかける費用を増額している。

デジタル化は、100年前から進行するプロセスの次のチャプター、即ち「Dematerialization of the economy(経済の脱物質化)」を意味する。農業から製造業に主役が代わり、やがてサービス業へと移行したが、それに伴い、有形物や労力に由来する経済的価値の割合は縮小し、情報や頭脳に由来する価値の割合が増大した。

局地的な疫病であったコロナは、パンデミック化し、全世界に同時に莫大な影響を与えて、デジタル化を半ば強制的に世界中に強いた。言い換えると、コロナ禍は「Dematerialization of the economy(経済の脱物質化)」のAccelerator(加速装置)の役目を果たしたことになる。

こうした流れの良しあしを、私はここで言及するつもりはなく、ただ確かなことは、この潮流が今後も継続していくという点だけは触れておきたい。

「出来ない」というExcuseはもう通用しない

何か新しいことをやる場合、「出来ない」という言葉を使う人がいるが、これを翻訳すると、「新たなことをしたくない」という意味になる。理由は、「失敗を恐れる」、「新たに学ぶことに手間暇かけるのがいやである」、或いは「既存権益を守りたいから」といったことが挙げられる。

但し2020年を経験した私たちには、もうこの「出来ない」というExcuseは通じない。ワクチン投与が始まった今でも、莫大な人達がワクチン接種ができて、予防が確立するまでには相当時間がかかり、その間にもコロナの変異種が生まれるなど、現状が2019年当時に戻ることは考えられない。感染を広げないためにも、「非接触」を中心とする生活は今後も継続していくと思う。

2030年の世界にタイムトラベルした以上、その仕組みの中で、自分にとってより良いやり方を見つけるしかない。時計の振り子は元に戻らず、「出来ない」ではなく「やるっきゃない」という姿勢で、新たなことにチャレンジする、それが2020年を厳しい現実を経た、私達の生きざまである。

私個人として、大好きなセーリングが今年1回もできず、愛艇のKaiyo(海洋)の乗れなかったことが、唯一残念なことといえる。

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それ以外は、このコロナ禍によって、様々な機会が与えられたことに、心から感謝している。家族や友人、さらにクライアントも含めて、離れていても、深い交流が可能となり、実りのある年だったように思う。

365日ほぼ24時間いつも一緒にいた夫に心からの愛と感謝をささげて、明日は2人で静かに良い年を迎えたいと思う。

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アメリカの現実⑩「サステイナブル&エシカルっていう観点から卵を考える」

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『Cool Hand Luke』のように卵50個は無理だけど、1日3個は食べている私

私は卵が大好きで、毎朝4個の卵をゆでて、朝食兼昼食にお味噌汁と2個のゆで卵を食べる。後の2個のうち1個は夫が、もう1個は私の夕食までのつなぎで、すぐに栄養補給する必要に迫られた時のためのもの。卵といえばPaul  Newman主演の1967年映画『Cool Hand Luke』で、刑務所の中でLukeはゆで卵50個を食べられると豪語した賭けのシーンを思い出す。

この映画は卵に限らず非常に面白くPaul  Newmanの良さが、全編で活かされており、まだ観ていない人は是非ご覧いただきたい。

卵好きの私が勧めるVital Farms

2020年7月31日にテキサス州のオースティンにある、Vital FarmsがNasdaqでIPOを果たした。私はこの企業の上場云々以前に、近所のマーケットでこの卵を目にして以来、その鶏の育て方と卵そのものの味で大ファンとなり、買い続けていた。この卵は、Pasture-Raised Eggsなので、殺菌処理されておらず、Pasture(牧草)にアクセス可能なフィールドで育てられた鶏から生まれた卵である。

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Vital Farmsは、小さな農家(すでに200を超えた)と契約して、エシカルに育てられた「はっぴいな鶏」が生む放牧卵を、全米の1万4,000店舗のマーケットに卸している。Vital Farmsは、契約している小さな農家と共に、丁寧にビジネスを育て上げ、パンデミックも含めて、近年の消費者のサステイナブルな食への関心と自宅で料理するトレンドは、投資家にも注目されて、彼等のビジネスモデルは大きく押し上げられた。

以下の図にあるように、この公式がこの企業を支えている。

"Pasture-Raised"+"Family Farms"+"Purpose Before Profit"=Vital Farms

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消費者は「放牧卵」的なイメージを作る用語を正しく理解していない

誰でも、身動き1つ出来ないケージの中で、工場生産のベルトコンベアともいうべき仕組みで、卵を産み続けるためだけに生かされている鶏の卵より、放牧卵のほうがいいに決まっている。生産者或いは企業は、3つの言い方で、卵を産む鶏の育て方を表記しているが、以下の3つの表現は、鶏を1羽を育てるスペースが大きく異なる。つまり一見放牧されているイメージを持たせる「Cage-Free」や「Free Range」といった言葉は、実は消費者を惑わす要素があり、Pasture-Raisedとは、エシカルな観点からも大きく異なる。

  • Cage-Free:1羽あたり、約1平方フィート(0.09平方m)

  • Free Range:1羽あたり、約2平方フィート(0.19平方m)

  • Pasture-Raised:1羽あたり、少なくとも108平方フィート(10.03平方m)

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またPasture-Raised Eggsのためには、気候や土壌も適切なモノでなければならない。Vital Farmsは、以下のグリーンで示された「The Pasture Belt」というエリアにある小さな農家と契約している。

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当初は10ドル以上した卵が今は6ドル以下まで下がった!

我が家もそうだが、毎日食べる卵の価格は、やはりかなり気になる。幾らエシカルで素晴らしい味でも、1ダースが12ドルすると、流石に毎日何個も気前よく食べることに躊躇してしまう。しかし、らっきいなコトに、上場前からVital Farmsは徐々にスケールアップしており、価格が6ドル以下に落ちてきたので、今はいつでも、安心して購入できる(普通市場に出回っている最も廉価の卵は2-3ドルで買えるので、6ドル以下は今でも高い印象があるが)。

Vital Farmsは、2018年時点で累計で2,500万ドルを調達して、市場価値は1億3,600万ドルとされていたが、上場直後、22ドルのIPO価格は60%も急騰し、時価総額は13億ドルに達した。私は、闇雲にいろんなスタートアップのIPOを手放しに誉めるほど、ナイーブではない。但し、Vital Farmsの卵の販売価格がより求めやすくなったのは、上場による資金調達と市場価値の上昇がもたらしたものとして、珍しく喜んでいる。

Vital Farmsの創業ストーリー

13歳になる前に、既に近所の人たちに卵を売っていたという創業者のMatt O’Hayerにとって、今回は2回目のIPOである。彼は1998年に旅行予約企業を上場させたが、911テロ後の需要減少で廃業した。彼は2007年に友人であるWhole Foodsの共同創業者のJohn Mackeyの住むオースティンに移住し、彼からオーガニックでエシカルな食品需要の高まりを聞いて、この分野での起業を思い立った。

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彼はまず20羽の鶏を購入しオースティンで育て、地元のファーマーズマーケットやレストラン向けの販売を開始した。しかし、当時は彼が希望した価格(10ドル以上)で卵を買う顧客は存在せず、売れ残った卵をフードバンクに寄付する日々が続いたという。因みにこの時、卵の販売に使っていた彼の車は2005 SUBARUだった(13年後の2018年の時点でも彼はSUBARUを所有していた)。SUBARUは我が家の大切な車ブランドで、尚且つSUBARUは私の会社JaMの主要クライアントでもあり、この点だけでも、思わず彼を応援したくなる。2018年のForbesのインタビューで、彼は「それでも私は、サステイナブルなビジネスにふさわしい価格を消費者に理解させようとしていた」と話している。

その結果、WalmartやAlbertsonsといった米国のメインのマーケットの顧客にもその価値が認識されて、価格は1カートンが5.59ドルとなった。現時点ではVital Farmsの卵を購入する消費者の割合はわずか2%だが、上場により、その比率を急速に拡大できると見込んでいる。

O’Hayerは以下のように明言する。

“I was always looking for the exit. Instead of looking to get rich, I realized I could build a company where I was focused on employees, customers, shareholders, and the environment,” “It’s so much more fun than focusing on profit.”

Purpose before profit

O’Hayerの言葉からも示唆されるように、上場によって得られるものは、それによって、自分が求める価値観を具現化するビジネスにフォーカスすることが可能になるという点である。

彼は「金儲けよりもっと面白いことがある」と言う。そして、彼のサイトにある言葉、"Purpose before profit" まさにこれが今のビジネスで最も重要なポイントだと思う。

「金儲けをする人」は世の中に多く存在するが、「お金の使い方を知っている人」は意外と少ない。Purposeがないビジネスは、サステイナブルに事業が継続していかない。サステイナブルな企業は、全てのステークホルダー(社員、顧客、パートナー企業、株主、コミュニティ)に価値を与える。

私は1人の消費者として、自分の消費行動を通じて、少しでもサステイナブルな社会活動に貢献していると思うと、嬉しい。これからも、はっぴいな鶏が生んだ美味しい卵をエンジョイしながら、毎日食べられる喜びをしっかり噛みしめる。

PS: 私は、自分の価値観を共有できる企業を応援する一つのやり方として、その企業の株を購入すべきだと思っている。私は既にVital Farmsの株を購入しているので、現在私は顧客&株主という2つの面からVital Farmsのステークホルダーでもある。

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