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アメリカの現実⑫「無意識下のステレオタイプな考えをなくすには?」

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私はNational Geographicの記事が好きで、よく読むが最近読んだ記事の中で2つの興味深いものがあった。それは考古学上の発見ですら、科学者の無意識下のステレオタイプな考えによって、事実誤認、或いは事実を無視してしまうという事が起きるという点である。

9000年前の女性ハンターの発見

2018年カリフォルニア大学デービス校の考古学の研究チームは、アンデス山脈で発掘された約9000年前の墓にある人骨を、多種多様な狩猟用の石器、大きな獲物を倒してその皮をはぐ道具などを見て、当然のように優れた男性ハンターと決めつけた。だがその後の分析でその人骨は女性であることが判明し、さらに2020年11月4日付の「Science Advances」の論文によれば、当時南北米大陸では、大型動物のハンターの30-50%は、女性である可能性が明らかにされた。

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我々の先史時代に関する常識は「狩猟は男性、採集と育児は女性」という「伝統的な性別による役割分担」によって支えられている。但しこの19世紀以降の世界の狩猟採集民を調査してきた人類学者の記録に由来するものが、このペルーの発掘及び最新の研究で、必ずしも先史時代には当てはまらないことが証明された。言い換えると、このペルーの人骨以外にも、「女性の骨格に狩猟の痕跡があったり、狩猟道具と一緒に埋葬されていたりする」事実は、過去多く存在していた。しかし考古学者は、ステレオタイプな男女の役割分担の考えに縛られ、事実を無視、或いは見過ごすというミスを繰り返していた。

先史時代の狩猟のリーダーとして必要な資質とは、「健康で強靭な肉体を持ち、集団を統率し、大型動物を捕捉するための優秀な頭脳を有する」コトである。これらを備えていれば、当然、女性でも、ハンター或いは指導者になり得たことがここで確認された。

1000年前のヴァイキングの女性戦士

2020年9月8日付けの「American Journal of Physical Anthropology」によると、1000年以上前に埋葬されたスウェーデン南東部のビルカの墓は、ヴァイキングの男性戦士の『理想』の墓とされてきたが、DNA鑑定によって、この墓には、女性が埋葬されていることが証明された。この墓が発掘された当時(1880年代の終わり)は、遺骨は剣、矢じり、槍、そして殉葬の馬2頭と共に見つかったため、考古学者は固定概念に基づき「これを戦士の、つまり男性の墓だ」と考えた。

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またこのDNA鑑定以前にも、この定説を覆す研究がなされ、遺骨の骨盤と下顎を詳しく分析して、女性に典型的な寸法と一致するという結果が出たが、一部の考古学者は、墓地の発掘は100年以上前に行われたため、ラベルが誤っている、別人の骨が混ざっている、といった批判を繰り返していた。しかし、今回のDNA鑑定の結果、骨からY染色体は全く検出されず、あちこちの骨から取り出したミトコンドリアDNAは全て一致し、遺骨は1人の女性であったことが確定した。またもう1つ興味深いことは、彼女の膝の上には、ゲーム駒があったことから、彼女が戦術立案も可能な優れたリーダーであったという点である。

このビルカの墓の女性戦士以外にも、ヴァイキングには女性戦士の伝承が残されている。10世紀初めのアイルランドの文献には「インゲン・ルーア(赤い娘)」という女性戦士が、ヴァイキングの船隊をアイルランドへと導き、13世紀のヴァイキングの物語の多くに、男性戦士と共に戦う「盾を持った乙女」が登場する。だが、こうした女性戦士の記述は、単なる神話的脚色だと決めつける考古学者が多く存在していた。

つまり考古学的解釈が、上述の9000年前の女性ハンターと同様に、科学者ですら、我々が縛られているステレタイプな性別による役割分担を、無意識に当てはめて、その結果、真実を見落とすことがあるという点である。

政治、スポーツ、軍隊と、米国のガラスの天井にひびが入りつつある。

今月は、米国の色んなガラスの天井にひびが入りつつあるKamala Harrisは初の非白人(黒人&アジア系)女性副大統領となり、メジャーリーグベースボールではMiami Marlinsが史上初めて女性GMにアジア系アメリカ人女性のKim Ngを指名し、US海軍士官学校では175年の歴史上初めて黒人女性のSydney Barberがリーダーとなるなど。

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「先入観」→「偏見」→「差別」の公式をなくそう

私は色んなところで書いたり話したりしているが、「女性云々」という言い方で、事さら性別を話題にすることは避けたいと思っていた。但し、無意識下のステレオタイプな考えが、如何に社会の中で根深く人の考えを支配し、それによって多くの制限が生まれる以上、やはり声を大にして口にすべきだと思い始めた。特に私のように両親の励ましの下で、幼少時からあまりジェンダーを意識せずに育ち、女性としての被害意識を持たずに、常に自分自身ジェンダーニュートラルで歩き続けきた人間だからこそ、敢えて発言すべきだと思う。

また私は、日本時代は男性の独壇場であったエージェンシーの中で、ガラスの天井を突き破るために拳に血を滲ませ(男女雇用均等法以前の話)、米国移住当初は、英語が不自由な外国人という立場で、白人だらけのエージェンシーで、アタマを何度も壁に叩きつけられた経験がある。痛みはよく分かっているつもりである。

無意識下のステレオタイプな思考を消していくには、「目についたステレオタイプな現象」に対して、「それはおかしくないか?」と声を上げていくといった地道なコトから始めるのがいいと思う。疑問を持つことは非常に大切で、その疑問によって、人は新たな「想像力の飛躍」が始まる。

「先入観」があると「偏見」を持ちやすくなり、その結果「差別」という行為が起こる。これを肝に銘じて、想像力の羽を広げて、飛翔しよう!

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アメリカの現実⑪「21世紀の風ー女性を取り巻くダブルスタンダードが徐々に消えてゆく」

白のパンツスーツで登場したKamalaのメッセージ

まだ米国は大統領選挙の開票の最中で、最終的な数字が把握できないが、投票の有効数と代理人の投票により、アメリカ人は、Joe Biden &Kamalaを次期大統領及び副大統領に選んだ。Bidenは7,567万票以上、Trumpは7,126万票以上の投票を得た。これは言わずもがなでアメリカ人の大統領への意見は大きく2つに分かれている。この数字の持つ意味は重く、今後Biden & Harrisのコンビは、コロナ禍でさらに経済格差が拡大し、文化的にも大きく分断されたアメリカという国を1つにまとめていくという重い責務を伴う。

ただ今の私の気持ちは、まずはBiden & Harrisコンビが誕生したことを喜びたい。

一昨日、Kamalaが真っ白なパンツスーツで勝利のスピーチのステージに現れたことに、多くの米国女性達は納得した。これはKamalaの強いメッセージとして、受け止めたからである。年頭のThe State of the Unionで、多くの女性議員は白のスーツで登場した。米国では、白は女性参政権拡大のシンボルで、1920年に米国女性は、合衆国憲法修正第19条によって初めて参政権を与えられて、今年はその100年目にあたる。彼女はスピーチの中でも、このことに触れており、長年の女性達の参政権獲得の苦労と努力の結果を称えている。

また今回の選挙でBiden & Harrisを支えたのは多くの黒人女性でもあり、スピーチの途中で、カメラは会場の人々を写しだしたが、その中で涙する黒人女性や、未来を見つめるかのような少女の姿は印象的である。

KamalaがVPに選ばれたことの持つ意味は大きい。彼女は、米国政治史上初めて女性で尚且つ非白人(アフリカ系&インド系)という立場で、米国で2番目に重い地位に就く。米国女性は、100年かかってこのポジションに辿りついたことになる。

初尽くしのKamalaではあるが、Obamaが選ばれた時にも実感したように、米国は色んなPossibilityを見せてくれる。これが私がこの国に住み続ける理由の1つである。

本当にガラスの天井にひびは入ったのか?

VPであるKamalaの出現は、確かにガラスの天井にひびが入ったように見える。但し、このひびは社会の中で巣くう女性へのダブルスタンダードの偏見を覆すには至っていない。私は8月彼女がBidenのVP候補として選ばれた時に、このSexismや女性への偏見に基づく社会のダブルスタンダードに関して書いた。

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この無意識における女性への偏見を少しでも軽減していかない限り、様々なポイントで、Kamalaも含めて政治・企業・社会の中で、女性は常に「揚げ足」を取られる。

彼女の価値は、初の女性・非白人(アフリカ系&インド系)といった属性にあるのではなく、サンフランシスコ地方検事、カリフォルニア州検事総長、カリフォルニア州上院議員、2020年民主党大統領候補の予備選挙に立候補したという、彼女の略歴そのものにある。彼女の検事として非常に冷静な論理展開で相手を追い詰めるプロフェッショナルとしてAttitudeは、非常に感銘を受ける。またその一方で、常に笑顔を絶やさず、相手に語り掛けるようなトークスタイルは、性差に関係なく人間としての温かみを感じる。

こうした彼女の人間としての資質は、ジェンダーや人種を超えて、政治家として、非常に重要なものだと思う。

何故女性は「ファッションポリス」の餌食になるのか?

Forbesの記事でLela Londonは、以下のように女性政治家を取り巻く、ファッションに関連したダブルスタンダードを指摘している。記事では、Hillary Clintonのパンツスーツ、Alexandria Ocasio-Cortez(AOC)のヘアカットといった女性政治家がファッションによって揶揄されるダブルスタンダード指摘する。

「スーツ以外の服を着た女性政治家」には、ニュースのネタになる価値がある。政治家(つまり男性のこと)ならスーツを着るのが当然だ、というのがその理由だ。「政治家」は中立的・標準的なスーツを身に着けるものであり、ファッションを装うのは「女性」なのだ。女性のファッションに難癖をつける「ファッション・ポリス」は、ひどいときには、女性の装いを、その影響力を失わせるために利用する。最も良い時でも、女性の装いを、その好感度の判断材料にする。そして今回、ハリスが副大統領候補になったことで、ファッション・ポリスたちが活動を始めるのは目に見えている。

Kamalaは、検事という立場上、或いは彼女個人のスタイルなのか、非常にジェンダーニュートラルなスタイル(ダークスーツ)でパブリックに登場する。服装で個性を表現する私個人の目から見ると、ある意味Conservativeに思えるが、多分ごく普通のアメリカ人のファッションセンスから見れば、「reasonbale(妥当)」に見えるはずである。また彼女がキャンペーンやトラベルで愛用するConverseのシューズは、Practicalな動きを可能にするもので、実用性や機能を重んじるアメリカンカジュアルとして、好感を持たれると思う。

ダブルスタンダードが徐々に消え去る気配を感じる

Obamaは大統領に就任すると、日々決断の連続となるので、大統領職以外で決断することの無駄を省くために、同じスーツ・シャツ・タイを何着も用意して、何を着るかという選択を省いた。

政治家にとって、話題となるべきは、政策でありメッセージである。女性政治家であるがために、ヘアスタイル、衣服、メイクアップ、或いは体型も含めて、揶揄・賞賛されるのは避けがたい。但し、Kamalaを見ていると、そうしたダブルスタンダードが過去のものになりつつあるように、自然体で、自分の個性を生かしつつ、政治家としての資質を証明しようとしているように見える。

Kamalaは、21世紀に生まれた米国政治史上初の女性副大統領である。過去のHillary Clintonに代表されるように、20世紀の遺産ともいうべき女性政治家達が受けてきた偏見をものともせず、VPとしてPublic Servantとして、アメリカ市民のために、彼女の資質を最大限に発揮してほしい。

「ファッションポリス」なんて言葉自体がナンセンスで、時代錯誤である。個々人がその職務を実行するために、最適なAttireを選べばいいのであって、それを人が揶揄する傾向は、徐々に消えつつある。Millennials & Gen Zが主役となる21世紀は、ステレオタイプが消えゆく時でもある。


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