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アメリカの現実⑤「今企業は真剣にBlack Lives Matterへの対応を迫られている。今回は逃げられない」

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米国の「Gray rhino(灰色のサイ)」と呼べる「人種差別問題」はついに暴れだした

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米国企業は、コロナ禍によるパンデミックの次に、ついに暴れだした「Gray lino(灰色のサイ)」ともいうべき人種差別問題への対応を迫られている。金融業界では、「Black swan(黒い白鳥)」と「Gray rhino(灰色のサイ)」という2つの言葉が良く使われる。「Black Swan」は、1697年にオーストラリアで黒い白鳥が発見されたことによって、「白鳥は白い」と思っていた通念を破壊したことに由来して、常識ではありえない異常事態が、社会に大きな衝撃を与えてしまう現象をいう。

これに対して「Gray rhino」は、普通サイは灰色なので、特別に目を引く現象ではないが、一度サイが暴れ出すと、手が付けられないほど大きな被害をもたらす現象を指す。また「灰色のサイ」は、我々が日頃から認識しているにも拘らず、直接自分達に影響を与えないと勝手に解釈していることがポイント。米国では日常化している「人種差別問題」は、この「灰色のサイ」状態となり、問題認識はされていたが、長い間誰もが恐れて手つかずの状態であった。それが「George Floyd死亡事件」がトリガーとなって、ついに「灰色のサイ」は暴れだした。

米国トップ100企業は、まず反人種差別のために16億ドルの寄付を誓った

今回の「Black Lives Matter(BLM)」への企業の対応を、パブリックは今しっかりと見つめている。企業が今までのように、嵐が収まるまで首をすくめているといった、日和見的な態度を見せるのを許さず、企業に具体的な動きをするよう、要求している。企業は、巨大化した「灰色のサイ」に対峙した結果、まずお金を使うということで、自らの立場を明示する方法に出た。

米国のトップ100企業は、人種差別と戦うために16億ドル以上のお金を費やすコトを誓っている。金額的にダントツのトップは、Bank of Americaの10億ドル、2番目は、Walmart、Camcast、Appleが、各々1億ドルずつ出すことを誓った。現時点ではトップ100企業のうち42社は寄付を誓っており、10社が全体の寄付の90%を占めている。

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企業各社のBLMへのメッセージは、どれも「四角に切った黒い羊羹の金太郎飴状態」

George Floyd事件発生後のBLMムーブメントへの企業の対応は、以下のAmazonのTweetのように、四角い黒い羊羹を切った金太郎飴状態で、ソーシャルメディアは黒の四角だらけになった。各社ともメッセージで、人種差別と戦うコトは表明しているが、人種差別の根本にある「白人至上主義」といった、本質的な問題に触れるものは皆無に等しかった。実際、誰もが簡単に「人種差別は良くない」と言えるが、米国の社会、経済、文化の中に制度的に組み込まれた黒人差別の問題点を直視して、どのように解決するか、またどのように実施するかを言及するには到底至っていない

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黒人不在ー経営レベルに欠けるDiversity & Inclusive

大企業における黒人の経営レベルの参画および昇進は、長年多くの企業がお題目のように唱えているが、一向に改善されていない。Fortune 500の企業の中で黒人のCEOはわずか5人で、44位のLowe's、69位のMerck、81位のTIAA、438位のM&T Bank、485位のTapestryの5社のみで、Fortune 500の全CEOの1%でしかない。米国人口でアフリカ系アメリカ人は13.4%を占めるが、1999年以来Fortune 500の歴史で、僅か18名が黒人CEOで、2012年が最多で6名だった。勿論CEOだけに限らず、大企業の経営層に黒人が食い込む割合は非常に低い。 

Appleは今回人種差別撤廃のために1億ドルの資金を投入すると誓っているが、Appleの12人のシニアのリーダーたちの中で、黒人はこの人種差別撤廃のイニシアティブを指揮するLisa Jacksonのみである。彼女は、Obama政権時代に米環境保護局(EPA)を率いた経歴を持ち、2013年にAppleに入社している。CEOのTim Cookは、“Things must change and Apple is committed to being a force for that change,”とTweetしているが、実際にどこまでそれが可能かどうかは、今の時点では何とも言えない。

白人至上主義の問題に言及するBen & Jerry’s

そうした中で、非常に明解に白人を優遇する歴史的な背景を指摘しながら、反人種差別を強く訴えるのが、Ben & Jerry’sである。

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彼らはコングロマリットであるUnileverの傘下ながら、独自のCEOと役員会を持つ唯一の独立した組織で、自社の価値観に沿った政治的な見解を長年主張してきている。彼らは、米国法務省に対して公民権局の復権を、議会に対しては、1619年黒人奴隷が初めて北米に連れてこられた時から、現在に至るまでの差別の影響を明らかにするため、委員会設置の法案を可決するよう求めている。

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Ben & Jerry'sの首尾一貫した言動と行動の一致によって、初めて企業として発言する「Black Lives Matter(BLM)」という問題の意味が認識できる。

もう誰も暴れる「灰色のサイ」から逃れられない

人種差別問題に関して議論するならば、まず議論の参加者に黒人が参加すべきで、残念ながら多くの場合、当事者たる黒人は不在のまま論議されている。当然、人種差別の根っこにある、米国の負の遺産である黒人奴隷と白人至上主義の問題に踏み込んだ議論が出来ない、或いは口を閉ざしてしまう。白人にしてみると、自分を加害者側に置く、歴史の読み方には苦痛を伴うし、出来ればそこを通らずに議論したいというのが本音だと思う。

但し「灰色のサイ」は既に暴れ始めており、通常のやり方では、このサイを鎮めることはできない。特に、MillennialsやGeneration Zといった米国人口の半分を占める層は、Diversity & Inclusiveを重視する価値観の中で育った。彼らは、幼少時から周囲のマイノリティ(人種や性的志向性の違いも含めて)を認め、彼らを含めて全ての人間は平等であるべきと考え、BLMを口にすることへのためらいはない。彼らは、今、企業をじっと見つめて、「あなたはこの問題をどう考えて、それをどのように解決するのか? またそのためにどんな行動をとるのか?」を聞いている。

企業側は、四角い黒い羊羹をソーシャルメディアに貼り付けて、お金さえ出せば、コトが済むと思っているとしたら、それは間違いで、今回は即座に「No」と否定されて、顧客は離れていく。もう誰も「灰色のサイ」から逃げられない。

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アメリカの現実④「人種差別を考えるためには、まずは155年前の歴史に遡って考える必要がある」

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なぜ今南部連合を象徴するものが撤去されているのか?

過去数日のうちで、アメリカではThe American Civil War (米国南北戦争)時のアメリカ連合国(CSA: Confederate States of America-南部連合)の記念碑や象徴する銅像が何十体も撤去された。これに付随するかのように、スポーツ、エンタテイメントの業界でも、警察や人種差別、南部連合を象徴するようなモノやコトが停止或いは削除されつつある。

NFL(プロフットボール)のCarolina Panthersは、6月10日元オーナーのJerry Richardsonの像を撤去した。彼はチームの社員に対して性差別的、人種差別的発言をしたと非難された後、自ら創設した同チームを2018年に売却している。HBO Maxは、南北戦争時代を描いたクラシック映画「Gone With The Wind(風と共に去りぬ)」の配信を停止し、Paramount Networkは、警察密着ドキュメンタリーの長寿番組「COPS」の放送をキャンセルした。また、A&E Networkは6月10日、同局で最も人気がある警察密着リアリティ番組「Live PD」の放送を中止すると発表した。

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自動車レースのNASCARは、長年レースで多く見られた「Confederate flag(南軍旗)」の使用を禁止するにあたり、「全てのファン、レース参加選手と業界に対して、誰でも歓迎し、受け入れる環境を提供するという、我々のコミットメントに反する」と述べた。NASCARのフルタイムのドライバーで、ただ一人のアフリカ系アメリカ人であるBubba Wallaceは、レースでの南軍旗使用に反対を表明、彼のレースカーの後輪の車体部分には6月10日「#Black Lives Matter」が書かれた

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さらに奴隷制度を連想させるバンド名であるとして、グラミー賞を5回受賞している人気のカントリーのバンドのLady Antebellum(レディ・アンテベラム)は、バンド名を「Lady A」に変更した。過去14年間彼らが使ってきたAntebellumには「南北戦争以前」という意味があり、彼らはそこに「奴隷制度も含まれるという事実を考慮していなかった」と、Twitterで謝罪した。この言葉をバンド名にした理由について、「最初にバンドの写真を撮ったのが南部の“Antebellum”スタイルの家であり、この言葉が自分たちに影響を与えたサザンロックやブルース、R&B、ゴスペル、カントリーなどの南部の音楽を思い出させてくれるから」とバンドは説明する。彼らは、バンド内で話し合い、黒人の友人や同僚の意見を聞いて上で、バンド名を変えることにしたという。

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南北戦争とCSA(南部連合)

日本の人はあまり深く「The American Civil War (米国南北戦争)」に関することを、学生時代に学んでいないと思うし、関心もそんなにないと思う。多分年齢の上の世代は、第2次世界大戦に敗戦して、日本の戦後の焼け跡の復興で見た、北軍に負けた南部人を描く映画「Gone With The Wind(GWTW: 風と共に去りぬ)」に、自分達を重ね合わせて、共感を持って見ていたと思う。GWTWの中で描写される黒人奴隷は、大農園の主人達に家族のように扱われているが、現実では生涯にわたって無償労働を強いられ、人間としての自由と権利を奪われた奴隷という風には描かれていない。

アメリカ連合国(CSA: Confederate States of America - 南部連合)は、アメリカ合衆国政府(the Union - 連邦)からは承認されていなかったが、1861年から1865年の間、共和制国家として存在していた。CSAは、南部のサウスカロライナ、ミシシッピ、フロリダ、アラバマ、ジョージア、ルイジアナ、テキサスのという7つの分離派のSlave States(奴隷州)によって形成されて、経済は綿花を中心とした農業と黒人奴隷の労働力によるプランテーション制度に大きく依存していた。1861年11月の大統領選挙で共和党候補者Abraham Lincolnが、西部地域への奴隷制度の拡大に反対の立場をとっていたため、奴隷制度の存続が危ぶまれていたことを確信したCSAは、連邦への反発から離脱を宣言した

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Lincolnが1961年3月に大統領に就任する前の2月に、アメリカ合衆国政府から違法とされていた連合国新政府が発足し、初代大統領にJefferson Finis Davisが就任した。4月に南北戦争が始まると、アッパーサウスの4つのSlave States(奴隷州:バージニア、アーカンソー、テネシー、ノースカロライナ)も脱退してCSAに加盟した。後にCSAはミズーリ州とケンタッキー州を南軍の一員として受け入れたが、いずれも公式に離脱を宣言したわけでもなく、連合国軍の支配下にあったわけでもなかった。

南北戦争がもたらしたもの

1861年4月から始まった南北戦争は、1865年5月に北軍の勝利で終わった。アメリカ合衆国の歴史の中で唯一の内戦で、死者数は諸説あるが約62万人と、アメリカが経験したすべての戦争の犠牲者を合わせた数よりも多い。兵器の技術は進歩していたが、社会制度はあまりにも未熟で、死体は放置されて埋葬できず、腐乱した死体はチフス菌などの伝染病を発生させ、実際の戦場以外にも広がっていった。

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南北戦争の原因

原因は、端的に言うと、北部と南部の経済基盤となる産業の差異と、それにともなう「黒人奴隷解放」の問題である。北部諸州は近代工業化を進め、保護貿易による国内産業を優先して、労働力を欲しており、黒人奴隷解放が自分達の利益になると考えていた。一方の南部諸州は黒人奴隷の労働力に支えられた大規模綿花栽培のプランテーションによって綿花をイギリスに輸出しており、自由貿易を望んでおり、黒人奴隷解放は経済基盤を揺るがすことにつながり、許容できるものではなかった。

南北戦争のその後(以下は複数のWikiからの抜粋)
1865年戦争終了後、南部連合国の各州は、奴隷制を禁止するアメリカ合衆国憲法修正第13条を批准した後、復興期に北部連邦に再加盟した。CSA崩壊後の南部ではUSA政府による「Reconstruction(再建)」が開始されたが、一旦合衆国を脱退した南部諸州の復帰と数百万人の解放奴隷の処遇をめぐって紛糾した。Andrew Johnson大統領は南部宥和政策を採り、特赦により南部の地域指導者のほとんどが公職復帰した。しかしその後、南部各州で黒人の取締法が制定されたり、黒人や奴隷解放論者に対する暴力が横行したため、共和党が多数を占めるUSAの連邦議会で1867年軍事再建法が制定され、南部は軍政下に置かれ、旧指導者は再度公職追放された。合衆国軍の支配下で南部の再建州政府は経済基盤の再建、産業再生、黒人の政界進出などを図ったが、黒人への土地分配は思うように進まなかった。南部白人はKu Klux Klan(クー・クラックス・クラン)など秘密結社を作り、武装抵抗や黒人への暴力を継続した。

やがて北部も南部の人種的平等や再建への関心を失い、南部では民主党が相次いで政権を奪取した。1877年に再建半ばで合衆国軍が北部へ撤退したあとは白人が巻き返しを行い、民主党に白人が結集して「Solid South(堅固な南部)」と称される民主党支配を築き上げ、南部各州の黒人は再び政治的・社会的権利を失い「どん底時代」と呼ばれる抑圧の時期が訪れた。公職に復帰した白人達は、Jim Crow laws(ジム・クロウ法)など、「分離すれども平等」と称する、差別を合法化する法律を多く制定し、結局南部の黒人が本当の意味で「解放」されるのは1960年代になってからである。1950年代に始まった公民権運動が、1964年に「The Civil Rights Act of 1964(公民権法)」制定という大きな実を結び、この法律によって(少なくとも公的には)黒人に対する差別は終焉を告げた。

CSA(南部連合)政府のイデオロギーに明解に表現されている白人優位主義

あえて、南北戦争のその後を長々と書いた理由は、今、アメリカで起きている人種差別への強い抗議運動は、これらのアメリカの歴史を振り返らないと、リアリティとして感じられないと思い、あえてここで列記した。また、それを踏まえた上で、以下の1861年のCSAの副大統領のAlexander Hamilton Stephensの「The Cornerstone Speech」と呼ばれるスピーチを読むと、何故、今George Floyd事件がトリガーとなって、全米で人種差別への抗議運動がおこり、長年見て見ぬふりをされてきた「南部連合の象徴」を取り除く行動が、各所で起きているのかが理解できる。彼は以下のように、白人優位主義に基づいたイデオロギーを宣言した。

"Its foundations are laid, its cornerstone rests upon the great truth, that the negro is not equal to the white man; that slavery—subordination to the superior race—is his natural and normal condition. This, our new government, is the first, in the history of the world, based upon this great physical, philosophical, and moral truth." 「黒人は白人と平等ではないという偉大な真理に基づいており、奴隷制、つまり優越的な人種に従属することが、自然で正常な状態である。我々の新政府は、世界史上初めて、この偉大なるフィジカル、フィロソフィカル、そしてモラルのおける真理を元にした政府である」

私は、このイデオロギーを見て、時代が違うとはいえ、こういう考え方で、アメリカ合衆国連邦から離脱して、CSAが独立国家を作ったというコトに、改めて驚愕した。またここでは、黒人奴隷を念頭において、白人優位主義を誇示しているが、彼らのアタマにあるのは、当然自分達白人以外の有色人種全てを想定している。1869年に開通した初の大陸横断鉄道建設では、中国人の移民が奴隷のように使役されたコトを考えれば、アジア系移民の私の首筋もうすら寒くなる。

人種問題は合法化されたゲイマリッジのように、解決の方向性が見えるのか?

Duke Universityの公共政策の大学教授で、社会科学研究所の所長を務めるDon Taylorは、以下のように「Confederate symbols(南部連合の象徴)の問題はGay marriage(同性愛者の結婚)の問題に似ている」を発言している

“It feels to me, with Confederate symbols, a bit like the gay marriage debate, where it seemed impossible, impossible, impossible, and then all of a sudden there was a huge shift in public opinion on it” 「南部連合の象徴の問題は、ゲイマリッジの問題とやや似ている気がする。(変えることは)全く不可能と常に思われてきたものだったが、突然一般市民の意見が大きくシフトしたという点が共通している」

確かにゲイマリッジに関しては、長い間宗教上の教えやコンサーバティブな考えを持つ人達から根強い抵抗があったが、パブリックの声は年々大きくなり、結果2015年6月26日、合衆国最高裁判所は「法の下の平等」を定めた「アメリカ合衆国憲法修正第14条」を根拠に、すべての州での同性婚を認める判決をだした。これにより、同性婚を禁止する州法は違憲であるという判断を下し、同性婚が合法化された。

但し、同性婚の問題とはとても比較にならないほど、黒人への差別には、長い歴史の中で多くの血が流れており、それが今も続いているという現実がある。

George Floyd事件が起きてから、既に3週間経つが、その間全米での抗議運動は収まらず、またGeorge Floydと同様に、犯罪が確定されていない黒人が、警官に殺されるという事件も起きている。6月12日、アトランタの警察は、ハンバーガーチェーンのWendy'sのドライブスルーで、運転手が居眠りをしているという通報を受けて、駆け付けた。警官は、 27歳のRayshard Brooksをアルコール検査をしようとして、彼と揉みあいとなり逮捕しようとしたが、彼の抵抗にあって結果発砲して、Brooksは死亡した。アトランタ市長は、これは正当な武力行使とは言えないとして、アトランタ市警の署長の辞任を発表した。

Tipping  point(臨界点)を迎えつつある人種差別問題

私がここで書きたかったことは、1865年に南北戦争が終結して、155年が経った今でも、アメリカはこの人種差別問題で、のたうちまわっているという現実。1964年公民権法が制定されて、法的には誰もが法の下で平等であるはずが、アメリカ社会の人種における不平等は是正されず、そのままま放置されて、富の格差拡大と共に、貧困と差別が、黒人層を押しつぶしているという現実。今回のコロナ禍の中で起きたGeorge Floyd事件は、それを炙りだし、黒人白人などの人種を問わず、市民の誰もが、そのアメリカ社会の酷さを視覚化してしまったこと。これらは、私が冒頭にあげた南部連合の象徴の撤去にもつながっていく。警官の黒人に対する行動には、明らかな人種差別が存在し、その根っこには、奴隷制度まで戻って、社会に根を張っている白人優位主義に突き当たる。

歴史は勝者によって書かれるというが、その歴史もその時々の勝者が、すり替え、書き換えようとする。21世紀に入ってすでに20年が経つ今、勝者のみに歴史をいじらせるという時代は終わりを告げ、誰もが情報にアクセスし、情報の検証を行えるツールが存在し、それを広めるプラットフォームもある。今アメリカが抱えるこの「Systemic racism(アメリカの社会、経済、政治的プラクティスに、制度的に大きく組み込まれた人種差別)」という負の遺産を、個々人がそのプラクティスから引きずり出し検証して、より良い方向で解決しようという意欲が生まれてきているような気がする。特にMillennials やGeneration Zといった米国人口の半分を占める若い層を見ていると、人種差別問題は、或る種のTipping point(臨界点)に差し掛かっているような気がする。

今回の市民の抗議行動と人種差別への再認識や再考といった動きが、全ての問題を一気に解決するとは思えない。だが、問題を視覚化した市民の多くがこれを真剣に考えているということは、評価すべきだと思う。どんなに困難な高い山でも、その山を越えて、向こう側に行くためには、一歩一歩上るしか方法はない。例え、155年或いは200年経とうが、問題が改善される方向で動くのであるならば、その時間は無駄ではないと、私は思う。

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アメリカの現実①「"I can't breathe"米国の解決されない負の遺産」

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George Floyd事件が突き付けた米国の現実

5/28(たった4日前の事件)、ミネアポリスで白人警官がすでに手錠を掛けられている黒人男性George Floydの首を、膝で9分間押さえつけて、死亡させた。彼は何度も "I can't breathe, Sir (彼は死ぬ苦しみの中で警官に丁寧にSirという敬語をつけて訴えている)"と言って助けを求めながら、亡くなった(殺された)。彼を殺した警察官は、事件直後解雇された上で、第3級殺人などの罪で訴追されているが、事件を側で見ていて何もしなかった3人の警官に関しては、刑事罰の訴追は発せられていない。その後、この映像を見たアメリカ人の抗議運動と暴動は、全米に広がり、コロナ禍が今も進行中のアメリカは、またしても歴史的な負の遺産である「人種差別」といった、越えられない苦しみで、のたうちまわっている。

誰もが”Enough is enough"だと思っている

各地の暴動は既に多く報道されているから、敢えてここでは触れないけど、大都市以外でも、アメリカに住む以上、誰もがこの事件に強い反応を示している。私が住むSt Georgeは、人口は9万人でユタ州の中では7番目、全米では363番目の大きさのシティで、人種別の人口では白人が88.48%(7万2,727人)を占める。黒人人口は0.82%(670人)と、アジア系の0.89%(728人)と同様に少なく、1%にも満たない。そんなカントリーサイドの街でも、5/30には200人ぐらいの人達が集まり、“All Lives Matter”, “No Justice, No Peace” and “He Couldn’t Breathe,”といったプラカードを掲げて、平和的な抗議行動を実施した。全米で抗議運動が暴動化している訳ではなく、どんな小さな街でも、人々はこの事件を見て、"Enough is enough"という気持ちとなり、これを変えるために何かをすべきだと思っている。

平和的な抗議運動を暴動化にすべく扇動するグループ

また誰もが、この事件を利用して、平和的な抗議運動を、略奪・焼き討ちといった暴動化にすべく、扇動している人間やグループが、存在することを知っている。ミネソタの州知事のTim Walzは、白人至上主義者や麻薬カルテルなどの州外から来た扇動者が暴力をあおっていると非難したが、Trump政権は直ぐにこの問題の大半が「無政府主義の極左勢力である。彼らはAntifa(アンティファ)的な戦術を使っており、多くは州外から来て暴力を促している」と決めつけた。アンティファは、反ファシストだと主張する扇動者のゆるい集まりを指し、彼らは黒い服を着て頭を隠し、他の人に前線を任せ、遠くから警察への暴力を指示することが多い。

暴動化を導く扇動者達の解明は、ぜひ冷静に事実を洗い出し、誰もが視覚化できるヴィデオやその他の証拠を駆使して、解明してほしい。理由は、こうした人種差別に耐えかねた黒人たちが暴動を起こすと、政権は、黒人たちを暴動と略奪を行い、市民生活を脅かす人間としてカリカチュアして、"Law & Order"の強化を図るからである。既に大統領は、この事件を自分の政治的キャンペーンに利用して、暴動を煽る以下のようなTweetsを発している。

"A total lack of leadership. Either the very weak Radical Left Mayor, Jacob Frey, get his act together and bring the City under control, or I will send in the National Guard & get the job done right....."「リーダーシップの完全な欠落。非常に弱い極左のミネアポリスの市長Jacob Freyはすぐに行動して、シティの治安を取り戻せ。そうでないならば、自分が州軍を送って解決する。」

コロナ禍による感染と雇用悪化は、黒人層を直撃している

アメリカは、コロナの感染拡大による雇用の悪化で、4月の失業率は14.7%となり、5月は20%に達する可能性もある。4月の失業率も黒人は16.7%と白人より2.5ポイント高い。コロナ感染においても、黒人の死者数は白人の2.4倍にのぼるコロナ禍が黒人層を直撃している最中に、この事件が起きた。事件の抗議運動の暴動化の一端には、こうした貧困に喘ぐ黒人層の蓄積されたフラストレーションと怒りという心理的な要因も、引き金になっている。更に悲劇的ともいえるのは、暴動によって黒人経営を含むMom & popの小さな店舗も破壊され、ビジネス再開が断たれ、密集した抗議運動によって黒人層に、よりコロナ感染を拡大させる可能性もある。

アメリカで黒人として生きることの意味

CNNの黒人レポーターは、報道許可を取り、警察から指示された場所で生放送を行っていたにも関わらず、生放送の真っ最中に、彼とスタッフ達は警察に拘束されるというコトが起きた。以前Obama大統領は、自分は大統領であるが、例えそうであろうとなかろうと、自分が黒人である以上、言われなき取り扱いが起こる可能性があると発言していた。

ミネアポリスの市長Jacob Freyの以下の発言は、これを裏付けるものである。「黒人として生きることが、アメリカでは死刑宣告に等しいという事態であってはならない、白人警官は人間として根本的な過ちを犯した」

"Being Black in America should not be a death sentence. For five minutes, we watched a white officer press his knee into a Black man’s neck. Five minutes. This officer failed in the most basic, human sense."

人種差別による貧困は、社会を分断し、負の連鎖を継続させる

誰もが「何時になったらアメリカに人種差別がなくなるんだろう?」と考えていると思う。歴史的に見れば、1640年代から1865年のアメリカ合衆国憲法修正第13条が発する前まで、現在のアメリカ合衆国領域内ではアフリカ人とその子孫が合法的に奴隷化されていた。1860年のアメリカの国勢調査では、奴隷人口は400万人に達していたという。この制度がもたらした人種差別の傷跡は、155年経った今でも、アメリカを引き裂いている。

Trump政権を支持する35%が、全て人種差別主義者であるというつもりはさらさらない。ただ問題は、大統領その人の発言や行動が、酷い「人種差別」的な考えの元で、人々の分断化を促進させているのは事実である。これはまさに負の連鎖の継続を促すものである。

アメリカの貧困問題と人種差別は双子状態でついて回っている。今回のパンデミックによって、人の生き方や暮らし方が変わる可能性があるならば、このGeorge Floyd事件によって、負の遺産の「人種差別」に目を背けず、真剣に向き合い、人々のマインドセットを変えることも可能だと思う。AppleのCEOのTim Cookは、この事件に触れて、以下のように、社員に呼び掛けている

"With every breath we take, we must commit to being that change, and to creating a better, more just world for everyone."

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