日本で生まれて38歳の時に米国に移住した私は、永住者として生活しているが、アメリカ市民になる気がさらさらなく、次の永住権の有効期限2019年6月に、このまま日本国籍のまま更新する予定である(日本人である私が、ある日突然アメリカ人になるという事実が、個人的に実に奇妙で違和感があり、その気になれない)。家族は夫および義理の子供たちも含めて全てアメリカ人で、あまり日本人コミュニティのお付き合いがないせいか、私の発想や感覚は過去20年の滞米生活でかなりの濃度でアメリカナイズされていると思う。
これが実は1998年にスタートした私の会社JaMのStrengthである。日本人のマーケターでありながら、アメリカ人の生活者としての自然な感覚が身についたことによって、米国市場をターゲットとする日本企業に「米国消費者のValues、Lifestyle & Life Stage、メディア消費、購買心理&購買行動などに関するInsightを提供する」ことが可能となる。
日本から米国市場にReach Outするには「AUDIENCE」の理解が必須
今回の日本出張で異なる業界の企業の方たちにお会いして、最も実感したことは、「日本市場の成長性の限界を多くの企業が認識し始め、従来あまり注力できなかった(あるいは販社や現地法人に任せっきりだった)米国市場へ、日本のHQが本気で働きかけようとし始めている」という点である。これは過去10年間私が毎回の日本出張で言い続けてきたことで、どうやらその意味を真剣に考える企業が確実に出てきているらしい。
自国以外のオーディエンスを相手にビジネスあるいはマーケティングする場合、最も重要なことは何か? 最もシンプルな質問、すなわち “Whom Am I Talking To?(自分は誰に話しかけているのか?)” に確実に答えられるかどうかという点である。このためには、以下のようにアルファベットの頭文字をとった「AUDIENCE」を把握することが重要となる。これは、パブリックスピーキングのコーチであるLenny Laskowskiがスピーカーとして成功するために必要なものとして挙げたものであるが、私はこれをビジネス&マーケティングの戦略開発のために活用している。出典:Public speaking coach Lenny Laskowski
“AUDIENCE”:
· Analysis(分析):彼らはいったい何者なのか? 何人に向かって話しているのか?
· Understanding(理解度):話す内容に関して彼らはどこまでナレッジを持っているのか?
· Demographics(統計学的属性):年齢、性別、学歴、年収、その他の属性
· Interest(関心事):なぜ彼らは関心を持っているのか? 誰かによって影響されているのか?
· Environment(周囲を取り巻く環境):自分を取り巻く環境は? 彼らは自分を見えるのか?
· Needs(ニーズ):彼らのニーズは何か? マーケターとしての自分のニーズは何か?
· Customized(カスタマイズ):自分が取り組む必要のある特定のニーズとは何か?
· Expectations(期待):彼らが自分から学びたい(聞きたい)と期待していることは何か?
どこまで自分ごととして捉えながら、プロのマーケターとして分析できるかが鍵
「AUDIENCE」は、定量と定性的なデータが入り混じり、さらにそれらが本当に正しいのかを証明することが非常に難しい要素となっているが、できる限り事前にこれらを調査・分析し、企業やブランドのその市場における立ち位置と「ターゲットオーディエンス」のリアリティを把握する必要がある。また、調査結果やデータは恣意的な活用が可能で、取り扱い者によって、如何ようにも解釈できてしまう場合があり、誰がそれを分析するかが重要な鍵となる。JaMの場合は、まず事実を把握するためにオンラインを主体としたSecondary Researchを行い、それにネットワークや周囲の生活者への聞き取りを加え、最後にマーケター&生活者としての実感レベルのInsightを合わせる。またJaMのクライアントの場合は、往々にしてすでに米国に現地法人、販社、代理店などを持つ企業が多いが、彼らの興味の中心は「今のセールス」で、フォーカスは「今の顧客」である。JaMがやるべきことは、彼らの直近のビジネスでは見えにくい部分や、潜在的な顧客の発掘といった「ビジネスの成長に関連するFindings」を、ニュートラルな立場で炙り出すことにある。
若年層抜きにはブランディングは考えられない
1999年San FranciscoでX Gamesが初めて開催されて、大いに刺激された私はインラインスケートを早速購入し、当時のGeneration XとX Games絡みの記事を発信し始めた。これがきかっけで、インラインスケートの世界の王者の安床ブラザースと父親の安床由紀夫さんと個人的な親交がはじまり、その後「クリックするために生まれきたGen Y」というフレーズで、日本にMillennialsを真っ先に紹介し、今はGeneration Zというその下の層の動きを定点的に見つめている。すでにMillennialsとGen Zは米国人口の半分を占めるほど巨大な市場に成長し、Millennialsは家庭を持ち社会的な基盤を築き始めている。
私は常々「ブランドは常に若い層に愛されなければならない」という点を重視しており、ブランドの寿命100年説は、過去の歴史を見ても証明されている。どんな素晴らしい老舗ブランドも、思い切って生まれ変わらなければ、その命は尽きる。そのためには、常にブランドはBoldな新陳代謝を繰り返し、実際のターゲットオーディエンスよりも下の層が憧れるようなメッセージングをすべきである。またブランドは、積極的に若年層がいるプラットフォーム(例えばSnapchatとか)に出かけてプレゼンスを確立し、彼らが好む ”Visual Influence”を意識して、彼らとエンゲージできるような視覚的なメッセージを発信し続けなければならない。
民主党の大統領候補に立候補しているBernie Sandersの広告 “TOGETHER”は、まさにその成功事例で、シンプルなメッセージを「ゴージャスなマナー」で、アメリカという国を構成するDiversityを視覚的効果を最大限に生かして「見せる広告」として仕上げている。これは、Sandersを支持するMillennialsによるMillennialsのためのブランディングキャンペーンとなり、あっという間にバイラル化した(Vimeoで280万のView)。その結果、民主党の3月の政治献金はSandersが4,400万ドルとClintonの2,950万ドルを多く引き離した。Sandersの場合は、大企業や大手政治団体による献金ではなく、1人平均$30という個人がSandersに投資したエンゲージメントの積み上げである。
あらゆるマーケティング機会で実験し続けるAttitudeが成功の鍵
米国市場はいまさら言うまでもなく、様々な異なる人々が「アメリカ」という政治的な枠組みの中で暮らしており、日本市場とは大きく異なる。ただし、アメリカに暮らしていて常々実感することは、この国では様々な実験的な試みが可能で、それを実行するRisk Takingを恐れない企業が成功するという事実である。また先進国で未だに人口が増え続けている超大国アメリカを抜きに、企業の今後の成長を語ることは難しい。未知なるマーケットに入る場合は、「失敗を経験」と考えるAttitudeが必要で、現地に詳しい適切な水先案内人をパートナーとして選び、戦術ではなく戦略的な考えと動きで実験を繰り返しながら、ターゲットオーディエンスとエンゲージしていくことが重要となる。
アメリカ市場参入あるいは拡大を考えている企業は、まずJaMにコンタクトしてほしい。お互いのChemistryがあえば、譜面以上の良い音楽が生まれ、面白いJaM Sessionが可能になると思う。