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今日は私が、18年前に書いたコラム「ジャズザサイズは米国版お稽古事」をアップロードする。このコラムは、2003年発行の私の初の書籍『ひさみをめぐる冒険―サンフランシスコで暮らす楽しみ "It's an Adventure - Hisami Lives America" 』に掲載されたもの。私は、平日の5日間は毎朝1時間Jazzerciseのクラスに通い、目いっぱい汗をかくのが日課(通称ひさみの朝稽古)。但しSocial distancingの最中、その日課も出来なくなり、昨日からアプリをダウンロードして、Jazzercise on demandを見ながら、自宅でJazzerciseをし始めた。サブスクリプションベースだが、クラスのインストラクターから60日間のフリーのコードをもらい、トライアルを始めた。20分間のセッションを2回連続でやってみたが、ウエイトもあるので、まるでスタジオで踊っているように、気持ちのいい汗をかいた。私とJazzerciseの付き合いはもう20年以上になる。この音楽を活用したダンスとウエイトとストレッチの有酸素運動は昨年50周年を迎えた。Jazzerciseに関しては、この18年前のコラムが良く書き込んでいると思う。

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大統領発言まで飛び出すほど深刻化する米国の肥満問題

今年(2002年)の7月24日にブッシュ大統領は、「健康のための運動の奨励」計画という異例の発言をしました。これはテロ攻撃に勝るとも劣らずアメリカ人全体の健康をボディブローのように蝕んでいる「肥満(Obesity)」についての警鐘です。現在アメリカ国民の60%以上が肥満、50%はエクササイズをせずに過剰な食事をとっているといわれています。また過去20年間3倍以上増えた子供の肥満は、この国の申告な肥満化の問題を反映しています。アメリカにおける「肥満」の問題は、日本とはけた違いのスケールで(異常に重い体重と言う意味)、自動化された生活、車社会、ファストフードに代表されるバランスの悪い食生活、過剰な食事量などが、この問題を悪化させています。この傾向は、エクササイズをする余裕の無い低所得者層に特に顕著に見られ、健康増進・肥満防止の支出の可能なミドルクラスは、スポーツクラブ、パーソナルトレイナー、サプリメント、健康器具、痩身手術など関連市場への消費が増加しています。

女性の大型化(体重の増加)が進行するアメリカ

これを女性のサイズに絞ってみると、アメリカ女性の大型化の傾向は、リアリティとして顕在化しつつあります。アメリカのサイズは、0から始まって26ぐらいまであり全て偶数で表しますが、現在アメリカ人女性の68%はサイズが12(例えばLand's Endの場合サイズ12は、バストサイズ96.3㎝で、日本のLサイズにあたります)あるいはそれ以上、52%の女性が14あるいはそれ以上といわれています。これをファッションモデルと平均的な女性との体重比較でみると、かつての女性の平均体重より8%やせていたモデルが、今では23%も平均的な女性よりやせているという数字が出て来ます(Full-figured:フルフィギュアドと呼ぶ大型の女性対象の雑誌「Grace」による)。これはベビーブーマー世代の高齢化に伴うサイズの大型化の影響といわれ、L.L.Bean、Land's Endなどのカジュアル衣料の世界では、「プラスサイズ」という大きな女性対象の衣料ラインが増えています。

「Fat and Short(体重と身長による差別を禁じる法律)」で勝訴したSF在住のフィットネスインストラクターの場合

ここサンフランシスコ(SF)には、肥満に関連したユニークな法律があります。「Fat and Short(肥満と背の低さ)」という体重と身長に対する差別を禁じる法律です。今年の5月6日身長5フィート8インチ(約172㎝)、体重240パウンド(約109㎏)、サイズ16から18の38歳のJennifer Portnickは、世界最大のフィットネス団体Jazzerciseから「ルックスがインストラクターとして不適切」という理由でオーディションで落とされ、これを差別としてSFの法廷に訴えて、ユニークな「Fat and Short」の適用により初めて勝訴しました

Portnickの場合は、15年間ハイインパクトのエアロビクスを継続して行っており、インストラクターの資格もAFAA (Aerobics and Fitness Association of America)を通じて獲得しているので、体重を別にすれば何の問題もなくジャズザサイズのインストラクターの資格は取れたはずです。それを考えると個人のフィットネスのスキルではなく、ルックスにこだわったジャズザサイズの資格基準は、差別と言える不適切なルールであり、30年前の価値基準がそこにまだあったという感じです。この敗訴をきっかけにジャズザサイズはルックスの基準をポリシーからはずして、現在はあくまでもスキルで判断という方向へ転換しています(ジャズザサイズのウェブサイトやカタログには、それ以降必ず太った体型の女性がレオタードのモデルとして出ており、その配慮は即実行されています)。

ジャズザサイズは、アメリカ版のお稽古事

ジャズザサイズは、ジャズダンスとエクササイズをブレンドして、ウェイトやチューブを活用しながら様々なジャンルの音楽を使って行う60分間のフィットネスです。1969年Judi Sheppard Missettによってはじめられたジャズザサイズは、30年以上にわたって全世界で1,400万人の利用者を生みだし、世界38カ国に約4,700のフランチャイジーを持ち、本社とフランチャイジーを合計した売上は、2001年度で5,870万ドルに上る世界最大のフィットネス団体です。私も2年前からジャズザサイズをはじめており、これによって心と身体のバランスが非常に良くなり、10パウンド(4.5㎏)ぐらいの余分な体重と脂肪が徐々に落ちて、今は筋肉強化の段階に入りつつあります(日本のジャズザサイズの情報)。

私が最近実感するのは、このジャズザサイズの仕組みが日本のお茶やお花のお稽古事に非常によく似ているということです。インストラクターは、本社での資格試験(免許皆伝)をパスした後は、オーナーとして自分のクラスを開き、本社指導の全国共通のプロモーション活動を実施しつつ、ほとんどはオーナー管理の元で生徒募集などの地道なマーケティングを展開していきます。年に何回か開催されるジャズザサイズのコンベンションは、生徒とインストラクターが泊りがけで参加して、実際に家元一家(創業者Missettや娘)に会い、ジャズザサイズのコーポレート・アンブレラのもとで、みんながその流儀を堪能する楽しいイベントです(私が参加する11月22日から24日のSFのコンベンションは、1,500名ぐらいの参加者が予定されています)。また地域に密着しているインストラクター独自のイベントやパーティなどもあり、クラスマネージャー(生徒)が、ボランティアリーにクラスをサポートするコミュニティに根付いたフランチャイジービジネスです。このアメリカ版の合理的な家元制度とも言うべき組織運営は、ビジネス以上の強い絆を生徒とインストラクターの間に芽生えさせ(師匠と弟子関係)、周囲の後押しによって自然発生的に優秀な生徒が次なるインストラクターへの道を目指す、そんな風景が見られます。

私のジャズザサイズライフ

私の通うジャズザサイズのクラスは、私のお師匠さん(インストラクター)も含めて、生徒たちもシリコンバレーらしく個性的です。インストラクターのジェシカは、私と同い年の46歳、NASAで「宇宙の無重力空間における生物の生命創造」を研究する博士(Ph.D)で、世界中を講演やコンファレンス出席のために飛び回っています。この忙しい彼女をサポートするアシスタント・インストラクターは、親子2代のインストラクターで看護婦資格を取ろうとして実地や勉強に励む25歳のエミリー。ベビーブーマー世代とジェネレーションX世代の2人のインストラクターのコンビネーションで、クロスオーバーした個性と体力で私たちを指導しています。実際にジェシカの時は、わりと緩やかなワークアウト、エミリーのクラスになると私自身目の色を変えて、25歳の彼女の激しい動きに挑戦すべく、異常に張り切ってエクササイズしています。

クラスメイトは、前述のSFの「Fat and Short」には抵触するはずがないくらいに、バリエーションに富んでいます。ソフトウエアのエンジニア、テレコミュニケーションのセールス、不動産、都市開発研究のドイツ人博士(Ph.D)、ローティーンのインド系の姉妹、大学に通いながら2人の子供を育てるシングルマザー、私と同じ年で2人の孫を持つ事務職、65歳のフリーランスの校正のプロなど、数え上げたらきりがないほどの年齢、性別、職業、人種、もちろんさまざまな体型のクラスメイツが、各々のペースで楽しく身体を動かしています。

野生に戻る私

私は月曜日から木曜日までの夕方6時から4時の1時間、特別な仕事やミーティングを除いて、必ずジャズザサイズに出かけるようにしています。ここで過ごす1時間は、私にとってインストラクターのジェシカがいう「Appreciate your body」という、自分の身体をいとおしむための大切な時間です。朝の5時半からコンピュータの前でタイプを打ち続けている私にとって、音楽に合わせて飛び跳ねながら、自分の気持ちを身体で表現することは、本当に大きな気分転換となります。またパンチングやキックのような攻撃的な運動もメニューに入っており、そうした動作を繰り返しながら、自分の内面にある「強さへの憧れ」を発見して、驚くこともしばしばあります。また動物的な叫び声を瞬間的に上げて、大きく酸素を身体に送り込むなど、肉体の限界に挑戦することによって私の野生が大いに刺激され、終わった後の解放感はすばらしいものがあります。

子供の頃、母に少なくともお花とお茶ぐらいは習っておいた方が良いと言われながらも、モダンバレエと書道(一応免状取得)へ走ってしまった私は、今はアメリカ版のお稽古事「ジャズザサイズ」で、毎日1回野生に戻りながら、地元コミュニティとの付き合いを深めています。周囲から強くインストラクターになることをすすめられている私が、日本出張で2週間留守にするとクラスメイトから最前列に私がいなくて困ったと苦情が出るほど、熱い期待を受けています。将来インストラクター資格試験を最高齢でパスして、資格獲得の記録へ挑もうかな? なんて真剣に考えながら毎日踊っています。

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