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断り切れない付き合いがもたらす「Zoom Fatigue(Zoom疲れ)」

「Zoom Fatigue(Zoom疲れ)」の記事がグローバルのいろんな国で目に付く。自宅勤務となり、本来ならば通勤や無駄な会議に割いていた時間がセービングされて、もっとゆとりを持って24時間を使えるはずであったが、物理的な社会生活が遮断された代わりに、それらを全てオンラインに移行してしまったため、多くの人達が多忙を極めている。自宅にいるので幾らでもスケジュールを詰め込めると思い、仕事に限らず、オンラインで音楽・映画鑑賞、スポーツ観戦、さらに飲み会といったものをどんどん入れ込んでいる。

米国は日本とは異なり、「上司や同僚との付き合いのために飲む」という習慣はない。まして幾つかの大都市を除いて、公共の交通機関のない米国では、車通勤が主要な交通手段である以上、会社の帰りにちょっと1杯といった行為はまずありえない。自宅待機がもたらした新たな米国の悩みである「Zoom疲れ」は、単純に言うと「車だから」とか「子供のピックアップがあるから」、「夜は家族と一緒に過ごす時間なので」といった言い訳が聞かなくなり、多くの人達がずるずると「Zoom Happy Hour」に参加して、断りにくい社交が増加したことに起因する。

「Zoom飲み会」の難しさ

自宅で行われるZoomでの飲み会は、意外と難しく、多くの人達は、思っていたほど単純に楽しいものではなく、色んな不備をソーシャルネットワークで投稿している。特に指摘されるのが、並列的に複数の会話が進行出来ないという点。このため、1つの話題のみを声の大きな人(私のようなお喋り)が話し続けて、尚且つみんな話題が途切れて沈黙になるのを恐れるので、MCのような飲み会の進行的役割が必要になるという点。これは、私も末娘のZoom weddingに参加したが、30名以上の参加者は、1人を除いてみんなミュートにしており、結婚式の流れの中、司会者の長女が画面から外れると、気まずい沈黙が流れ、それをカバーするために、参加者の1人は勇気をもって発言していた。

人は、なぜF2Fで会って飲みたいのか?

日本とは時差があるために私自身はマジな「Zoomの飲み会」というのはやったことがなく、コーヒー片手のZoomのお喋りのみだが、他の人の投稿を見て思ったことは、要はインターネット経由では、仲間と一緒に楽しくお酒を飲むということは、非常に難しいという点である。理由は、モニター経由で顔を見せあっても、物理的な近距離で顔を見るのとは異なり、「表情」が読めないためである。なぜ相手の「表情」がそんなに重要なのか? 

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The Naked Ape: A Zoologist's Study of the Human Animal Paperback – 6 Oct. 2005

人類学者のRay Birdwhistell は、人間は異なる顔の表情を25万通り作ることが可能だという。またボディランゲージの専門家のAllan and Barbara Pease は、人の主張が交渉に与える影響のうち60%から80%はボディランゲージによるものとしている。即ち、非言語的コミュニケーションの中心である「顔の表情」が、実は物理的な飲み会を司る重要な役割を占めているという点である。例えF2Fで沈黙が訪れても、参加者達はお互いの表情を読み込んで、それは「心地よい沈黙」だと認識できる。また当然のように、並列的に複数の会話は流れるので、1つの話題に固執することなく、多数の話題のストリームが自由に流れる。

要は、人は美味しい食事とお酒を潤滑油として、心を開いて、参加者の顔、声、動作を見ながら、お互いをもっと知りたい、或いは自分のコトを知ってもらいたいという欲求のもとで、F2Fで会ってお酒を飲みたいんだと思う。スクリーンでは、この非言語コミュニケーションが見えにくいし、今のヴィデオ会議のツールの作り方が、F2Fの飲み会のフローの再現できない。

それでもZoom飲み会があって良かったと思う

でも自宅待機の中で、例え限界があるにせよ、インターネット経由で誰もがライブで簡単にヴィデオチャットできるツールが、今この時期にここまで浸透していたことは、実に有難い。人間にとっても最も過酷な刑罰は、「孤独」である。刑務所で服役中の囚人をより懲らしめるために「独房(solitary cell)」に入れる場合がある。通常人は「孤独」に耐えられず、改心を誓う。

人類は、他者とのコミュニケーションを求める欲求によって進化してきた。今回のコロナ禍は、もしかしたらこの人類の欲望である「他者とのコミュニケーション」に違った意味での進化をもたらし、より良いコミュニケーションの仕方やツールの開発をもたらすかもしれない。

来週の夕方18時の日本の友人とのZoomお喋りは、コーヒーではなくワイン片手にしてみようかな。

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